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解雇予告手当は所得税の対象!源泉徴収額の計算方法を解説
解雇日の30日前までに解雇予告が間に合わないときには、解雇対象の従業員に対して解雇予告手当を支給しなければいけません。
そして、解雇予告手当は税法上の退職所得に分類されるので、会社側で源泉徴収の処理が必要です。
そこで今回は、解雇予告手当に関する税務処理の方法や注意点について分かりやすく解説します。
1.解雇予告手当は退職所得として所得税が源泉徴収される
解雇予告手当が所得税として源泉徴収される理由を知らない方は少なくありません。
実は、この手当は退職所得として分類されます。その結果、所得税が源泉徴収されるのです。
ここでは、解雇予告手当がなぜ退職所得に含まれるのか、退職所得とは何かを深掘りします。
適切な準備と理解をもって対応することで、企業は従業員の権利を尊重し、同時に法的リスクを最小限に抑えることができます。
このプロセスを通じて、企業は不必要な紛争を避け、信頼と透明性のある職場環境を構築することが可能になります。
(1)解雇予告手当とは
解雇予告手当とは、企業が30日前までに予告をすることなく労働者を解雇する場合に、企業から労働者に対して支払われる金銭のことです(労働基準法第20条第1項)。
即日解雇の場合には「30日分の平均賃金相当額」、解雇日の10日前に解雇予告をした場合には「20日分の平均賃金相当額」というように、最低でも30日分の平均賃金を労働者に支給することによって、労働者の経済的地位を保障することを目的としています。
解雇予告手当は、遅くとも従業員の退職日までに支払う必要があります。
(2)解雇予告手当は退職所得に該当する
解雇予告手当は、予告なしに従業員を解雇する際に支払われるもので、退職所得の一部とみなされるため、適用される税率に基づいて源泉徴収が行われます。
企業にとって、解雇予告手当の正確な計算、税金の適切な処理、そして法定の手続きの遵守は極めて重要です。
退職所得に含まれる退職手当等には以下のものが含まれます(参照:「No.2725 退職所得となるもの」国税庁HP)。
- 国民年金法、厚生年金保険法などに基づいて支給される一時金
- 過去の勤務に基づき使用人であった者から支給される年金に代えて支払われる一時金
- 未払賃金立替払制度に基づき国が弁済する未払い賃金
- 解雇予告手当など
したがって、解雇予告手当は退職所得に含まれるので、源泉徴収の対象です。
解雇予告手当を適切に管理することで、法的な義務を果たすことができます。
これは、企業が従業員に対して持つべき倫理的な姿勢の表れであり、解雇という厳しい状況下でも公平性と尊厳を保つための具体的な行動です。
企業がこの手当の扱い方に注意を払い、解雇される従業員への配慮を示すことで、双方にとって満足のいく結果を生むことができるでしょう。
①退職所得とは
退職所得とは、退職手当等に係る所得のことです。退職所得に含まれるものは、所得税の課税対象と扱われます。
退職所得として所得税の課税対象になる「退職手当等」は、退職しなかったなら支給されなかったものであり、退職したことが原因で一時に支払われることになった給与のことを意味します。
つまり、退職時や退職後に企業から支払われる給与のうち、支払い金額の計算基準などに鑑みて、他の引き続き勤務している人に支払われる賞与などと同性質のものであると判断されるものについては、退職所得には含まれず給与所得として税制上処理されるということです。
そして、解雇予告手当は、所得税の課税対象に該当する退職所得であることを理由に、源泉徴収の対象とされます。
2.解雇予告手当で源泉徴収される所得税の計算方法
解雇予告手当を含む退職手当等は、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収したうえで、原則として、翌月10日までに納める必要があります。
ただし、解雇予告手当などに対する源泉徴収額の計算方法は、「退職所得の受給に関する申告書」が提出されているか否かによって異なります。
「退職所得の受給に関する申告書」とは、会社を退職して退職金を受け取る段階で、従業員が退職前に勤務先に提出する申告書のことです。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していなければ退職所得控除が適用されずに納税額が高くなってしまいます(税金の還付を受けるには確定申告が必要です)。
ここからは、退職する従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を受けている場合と受けていない場合に分けて解説します。
(1)「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合
「退職所得の受給に関する申告書」を提出された場合、所得税は以下の流れで算出します。
- 退職する従業員の勤続年数を計算する
- 勤続年数ごとに定められた退職所得控除額を計算する
- 退職手当等の区分ごとに定められた計算式によって課税退職所得金額を計算する
- 課税退職所得金額に応じた速算表を使って源泉徴収する税額を計算する
①退職する従業員の勤続年数を計算する
まずは、解雇予告手当を含む退職所得に対する所得税額を算出するために、当該従業員の勤続年数を割り出します。
勤続年数とは、退職日まで継続して勤務した期間のことです。また、1年未満の端数は1年として計算します。
さらに、以下のような場合でも勤務期間に含まれます。
状況 | 詳細 |
相続が発生した場合 | 企業が相続によって所有者が変わっても、被相続人が経営していた時代の勤務期間は新しい所有者の下での勤続年数に含まれます。 |
合併が発生した場合 | 企業が他の企業と合併して新しい法人が発生した場合、合併前の企業での勤務期間は合併後の企業での勤続年数に含まれます。 |
分割が発生した場合 | 企業が分割され新しい法人が発生した場合、分割前の企業での勤務期間は分割後の新しい企業での勤続年数に含まれます。 |
また、勤続期間に含まれる場合と含まれない場合は以下の通りです。
勤続期間に含まれる期間 | 勤続期間に含まれない期間 |
1.長期欠勤や病気で休職した期間(5.に該当するものを除く)
2.過去に同じ支払者の下で勤務した期間(4.5.6に該当するものを除く) 3.その支払者、又は他の者の下で前に勤務した期間で、退職給与規程などの明らかな定めに基づいて、退職手当などの支払金額の計算基礎に含まれる期間 |
4.日額表丙欄(日雇い賃金に対して適用される税の区分)の適用を受けていた期間
5.他の支払者の下で勤務することを理由に休職した期間(3.に該当するものを除く) 6.その支払者から前に支払を受けた退職手当などの支払金額の計算の基礎となった期間の末日以前の期間(3に該当するものを除きます。) |
参考:国税庁
②勤続年数ごとに定められた退職所得控除額を計算する
次に、以下のルールに従って、退職所得控除額を計算します。
- 勤続年数20年以下の場合:退職所得控除額 = 40万円 × 勤続年数
- 勤続年数20年超の場合:退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年)
③退職手当等の区分ごとに定められた計算式によって課税退職所得金額を計算する
退職所得控除額が算出された場合、以下の計算式に基づいて課税退職所得金額を導き出します。
- 一般退職手当等の課税退職所得金額 = (一般退職手当等の収入金額 – 退職所得控除額)× 1/2
ただし、勤続年数が5年以下の場合、×1/2(1/2課税)がなされない場合があります。
なお、課税退職所得金額に1,000円未満の端数があるときには、切り捨て処理をして計算します。
④課税退職所得金額に応じた速算表を使って源泉徴収する税額を計算する
源泉徴収の対象になる所得税額は以下の公式で計算します。
- 退職所得の源泉徴収税額 = (課税退職所得金額 × 所得税率 – 控除額)× 102.1%
課税退職所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
(2)「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合
従業員が「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合、以下の計算式で所得税額を算出し、源泉徴収をおこないます。1円未満の端数は切り捨て処理です。
- 退職所得の源泉徴収税額 = 退職手当等の支給額 × 20.42%
各種控除については従業員本人が確定申告をする際に適用されるので、会社側が「退職所得の受給に関する申告書の提出を受けた場合」のような税務処理をする必要はありません。
3.解雇予告手当支払通知書の書き方
さいごに、解雇予告手当支払通知書の記載項目を紹介します。
解雇予告手当支払通知書は、従業員に対して解雇する旨を伝えると同時に、解雇予告に関する諸条件を書面にて通知するものです。
一般的な解雇予告手当支払通知書には以下の事項が記載されます。
- 解雇日
- 解雇理由
- 解雇予告手当の金額(源泉徴収に関する事項を含む)
- 解雇予告手当が発生する期間
- 解雇予告手当の支払い日
- 解雇予告手当の支払い方法
解雇予告手当の金額は、直近3ヶ月間の給与額から算出される平均賃金をベースに導き出します。そして、解雇予告手当支払通知書に記載するのは、所得税・住民税を源泉徴収した金額です。
また、従業員を解雇するときには、解雇予告手当の取扱いだけではなく、解雇要件を満たすかを判断したり、解雇通知をするまでの事前手続きを丁寧に進めたりするなどの注意事項が少なくありません。
解雇をめぐって労使紛争が深刻化すると労働審判や民事訴訟の負担を強いられるので、少しでも疑問点がある時には、できるだけ早いタイミングで労働問題に強い弁護士までご相談ください。
まとめ
解雇予告手当などの退職手当等は退職所得に該当します。
そのため、従業員に対して解雇予告手当を支給するときには、会社側で源泉徴収処理をおこなわなければいけません。
解雇予告手当の税務処理や解雇をめぐる手続きに瑕疵があると、当該従業員との間で争訟に発展したり、労働基準法違反で検挙されるリスクが生じます。
円滑な企業経営のためには、普段から適切に人事体制や法務部門を強化するべきでしょう。
定期的に労働問題に強い弁護士にアドバイスをもらいながら、健全な企業体制構築を目指してください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています