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通勤災害とは?定義・要件・手続きや労災認定が問題になる事例を解説

2024年6月27日
通勤災害とは?定義・要件・手続きや労災認定が問題になる事例を解説

通勤災害とは、通勤によって生じた負傷、疾病、障害、死亡のことです。

業務中に労働者が負傷等をした場合だけではなく、通勤途中に交通事故等に巻き込まれた時にも、労災保険による補償を受けることができます。

ただし、どこまでの範囲が通勤による負傷等と判断されるのかなど、通勤災害の範囲については、事例ごとの個別事情が精査される点に注意が必要です。
「通勤中の事故だから」という理由で特別な準備をすることなく労災申請手続きをしても、不支給の決定が下されかねません。

そこで今回は、通勤災害の内容や具体的な事例、申請手続きなどについて分かりやすく解説します。

1.通勤災害とは

まずは、通勤災害の定義・内容について解説します。

(1)通勤災害の定義

通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害、死亡のことです(労働者災害補償保険法第7条第1項第3号)。

例えば、出勤中に交通事故に遭って怪我をした場合には通勤災害に該当すると考えられ、労災保険から保険給付が支払われます。

(2)通勤災害と業務災害の違い

そもそも、通勤災害は労働災害の一種に分類されます。

労働災害とは、労働者の就業に関する建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉塵等によって、または、作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷・疾病・死亡することです(労働安全衛生法第2条第1号)。

そして、労働災害は、業務災害と通勤災害に区別されます。

業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害、死亡のことです(労働者災害補償保険法第7条第1項第1号)。

業務災害と通勤災害の最も大きな違いは、負傷等が生じるシチュエーションの違いです。
具体的には、業務が原因で負傷等が生じたのか、通勤途中で負傷等が生じたのか、ということです。

(3)通勤災害に関する保険給付の種類

通勤災害への該当性が肯定された場合、以下の労災保険給付が行われます。

  • 療養給付
  • 休業給付
  • 傷病年金
  • 障害給付
  • 介護給付
  • 遺族給付
  • 葬祭給付

業務災害・通勤災害のいずれであったとしても、労働災害に該当する以上、保険給付の種類に違いはありません。

ただし、通勤災害よりも業務災害の方が補償範囲が狭いことがあるのでご注意ください。

(4)通勤災害の申請手続きの流れ

通勤中に交通事故等に遭った場合には、以下の流れで速やかに労災の申請手続きを進めましょう。

  1. 通勤中に交通事故等に遭った事実を会社に報告する
  2. 労災保険指定医療機関などで診察を受ける
  3. 労働基準監督署に労働災害申請に関する書類を提出する
  4. 労働基準監督署が通勤災害への該当性を判断するために調査する
  5. 労災事故と認定されると保険金が支給される(認定されない場合には審査結果に対する不服申し立てが可能)

後述するように、通勤災害が問題になる事例では、通勤災害への該当性を主張立証するために個別具体的な事情を丁寧に積み上げる必要があることが多いです。

労働者本人だけでは申請手続きや必要書類・疎明書類の準備に不安があるのなら、できるだけ早いタイミングで労働問題に強い弁護士へ相談することをおすすめします。

2.通勤災害の要件

通勤災害への該当性を判断する時には、以下4つの要件について検討する必要があります。

  1. 「通勤」に該当する移動であること
  2. 移動が就業に関して行われたものであること
  3. 合理的な経路及び方法による移動であること
  4. 業務の性質を有する移動ではないこと

(1)「通勤」に該当する移動であること

通勤災害と認められるには、負傷・疾病・障害・死亡が「通勤」によって引き起こされなければいけません。

そして、この「通勤」は、以下3類型が含まれると考えられています。

  1. 住居と就業の場所との間の往復(通常の通勤・退勤のこと)
  2. 就業の場所から他の就業の場所への移動(掛け持ちをしている職場間の移動のこと)
  3. 住居と就業の場所との間の往復に先行し、または、後続する住居間の移動(転任に関する移動のこと)

(2)移動が就業に関して行われたものであること

これら通勤に該当する移動は「就業に関して」行われる必要があります。
言い換えれば、移動行為が業務に就く目的または業務を終えて帰宅する目的で実施されなければいけないということです。

例えば、遅刻や早出など、通常の出勤時刻とは異なるタイミングで事故等に見舞われたとしても、就業との関連性は認められます。

(3)合理的な経路及び方法による移動であること

まず、通勤災害に該当する移動と認定されるためには、当該移動が「合理的な経路によって」行われなければいけません。
例えば、通勤のために通常利用するのが相当と認められる範囲の経路であれば、通勤災害への該当性は肯定されます。

また、交通事情が原因でやむを得ず迂回したようなケースも経路の合理性は認められるでしょう。
これに対して、本来15分の徒歩程度で会社に到着するにもかかわらず、健康維持のために1時間を要する経路を遠回りしたような事案では、合理的な経路とは認められず、通勤災害への該当性は否定されます。

次に、通勤災害に当てはまる移動は、「合理的な方法によって」行われる必要があります。
例えば、下記を利用して通勤・退勤する場合、日常的にどのような通勤手段を選択しているかにかかわらず、全て合理的な方法による通勤であると評価される可能性が高いです。

  • 鉄道・バスなどの公共交通機関
  • 自動車
  • 自転車
  • 徒歩などで

(4)業務の性質を有する移動ではないこと

移動自体が業務の性質を有する場合、そのシチュエーションにおける負傷等は通勤災害ではなく業務災害として処理されます。

例えば、下記のような移動は移動自体が業務の範囲に含まれると判断されるので、通勤災害への該当性は否定されます。

  • 社用車を利用して出退勤する場合
  • 休日や帰宅後に呼び出しを受けて緊急出動する場合など

3.通勤災害への該当性が問題になる事例

通勤災害の典型例は、自宅からマイカーで出勤している途中で交通事故に見舞われて負傷等をしたような事例です。

ただし、労災認定が問題になるケースでは、通勤途中でさまざまなシチュエーションに見舞われます。

ここでは、通勤災害への該当性が問題になる事例を具体的に紹介します。

(1)事前に会社に届け出た方法・経路以外で事故等に遭った事例

交通費などの関係で、通勤方法・通勤経路を事前に会社に届け出ているケースが多いでしょう。

しかし、会社に届け出た方法・経路以外で通勤をしている途中で事故等に遭ったとしても、通勤災害に関する他の要件を満たす限りは、通勤災害への該当性は肯定されます。
なぜなら、通勤災害への該当性を判断する際に、会社に報告していた通りの手段・経路であったか否かは関係ないからです。

例えば、マイカー出勤を会社に届け出ていたものの、車検の関係から徒歩と公共交通機関で出社をしなければいけなくなり、徒歩で駅に向かっている途中で交通事故に巻き込まれたようなケースでは、選択した徒歩・公共交通機関による通勤が合理的な方法・経路といえる限り、通勤災害に認定されるでしょう。

(2)移動の経路を逸脱したり中断した事例

移動中に通勤とは無関係の目的で合理的な経路を逸れたり、通勤とは関係のない行為をしたりした場合、逸脱・中断をした後の移動は原則として通勤災害における通勤には該当しないと扱われます。

ただし、通勤途中でトイレに行きたくなって公衆便所等に立ち寄った場合や、コンビニエンスストアで飲み物・タバコなどを購入した場合などの些細な行為をするだけでは、通勤性を否定するほどの「逸脱・中断」には当たらないと考えられます。

また、以下に列挙する日常生活上必要な行為については、やむを得ない理由によって最小限度の範囲でこれらを行い、その後、本来の合理的な経路に復帰すれば、逸脱・中断の間を除き、通勤への該当性が肯定されます。

  • 日用品の購入その他これに準じる行為
  • 職業訓練など、職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
  • 選挙権の行使その他これに準ずる行為
  • 病院または診療所において診察・治療を受けることその他これに準ずる行為
  • 要介護状態にある配偶者・子ども・父母等の介護

例えば、仕事帰りに病院で診察を受けるケースや、夕食の食材を購入するためにスーパーに寄ったケースなどでは、途中で通勤経路から外れることになったとしても、用事を済ませた後に普段のルートに戻った時点で通勤災害における「通勤」に該当する移動と判断されます。

これに対して、仕事帰りに外食をするために遠方まで自動車で移動をしたようなケースでは、「日用品の購入その他これに準じる行為」とはいえず、この移動途中で交通事故等に遭ったとしても通勤災害とは認められません。
ただし、仕事帰りの飲食それ自体が業務の性質を有する接待など、外食に関する個別事情次第では、その往復における負傷等は通勤災害と認定される可能性もあります。

(3)忘れ物に気付いて引き返した途中で交通事故等に遭った事例

出勤・退勤の途中で忘れ物に気付いて引き返した途中での交通事故等による負傷について通勤への該当性が肯定されるか否かは、忘れ物の内容によって判断されます。

例えば、IDカードや資料などの業務に必要な物品を取りに戻ったケースでは業務との関連性が肯定される可能性が高いです。
これに対して、仕事とは一切関係のない私物を取りに戻った事例では、あくまでもプライベートな移動として通勤災害の対象にはなりません。

(4)クライアントからの移動中で交通事故等に遭った事例

取引先から直帰する途中で交通事故等に遭った事例や、自宅からクライアントの元へと直接向かう途中で負傷等をしたような事案では、就業との関連性が認められるため、通勤災害に認定される可能性が高いです。

なお、会社から取引先への移動中、取引先から職場に戻るまでの移動中に交通事故等に遭った事例は、通勤災害ではなく業務災害に該当します。

(5)在宅勤務中の自宅内での移動中に負傷等をした事例

リモートワークの普及により、在宅勤務をするケースが増えています。
在宅勤務には「通勤」という概念が存在しないので、そもそも通勤災害について検討する場面は生じません。

なお、例えば自宅の2階の作業場から1階のトイレに移動する際に階段を踏み外して転倒し負傷をしたような事例では、業務災害への該当性が問題になります。

(6)通勤途中で子どもを保育園等に送迎する際に交通事故等に遭った事例

通勤途中に保育園・幼稚園・学校などに送迎する途中の交通事故等が通勤災害に該当するか否かはご家庭の状況によって判断が分かれます。

例えば、夫婦共働きで子どもの送迎を担当できるのが労働者以外には存在しない事例では、「自宅~保育園等~職場」までの経路は合理的な経路であると判断される可能性が高いです。
仮に、保育園等が「自宅~職場」までの最短の経路から大幅に外れていたとしても、共働き家庭にとって労働者本人が保育園まで送迎することには正当な理由があると考えられるからです。

その一方で、共働きではなく、専業主婦・専業主夫の側が子どもを送迎できる状況であるのに、労働者本人が保育園等への送迎を担当しているような事案では、その移動中に起きた交通事故による負傷等は通勤災害への該当性が否定される可能性が高いでしょう。
もっとも、専業主婦・専業主夫の側が怪我・病気などで送迎できなかったなどの個別事情次第では、通勤災害への該当性が肯定される場合もあります。

以上のように、通勤災害に該当するか否かを判断する際には、各事案の個別事情が相当細かくチェックされるとご理解ください。

まとめ

通勤災害への該当性が認められると、労働者に生じた怪我や休業等の状況に応じて、さまざまな保険給付を受けることができます。

ただし、業務災害とは違い、通勤災害を理由とする労災事故では、そもそも通勤災害への該当性が問題になる事例が少なくありません。

労働問題に強い弁護士へ相談をすれば、通院時の注意点や労働基準監督署に対する説明方法などに関する丁寧なアドバイスを期待できるので、通勤災害についてお困りのことがあれば速やかにお問い合わせください。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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