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パワーハラスメントとは?定義や企業が講じるべき対策を徹底解説
パワーハラスメント(パワハラ)が社会問題となっていますが、これまで特にパワハラ対策を講じていなかった企業もあるようです。
しかし、法改正によって2022年4月から、すべての企業でパワハラ防止措置を講じることが義務化されています。
実際のところ、社内で問題が表面化していないとしても、従業員がパワハラに苦しんでいる可能性があることは否定できません。
そこで今回は、パワハラ問題に関する以下の事項について分かりやすく解説します。
- パワハラの定義と具体例
- パワハラを放置するリスク
- 企業が講じるべきパワハラ対策
パワハラ対策を適切に講じるためには、細かな法律の知識を把握しなければなりません。
パワハラについて分からないことがあるときは、企業法務に強い弁護士へのご相談がおすすめです。
1.パワーハラスメントとは
パワーハラスメント(以下、略して「パワハラ」といいます。)とは、一般的には職場内における陰湿ないじめや嫌がらせなどの迷惑行為を指すとイメージされていることでしょう。
そのような理解で差し支えはありませんが、令和2年1月15日厚生労働省告示第5号によれば、職場におけるパワーハラスメントは、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」であるとされています。
この定義から、パワハラに該当するかどうかの判断基準として以下の3つの要件が挙げられます。
- 職場において行われる優越的な関係を背景としていること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されるものであること
この3つの要件について、それぞれの内容をご説明します。
(1)職場において行われる優越的な関係を背景としていること
職場における「優越的な関係」とは、労働者が相手に対して抵抗や拒絶をすることが難しい関係性のことを指します。
上司や部下など職務上の地位が上位の者による行為が、優越的な関係を背景とした行為の典型例です。
しかし、同僚や部下による行為でも、その行為者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その人の協力を得なければ業務を円滑に遂行することが難しい場合には、優越的な関係を背景とした行為に該当することがあります。
また、職務上の上下関係を問わず、集団による行為に対して抵抗または拒絶することが難しい場合も、優越的な関係を背景とした行為に該当する可能性があります。
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
「業務上必要かつ相当な範囲」内の行為は、優越的な関係を背景としたものであっても、適正な業務指示や指導として許容されます。
社会通念に照らして、明らかに業務上の必要性がない行為や、必要性はあっても不相当な態様の行為が、「業務上必要かつ相当な範囲」を超えた行為に該当します。
例えば、従業員に対して嫌がらせの目的で過大なノルマを課すことは、業務上の必要性がない行為としてパワハラに当たるでしょう。
また、業務上のミスをした従業員に指導する目的であっても、過重な叱責や侮辱的な発言をした場合も、不相当な態様の行為としてパワハラにあたる可能性があります。
(3)労働者の就業環境が害されるものであること
「就業環境が害されるもの」とは、労働者が相手の行為によって身体的または精神的に苦痛を感じ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で見過ごせないほどの支障が生じることを指します。
実際に就業環境が害されたかどうかは、社会一般の労働者が同様の状況で同様の行為を受けたときに、就業する上で見過ごせないほどの支障が生じるような苦痛を感じるかどうかで判断すべきと考えられています。
社会一般の労働者が強い苦痛を感じる行為があった場合には、たった1度でも「就業環境が害されるもの」に当たる可能性があります。
その一方で、軽い苦痛しか感じない行為であっても、継続して繰り返されると心身にダメージが蓄積され、「就業環境が害されるもの」に当たることがあるので注意が必要です。
2.パワハラに該当する6つの類型と具体例
パワハラに該当する行為は、以下の6つの類型に分けて考えられています。それぞれの累計の内容について、具体例も交えてご説明します。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
(1)身体的な攻撃
身体的な攻撃とは、直接的な暴力行為や、傷害を及ぼすような攻撃のことです。
殴る・蹴る・小突く・胸ぐらをつかむなどの暴行が典型的ですが、物を投げつける・机や椅子を叩く・蹴るといった間接的な暴行も身体的な攻撃に含まれます。
上司が部下を指導する目的であっても、上記のような暴行を加えると身体的な攻撃によるパワハラに該当します。
一方、同僚間で激しい暴力が振るわれたとしても、業務と無関係の喧嘩であればパワハラには当たりません。
(2)精神的な攻撃
精神的な攻撃とは、身体的な暴行ではなく、言葉や態度によって精神的なダメージを与えることを指します。
脅迫や名誉毀損、侮辱に該当する発言や、ひどい暴言、人格を否定する発言などが、精神的な攻撃の典型例です。
上司がミスをした部下を指導する場面でも、「辞めさせるぞ」などと脅したり、「こんなこともできないのか」などと人格を否定するような発言をしたりすると、精神的な攻撃によるパワハラに該当します。
「アホ」「ボケ」「バカ」などの侮辱的な発言も、悪意を込めて繰り返すとパワハラに当たる可能性が高いです。
ただし、発言した際の状況や相手との関係性によっては、愛情表現として許容されることもあり得ます。
(3)人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離しとは、自身の意に沿わない社員に対して、無視したり、仲間はずれにしたり、隔離するなどして職場の人間関係から疎外する言動のことです。
部下から業務上の報告や相談を受けても無視したり、チームで行う業務から1人だけ外したり、長期間にわたって別室に隔離したり、自宅研修させたりするケースが典型例です。
飲み会に1人だけ呼ばないケースは、私的な飲み会であれば基本的にパワハラには該当しません。
しかし、会社の公式的な行事としての性質を有する飲み会に呼ばない場合は、パワハラに該当する可能性が高いといえます。
(4)過大な要求
過大な要求とは、達成困難なノルマや業務に直接関係のない作業を強制したり、仕事の妨害をしたりする行為のことです。
新卒採用した従業員や部署異動したばかりの従業員に対して、必要な教育を行わないまま、ベテラン従業員と同等の業務遂行を強制するようなケースが典型例です。
繁忙期に普段より多量の業務遂行を求めるケースでは、合理的な範囲内であればパワハラに該当しません。
しかし、著しく大量の業務遂行を強制するとパワハラに該当する可能性があります。
肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係のない作業を長期間にわたって命じることも、過大な要求によるパワハラに該当すると考えられています。
(5)過小な要求
過小な要求とは、過大な要求とは逆に仕事を与えなかったり、業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事ばかりを命じることです。
管理職である部下を退職させるために誰でも遂行可能な単純作業ばかりを行わせたり、気にいらない部下に対して嫌がらせの目的で仕事を与えず清掃ばかり行わせるたりするようなケースが典型例です。
一方で、その職場における平均的な従業員よりも能力が劣る従業員に対して、業務量や業務内容を一定程度軽減することは、パワハラには該当しません。
ただし、「お前は能力が足りない」などの発言は精神的な攻撃としてパワハラにあたる可能性が高いので注意しましょう。
(6)個の侵害
個の侵害とは、従業員の私的な事柄に過度に干渉することを指します。
特定の従業員を職場の内外で継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする行為が典型例です。
従業員の下記をプライベートな事項を聞き出し、本人の了解を得ず他の従業員に暴露するような行為も、個の侵害によるパワハラに該当する可能性があります。
- 結婚歴や離婚歴
- 恋人の有無
- 交友関係
- 家族構成
- 家族の職業
- 病歴など
ただし、その従業員に業務上の適切な配慮を行う目的で、必要な限度でプライベートな事項についてヒアリングすることは、パワハラに当たりません。
3.パワハラを放置するリスク
職場でのパワハラを放置すると、被害者が身体的・精神的に大きなダメージを受けるだけでなく、企業にとっても以下のリスクが生じます。
- 被害者から損害賠償請求を受ける
- 加害者が刑事罰を受ける
- 事業の生産性が低下する
- 従業員の離職が増える
- 企業イメージが低下する
(1)被害者から損害賠償請求を受ける
パワハラは違法行為なので、加害者は被害者から民法第709条、第710条に基づき、損害賠償請求を受けることがあります。
その場合、企業も使用者責任(民法第715条)に基づき損害賠償請求を受けることが多いので注意が必要です。
加害者が訴えられなかった場合でも、企業は債務不履行責任(民法第415条)を問われて損害賠償請求を受ける可能性があります。
企業は労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるように必要な配慮をしなければならないという「安全配慮義務」を負っています(労働契約法第5条)。
この義務を果たすことは従業員に対する債務なので、企業がパワハラ対策を怠ったことによって被害が生じた場合には、債務不履行責任を負うことになるのです。
精神的苦痛に基づく慰謝料は、裁判で認められても数十万円程度のことが多いです。
しかし、被害者がうつ病などの精神疾患を発病した場合には、治療費や逸失利益などで数百万円から一千万円を超える賠償を命じられることもあるので、注意しましょう。
(2)加害者が刑事罰を受ける
パワハラ行為は、犯罪に該当することもあります。
例えば、身体的な攻撃は暴行罪や傷害罪に該当する可能性がありますし、精神的な攻撃でも脅迫罪や名誉毀損罪、侮辱罪などに該当するケースがあるでしょう。
また、業務と関係のない作業を強制したケースでは、強要罪が成立する可能性もあります。
被害者が警察に相談すると、悪質なケースでは加害者が起訴され、刑事罰を受けることにもなりかねません。
(3)事業の生産性が低下する
パワハラ被害を受けた従業員はモチベーションが下がり、業務の効率を低下させてしまうことが多いです。
それだけでなく、パワハラが横行している職場では、直接の被害を受けていない従業員の士気にも悪影響を及ぼす可能性が十分にあるでしょう。
その結果、事業の生産性が低下し、企業の業績悪化を招くおそれがあります。
(4)従業員の離職が増える
パワハラ被害を受けた従業員が、苦痛に耐えかねて退職するケースは多々あります。
パワハラ行為を目の当たりにした他の従業員も、自分が被害を受けないうちに退職しようと考えるケースが少なくありません。
このようにして従業員の離職が増えることによっても、企業の業績悪化につながる可能性が高いでしょう。
(5)企業イメージが低下する
パワハラの事実が社会に公表されると、企業イメージが低下するおそれがあります。
被害者が民事訴訟を提起したり、加害者や企業が刑事事件で送検されたりすると、会社の実名が報道されることも少なくありません。
被害者が労働基準監督署に相談した場合には、是正勧告を受けただけでも企業名が公表されることもあります。
それだけでなく、近年ではパワハラの被害者がSNSなどで事業の悪評を拡散するケースも多々見受けられます。
このようにして企業イメージが低下すると、顧客離れが起こったり、新卒者の採用に支障をきたしたりして、企業の業績悪化につながるおそれもあるでしょう。
4.企業が講じるべきパワハラ対策
社内でパワハラの被害者を生み出さず、ひいては企業の業績悪化を防止するためには、事前の対策が重要です。
企業が講じるべきパワハラ対策は、労働施策総合推進法第30条の2第3項に基づき厚生労働省が定めた、いわゆる『パワハラ対策指針』にまとめられています。
以下では、その中でも特に重要な対策について解説します。
- 事業主の方針等の明確化と周知・啓発
- 相談窓口の設置
- パワハラが発生したときに迅速かつ適切に対応できる体制の整備
- 従業員のプライバシー保護などの措置
- 弁護士に相談できる体制の整備
(1)事業主の方針等の明確化と周知・啓発
まずは、企業としてパワハラを許さないという方針を事業主名で打ち出すべきです。
ただし、抽象的な方針を打ち出すだけでは、従業員の理解は得られにくいでしょう。
そこで、どのような言動がパワハラに該当するのか、パワハラを行った者に対してどのような処分を下すのかを具体的かつ明確にする必要があります。
これらの事項を就業規則などに明記する他、分かりやすい資料を作成して従業員向けの研修を実施するなどして、社内に周知・啓発することも大切です。
(2)相談窓口の設置
パワハラを禁止する社内ルールを設けたとしても、実際にパワハラが発生する可能性は否定できません。
パワハラによる被害を最小限に抑えるためには、被害者がすぐ相談できる窓口を設置しておくべきです。
相談窓口といっても専門の部署を設ける必要はなく、相談に対応する担当者を決めておくだけでも構いません。
迅速に対応できるようにするため、なるべく相談担当者として2名以上を選任した方がよいでしょう。
また、相談担当者と加害者の関係性が近いケースも想定されるので、複数の相談担当者を選任する場合は異なる部署に所属する人を選ぶ方が望ましいといえます。
(3)パワハラが発生したときに迅速かつ適切に対応できる体制の整備
実際にパワハラが発生したときには、迅速かつ適切に対応できる体制を整備しておくことも欠かせません。
具体的には、以下の4つのステップでパワハラ事案に対処していく必要があります。
- 事実関係を迅速かつ正確に把握する
- 被害者に配慮する(メンタルケアなど)ための適切な措置をとる
- 加害者に対する措置を適正に行う
- 再発防止に向けた措置をとる
場当たり的な対応では適切に対処することが難しいため、相談の受理から事実関係の把握、各種の措置をとるまでの対応方法をまとめた「パワハラ相談対応マニュアル」を作成しておいた方がよいでしょう。
(4)従業員のプライバシー保護などの措置
職場でのパワハラは被害者や加害者のプライバシーに関わる事柄なので、相談への対応や事後の対処に際しては、相談者や加害者のプライバシーを保護するための措置をとる必要があります。
また、パワハラの相談をした被害者や、事実確認のための事情聴取などに協力した関係者が解雇などの不利益な取り扱いを受けない旨を、就業規則などに定めておくことも必要です。
従業員がパワハラ被害を相談しやすくするためにも、企業として以上の措置を講じている旨を社内に周知・徹底しましょう。
(5)弁護士に相談できる体制の整備
厚生労働省の指針には記載されていませんが、パワハラの防止や事後の対処を適正に行うためには、弁護士に相談できる体制を整備しておくことが有効です。
企業法務に強い弁護士へ相談すれば、状況に応じて企業がやるべきことについて具体的なアドバイスが得られるでしょう。
弁護士が早期に介入することでトラブルを迅速に解決しやすくなることから、パワハラ被害を最小限に抑えることにつながります。
顧問弁護士の契約をしておけば、いつでも気軽に弁護士へ相談できる体制の整備に役立ちます。
まとめ
パワーハラスメント(パワハラ)という言葉を知ってはいても、パワハラの定義や具体例などを知らなかった方も多いことでしょう。
企業がパワハラを防止する対策を講じることは、法律上の義務です。
本記事の解説を参考に、自社の実情に応じたパワハラ対策を講じることをおすすめします。
パワハラについて分からないことがあるときや、対処に困ったときは、企業法務に強い弁護士へご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています