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従業員からうつ病で労災申請を受けた!企業側の正しい対処法とは?

2024年8月30日
従業員からうつ病で労災申請を受けた!企業側の正しい対処法とは?

従業員のうつ病も、パワハラや長時間労働など業務上の強いストレスが原因となって発症した場合は労災の対象となります。

当該従業員が労災申請を希望した場合、会社は申請手続きをサポートしなければならないという「助力義務」を負います(労災保険法施行規則第23条第1項)。
そのため、会社としては労災の認定基準を満たさないと考えている場合でも、従業員からの申出を無視せず適切に対処する必要があります。

もっとも、会社は労災認定が得られるように助力しなければならないわけではなく、「意見申出制度」によって会社としての意見を労働基準監督署へ申し出ることにより適切な判断を求めることも可能です。

今回は、従業員からうつ病による労災申請の申出を受けて対処にお困りの経営者の方のために、以下の事項について分かりやすく解説します。

  • うつ病による労災申請の手続きの流れ
  • 従業員がうつ病で労災に認定されたときの注意点
  • 労災の認定基準を満たさないと考えられる場合の対処法

労使紛争や労働問題に強い弁護士に相談すれば、従業員からうつ病で労災申請を受けたときの企業側の正しい対処法について、個別具体的なアドバイスが得られるでしょう。

1.従業員からうつ病で労災申請を受けたときの企業の対処法

うつ病になった従業員から「労災申請をしたい」という申出を受けたとき、企業としては以下のように対処していくことをおすすめします。

  • 弁護士に相談する
  • 事実関係の調査を尽くす
  • 労災の認定基準を満たすか確認する

(1)弁護士に相談する

労災の申請手続きを事業主や担当者の判断で進めるのではなく、早い段階で労使紛争や労働問題に強い弁護士に相談しておくことがおすすめです。
なぜなら、うつ病になった従業員から後に慰謝料請求などで会社の責任を追及される可能性もあるからです。

当該従業員が訴える事実をそのまま労災申請書に記載して労働基準監督署へ提出し、労災に認定されると、裁判で慰謝料請求が認められる可能性も高まってしまう傾向にあります。

逆に、労災認定を恐れて当該従業員に対し「労災申請をするな」などと迫ったりすると、労災隠しを疑われることにもなりかねません。労災の発生を報告しない等の労災隠しは労働安全衛生法違反という犯罪であり、最悪の場合は会社側が50万円以下の罰金に処せられる恐れもあります(労働安全衛生法第100条第1項、3項、第120条第5号、第122条)。

うつ病になった従業員と会社との問題を適切な解決に導くためには、労災申請の段階で会社としても事実関係の調査を尽くした上で、労災の認定基準を満たすかどうかの判断に応じて、労働基準監督署へ提出する書類を準備していくことが重要です。

労災申請の準備を的確に進めるためには専門的な知識やノウハウが要求されるので、まずは弁護士に相談して個別具体的なアドバイスを受けた方がよいでしょう。

(2)事実関係の調査を尽くす

労災の申請をする前に、会社としても当該従業員のうつ病の発症原因について事実関係の調査を尽くしておくべきです。
なぜなら、業務以外の原因でうつ病を発症したと考えられる場合には、後述する「意見申出制度」により会社としての意見を労働基準監督署へ申し出ることが可能なので、その前提として事実関係を把握しておく必要があるからです。

具体的には、当該従業員がセクハラやパワハラなどのハラスメントを受けたと訴えている場合には、その事実があったかどうか、事実があった場合にはハラスメントの内容や程度を調査することになります。

調査方法としては、当該従業員本人の他にも、職場の上司や同僚などの関係者から事情を聴くことになるでしょう。
聴き取った内容を書面化しておけば、労災申請や慰謝料請求の民事訴訟などで証拠として使用できます。

長時間労働や過大なノルマが原因でうつ病を発症した疑いがある場合には、タイムカードなどの勤怠記録や業務日報などで、当該従業員の労働時間や業務内容を把握するようにしましょう。

当該従業員から労災申請とは別に慰謝料を請求される可能性があることも考えると、うつ病の発症原因に関する事実だけでなく、会社に使用者責任(民法第715条第1項本文)や安全配慮義務(労働契約法第5条)違反が認められないかも早めに調査しておいた方がよいといえます。

具体的には、職場で各種ハラスメントの発生を防止する措置がとられていたか、長時間労働や過重労働が発生しないように労務管理をしていたか、被害者からの相談窓口を設けていたかなど、会社としての体制をチェックする必要があります。

(3)労災の認定基準を満たすか確認する

事実関係を把握できたら、当該従業員のうつ病が労災の認定基準を満たすかどうかを確認してみましょう。

うつ病などの精神疾患による労災の認定基準は、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準について」という通達において、次の3つの要件をすべて満たすこととされています。

  • 特定の精神疾患を発病したこと
  • 発病前6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷があったこと
  • 業務以外の原因で発病したものではないこと

参照:厚生労働省労働基準局長|心理的負荷による精神障害の認定基準について

うつ病は「特定の精神疾患」に該当します。当該従業員の具体的な病名や発病した時期は、医師の診断書で確認しましょう。

その上で、事実調査の結果に基づき、発病前6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷があったといえるか、業務以外の原因で発病したのではないか、を検討していくことになります。

労災の認定基準を満たす場合と満たさないと考えられる場合の対処法については、それぞれ後述します。

2.うつ病による労災申請手続きの流れ

うつ病による労災申請の手続きは、以下の流れで進めていきます。

  1. 従業員に診断書の提出を求める
  2. 申請書を作成し労働基準監督署へ提出する
  3. 労働基準監督署の調査に協力する
  4. 認定結果を確認する

(1)従業員に診断書の提出を求める

うつ病で労災申請を行う際には、原則として医師の診断書を労働基準監督署へ提出する必要があります。
当該従業員に対して、主治医に診断書を発行してもらい、その診断書を会社へ提出するように求めましょう。

診断書作成費は労災に認定されると労災保険から当該従業員へ支払われるため、会社が立て替えて支払う必要はありません。

なお、当該従業員が労災指定病院を受診した場合は、その病院から労働基準監督署へ情報が直接提供されるため、診断書の取得は不要です。
しかし、会社としてはうつ病の発症原因や発症時期を確認するために、当該従業員に対して診断書の提出を求める方が望ましいといえます。

(2)申請書を作成し労働基準監督署へ提出する

診断書を取得したら、労災の申請書を作成して労働基準監督署へ提出します。

労災の申請書には「事業主証明欄」がありますが、事業主としての証明は慎重に行う必要があります。
なぜなら、当該従業員が主張するとおりの事実を記載した申請書に事業主としての証明を行うと、業務が原因でうつ病を発症したことを会社が認めたと判断されてしまうからです。

当該従業員のうつ病が業務以外の原因で発症したなど労災の認定基準を満たさないと考えられる場合は、事業主証明欄を空欄としたままで労働基準監督署へ提出するようにしましょう。

この場合には、後述する「意見申出制度」により「証明拒否理由書」を併せて提出することで、会社としての意見を労働基準監督署へ申し出ることが重要です。

なお、労災の保険給付には以下の種類があり、それぞれ申請書の様式が異なります。該当する保険給付の申請書の書式を取得して、必要事項を記入しましょう。

  • 療養(補償)等給付
  • 休業(補償)等給付
  • 傷病(補償)等年金
  • 障害(補償)等給付
  • 遺族(補償)等給付
  • 葬祭料等(葬祭給付)
  • 介護(補償)等給付

申請書の書式は労働基準監督署や労働局で入手できますが、厚生労働省のホームページからダウンロードした書式を使用することもできます。

参考:厚生労働省|主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)

(3)労働基準監督署の調査に協力する

申請書が受理されると、労働基準監督署において、当該従業員のうつ病が労働災害に該当するかどうかの調査が行われます。

調査のために労働基準監督署から事業主や他の従業員に対する事情聴取、追加資料の提供などを求められることがありますが、これらの調査には協力するようにしましょう。
調査への協力を拒否したり、虚偽の説明をしたり、虚偽の内容を記載した資料を提出したりすると、30万円以下の罰金に処せられることがあるので注意が必要です(労働基準法第101条1項、120条第4号、第5号、労働安全衛生法第100条第1項、3項、第120条第5号、第122条)。

特に、会社として当該従業員のうつ病が労働災害に該当しないと考えている場合は、積極的に調査に協力した方がよいでしょう。
事実関係を調査した際に確保した証拠を積極的に提出することで、労働基準監督署の適切な判断を求めることが可能となります。

(4)認定結果を確認する

労災の認定結果は、労働基準監督署から申請者である当該従業員へ送付されます。
そのため、会社としては当該従業員に対して認定結果を尋ねる必要があります。

申請書が受理されてから認定結果が通知されるまでの期間は概ね1ヶ月程度が平均的ですが、うつ病などの精神疾患のケースでは労働基準監督署による調査が慎重に行われることから、数ヶ月を要することも少なくありません。

当該従業員に対して、認定結果が届いたら報告するように求めておくのもよいですが、申請から1ヶ月程度が経過したら、会社から当該従業員に対して尋ねてみるようにするとよいでしょう。

3.従業員がうつ病で労災に認定されたときの注意点

従業員がうつ病で労災に認定された場合は、会社として以下の2点に注意する必要があります。

  • 解雇は原則不可
  • 慰謝料を請求されたら示談による解決を目指す

(1)解雇は原則不可

うつ病を発症した従業員は仕事を休むこともありますが、労働者が業務上の負傷や疾病で休業する期間とその後の30日間は、原則として当該従業員を解雇することはできません(労働基準法第19条第1項本文)。

労災に認定されたということは、当該従業員のうつ病が業務に起因するものであると認められたことを意味しますので、この規定が適用されることに注意が必要です。
したがって、当該従業員が会社に来ないことを理由として解雇することは原則として許されません。

ただし、以下の場合には例外的に解雇することが認められます(同項但し書)。

  • 療養開始後3年を経過しても傷病が治らない場合に、打切補償として当該従業員に1200日分の給与を支払った場合
  • 当該従業員が労災から傷病補償年金の支払いを受けている場合
  • 自然災害などやむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合

「傷病補償年金」は後遺障害が残った場合に支給されるものであり、早くても療養開始後1年6ヶ月が経過するまでは受給できません。
それより前に当該従業員との雇用契約を打ち切るためには、自然災害などのやむを得ない事由がない場合に限られます。

(2)慰謝料を請求されたら示談による解決を目指す

慰謝料とは被害者が受けた精神的苦痛に対する損害賠償金のことであり、労災保険からは支給されません。
そのため、労災の認定を受けた従業員が別途、会社に対して慰謝料を請求してくることがあります。

慰謝料を請求された場合には、示談による解決を目指すのが得策です。
なぜなら、当該従業員からの請求を無視すると、労働審判や民事訴訟などの法的措置をとられる可能性があるからです。

法的措置をとられると、会社が対応するための時間や労力、コストの負担が重くなります。
また、民事訴訟は公開の手続きなので報道機関の目に止まると報道されることもあり、そうなると企業イメージの低下を招く恐れもあります。

会社がこのようなダメージを受ける前に当該従業員と交渉し、妥当な慰謝料額での示談成立を目指した方がよいでしょう。
示談では、一般的に民事訴訟よりも低額の慰謝料で解決できることが多い傾向にあります。

なお、従業員のうつ病が労災に認定されたとしても、会社に使用者責任や安全配慮義務違反が認められない場合には、慰謝料の支払い義務は生じません。
ただし、その場合でも当該従業員が法的措置をとる可能性はあります。
そのため、会社としては慰謝料の支払い義務がないと考えている場合でも、できる限り当該従業員と丁寧に話し合い、双方が納得できる示談成立を目指す方が得策といえます。

4.労災の認定基準を満たすか疑義があるときの対処法

従業員のうつ病が労災の認定基準を満たさないと考えられる場合に会社がとるべき対処法としては、次の2つが考えられます。

  • 従業員に自分で申請するように促す
  • 意見申出制度を利用する

(1)従業員に自分で申請するように促す

一つめの対処法は、当該従業員に対して自分で労災申請をするように促すことです。

労災の認定基準を満たすかどうかを判断するのは労働基準監督署ですが、素人が見ても認定基準を満たす可能性は極めて低いと判断できるケースもあることでしょう。
そのような場合には、従業員に自分で申請するように促すのもひとつの方法です。

ただし、従業員が自分で労災を申請した場合には、会社の意見が考慮されないまま労働基準監督署の審査が進められる可能性があることに注意が必要です。
本来なら労災の認定基準を満たさないようなケースでも、労災に認定されてしまう可能性がないとはいえません。

したがって、労働基準監督署の適切な判断を求めるためには、次の「意見申出制度」を利用する方が望ましいといえます。

(2)意見申出制度を利用する

労災を申請する際には、会社が申請手続きをサポートした上で、意見申出制度を利用することもできます。

意見申出制度とは、申請者である従業員の疾病が労災の認定基準を満たすかどうかなどの点について、会社(事業主)としての意見を書面で労働基準監督署長へ提出できる制度のことです(労災保険法施行規則第23条の2)。

具体的には、申請書の事業主証明欄を空欄とした上で、詳しい事情を記載した「証明拒否理由書」と一緒に労働基準監督署へ提出します。
これにより、会社としての意見を労働基準監督署における審査に反映させることが可能です。

併せて、事実関係の調査によって確保した証拠を提出することもできます。
このようにして会社としての意見やその正当性を証明する証拠を労働基準監督署へ提出することにより、適切な判断が得られる可能性を高めることができます。

5.うつ病による労災申請で困ったときはベリーベスト法律事務所がおすすめ

従業員のうつ病による労災申請で困ったときは、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。

当事務所には、労災の問題をはじめとする労働問題を解決に導いてきた実績が豊富にございます。
労使紛争や労働問題に詳しい弁護士が数多く在籍していますので、ご相談いただければ状況に応じて最適な解決方法を提案させていただくことができます。

当事務所の弁護士にご依頼いただければ、労災申請手続きの代行はもちろんのこと、事実関係の調査から当該従業員との示談交渉まで全面的にお任せいただけます。

オフィスは全国74拠点を展開しており、各主要都市に拠点が存在するため、全国対応が可能です。

また、月額3,980円(税込み)から顧問契約も承っております。
顧問契約をしていだければ、専門的な企業法務サービスを継続的に提供いたしますので、労働災害の発生防止に役立つとともに、万が一、労働災害が発生した場合には迅速に対応できます。

労災申請を弁護士に任せて本来の事業に専念していただくためにも、当事務所へのご相談を検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

うつ病になった従業員が労災の申請を申し出てきた場合、会社としては申請手続きをサポートした上で、意見申出制度を利用して労働基準監督署の適切な判断を求めることをおすすめします。

労災申請の手続きそのものはさほど複雑ではありませんが、会社としての意見を労働基準監督署へ的確に申し出るためには、専門的な知識やノウハウを要します。

お困りの際は、労使紛争や労働問題に詳しい当事務所の弁護士にご相談いただければ、最善の形で解決を図ることができるでしょう。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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