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通勤災害の様式第16号の3とは?記入例や療養給付の手続きを解説
業務中の労災事故だけではなく、通勤途中に交通事故などに見舞われた時には、通勤災害として労災保険給付の対象になります。
そして、通勤災害による負傷などを治療するために通院をする時には、労災病院・労災保険指定医療機関の窓口に様式第16号の3を提出すると、経済的負担なくスムーズに治療行為を受けることができます。
そこで今回は、通勤災害の療養給付を請求する時に必要になる「様式第16号の3」の記入例や提出手続きなどについて分かりやすく解説します。
1.様式第16号の3は通勤災害用の「療養給付たる療養の給付請求書」のこと
様式第16号の3は、通勤災害が原因で怪我・病気などを患って通院した時の治療を労災保険で賄う時に使用する書面のことです。
様式第16号の3は、正式には「療養給付たる療養の給付請求書」と称されます。
まずは、様式第16号の3の記入が必要になる状況について解説します。
(1)様式第16号の3の対象である「通勤災害」とは
通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害、死亡のことです(労働者災害補償保険法第7条第1項第3号)。
そもそも、労働災害は通勤災害と業務災害に区別されます。業務上の負傷等が業務災害、通勤中の負傷等が通勤災害です。
通勤災害は業務災害と同じく労災保険給付の対象と扱われます。
(2)様式第16号の3の対象である「通勤災害」の具体例
通勤災害に該当するとして療養給付などの労災保険給付が支給されるのは以下の要件を満たす時です。
- 「通勤」に該当する移動であること
- 移動が就業に関して行われたものであること
- 合理的な経路及び方法による移動であること
- 業務の性質を有する移動ではないこと
- 移動に逸脱・中断がないこと
例えば、自宅から会社に出勤中に交通事故に遭って負傷をして病院で怪我の治療を受けることになったような事案が通勤災害の典型例です。
<通勤災害の適用される事例>
- 出勤後に業務で必要な物を持ち忘れたことに気付いて取りに戻った事例
- 会社に報告していた経路とは異なるものの合理的な範囲の道順・方法で出勤していた事例
- 日用品等の購入のために最小限やむを得ない範囲で通勤経路から外れたに過ぎない事例など
<通勤災害の適用されない事例>
- 不必要に迂回をするような経路で出勤をした事例
- 退勤時に外食をするために遠方の飲食店まで移動をした事例
- 私物を取りに戻るために引き返したような事例など
以上のように、通勤災害に該当する移動かどうかは、労災事案の個別具体的な事情を斟酌して判断されます。
様式第16号の3には通勤災害発生時の状況を記入する欄があるので、労働基準監督署の審査をクリアできる程度に丁寧な説明を心がけましょう。
(3)様式第16号の3における「療養の給付」とは
療養の給付とは、労災保険によって労災病院・労災保険指定医療機関で治療を受けることです。
通勤災害で怪我・病気などを患った時、患者側は労災病院及び労災保険指定医療機関で治療行為を受けるのか、労災保険指定医療機関以外の病院で治療してもらうのかを選択できます。
そして、労災病院及び労災保険指定医療機関を受診したケースでは、患者側は治療費などを一切負担することなく、労災保険の負担で治療行為を給付してもらえます。
その際に、労災病院及び労災保険指定医療機関に提出しなければいけないのが様式第16号の3です。
なお、労災保険指定医療機関以外で治療行為を受けた時には、一度患者側で治療費等の費用を支払ったうえで、後日、労働基準監督署で労災保険から治療費を出してもらう(療養の費用を支給してもらう)ための手続きを履践しなければいけません。
この際に必要になるのが「療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(1))」です。
(4)様式第16号の3以外の療養給付に関係する書類
通勤災害で怪我などを負った時、様式第16号の3以外にも、状況次第で以下の書類が必要になることがあります。
書類 | 詳細 |
療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第16号の4) | 通勤災害の負傷などの治療をする際に、入院・通院している医療機関を変更する場合 |
療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(1)) | 労災保険指定医療機関以外の病院で治療を受けた場合 |
療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(2)) | 薬局で薬を処方された場合 |
療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(3)) | 柔道整復師の施術を受けた場合 |
療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(4)) | 鍼灸師・按摩師・マッサージ師の施術を受けた場合 |
療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(5)) | 訪問看護事業者の訪問看護を受けた場合 |
2.通勤災害発生時の様式第16号の3の記入例
通勤災害に該当する怪我等について労災病院や労災保険指定医療機関を受診する時には、患者側の金銭負担なく労災保険で治療行為を受けるために、様式第16号の3を当該医療機関に対して提出する必要があります。
様式第16号の3は厚生労働省のホームページからダウンロードして入手したり、労災保険指定医療機関の窓口で受け取ることもできます。
通勤災害用の療養給付を請求する時に提出する様式第16号の3の記入事項・記入例は以下の通りです。
記入事項 | 記入時の注意事項 | |
⑤労働保険番号 | 労災保険加入証明書に記載されている。不明時は会社に問い合わせれば判明する。 | |
⑧性別 | 男性は「1」、女性は「3」を記入する。 | |
⑨労働者の生年月日 | 元号・年・月・日を記入。元号については、明治は「1」、大正は「3」、昭和は「5」、平成は「7」、令和は「9」を記載する。 | |
⑩負傷又は発病年月日 | ⑨の労働者生年月日と同じフォーマットで記入する。 | |
⑫労働者の氏名・年齢・郵便番号・住所・職種 | 労災認定の審査時にチェックされるので、職種欄は作業内容が分かるようにできるだけ具体的に記入する。 | |
⑰第三者行為災害 | 該当するかしないかをチェックする。 | |
⑱健康保険日雇特例被保険者手帳の記号及び番号 | – | |
⑲通勤災害に関する事項 | (イ)災害時の通勤の種別 | イ~ホまでの該当するものを記入
イ.住居から就業の場所への移動 ロ.就業の場所から住居への移動 ハ.就業の場所から他の就業の場所への移動 ニ.イに先行する住居間の移動 ホ.ロに接続する住居間の移動 |
(ロ)負傷又は発病の年月日及び時刻 | 年、月、日、時間帯をできるだけ正確に記入する | |
(ハ)災害発生の場所 | ||
(ニ)就業の場所 | ||
(ホ)就業開始の予定年月日及び時刻 | ||
(へ)住居を離れた年月日及び時刻 | ||
(ト)就業終了の年月日及び時刻 | ||
(チ)就業の場所を離れた年月日及び時刻 | ||
(リ)災害時の通勤の種別に関する移動の通常の経路、方法及び所要時間並びに災害発生の日に住居又は就業の場所から災害発生の場所に至った経路、方法、所要時間その他の状況、通常の通勤所要時間 | ||
(ヌ)災害の原因及び発生状況 | (あ)どのような場所を
(い)どのような方法で移動している際に (う)どのような物で又はどのような状況において (え)どのようにして災害が発生したか (お)⑩との初診日が異なる場合はその理由 を可能な限り具体的に記入する |
|
(ル)現任者の住所・氏名 | ||
(ヲ)転任の事実の有無 | ||
(ワ)転任直前の住居に係る住所 | ||
⑳指定病院等の名称、所在地、電話番号 | – | |
㉑疾病の部位及び状態 | – | |
㉒その他就業先の有無 | 有無を記入。有の場合には、労働保険番号等の必要事項を記入する。 | |
その他記入事項 | 事業所の名称、事業主の名称、労働基準監督署の所在地、様式第16号の3を経由する請求者たる病院等の情報 |
<記入例>
・様式第16号の3(表面)
・様式第16号の3(裏面)
3.通勤災害の様式第16号の3の記入時などの注意事項
最後に、通勤災害が原因で通院等が必要になった場面の注意事項を紹介します。
(1)通勤災害の療養給付の申請手続きは労災病院・労災保険指定医療機関を利用した方が簡便
通勤災害によって負傷等をした時には、労災病院・労災保険指定医療機関を受診するのがおすすめです。
なぜなら、労災病院・労災保険指定医療機関を受診する場合、病院の窓口に様式第16号の3を提出すれば無料で労災保険を使って治療を受けることができるからです。
労災保険指定医療機関以外の病院で治療を受けた場合、療養の費用を受け取るためには、以下の手続きを患者側で行わなければいけません。
- 様式第16号の5を入手して必要事項を書き込み、その他添付書類を収集する
- 労働基準監督署に様式第16条の5等を提出する
- 労働基準監督署の審査が行われる
- 療養の費用の給付決定が出た場合に限り、指定口座に療養費用が振り込まれる
療養費用について労働基準監督署に申し立ててから実際に治療費等が振り込まれるまでの期間は約1ヶ月程度です。
労災保険指定医療機関以外を受診した時には患者側が治療費を一度は全額肩代わりしなければいけないので、家計に負担が生じるでしょう。
また、労災保険指定医療機関以外の病院等で治療を受ける際に健康保険を使ってしまうと、後から労災保険に切り替えるための手続きが別途必要になります。
通勤災害で負傷等をした時には、怪我の治療などに専念しなければならず、ご自身で労働基準監督署関係の手続きを行うのは簡単ではありません。
それならば、最初から労災病院・労災保険指定医療機関を受診して、余計な費用負担・手続き負担を強いられることなく、治療に専念するべきでしょう。
(2)通勤災害の状況次第では療養給付以外の手続きも検討する
通勤災害による負傷等の状況次第では、療養給付以外の労災保険手続きも検討する必要があります。
療養給付以外に、労災保険給付には以下の制度が定められています。
会社や労働基準監督署に相談をしながら、状況に応じた適切な制度をご利用ください。
- 休業給付
- 傷病年金
- 障害給付
- 遺族給付
- 葬祭給付
- 介護給付
(3)通勤災害で負傷等をした時には弁護士への相談を検討する
通勤災害で怪我などをした時には、念のために弁護士へ相談することをおすすめします。
なぜなら、労働問題に強い弁護士へ相談することで、以下のメリットを得られるからです。
- 通勤災害発生時の状況を踏まえて適切な労災保険制度を案内してくれる
- 通勤災害への該当性が疑われるような事案でも、労働基準監督署を納得させられるような個別事情を丁寧に積み上げて様式第16号の3などの作成をサポートしてくれる
- 通勤災害の療養給付の不支給決定が下された時にスムーズに不服申し立て手続きを進めてくれる
- 通勤災害発生時に会社に報告をしても協力が得られない場合でも、労働基準監督署への相談・通報などを含めて後押ししてくれる
- 通勤中の交通事故などが原因で負傷等をした時には、加害者側の自賠責保険・任意保険を利用した方が経済的なメリットが大きいかを判断してくれる
- 労災保険だけでは賄うことができない休業分の賃金・逸失利益・慰謝料などについて、会社側や加害者側に対する示談交渉や損害賠償請求を検討してくれる
- 労災保険に関する手続きを代理してくれるので患者側は治療等に専念できる
療養給付や休業給付は、通勤災害に該当する事象が発生してから2年で消滅時効にかかってしまいます。
いつまでも好きなタイミングで請求できるわけではないので、事故等に巻き込まれた時にはできるだけ早いタイミングで各種手続きの準備を進めましょう。
まとめ
通勤災害が原因で通院・入院を余儀なくされた時には、速やかに療養給付に関する手続きをスタートする必要があります。
特に、労災病院・労災保険指定医療機関を受診すれば、様式第16号の3の必要事項を記入して病院窓口に提出するだけで、無料で治療を受けることができます。
もっとも、通勤災害に見舞われた時には、療養給付以外の労災保険給付制度の利用も適宜検討しなければいけません。
そこで、通勤災害をめぐって少しでも不安・疑問がある時には、速やかに労働問題に強い弁護士までご相談ください。
会社や労働基準監督署への相談だけでは疑問等を解消できない時でも、依頼人の利益を最大化するためのアドバイスを期待できるでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています