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懲戒解雇で解雇予告手当は必要?手当が不要なケースについても解説

2024年6月18日
懲戒解雇で解雇予告手当は必要?手当が不要なケースについても解説

従業員を解雇するときでも、解雇予告のタイミングや解雇予告手当の支給が必要か否かは慎重に判断しなければいけません。

なぜなら、労働基準法では、雇用されている従業員の立場を守るために、使用者側にとっては厳しい規制を定めているからです。

そこで今回は、従業員に対する解雇処分を検討している経営者の方や、解雇予告手当を支給したくないと考えている事業者の方のために、以下の次項について分かりやすく解説します。

  • 懲戒解雇をするときは解雇予告手当が必要なのか
  • 懲戒解雇で解雇予告手当の支給が不要になるケース
  • 懲戒解雇を合法的に行うためのポイント

解雇手続きを丁寧に進めなければ労使紛争が長期化するおそれが高まります。当サイトでは労働問題に強い弁護士が多数在席中ですので、法的トラブルが顕在化する前にお問い合わせください。

1.懲戒解雇をするときは解雇予告手当が必要なのか

解雇予告手当とは、「雇用契約を締結した従業員を解雇するときに、事前の解雇予告の代わりに支払うお金」のことです。

原則として、解雇予定日の30日以上前に解雇予告をしないときには解雇予告手当の支給が必要です。というのも、解雇予告をされてすぐに雇用契約を打ち切られると、当該従業員が経済的に逼迫するおそれが高いからです。

ここでは、以下の内容に沿って解雇をする際に知っておくべき内容について解説します。

  • 原則30日前に解雇を予告する
  • 予告しないときには解雇予告手当の支払いが必要
  • 解雇で支給すべき解雇予告手当の算出方法
  • 解雇で解雇予告手当を支払う時期
  • 解雇時に解雇予告手当を支給しなかったときのペナルティ

(1)原則30日前に解雇を予告する

まず、企業が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に解雇の予告通知をしなければいけません(労働基準法第20条第1項本文)。

解雇処分をするときには、従業員が就業規則に規定する解雇事由に相当する問題行動に及んでいますが、このような解雇処分相当の事案であったとしても、原則として30日前には解雇する旨を当該従業員に対して通知する必要があります。

正社員だけではなく、アルバイトやパートタイマーとして働いている従業員についても、30日前の解雇予告が求められます。

なお、以下の条件を満たす労働者については、解雇処分を下すときに解雇予告の原則ルールは適用されません(労働基準法第21条各号)。

  • 日々雇い入れられる者(1ヶ月を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)
  • 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(所定の契約期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)
  • 季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者(所定の契約期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)
  • 使用期間中の者(14日を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)

(2)予告しないときには解雇予告手当の支払いが必要

使用者が労働者を解雇するには原則として30日以上前に解雇予告をする必要がありますが、就労環境や状況次第では、解雇日・退職予定日を30日以上先に設定するのが難しいケースも少なくありません。

解雇予告手続きを省略して従業員を解雇するときには、「解雇予告手当の支給」が必要です(労働基準法第20条第1項本文)。30日以上前に解雇予告をしないときに支給を要する手当の金額は、「30日以上の平均賃金」です。

なお、「30日以上前」という解雇予告の日数は、「1日の平均賃金」を支払ったとき、その日数に応じて短縮することも可能です(労働基準法第20条第2項)。例えば、3日分の平均賃金を支払ったときには、27日以上前に解雇予告をすれば足ります。

以上を踏まえると、企業側が支給するべき解雇予告手当の金額は、以下の計算式で求められるといえるでしょう。

解雇予告手当の金額 = 1日あたりの平均賃金 × 解雇予告期間が30日に足りなかった日数

(3)解雇で支給すべき解雇予告手当の算出方法

解雇予告手当の金額を算出するには、「1日あたりの平均賃金」を計算する必要があります。

1日あたりの平均賃金は、「直近の3ヶ月に支払われた賃金総額(源泉所得税や社会保険料などの控除前) ÷ 3ヶ月間の総日数」で算出します(労働基準法第12条第1項)。例えば、即時解雇する事案では、30日分以上の平均賃金を支払うことによって、従業員の経済的地位を確保しなければいけません。

ただし、1日あたりの平均賃金を計算するときの「直近3ヶ月に支払われた賃金総額」には以下の項目のものは含まれません(労働基準法第12条第4項)。

  • 臨時的に支払われた賃金(慶弔見舞金、傷病手当、退職金など)
  • 3ヶ月を超える期間ごとに支給される賃金(ボーナスなど)
  • 法令や労働協約を根拠にしない現物給与

さらに、1日あたりの平均賃金を算出する際の前提になる「直近3ヶ月」には、以下の期間は除外しなければいけません(労働基準法第12条第3項)。

  • 業務上の負傷や疾病にかかって療養のために休業した期間
  • 産前産後休業期間
  • 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
  • 育児休業期間
  • 介護休業期間
  • 試用期間

なお、パートやアルバイトの形態で雇用されている従業員を懲戒解雇するときには、総労働時間が少ないことが原因で、「1日あたりの平均賃金」が極めて少額になる可能性があります。このようなケースで公式通りの「1日あたりの平均賃金」を前提に解雇予告手当を算出しても、従業員側の経済的基盤は確保されません。

そこで、「1日あたりの平均賃金」については、”最低保証額”が定められています(労働基準法第12条第1項但書)。

【平均賃金の最低保証額 = 解雇予告日の直近3ヶ月の賃金総額 ÷ 解雇予告日の直近3ヶ月の平均日数 × 0.6】の計算式と、【直近の3ヶ月に支払われた賃金総額 ÷ 3ヶ月間の総日数】とを比較して、高い金額を利用して懲戒解雇時の解雇予告手当を支給しなければいけません。

(4)解雇で解雇予告手当を支払う時期

即時解雇の手法で解雇をするときには、解雇処分と同時に解雇予告手当を支払わなければいけません。

これに対して、30日に満たない期間に解雇予告をし、不足日数分の解雇予告手当を支給するケースでは、実際に解雇をする日までに解雇予告手当を支払えば足ります。

(5)解雇時に解雇予告手当を支給しなかったときのペナルティ

30日以上前に解雇予告をしなかったにもかかわらず、解雇予告手当を支払わなかったときには、「6ヶ月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑」が科されます(労働基準法第119条第1号)。

また、解雇予告手当を未支給のままでいる場合において、労働者が法的措置に踏み出した場合、裁判所から「未払いの解雇予告手当と同一額の付加金」の支払いを命じられるリスクも生じかねません(労働基準法第114条)。付加金の支払いが確定すると、「解雇予告手当と付加金」という形で、2倍の経済的負担を強いられることになります。

さらに、事案の状況や解雇予告に踏み出した趣旨・経緯、未払いの状況などを総合的に考慮した結果、解雇処分の有効性自体が争われる危険性にも晒されます。

以上のように、解雇のような従業員側に一定の帰責性があるような状況でも、適切な方法で解雇予告及び解雇予告手当の支給をしなければ事業者側にさまざまなペナルティが科されかねません。適宜弁護士と相談のうえ、事業者側が損をしないような形で円満に懲戒解雇手続きを進めるべきでしょう。

2.懲戒解雇で解雇予告手当の支給が不要になるケース

原則として、解雇日まで30日以上の期間がない状態で懲戒解雇をするには解雇予告手当の支給が必要ですが、例外的に解雇予告手当の支給さえも不要になるケースが存在します。

ここからは、解雇予告手当の支給が不要になる例外事例について解説します。

(1)「労働者の責めに帰すべき事由」があれば例外的に即時解雇できる

以下2つのケースでは、解雇日までの日数が30日に満たないときでも、解雇予告を支給せずに従業員を懲戒解雇できます(労働基準法第20条第1項但書)。

  • 天災事変などのやむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合
  • 労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合

「天災事変などのやむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合」とは、地震・台風・豪雨などの自然災害によって経営者がどれだけ努力をしても事業の全部または大部分の継続が難しくなったケースのことです。使用者側の故意・重過失によって事業継続が困難になった事案(税金滞納など)は除かれます。

「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」については次項で解説します。

(2)懲戒解雇事案は「労働者の責めに帰すべき事由」に該当するのか

懲戒解雇処分を下すような事案では、労働者側が何かしらの懲戒事由に該当する行為に及んでいる以上、常に「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて懲戒解雇する場合」に該当するようにも思えます。

実際、「労働者の責めに帰すべき事由」とは、「解雇予告または解雇予告手当の支給を要求する必要のない程度に重大な背信的行為があること」を意味すると考えられています。

例えば、「労働者の責めに帰すべき事由」として、以下の事象が挙げられます。

  • 業務上横領や背任行為に及んだ場合
  • 会社の所有物を窃盗した場合
  • 賭博行為などによって職場の風紀・規律を著しく乱すような行為に及んだ場合
  • 重大な経歴詐称をした場合
  • 他社へ転職しようとした場合
  • 2週間以上の無断欠勤が継続しており、出勤の督促にも応じない場合
  • 度重なる遅刻・欠勤が何度注意しても改善されない場合

いずれにしても、懲戒解雇として有効になっていなければ不当解雇にあたってしまい、会社が負う損失は解雇予告手当にとどまりません。

解雇の中でも懲戒解雇は、相当に重い非違行為と、今解雇しなければならないような必要性などが求められ、容易に認定されるものではありません。

懲戒解雇が可能そうでも、退職勧奨によって合意を目指す、普通解雇を行うなどの選択をする時もありますので、解雇予告手当を支払いたくないから懲戒解雇を選ぶというのはおすすめできません。

(3)懲戒解雇予告手当除外認定の流れ

解雇予告手当を支給することなく従業員を懲戒解雇(即時解雇)するには、懲戒解雇予告手当除外認定を受ける必要があります(労働基準法第20条第3項同法第19条第2項)。

懲戒解雇予告手当除外認定は、事業所を所轄する労働基準監督署長に対して以下の必要書類を提出することによって行います(「労働者の責めに帰すべき事由」を根拠とする場合)。

  • 解雇予告除外認定申請書(様式第3号)
  • 対象となる従業員の労働者名簿(生年月日、雇用年月日、職種名、住所、連絡先などが明らかになる資料)
  • 「労働者の責めに帰すべき事由」を示す疎明資料(社内調査報告書、顛末書、議事録、メディア報道の内容、告訴状など)
  • 就業規則の懲戒解雇事由
  • 解雇予告日、解雇日が分かる書面

懲戒解雇予告手当除外認定を申請すると、労働基準監督署長による調査が実施された上で、2週間程度を目安に認定・不認定が判断されます。

有効に懲戒解雇するだけでなく、懲戒解雇予告手当除外認定を受けるには疎明資料等を入念に準備する必要があるので、必ず弁護士のアドバイスを参考にしてください。

3.懲戒解雇でトラブルを起こさないためのポイント

最後に、以下の内容に沿って、懲戒解雇でトラブルを起こさないためのポイントについて解説します。

  • 懲戒解雇の要件を満たすか客観的に判断する
  • 従業員に弁明の機会を与える

(1)懲戒解雇の要件を満たすか客観的に判断する

「懲戒解雇処分の有効性」自体を争われると、紛争が長期化するリスクに晒されます。また、懲戒解雇処分が無効であると判断されると、高額の解決金の支払いを命じられたり、当該従業員を再度社内で雇用する必要に迫られる可能性もあります。

このようなトラブルに直面すると職場の雰囲気だけではなく業務円滑化も阻害されかねません。

ですから、懲戒解雇処分を下すときには、以下の懲戒処分要件を満たすかを冷静かつ客観的に判断するべきでしょう。

  • 就業規則に懲戒解雇の根拠規定が明記されていること
  • 当該労働者が在職中に懲戒処分対象行為に及んだこと
  • 懲戒解雇に社会的相当性が認められること
  • 他の事案と比較して、懲戒解雇処分が重過ぎないこと
  • 懲戒解雇処分を下すまでの手続きが適正であること

(2)従業員に弁明の機会を与える

懲戒解雇を下すときには、以下の流れで手続きを進めるのが一般的です。

  1. 懲戒処分対象行為の確認、就業規則の規定のチェック
  2. 当該従業員に対して「弁明の機会」を与える
  3. 社内で懲戒委員会を開催する
  4. 懲戒解雇通知書を作成する
  5. 解雇予告を行う、または、労働基準監督署から除外認定を受ける
  6. 離職票などを発行する

円滑な懲戒解雇手続きを目指すなら、当該従業員に対して事前に「弁明の機会」を与えることを忘れてはいけません。

懲戒解雇処分を下す前に話し合いの場を設けておくことで、懲戒処分の無効主張リスクを軽減したり、解雇予告手当不支給についての納得を得やすくなるでしょう。

(3)懲戒解雇処分を下す前に弁護士へ相談する

以下のような状況になった際には、必ず事前に弁護士までご相談ください。

  • 懲戒解雇を検討している場合
  • 解雇予告期間を省略して即時解雇したい場合
  • 解雇予告手当の不支給を希望する場合

なぜなら、労働法制に強い弁護士に事前相談することで、以下のメリットを得られるからです。

  • 懲戒解雇の有効性を事前に判断して後日の法的争訟リスクを図ってくれる
  • 当該従業員や労働組合側との話し合いの場にも同席してくれる
  • 労働基準監督署に提出する書類の準備・チェックをしてくれる
  • 万が一労働審判などに発展したときにも法的サポートを期待できる

まとめ

解雇処分を下すときでも、「解雇予告をするべきか」「解雇予告手当を支給すべきか」については別途事案の状況を総合的に考慮して判断する必要があります。しかし、社内協議だけで判断を誤ると、事業者側が責任を追及されかねません。

当サイトでは、労使紛争の企業側弁護の経験豊富な弁護士が多数在席中です。懲戒解雇処分のような労使紛争深刻化のリスクを有する事態に踏み出す前に、必ず法律の専門家の意見を参考にしてください。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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