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退職勧奨の言い方とは?進め方やパワハラを避ける伝え方を解説
退職勧奨とは、「使用者が労働者に対して任意で退職するように促すこと」です。
企業側が一方的に雇用関係をゼロにする解雇処分とは異なり、退職勧奨は労働者の意思に基づきます。使用者・労働者間で雇用契約の解除について合意が存在する以上、解雇法制のような厳しい規律は適用されません。
ただし、「退職勧奨は労働者の自由意志に基づくものだから、どのような手段で退職勧奨をしても良い」というわけではない点に注意が必要です。
なぜなら、強制的な退職勧奨は実質的には違法な解雇処分に該当すると判断される危険性がありますし、間違った言い方で従業員を侮辱するとパワーハラスメントの疑いをかけられる可能性もあるからです。
そこで今回は、「退職勧奨を行いたいが、従業員に対する言い方・伝え方が分からない」という経営者の方のために、以下の事項について分かりやすく解説します。
- 退職勧奨の言い方・伝え方に関するポイント
- 退職勧奨される人の具体例
- 退職勧奨を検討しているときに弁護士へ相談するメリット
退職勧奨による早期退社を目指すなら、冷静かつ丁寧に話し合いを進める必要があります。
交渉の進め方や言い方に少しでも疑問があるのなら、当サイト掲載中の弁護士までご相談ください。
1.退職勧奨の言い方・伝え方に関するポイント
退職勧奨によって従業員を退職させるには、当該従業員との間で面談機会を作って、諸条件について交渉をする必要があります。
ただし、交渉をするときには言い方に気を付けなければいけません。また、伝え方に工夫を凝らしたりいくつかの注意点を押さえたりするだけで、円滑な合意形成を目指すことができます。
まずは、退職勧奨の言い方・伝え方に関するポイントを解説します。
(1)退職勧奨の面談回数・時間は常識的な範囲で実施する
退職勧奨について面談を実施するときには、回数や時間が常識的な範囲に収まるように注意が必要です。
例えば、狭い締め切った室内で何時間も当該従業員を閉じ込めたり、退職勧奨に合意するまで連日何時間も拘束し続けたりすると、「不当解雇」の疑いをかけられかねません。
したがって、退職勧奨の話を伝えるときには、以下の事項に留意しながら面接の機会を設定すると良いでしょう。
- 社内の広い会議室で面談を実施する
- 労働者と冷静に話し合いができる人物を担当者にする(人事担当者や上司など)
- 感情的な話し合いを予防するために複数人の担当官を配置するのもあり
- 退職勧奨の話し合いを長時間連続して行わない(30分程度が目安)
- 労働者が拒否しているのに連日何度も面談機会を設けない
- 他の従業員に退職勧奨の面談をしていることを隠す
「冷静な話し合いをできる環境」は退職勧奨に至った経緯や労働者の性格にも左右されます。
個別事情を勘案しながら、臨機応変に面談のあり方を設計してください。
(2)ビジネスマナーをわきまえた言い方で伝える
退職勧奨の話し合いをするときには、ビジネスマナーをわきまえた言い方を意識してください。
仮に、担当者と対象労働者との付き合いが長く、普段は打ち解けた口調でコミュニケーションを取っていたとしても、退職勧奨の面談時には社会人として対応しなければいけません。
なぜなら、退職勧奨の違法性が後日問題になる事案では、「退職勧奨の面談でどのような話をしたのか」「担当官はどのような様子だったか」が事態の行く末を左右しかねないからです。厳しい口調で叱責をしたりすると、パワハラを理由に、不法行為責任や安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を問われかねないでしょう。
退職勧奨の話し合いが複数回に及ぶと、労働者側が面談時の音声を録音している可能性も無視してはいけません。後日法廷に提出されても会社側が不利にならないように、丁寧な口調で冷静に退職勧奨について話し合いを進めましょう。
(3)従業員側が退職に納得するような条件を提示する
すべての従業員が素直に退職勧奨に応じてくれるわけではありません。
しかし、退職勧奨による退職は従業員側の合意が不可欠です。
ですから、退職勧奨経由での退社を目指すなら、「従業員が退職勧奨に応じるような諸条件」を相手方に提示する必要があります。
例えば、退職金の金額を上乗せする、従業員側の退職希望日に合わせる、関連企業などへの再就職支援を行うなど、会社側が一定の譲歩条件を伝えると、従業員側からの合意を引き出しやすくなるでしょう。
(4)退職勧奨の理由や選定について事前に社内で協議を進めておく
退職勧奨を検討しているなら、事前に社内協議を進めておくことが重要です。
以下のような項目を、予め明確にしておくと良いでしょう。
- 退職勧奨の対象者
- 人数
- 退職勧奨の理由
- 退職勧奨を伝えるタイミング
- 退職勧奨面談での言い方など
(5)「退職届を出さなかったら解雇する」と言ってはいけない
従業員がなかなか退職勧奨に応じないとしても、面談時に何を言っても良いわけではありません。
特に、以下のようなフレーズを退職勧奨の面談時に言ってしまうと、パワハラや不当解雇の疑いをかけられるので注意が必要です。
- 明日から会社に来なくて良い
- 退職届を出さなかったらクビにする
- 退職勧奨に応じるまでは自宅待機を命じる
- 他の従業員は皆あなたのことを嫌っている
- お前のような無能はいらない存在だなど
「退職勧奨に応じる以外の選択肢がないと思わせる発言」「人格を否定するような罵倒」「退職勧奨に応じない時の不利益をほのめかす発言」「労働者の感情を逆撫でする挑発的な発言」などは厳禁です。
あくまでも労働者側が自分の意思で退職に踏み出せるように、冷静な言い方を意識しましょう。
(6)退職を目的とした配置換えなどは実施してはいけない
労働者側が退職勧奨に応じないからといって、本人が退職せざるを得ないような状況を無理に作り出すのは差し控えるべきです。
例えば、追い出し部屋に席を替えて職場で孤立させたり、逆に、本人のスキルでは到底処理できない業務を強いて心を折ろうとさせたりするのは、まさにパワーハラスメントです。このような手段によって退職勧奨に応じさせたとしても、後から不当解雇処分の疑いをかけられて、未払い賃金などを請求されるリスクに晒されます。
(7)退職勧奨の面談内容は記録する
退職勧奨について労働者と話し合いをするときには、面談内容はその都度必ず記録しておきましょう。特に、退職勧奨について労働者が抵抗をしているケースでは、仮に一度は退職に合意をしたとしても、後日紛争が蒸し返されるリスクがあるからです。
例えば、会社側から提示した諸条件や労働者側からの返答内容を書面化しておくのも選択肢のひとつですし、面談の音声をそのまま録音しておくのも有効な手段です。客観的な証拠があれば、労働審判や民事訴訟になったときに、会社側に有利な状況を作り出すことができるでしょう。
(8)事前に弁護士へ相談をして合法的な手続きを意識する
退職勧奨を検討しているなら、事前に弁護士へ相談することを強くおすすめします。
なぜなら、労使紛争や労働関係法制に詳しい弁護士の助けを借りることで、以下のメリットを得られるからです。
- 退職勧奨の交渉の言い方についてアドバイスをしてくれる
- 退職勧奨の交渉が難航しているときに代理して労働者側と話し合いをしてくれる
- 退職勧奨で合意形成に至らなかったときの次なる手段を検討してくれる(懲戒解雇処分など)
- 不当解雇やパワハラの疑いで紛争を蒸し返されたときの法的措置にも対応してくれる
退職勧奨は会社側の裁量で手続きを進めやすい一方で、言い方や伝え方を間違えると想像以上に紛争が長期化するおそれがあります。
事前に弁護士へ相談をし、丁寧かつ冷静な話し合いを意識してください。
あるいは、もう手続を全て弁護士に一任してしまうのも一つです。
文書に基づき、淡々と解雇可能性や退職条件などについて提示されれば、従業員も感情的になることなく、自身の利益になる選択を真剣に考えるでしょう。
2.退職勧奨される人の具体例
懲戒解雇とは異なり、退職勧奨には原則として法的な制限は存在しません。
そのため、どのような理由で退職勧奨をするかは、会社側が自由に決定できます。
一般的な退職勧奨の具体的理由は以下の通りです。
- 従業員の能力不足(ミスの頻発、顧客・クライアントからの苦情、営業成績の不振、管理職のマネジメント能力不足など)
- 勤務態度の不良(上司の指示に従わない、遅刻・欠勤、報連相欠如、社会人マナー違反など)
- 同僚や上司とのトラブル(協調性に欠ける、喧嘩が多い、各種ハラスメントなど)
- 信頼関係の喪失(機密情報やノウハウの流出、横領や窃盗、企業や社員に対する誹謗中傷・名誉棄損、その他就業規則違反など)
- 経営上やむを得ない事情(経営難、不採算部門の整理・廃止、事業内容の転換、人員整理など)
退職勧奨に至る経緯次第では、「退職勧奨が失敗に終わったとき」の代替案も検討しておく必要があります。
企業法務に強い弁護士は、経営状況や労使環境などを総合的に考慮したうえで適切な方針を選択してくれるでしょう。
まとめ
退職勧奨について労働者と交渉するときには、言い方や伝え方に注意をしなければいけません。
高圧的な表現や人格否定とも受け取られる話し方をしてしまうと、企業側が賠償責任を追及されるリスクがあるからです。
事前に弁護士へ相談をしておけば、個別具体的な事情を踏まえたうえで、当該労働者に対してどのような言い方で退職勧奨の話をもちかけるべきかを指示してくれます。
また、そもそも交渉自体を弁護士に一任することで、交渉に伴う接触によって生じるリスク自体を回避できます。
当サイトでは、退職勧奨をめぐるトラブルや労使紛争の経験豊富な弁護士を多数掲載中なので、出来るだけ早いタイミングでお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています