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通勤災害時の休業補償はいくら?計算方法や申請の流れを解説
通勤中の交通事故などで負傷・入院を余儀なくされて働くことができなくなった場合、労災保険給付の「休業補償」の対象と扱われます。
休業補償制度を利用すれば、最大給与の80%相当額の金銭を受け取ることが可能となります。
ただし、通勤災害発生時に休業補償を受け取るには、必要書類を準備して労働基準監督署の審査を受けなければいけません。
通勤災害への該当性が疑われる事情が存在したり、怪我等の程度から休業・休職に疑問が呈されたりすると、休業補償によって金銭を受け取ることができないリスクが生じます。
そこで今回は、通勤災害発生時の休業補償の内容・計算方法・申請の流れなどについて分かりやすく解説します。
1.通勤災害の休業補償とは
まずは、通勤災害の休業補償とは、業務災害・通勤災害が原因で休職・休業を余儀なくされた時に労災保険から受け取ることができる補償のことです。
休業補償を受け取るには、以下3つの要件を満たす必要があります。
- 通勤災害・業務災害に該当する事象が発生したこと
- 通勤災害・業務災害が原因で就業できないこと
- 会社側から休業中の賃金等を受け取っていないこと
なお、休業補償と似たものとして「休業手当」という金銭給付が存在します。
休業手当とは、使用者の責めに帰すべき事由によって労働者を休業させる場合に支給される金銭のことです(労働基準法第26条)。
例えば、経営不振、生産工場の機械の不備でラインがストップした場合、運転資金不足による操業停止など、企業側の故意・過失が原因で休業状態に陥った時に、会社側は労働者に対して平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければいけません。
休業補償は労働災害発生時の給付なので、休業手当とは全く別の制度です。
(1)通勤災害で休業補償を受け取ることができる事例
通勤災害を理由に休業補償を受け取るには、以下の通勤災害の要件を満たす必要があります。
- 「通勤」に該当する移動であること
- 移動が就業に関して行われたものであること
- 合理的な経路及び方法による移動であること
- 業務の性質を有する移動ではないこと
- 経路の逸脱・中断がないこと
例えば、事前に会社に届け出ていた方法・経路以外の移動している途中で交通事故等に遭ったとしても、合理的な経路・方法で出退勤をしていれば、通勤災害に該当します。
また、出退勤の途中で忘れ物に気付いて引き返した時に交通事故等に巻き込まれた場合、入館IDなどの仕事に関連する物を取りに戻っていたなら、通勤災害に当てはまると判断されることが多いです。
なお、経路の逸脱・中断については注意が必要です。
というのも、原則として会社と自宅を往復する間に経路の逸脱・中断に相当する事情が発生すれば、それ以降の移動中に交通事故等に見舞われたとしても通勤災害への該当性は否定されますが、以下のような日常生活上必要な行為については、例外的に経路の逸脱・中断には該当しないと扱うのが労働実務だからです。
- 日用品の購入その他これに準じる行為
- 職業訓練など、職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院または診療所において診察・治療を受けることその他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者・子ども・父母等の介護
例えば、退勤中に夕食の食材を購入するためにスーパーに立ち寄り、その帰りに交通事故等で負傷した時には、経路の逸脱・中断は存在せず、通勤災害を理由に休業補償を受け取ることができます。
(2)通勤中の負傷等でも休業補償を受け取ることができない事例
通勤中の負傷等であったとしても、通勤災害の要件を満たさない時には休業補償の対象外です。
例えば、以下のケースについては、出退勤中に負傷等の事象が生じたとしても労災保険からの金銭給付によって休業分の賃金を補填することはできません。
- 健康のために相当遠回りをして徒歩で通勤をしたとき
- 退社時に外食をするために飲食店に立ち寄ったとき
- 退勤時に自宅とは反対方向のスーパーに買い物に向かったとき
- 出退勤の途中で私物の忘れ物に気付いて取りに戻ったとき
- 他に送迎できる人・手段があるのに労働者本人が出勤時に子どもを保育園等に送迎したとき
(3)通勤災害で休業補償以外に受け取ることができる給付の種類
通勤災害発生時の状況次第では、休業・休職以外にも労働者に負担が生じる可能性があります。
そこで、以下の労災保険給付制度に基づいて、労働者は状況に応じて適切な申請手続きを履践することになります。
- 療養補償
- 傷病補償
- 障害補償
- 遺族補償
- 介護保障
- 葬祭給付
なお、これらの労災保険給付制度をフル活用したとしても、労働者に生じた損害等が100%保障されるとは限りません。
例えば、慰謝料、逸失利益、労災保険制度の補償内容から漏れた損害などについては、別途会社側や交通事故等の加害者に請求する必要があります。
ただし、会社側や加害者側との示談交渉・民事訴訟手続きを労働者本人だけで進めるのは簡単ではないでしょう。
そのため、通勤時に交通事故等に巻き込まれた時には、治療等と並行しながら可能な限り早いタイミングで労働問題に強い弁護士へ相談をしたうえで、労災給付の申請方法や加害者等に対する賠償請求の方法などについてアドバイスをもらうことを強くおすすめします。
2.通勤災害の休業補償の計算方法
通勤災害の認定を受けた時に休業補償としていくら受け取ることができるのか、について解説します。
(1)通勤災害に関する休業補償の内訳
まずは、休業補償の計算をするために必要な情報である休業補償の内訳について解説します。
- 休業給付:給付基礎日額 × 60% × 休業日数
- 休業特別支給金:給付基礎日額 × 20% × 休業日数
つまり、休業補償では、給付基礎日額を前提として、本来受け取ることができたはずの賃金の80%相当額が労災保険給付として支給されるということです。
(2)休業補償を計算する流れ
通勤災害発生時の休業補償の金額を算出するには、以下のステップが必要です。
- 給付基礎日額の算出
- 給付基礎日額に80%を乗じる
- 休業日数をカウントする
- 2と3を乗じる
<ステップ1>
給付基礎日額は「通勤災害の根拠になる事象(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直近3ヶ月分の給与総額 ÷ 通勤災害の根拠になる事象の直近3ヶ月分の暦日数」の公式で算出されます。
例えば、10月3日に通勤時に交通事故で被害に遭った時には、7月・8月・9月に支給された給与総額及び暦日数を代入します。
<ステップ2>
休業給付及び休業特別支給金で支給される総額が全体の80%なので、給与基礎日額に80%を乗じます。
<ステップ3>
通勤災害が原因で休業・休職を余儀なくされた日数をカウントします。
1日目は通勤災害に遭った当日です。ただし、休業補償における休業日数を数える時には、休業1日目~3日目は「待機期間」として休業補償の対象外になる点に注意しなければいけません。
つまり、休業補償の支給対象になるのは「休業4日目から出勤前日まで」ということです。
例えば、10月3日に交通事故に遭った場合、10月3日が休業1日目、10月3日~10月5日は待機期間、休業補償の対象になる休業日数は休業4日目である10月6日からカウントする必要があります。
<ステップ4>
第1~第3で算出された数字を前提に、通勤災害を原因とする休業補償の金額を計算します。
3.通勤災害の休業補償の給付申請手続き
通勤災害を原因として休業補償を請求する時の手続きは以下の通りです。
- 休業補償の申請手続きに必要な書類を用意する
- 必要書類を労働基準監督署に提出する
- 労働基準監督署の審査にパスすると休業補償が支給される
通勤災害時の休業補償の申請書類は「休業給付支給請求書/休業特別支給金支給申請書(通勤災害用、様式第16号の6)」です。必要事項を記入したうえで、医師及び会社から負傷や休業について証明をもらう必要があります。
休業給付支給請求書は、厚生労働省のHPや労働基準監督署、労災指定医療機関で入手できます。
必要書類の準備が終わったら、労働基準監督署に提出してください。会社側が労働基準監督署に休業補償の給付申請をしてくれることが多いですが、会社側の協力を得られない時には、労働者ご自身で窓口・郵送によって申請を行いましょう。
なお、通勤災害による休業補償が認められるか否かは労働基準監督署の調査・審査次第です。
給付決定が下りると休業補償が振り込まれますが、不支給決定が下されると休業補償を受け取ることはできません。
不支給決定のケースでは、不服審査などの対策に踏み出す必要があります。
4.通勤災害の休業補償をめぐるFAQ
最後に、通勤災害発生時の休業補償についてよく寄せられる質問をQ&A形式で紹介します。
(1)通勤災害の休業補償はいつ支給される?
通勤災害の休業補償が支払われるタイミングは労働基準監督署の事務処理次第です。
一般的には、休業補償の申請をしてから1ヶ月程度とされています。
ただし、通勤災害発生時の状況が複雑だったり、負傷等の状況から休業期間に疑義を呈されたりした結果、労働基準監督署の調査に時間を要すると、休業補償の支給時期が遅れる可能性も否定できません。
そのため、家計等の理由からできるだけ早いタイミングで休業補償を受け取りたいとご希望なら、速やかに休業補償の申請手続きに着手することをおすすめします。
(2)通勤災害の休業補償はいつまで請求できる?
通勤災害発生時の休業補償は、「給与を受け取ることができなくなった日の翌日から2年」で消滅時効にかかります。
消滅時効が完成すると休業補償の給付申請をしても労働基準監督署の書面審査で落とされるリスクが生じるので、治療等がある程度落ち着いたら可能な限りスピーディーに休業補償の申請手続きを済ませましょう。
(3)休業補償で支給されない給与は請求できる?
労災保険の休業補償制度を利用した場合、休業補償として受け取ることができるのは「給付基礎日額ベースで支給予定総額の80%」だけです。
そのため、休業期間中はどうしても普通に働く時よりも受け取ることができる金額が少なくなってしまいます。
そこで、休業損害の残額については、会社や加害者に対して損害賠償請求をする方法が考えられます。
その際、休業損害として請求できるのは、「『休業給付で補填される60%』以外の金銭相当額」です。
というのも、休業特別支給金20%は労災保険制度から便宜的に支給されるものでしかないからです。
したがって、休業補償では足りない40%相当額については、別途民事訴訟等などの方法によって会社側・加害者側に請求することが可能だと考えられます。
(4)休業補償は通院しながらでも受け取ることができる?
休業補償の支給対象になるのは「賃金を受けない日」です。
働きながら通院をしていたとしても、「賃金を受けない日」に該当する限り、休業補償を受け取ることができます。
具体的には、所定労働時間の全部または一部を労働することができない事例において、休業補償の支給対象としてカウントされます。
まとめ
通勤災害によって働くことができない時には、休業補償によって最大80%の賃金相当額を受け取ることができます。
ただし、休業補償を受け取るには、労働基準監督署への申請手続きを適切に履践しなければいけません。
必要書類に不備があったり、通勤災害を根拠付ける疎明資料を準備できなかったりすると、休業補償が支給されるタイミングが遅れたり、場合によっては不支給決定が下される危険性も生じます。
そのため、通勤中に交通事故等のトラブルに巻き込まれた時には、念のために労働問題に強い弁護士に問い合わせることをおすすめします。
労働基準監督署の手続きの流れや、休業補償では補填されない損害の扱いなどについて、分かりやすくアドバイスを提供してくれるでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています