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従業員のうつ病は労災になる?認定基準や企業側の注意点を解説

2024年9月2日
従業員のうつ病は労災になる?認定基準や企業側の注意点を解説

近年では、仕事上のストレスを原因とするうつ病などの精神疾患により労災を申請するケースが増えています。会社としては落ち度がないと考えていても、一定の基準を満たす場合には従業員のうつ病も労災に認定されます。

うつ病になった従業員から労災申請の希望があった場合、会社としての対応を誤ると損害賠償をめぐって労働審判や民事訴訟などの法的トラブルに発展することにもなりかねません。

そこで今回は、従業員からうつ病による労災申請の申出を受けた経営者の方のために、以下の事項について分かりやすく解説します。

  • うつ病などの精神疾患による労災の認定基準
  • うつ病による労災の申請から認定までの流れ
  • 従業員から労災申請を受けたときの会社側の注意点

労使紛争や労働問題に強い弁護士に相談すれば、うつ病による労災認定の見通しや手続き上の注意点について個別具体的なアドバイスが得られるでしょう。

1.うつ病は労災になる?

従業員のうつ病も、一定の基準を満たせば労災に認定されます。

労災とは「労働災害」の略称であり、業務中または通勤中に発生した怪我や病気のことを指します。
労災の被害に遭った労働者は、労災保険制度によって必要な保険給付を受けることができます。

ただし、労災保険の給付を受けるためには労働基準監督署で労災としての認定を受ける必要があります。
そのためには、「業務起因性」と「業務遂行性」という2つの要件を満たさなければいけません。

  • 業務起因性…業務が原因となって労働者が怪我や病気を負ったといえること
  • 業務遂行性…労働者が事業主の指揮命令を受けて業務を遂行しているときに怪我や病気を負ったといえること

身体的な怪我や病気だけでなく、うつ病などの精神疾患でも、この2つの要件を満たす場合は労災として認定されます。

2.うつ病などの精神疾患による労災の認定基準

うつ病などの精神疾患は身体的な怪我や病気とは異なり、発症の時期や原因を特定しにくく、労災の認定に困難を伴うことが多くなっています。
そのため、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準について」という通達において、次の3つの要件をすべて満たす場合には精神疾患も労災として認定すべきであると公表しています。

  • 特定の精神疾患を発病したこと
  • 発病前6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷があったこと
  • 業務以外の原因で発病したものではないこと

参照:厚生労働省労働基準局長|心理的負荷による精神障害の認定基準について

(1)特定の精神疾患を発病したこと

労災認定の対象となる精神疾患は統合失調症、気分(感情)障害、神経症性障害など特定のものに限定されており、アルコールや薬物による障害、認知症、心身症などは対象外とされています。

うつ病は精神医学上、「気分(感情)障害」に分類されているため、労災認定の対象となります。

(2)発病前6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷があったこと

特定の精神疾患の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷があったと認められる場合でなければ、労災には認定されません。

厚生労働省の上記通達では、業務による心理的負荷の強度を客観的に判断するための「評価表」が設けられています。

その中で、次のような「特別な出来事」に該当する業務上の出来事があった場合には、基本的にそれだけで「強い」心理的負荷があったと認められます。

  • 生死に関わるような重度の後遺障害を残す業務上の怪我や病気を負った
  • 業務中の過失によって他人を死亡させたり、生死に関わる重大な怪我を負わせてしまった
  • 強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクハラ被害に遭った
  • 発病直前の1ヶ月に160時間を超える時間外労働を行った

その他にも評価表には、さまざまな「具体的出来事」が掲げられていて、それぞれの出来事について心理的負荷の程度が「強」「中」「弱」のいずれかに分類されています。

当該労働者が負った心理的負荷を判断するためには、まず、発病前おおむね6ヶ月の間に認められた業務による出来事が、評価表に掲げられた「特別な出来事」または「具体的出来事」のどれに該当するかを判断します。
掲げられている出来事に合致しない場合には、どの出来事に近いかを類推して評価します。

ただし、評価表に掲げられている出来事はあくまでも例示なので、実際の心理的負荷の程度は個々の事案ごとに総合的に評価することが必要です。
出来事が複数ある場合には、それぞれの出来事について心理的負荷の程度を総合評価した上で、全体的に評価していきます。

例えば、次の出来事はすべて評価表では心理的負荷の程度が「中」とされていますが、3つが重なることで全体的に「強」と評価されることもあるでしょう。

  • 相当な努力をしなければ達成が容易でないノルマを課せられた
  • 上司から業務指導の範囲内で強く叱責された
  • 継続的ではないセクハラ行為を受けた

(3)業務以外の原因で発病したものではないこと

業務以外の原因で発病したものではないことも、労災認定の要件の一つとされています。

例えば、下記事情が認められる場合は、労災の認定基準を満たさない可能性が高まります。

  • うつ病を発症する前に離婚した
  • 家族が亡くなった
  • アルコール依存症に陥っていたなど

ただし、うつ病などの精神疾患を発症する原因を特定するのは容易ではないことも多いものです。
例えば、業務上のストレスが原因でアルコール依存症に陥り、うつ病の発症に至るケースも少なくないでしょう。
このような場合、業務上のストレスに起因してうつ病を発症したと認められれば、労災の認定基準を満たすことになります。

したがって、当該労働者のうつ病の発症原因については、主治医の意見も参照して慎重に判断しなければならないケースが多いといえるでしょう。

3.うつ病による労災の申請から認定までの流れ

労災の申請は被害に遭った労働者が行うものですが、一般的には会社が申請手続きを代行することが多いです。
うつ病になった従業員の労災申請を会社が代行する場合の手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 当該従業員から診断書を提出してもらう
  2. 労災申請書を作成する
  3. 申請書および診断書などの添付書類を労働基準監督署へ提出する
  4. 労働基準監督署において調査が行われる
  5. 労働基準監督署から申請者である従業員へ通知書が送付される

申請書が受理されてから認定結果が通知されるまでの期間は、おおむね1ヶ月程度のことが多いですが、1ヶ月以上の期間を要することもあります。
うつ病のケースでは、先ほど解説した3つの要件について慎重な審査が行われるため、数ヶ月を要することも多いです。

調査期間中は労働基準監督署から会社や当該従業員に対して事情聴取や資料の提供などを求められることがあり、その場合には適切に対処しなければいけません。

認定結果は会社に対してではなく、当該従業員に対して送付されます。
そのため、会社としては当該従業員から認定結果を聞き出す必要があります。
強制することはできませんが、できる限り通知書のコピーを取得するようにするとよいでしょう。

4.従業員がうつ病で労災を申請したときの企業側の注意点

うつ病になった従業員が労災申請を希望した場合、企業側は以下の点に注意する必要があります。

(1)企業には助力義務がある

労災申請を希望する従業員が自分で手続きをすることが難しい場合には、企業(事業主)がサポートしなければならないという「助力義務」が課せられています(労災保険法施行規則第23条第1項)。

会社としては労災に該当しないと考えている場合は、当該従業員に対して自分で申請するように申し渡すことも一つの対処法ではあります。
しかし、頑なにサポートを拒否すると助力義務に違反し、「労災隠し」を疑われかねません。
死傷病報告の提出をしない等、労災隠しに該当する場合には、企業側が50万円以下の罰金に処せられるおそれもあります(労働安全衛生法第100条1項、120条5号)。

そのため、うつ病になった従業員が労災申請を希望した場合には会社側が手続きをサポートした上で、労働基準監督署には会社としての意見を伝えるようにした方がよいでしょう。

(2)事業主証明は慎重に

労災の申請書には「事業主証明欄」があり、ここには当該従業員が発病した年月日や発病の原因、発生状況など一定の項目を記入するようになっています。
しかし、事業主証明欄の記入は慎重に行う必要があります。

従業員が主張する内容をそのまま事業主証明欄に記入して労働基準監督署へ提出すると、当該従業員のうつ病が労災に該当することを会社として認めたことになってしまうからです。

事業主は当該従業員から必要な証明を求められたときはすみやかに証明をしなければならない義務を負っていますが(労災保険法施行規則第23条第2項)、真実に反することまで証明しなければならない義務は負っていません。

したがって、会社として労災に該当しないと考えている場合には、事業主証明欄を空白にしたまま申請書を労働基準監督署へ提出するようにしましょう。
併せて、具体的な事情を記載した「証明拒否理由書」を提出することで、会社としての意見を労働基準監督署に伝えることができます。

(3)別途、慰謝料を請求されることがある

従業員のうつ病が労災に認定されても、会社は当該従業員から別途、慰謝料を請求される可能性があります。
労災に認定された従業員には「療養(補償)給付」(医療費の補償)や「休業(補償)給付」(休業による損害の補償)などが支給されますが、被害者が受けた精神的苦痛に対する損害賠償金に当たる慰謝料は労災の保険給付に含まれないからです。

会社側に使用者責任(民法第715条第1項本文)や安全配慮義務(労働契約法第5条)違反が認められる場合は、会社に慰謝料の支払い義務が生じます。
裁判に発展すると、労災に認定されていれば会社側が敗訴する可能性が高まることにも注意しなければいけません。
裁判所が労働基準監督署の判断に拘束されるわけではありませんが、事実調査に基づいて下された労働基準監督署の判断内容は裁判でも重要視されるからです。

したがって、うつ病になった従業員から慰謝料を請求された場合には、会社としても事実調査を尽くし、当該従業員の言い分にも耳を傾けた上で、必要に応じて示談交渉をするなどして穏便な解決を目指すことも重要となるでしょう。

労使紛争や企業法務に強い弁護士へ相談すれば、慰謝料の支払い義務の有無から支払うべき場合の金額、当該従業員との交渉方法についてまで、個別具体的なアドバイスを受けることができます。

まとめ

従業員のうつ病も、業務が原因で発病したと認められる場合は労災の対象となります。

当該従業員が労災申請を希望した場合、会社としては労災に該当しないと考えているとしても「助力義務」を負うため、無視することは得策ではありません。
労災申請をサポートした上で、会社としての意見を労働基準監督署へ伝えるようにしましょう。

従業員の労災申請で困ったときは、労使紛争や企業法務に強い弁護士へのご相談を強くおすすめします。
申請手続きだけでなく、会社の責任を主張する従業員への対応についても弁護士によるサポートを受けられるので、従業員のうつ病で会社側が負うリスクを最小限に抑えることが可能となります。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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