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給料未払いを放置するリスクとは?未払いを防止する方法も解説
給料未払いは、労働基準法に違反する行為です。
給料未払いを放置すると、従業員との関係が悪化するだけでなく、罰則の適用や行政処分を受けたり、企業イメージが低下したりして、企業にも重大なダメージが及ぶおそれがあります。
意図的に給料を未払いにするつもりがなくても、給料の支払いに関する法律上の細かなルールを把握していなければ、気づかないうちに給料未払いが発生することにもなりかねません。
そこで今回は、給料未払いを放置するリスクを具体的に紹介するとともに、未払いを防止する方法についても弁護士が分かりやすく解説します。
1.給料未払いを放置するリスク
給料未払いを放置すると、企業には以下のリスクが生じます。
- 遅延損害金や付加金が加算される
- 訴訟等に発展することがある
- 労働基準監督署の介入を受けることがある
- 刑事罰を科せられるおそれがある
- 企業イメージの低下により業績悪化のおそれがある
それぞれのリスクの内容について、具体的に解説していきます。
(1)遅延損害金や付加金が加算される
未払いの給料は、いずれ支払わなければなりません。
しかし、遅延損害金や付加金が加算されることがあるため、遅れれば遅れるほど支払額が増えてしまいます。
遅延損害金とは、金銭債務の支払いが遅れた場合に課せられる損害賠償金です。
従業員から未払い給料とともに遅延損害金の支払いを請求された場合、会社は以下の利率で計算した金額を支払う必要があります。
- 従業員が在職中…年3%(民法第404条第2項)
- 従業員が退職後…年14.6%(賃金の支払の確保等に関する法律第6条第1項)
また、給料のうち以下のものが未払いとなった場合に従業員から裁判を起こされると、判決で「付加金」の支払いを命じられることもあります(労働基準法第114条1項)。
- 解雇予告手当
- 休業手当
- 時間外、休日および深夜の割増賃金
- 有給休暇を取得した際に支払うべき賃金
付加金とは、給料を未払いとした使用者に対する制裁の趣旨で支払いを命じられる金銭のことであり、本来支払うべき未払い金と同一の金額の支払いを命じられます。
つまり、給料未払いを放置すると、最終的には未払い額の2倍に相当する金額を支払わなければならないことにもなりかねません。
(2)訴訟等に発展することがある
従業員から未払い給料の支払いを請求された場合、速やかに適正な金額を支払えば大きな問題にはなりません。
しかし、未払いを放置していると、従業員が民事訴訟等の裁判手続きで請求してくることもあります。
裁判を起こされると、反論の主張・立証のための手続きや、和解協議などに多大な時間と労力を要します。弁護士に裁判手続きを依頼すれば、コストもかかります。
会社にとっては、本来不要だったはずの大きな負担がのしかかることになるでしょう。
(3)労働基準監督署の介入を受けることがある
給料未払いとなった従業員は、労働基準監督署へ相談することもあります。
その場合、会社は労働基準監督署による調査を受け、違反が発覚すれば是正勧告などの行政処分を受けることもあります。
それでも改善する傾向が見られない場合には、労働基準法違反などで事業主が逮捕されたり、書類送検されたりする可能性もあるので、注意が必要です。
(4)刑事罰を科せられる可能性がある
給料未払いに対しては、労働基準法で刑事罰が用意されています。
刑事罰の内容は基本的に「30万円以下の罰金」(同法第120条第1号)ですが、以下のものを未払いとした場合には、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられることもあります(同法第119条第1号)。
- 解雇予告手当
- 時間外、休日および深夜の割増賃金
- 有給休暇を取得した際に支払うべき賃金
罰則が適用されるのは基本的に事業主ですが、給料支払いを担当する従業員に罰則が適用される可能性もあるので注意しましょう。
(5)企業イメージの低下により業績が悪化する可能性がある
給料未払いの問題で従業員ともめると、以下のようなきっかけにより、事実が世間の明るみに出る可能性もあります。
- 従業員が民事訴訟の提起や刑事告訴したことが報道される
- 労働基準監督署の行政処分で企業名が公表される
- 従業員がSNSなどで事実を拡散する
世間から「給料を適正に支払わない会社」という印象を持たれてしまうと、企業イメージが低下し、顧客離れを招いたりして業績が悪化することにもなりかねません。給料未払いを放置するのは禁物といえるでしょう。
2.給料未払いが発生しやすいケース
給料未払いが発生しやすいのは、主に以下のケースです。
- サービス残業が発生している
- 勤怠管理の不備や計算ミスが生じている
- 定額残業制が適切に運用されていない
- フレックスタイム制や変形労働時間制で残業代が支給されていない
- 「名ばかり管理職」に残業代が支給されていない
- 給料の支払い方法が不適切
これらのケースでは、会社側に悪意がなくても、給料支払いのルールを正確に把握していないために、給料未払いが発生しがちです。
それぞれのケースについて、具体的にみていきましょう。
(1)サービス残業が発生している
従業員に時間外、休日、深夜(午後10時~翌午前5時)に労働させた場合は、割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法第37条)。
割増賃金を支払わずに時間外労働や休日労働、深夜労働をさせているケースも見受けられますが、これは給料未払いが発生する典型的な事例といえます。
なお、残業代は原則として1分単位で支払う必要があります。
従業員に法定労働時間(1日8時間かつ週40時間)を1分でも超えて労働させた場合、残業代を支払わなければ給料未払いとなるので注意しましょう。
また、事業主や上司の承諾を得ない「無断残業」に対しては、原則として残業代の支払い義務はありません。
しかし、客観的に見て残業しなければこなしきれない量の業務を与えている場合は、残業代を支払わなければ給料未払いとなる可能性があることにも注意が必要です。
(2)勤怠管理の不備や計算ミスが生じている
勤怠管理の不備や給料計算のミスによって、時間外、休日、深夜の割増賃金に未払いが生じるケースも散見されます。
給料を適正に支払うためには、従業員の労働時間を正確に把握することが必要不可欠です。
勤怠管理の方法は、タイムカード、出勤簿への記載、エクセルへの入力など、会社によって様々ですが、不備が頻発するようなら管理方法を見直す必要があるでしょう。
また、給料計算の際には単純な計算ミスに注意すべきことは当然として、担当者は給料支払いの細かなルールを把握しておかなければなりません。給料支払いのルールについては後述します。
(3)定額残業制が適切に運用されていない
定額残業代制とは、実際の残業の有無や時間の長短にかかわらず、あらかじめ定められた一定金額の残業代が支払われる制度のことです。
この制度によって支払われる定額の残業代のことを、「固定残業代」や「みなし残業代」と呼ぶこともあります。
定額残業制を導入すれば、会社側は給料計算を効率化できるなどのメリットが得られますが、次のような事情がある場合には、残業代の支払いとして認められなくなるおそれがあるため、注意が必要です。
- 定額残業制の導入について、就業規則に適切に定めておらず、労働者との間でも適切に合意がされていない
- 時間内労働に対する賃金部分と残業代部分の区別が明確にされていない
- 残業代の対価として支払われているものであるかどうかが不明瞭(「業務手当」等の名目で支払っており、それが残業代の対価であることが示されていないなど。)
定額残業代の定めが無効となってしまった場合、それは残業代の支払いとはみなされません。
そのため、残業代の未払いが生じることになります。
あらかじめ定めた残業時間を超える残業が発生したのに、別途残業代を支給しなかった場合も、残業代の未払いが生じます。
(4)フレックスタイム制や変形労働時間制で残業代が支給されていない
フレックスタイム制とは、一定期間内(3ヶ月以内)についてあらかじめ所定労働時間を定め、その範囲内で従業員が日々の始業時間と終業時間を決めることができる制度のことです(労働基準法第32条の3)。
変形労働時間制とは、所定労働時間を繁忙期には延長し、閑散期には短縮するというように、一定期間内の所定労働時間を柔軟に設定できる制度のことです。
1か月単位(労働基準法第32条の2)、1年単位(同法第32条の4)、1週間単位(同法第32条の5)で、それぞれの規定で定められた条件を満たす場合に限り、1日8時間、あるいは週40時間を超えて労働させることが可能となります。
経営者の中には、「フレックスタイム制では残業代が発生しない」、「変形労働制を採用しているから残業代の支払いは不要」と考えている人もいますが、これは誤りです。フレックスタイム制や変形労働制を採用していても、法定労働時間を超える労働が発生した場合には割増賃金を支払う必要があります。
したがって、これらの制度を採用している場合でも、従業員の労働時間を正確に把握し、適正に給料計算を行わなければ残業代の未払いが発生することがあるので、注意しましょう。
(5)「名ばかり管理職」に残業代が支給されていない
労働基準法上、「管理監督者」には残業代を支払う必要がないとされていますが(同法第41条第2号)、実質的に「管理監督者」とはいえない「名ばかり管理職」に残業代を支給していない場合は、残業代の未払いとなります。
「管理監督者」の明確な定義は法律に定めがありませんが、裁判例を見ると、次の3つの要素が挙げられています(札幌地裁平成14年4月18日判決)。
- 事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること
- 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
- 一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること
仮に、「店長」「マネージャー」など、管理職らしい肩書きを与えられていても、上記のような待遇がされておらず、実質的には通常の労働者と大差ないような場合には、いわば「名ばかり管理職」であり、労働基準法上の「管理監督者」には当たりません。
そのような従業員に残業代を支給していない場合は、残業代の未払いが生じていることになります。
(6)給料の支払い方法が不適切
給料の支払い方法については、労働基準法第24条で次の5つの原則が定められています。
- 通貨で支払うこと
- 従業員へ直接支払うこと
- 全額を支払うこと
- 毎月1回以上支払うこと
- 一定の期日を定めて支払うこと
したがって、以下のような支払い方をすると給料を適正に支払っていないことになるため、給料未払いとなってしまいます。
- 会社の商品券などを給料の代わりに現物支給する
- 親権者や配偶者などの第三者へ支払う
- 給料を分割払いにする
- 給料の支払日を「2ヶ月に一度」「3ヶ月に一度」などとする
- ノルマを達成した日に給料を支払う
3.給料未払いを防止する方法
給料未払いを防止するためには、次の3つの方法が考えられます。
- 給料支払いのルールを正確に理解する
- 給料計算と勤怠管理をシステム化する
- 顧問弁護士によるサポートを活用する
給料支払いのルールを正確に理解することは必須ですが、他の2つについては会社の実情に応じて導入を検討するとよいでしょう。
(1)給料支払いのルールを正確に理解する
給料計算・支払いの担当者は、給料支払いのルールを正確に理解しておかなければなりません。
給料支払いのルールについては、前述した「5つの原則」(労働基準法第24条)の他にも、基本給の計算方法から残業代(時間外手当)の計算方法、各種手当の加算、税金や社会保険料の控除、その他の控除(昼食費、親睦会費、組合費、財形貯蓄など)に至るまで、細かなルールを把握する必要があります。
社内で前任者などからレクチャーを受けてルールを覚えていくケースが多いと思われますが、前任者の理解が誤っている可能性もあることに注意が必要です。
(2)給料計算と勤怠管理をシステム化する
給料計算や勤怠管理を手動で行うとミスや不備が生じがちなので、コンピュータを活用したシステムを導入するのもひとつの選択肢です。
近年では、様々な業者が給料計算ソフトや勤怠管理システムを提供していますので、コストも考慮しながら使いやすいものを選択するとよいでしょう。
コンピュータシステムを導入することで、ミスや不備の防止につながるとともに、給料計算の効率化を図ることができます。
ただし、ソフトが計算した給料額に誤りがないかを確認することは怠らないようにしましょう。
(3)顧問弁護士によるサポートを活用する
給料計算に不安がある場合は、顧問弁護士によるサポートを活用するのもおすすめです。
会社に顧問弁護士がいれば、給料の計算方法についても気軽に相談できますし、万が一、給料未払いが発生した場合の対処も任せることができます。
給料計算担当者にとっても、心強い味方となってくれるでしょう。
特に、給料支払いのルールがよく理解できない場合には、弁護士に相談することが大切です。
弁護士に問題点を洗い出してもらった上で、正しい計算方法と支払い方法についてレクチャーを受けることもできます。
4.給料未払いの対象になるもの
未払い賃金の対象となるのは、以下のものです。
- 基本給
- 時間外、休日および深夜の割増賃金
- 賞与
- 有給休暇の際の賃金
- 休業手当
- 退職金
- その他、労働の対償として使用者が労働者に支払うべきすべてのもの(労働基準法第11条)
要するに、会社が従業員に支払うべき金銭はすべて、適正に支払う必要があると考えておくべきです。
5.給料未払いの時効
未払い給料の請求権には、消滅時効があります。
その時効期間は労働基準法第115条で5年と定められていますが、経過措置により当面の間は3年とされています。
つまり、本来の支払期限である給料日の翌日から起算して3年が経過すると、未払い給料の請求権について消滅時効が完成します。
その場合、時効の援用をすることにより未払い給料の支払い義務は消滅します(民法第145条)。
しかし、会社が時効を援用すれば、相手方である従業員は会社に対する不満を持ち続けるでしょう。
当該従業員との関係を良好に保ちたい場合には、時効の成否にかかわらず、本来の金額を支払うことも検討してみましょう。
このような問題を回避するためにも、そもそも給料未払いを生み出さないことが大切です。
6.給料支払いのルール
給料未払いを生み出さないために、ここで給料の計算方法を解説しておきます。
給料計算ソフトを正しく使いこなすためにも、給料の計算方法を知っておくことは欠かせません。
しっかりと確認していきましょう。
(1)基本ルール
従業員へ支払う給料の額は、次の計算式によって求めます。
「総支給額-控除額=従業員への支給額(手取り額)」
総支給額とは、基本給に残業代および各種手当を加えた金額のことです。
控除額とは、総支給額から差し引くべき金額のことであり、税金や社会保険料などがこれに当たります。
基本給については、固定給を支給する従業員については計算する必要がありませんが、時間給や日給で計算する従業員については、出勤日数や労働時間に応じて正確に計算しましょう。
(2)残業代の計算方法
残業代の金額は、次の計算式によって求めます。
「当該従業員の1時間あたりの賃金×割増率×残業時間=残業代」
1時間あたりの賃金は、「月間給与(基本給+諸手当)÷月平均所定労働時間」で求めます。
割増率は、労働基準法第37条で以下のとおり定められています。
ケース | 割増率(下限) |
時間外労働 | 25% |
深夜労働 | 25% |
休日労働 | 35% |
時間外労働かつ深夜労働 | 50% |
休日労働かつ深夜労働 | 60% |
1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた分 | 50% |
1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた分で、深夜労働に当たる分 | 75% |
少し複雑ですが、計算を間違えないようにしましょう。
まとめ
給料未払いを放置すると会社が重大なリスクを負うこともありますが、それ以前に従業員のことを考えなければいけません。
従業員にとって、給料は生活の糧として必要不可欠なものです。
中には給料未払いで泣き寝入りする従業員も少なからずいると考えられますが、泣き寝入りしながら勤務を続ける従業員は、会社に対する不満を抱えてモチベーションが低下するでしょうし、SNSなどで会社の悪評を拡散するおそれもあります。
会社の健全な経営を維持するためにも、給料は必ず適正に支払いましょう。
給料の計算方法で疑問が生じた場合や、給料未払いで従業員ともめてしまった場合などは、早めに企業法務の経験が豊富な弁護士へ相談することをおすすめします。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています