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通勤災害の手続きの流れとは?必要書類や申請時の注意点を解説
従業員が通勤途中で交通事故などに巻き込まれて負傷等をした時には、通勤災害に該当することを理由に労災保険から給付を受けることができます。
ただし、通勤途中の負傷等なら何でも通勤災害に該当するわけではありません。
また、通勤災害を理由として労災保険から給付を受け取るには、労働基準監督署に対する手続きを正しく履践する必要があります。
そこで今回は、通勤災害を理由とする労災保険給付の申請手続きや注意事項などについて分かりやすく解説します。
1.通勤災害の申請手続きの流れ
通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害、死亡のことです(労働者災害補償保険法第7条第1項第3号)。
通勤災害は労働災害の一種であり、業務災害と並んで労災保険給付の対象と扱われます。
業務上の負傷等が業務災害、通勤中の負傷等が通勤災害というように区別されます。
まずは、通勤災害をめぐる労災保険給付の手続きの流れについて、給付内容別に解説します。
(1)通勤中の怪我について病院で治療を受けた時の手続きの流れ
通勤中の交通事故等で負傷し、治療のために通院をした時の治療費等の支給については、受診する医療機関によって手続きが異なります。
下記2機関では受診した後の手続きの流れに違いが生じるので注意しましょう。
- 労災保険指定医療機関を受診した場合
- 労災保険指定医療機関以外で受診した場合
①労災保険指定医療機関を受診した場合
まず、労災保険指定医療機関で治療を受ける場合、患者側で医療費等について費用負担をする必要はなく、無償で治療を受けることができます。
「療養給付たる療養の給付請求書(通勤災害用、様式第16号の3)」を事前に厚生労働省のHPでダウンロードして持参するか、窓口で準備されている給付請求書に記載をして提出してください。
②労災保険指定医療機関以外で受診した場合
次に、労災保険指定医療機関以外の病院で治療を受ける場合、以下の手続きで治療費等の給付が行われます。
- 労災保険指定医療機関以外で治療を受ける
- 労災保険指定医療機関以外の病院等に対して患者側が自己負担で治療費を支払う
- 労働基準監督署に対して必要書類を提出する
- 通勤災害として認定されたら指定口座に治療費等負担分が振り込まれる
注意を要するのが、一度は患者側が治療費を全額立て替えたうえで、通勤災害の認定手続きを履践して、後日立て替え分の治療費を受け取るという流れを経なければいけないという点です。
労災保険指定医療機関を受診するケースよりも手続き負担が重くなり、また、治療費等が振り込まれるまでの期間も要します。
労災保険指定医療機関以外を受診したケースの必要書類は以下の通りです。治療を受けた時の状況に応じて必要なものを厚生労働省HPからダウンロードしてください。
- 療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(1)):病院で治療を受けた場合
- 療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(2)):薬局で薬を処方された場合
- 療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(3)):柔道整復師の施術を受けた場合
- 療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(4)):鍼灸師・按摩師・マッサージ師の施術を受けた場合
- 療養給付たる療養の費用請求書(通勤災害用、様式第16号の5(5)):訪問看護事業者の訪問看護を受けた場合
(2)通勤災害が原因で休職・休業した時の手続きの流れ
通勤災害発生時の負傷状況等次第では、入院などによって会社を休まざるを得ないこともあるでしょう。
労災保険では、通勤災害が原因で休職を余儀なくされた労働者に対して休業給付を支給しています。
休業給付の申請手続きの流れは以下の通りです。
- 休業給付支給請求書/休業特別支給金支給申請書(通勤災害用、様式第16号の6)を労働基準監督署に提出する
- 通勤災害について労働基準監督署が審査する
- 休業給付の許可が下りたら厚生労働省から休業給付が支給される
なお、通勤災害による負傷等が原因で休業状態が1年6ヶ月以上に及び、傷病等級第1級~第3級に該当する場合には、労働基準監督署の判断で休業給付から傷病給付に切り替えられることがあります。
(3)通勤災害が原因で後遺障害が生じた時の手続きの流れ
通勤時の交通事故が原因で負った怪我が完治することなく後遺症が残った場合には、障害給付の申請手続きが必要です。
障害給付の申請手続きの流れは以下の通りです。
- 障害給付支給請求書(通勤災害用、様式第16号の7)を労働基準監督署に提出する
- 医師が作成した後遺障害診断書・レントゲン写真・レセプト・MRI画像などの客観的疎明資料も合わせて提出する
- 労働基準監督署が後遺障害等級及び障害給付について審査する
- 支給決定通知送付後、障害給付が支給される
後遺障害は負傷者側の希望通りの等級認定を受けられない事例も少なくありません。
適切な後遺障害等級認定による障害給付を受け取るために、必ず医師の意見書などの客観的証拠を添えるようにしてください。
満足できる後遺障害等級認定を得る可能性を高めたいなら、後遺障害等級申請の段階から弁護士に相談しておくことをおすすめします。
なお、通勤災害による後遺障害の状況次第では、継続的な介護が必要になることもあるでしょう。労災保険から介護費用の給付も希望する場合には、介護者が「介護補償給付支給請求書/複数事業労働者介護給付支給請求書/介護給付支給請求書(様式第16号の2の2)」を労働基準監督署に提出してください。
(4)通勤災害が原因で死亡した時の手続きの流れ
通勤時の交通事故等によって従業員が死亡した場合、遺族年金・葬祭給付・遺族一時金を受け取るために、労働基準監督署に以下の必要書類を提出する必要があります。
- 遺族年金:遺族年金支給請求書/遺族特別支給金支給請求書/遺族特別年金支給請求書(様式第16号の8)
- 葬祭給付:葬祭給付請求書(様式第16号の10)
- 遺族一時金:遺族一時金支給請求書/遺族特別支給金支給請求書/遺族特別一時金支給請求書(様式第16条の9)
なお、労災保険から従業員の死亡に係る給付を受ける時には、死亡診断書や戸籍謄本などの書類の提出が求められることがあるので、指示に従って必要な書類をご用意ください。
2.通勤災害の手続きに関する注意事項
通勤災害の手続きに関する注意点を解説します。
(1)通勤災害による負傷等で健康保険を使用した場合には切り替え手続きが必要
通勤災害による負傷等について労災保険からの給付を受けるには、労災保険を利用しなければいけません。
労災保険と健康保険はあくまでも別制度なので、健康保険を利用して治療を受けてしまうと、労災保険の支給対象外になってしまうからです。
そこで、通勤災害による負傷等で病院を受診した際に健康保険を利用してしまった時には、健康保険から労災保険への切り替え手続きが必要です。
労災保険指定医療機関を受診したケースでは当該病院等に対して、労災保険指定医療機関以外を受診したケースでは労働基準監督署に対して、労災保険に切り替えたい旨を申告してください。
通勤災害後の受診状況を踏まえたうえで、その後とるべき切り替え手続きについて案内をしてもらえるでしょう。
(2)交通事故による通勤災害は第三者行為災害としての届出が必要
通勤途中で相手方が運転する自動車に轢かれたような交通事故に巻き込まれた場合、労災保険で治療費等を賄うことも可能ですが、同時に、相手方の自賠責保険・任意保険や損害賠償請求によって治療費等を受け取ることもできます。
このようなケースで労災保険から給付を受けるには、労働基準監督署に対して以下の必要書類を提出しなければいけません。
- 第三者行為災害届(届その1~届その4)
- 念書(兼同意書)
- 交通事故発生届
- 第三者行為災害報告書(調査書)
- その他、示談書・和解調書・判決謄本など
なお、同一の負傷等について、労災保険と任意保険等の両方から二重に治療費等を受け取ることはできません。
特に、交通事故事案では、過失割合や逸失利益などが争点になって加害者側との民事紛争が深刻化することが多いです。
通勤時の交通事故の状況次第で労災保険・加害者側の任意保険等のどちらから給付を受けるべきか適切に判断する必要があるので、適宜弁護士などの専門家のアドバイスを得るべきでしょう。
(3)通勤中に生じた事情次第では労災保険給付が不支給になる
通勤災害に該当することを理由に労災保険の給付を受けるには以下4つの要件を満たす必要があります。
通勤中の交通事故等が全て通勤災害に該当するわけではありません。
- 「通勤」に該当する移動であること
- 移動が就業に関して行われたものであること
- 合理的な経路及び方法による移動であること
- 業務の性質を有する移動ではないこと
例えば、自宅から会社に向かっている途中でイヤホンなどの私物を忘れたことに気付いて引き返した時に交通事故に巻き込まれた事例では、引き返した移動は就業に関して行われたものとはいえないでしょう。
そのため、このケースは通勤災害には該当せず、労災保険から給付を受けることができません。
また、会社帰りに外食をする目的で飲食店に向かっている時に交通事故に巻き込まれた事例、自宅から会社まで常識的には考えられないような遠回りの経路で移動している過程で交通事故に遭った事例なども、通勤災害への該当性を否定されるでしょう。
なお、通勤災害における通勤が逸脱・中断するような事情があると、その後の移動は全て通勤災害における通勤とは扱われないのが原則です。
ただし、以下に列挙する日常生活上必要な行為については、「やむを得ない理由によって最小限度の範囲でこれらを行い、その後、本来の合理的な経路に復帰した時」という条件付きで、逸脱又は中断の間を除き、通勤災害への該当性が認められる可能性があります。
<通勤災害への該当性が認められるケース>
- 日用品の購入その他これに準じる行為
- 職業訓練など、職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院または診療所において診察・治療を受けることその他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者・子ども・父母等の介護
以上のように、労働基準監督署が労災保険給付の対象になる通勤災害に該当するか否かを判断する時には、個別具体的な事情が丁寧に検証されます。
従業員側に有利な認定を引き出すには必要書類に加えて自身の主張を根拠付ける証拠等を添付するなどの工夫が不可欠なので、場合によっては労働問題に強い弁護士へ早期に依頼をするべきでしょう。
まとめ
通勤中の交通事故トラブルなど、通勤災害に該当する事象が発生した時には、適切な治療等を受けた後、必要書類を揃えて労働基準監督署に対して労災保険の給付申請手続きをする必要があります。
労働基準監督署の審査の結果、通勤災害の認定が下りない時には、不服申し立て手続きをすることは可能です。
ただし、怪我の治療や後遺障害などを負った状態で労災申請手続きが長期化するのは適切ではないでしょう。
そこで、通勤災害に該当するような事案に巻き込まれた時には、会社側と適宜相談をしながら、場合によっては労働問題に強い弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
労働基準監督署での手続き方法や申請時の注意事項について丁寧なサポートを期待できるでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています