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パワーハラスメントの6類型とは?パワハラの実態と対処法も解説
企業は職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)を防止する措置を講じる法的義務を負っていますが、適切な措置を講じるためには、パワハラの内容を正確に把握しなければなりません。
パワハラに該当する言動には多種多様なものがありますが、厚生労働省は代表的な言動を6つの類型に分類して整理し、公表しています。
そこで今回は、パワハラ対策を検討中の企業の経営者や担当者の方に向けて、パワハラの6類型の内容を具体的にご紹介するとともに、パワハラの実態や対処法についても解説します。
1.パワーハラスメントの6類型とは
パワーハラスメントの6類型とは、厚生労働省が労働施策総合推進法第32条の2第3項に基づき策定した、いわゆる「パワハラ防止指針」において、パワハラに該当する代表的な言動として掲げられているもののことです。
具体的には、次の6つの類型のことを指します。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
以下では、各類型ごとにパワハラに該当するケースと該当しないケースをご紹介します。
参考:「厚生労働省|パワハラ6類型」
(1)身体的な攻撃
身体的な攻撃とは、簡単にいうと暴力行為のことです。直接的な暴力だけでなく、間接的にでも相手の身体に対して物理的な攻撃を加えるとパワハラに該当する可能性があることに注意が必要です。
①パワハラに該当するケース
- 殴る、蹴るなどの暴力を振るう
- 相手に物を投げる蹴る
- 相手を突き飛ばす、小突く、胸ぐらをつかむなどの行為
- 相手が座っている椅子を蹴り飛ばす
たとえ指導目的であったとしても、以上の行為は刑法上の暴行罪に該当し、相手が怪我をすれば傷害罪に該当する犯罪行為です。絶対に許してはいけません。
②パワハラに該当しないケース
- うっかり相手にぶつかった
- 危険を回避するために相手を突き飛ばした
- 同僚同士の喧嘩
客観的には相手の身体に攻撃を加えた行為でも、うっかり不注意の場合など故意がないケースや、相手を危険から守るためにやむを得ずにした行為は暴行罪や傷害罪に当たらず、パワハラにも該当しません。
同僚同士の喧嘩は暴行罪や傷害罪に当たりますが、職場における優越的な関係を背景としたものでなければパワハラには該当しません。
(2)精神的な攻撃
精神的な攻撃とは、物理的に攻撃を加えるのではなく、脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言といった言葉や態度によって、相手に精神的なダメージを与える行為のことです。
①パワハラに該当するケース
- 人格を否定する言動をする(性的指向や性自認に関する侮辱的な言動を含む)
- 必要以上に長時間にわたって厳しい叱責を繰り返して行う
- 他の従業員もいる前で、大声で威圧的な叱責を繰り返し行う
- 相手の能力を否定して罵倒する内容のメールを複数人宛てに送信する
1回なら取るに足りないと思われるような言動でも、日常的に繰り返されるとパワハラに該当する可能性が高まることにも注意が必要です。
②パワハラに該当しないケース
- 社会的ルールに反する言動(遅刻など)を繰り返す従業員に対して、再三注意しても改善されない場合に、ある程度強く注意する
- 重大な問題行動を行った従業員に対して、ある程度強く注意する
指導の必要性が高いケースでは、ある程度強く注意することも必要でしょう。
しかし、その場合でも脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言などを伴うとパワハラに該当する可能性が高いです。
また、限度を超えて強く注意した場合もパワハラに該当する可能性があります。
どの程度までの注意が許容されるのかは社会通念で判断するしかありませんので、注意が必要です。
(3)人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離しとは、職場において特定の従業員を意図的に孤立させる行為のことです。
①パワハラに該当するケース
- 特定の従業員を仕事から外して、長期間にわたって別室に隔離したり、自宅研修させたりする
- 1人の従業員を同僚が集団で無視して職場で孤立させる
- 気に入らない部下だけをミーティングやイベントに呼ばず、仲間外れにする
このように、正当な理由なく特定の従業員を隔離、無視、仲間外れにする行為が「人間関係からの切り離し」としてのパワハラに該当します。
②パワハラに該当しないケース
- 新入社員の育成のために短期間だけ別室で集中的に研修等の教育を実施する
- 懲戒処分を受けた従業員を通常の業務に復帰させる前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせる
このように、教育の目的で、必要な限度であれば、特定の従業員を孤立させることになってもパワハラには該当しません。
しかし、限度を超えた場合や、退職に追い込む目的で孤立させる行為は、パワハラに該当する可能性が高いです。
(4)過大な要求
過大な要求とは、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制したり、仕事の妨害をしたりすることです。
①パワハラに該当するケース
- 不要な長時間残業を長期間にわたって強いる
- 必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなければ厳しく叱責する
- 上司の私物の買い物など業務とは無関係の私的な雑用の処理を日常的に強制する
嫌がらせの目的でなくても、社会通念上、「過大」と判断される要求をするとパワハラに該当する可能性が高いので、注意しましょう。
②パワハラに該当しないケース
- 従業員の成長を促すために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
- 繁忙期に業務上の必要性から通常時よりもある程度多い業務の処理を任せる
「現状よりも少し高いレベル」とは、「少し頑張ればこなせる程度」をイメージするとよいでしょう。
ただし、その場合でも、こなせなかった場合に厳しく叱責するとパワハラに該当する可能性があります。
また、繁忙期であっても、特定の従業員にのみ集中的に業務処理を強いたりすると、パワハラに該当する可能性があるので注意が必要です。
(5)過小な要求
過小な要求とは、業務上の合理性がないのに、特定の従業員の能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないことです。
①パワハラに該当するケース
- 管理職である従業員を退職させるために、誰でもできる簡単な業務ばかりを行わせる
- 気に入らない従業員に対する嫌がらせの目的で、仕事を与えない
過大な要求とは逆に過小な要求も、業務上の合理性なく特定の従業員に対して不当な精神的ダメージを与えるような場合はパワハラに該当します。
②パワハラに該当しないケース
- 従業員の能力や体調に応じて業務内容や業務量をある程度軽減する
- 閑散期に業務量を減らす
このように、業務上の合理性があれば、仕事を与えなくてもパワハラには該当しません。
(6)個の侵害
個の侵害とは、従業員のプライベートに過度に立ち入ることです。
①パワハラに該当するケース
- 従業員を職場外でも継続的に監視する
- 性的指向や性自認、病歴、不妊治療などの個人情報を無断でばく露する
- 有給休暇の取得理由を詳細に聞き出す
経営者や上司といえども、業務上の正当な理由なく従業員のプライバシーを侵害することはできません。
何気ない世間話のつもりでも、「休日は何をしているのか」「恋人はいるのか」などと執拗に尋ねると、パワハラに該当する可能性があります。
②パワハラに該当しないケース
- 従業員へ必要な配慮をするために家族の状況等を尋ねる
- 本人の了解を得て、必要な範囲の個人情報を人事労務部門に伝えて配慮を促す
このように業務上の正当な理由がある場合でも、プライバシーを過度に侵害した場合はパワハラに該当する可能性があるので、注意が必要です。
2.パワハラへの該当性を判断するときの注意点
特定の行為がパワハラに該当するかどうかを判断する際には、次の3つのポイントに注意する必要があります。
- パワハラの定義に該当することが前提
- 個別の事案によって判断が異なることもある
- 6類型は限定列挙ではない
それぞれのポイントについて、詳しくみていきましょう。
(1)パワハラの定義に該当することが前提
厚生労働省のパワハラ防止指針では、パワハラとは次の3つの要素をすべて満たす言動であると定義しています。
- 職場における優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
- それによって労働者の就業環境が害されるものであること
この定義を前提に、具体例として前章でご紹介した6類型のケースが掲げられています。
したがって、6類型のどれかに該当する言動であっても、パワハラの定義に該当しないものはパワハラに該当しません。
例えば、身体的な攻撃が行われても、同僚同士の喧嘩は優越的な関係を背景とした言動ではないので、パワハラには該当しないことになります。
また、仕事でミスをした従業員を叱責することも、指導・教育の目的であれば社会通念上、許容される範囲内の言動である限り、業務上必要かつ相当な範囲を超えていないので、パワハラに該当しません。
(2)個別の事案によって判断が異なることもある
特定の言動がパワハラに該当するかどうかは、個別の事案ごとに具体的な事情を総合的に考慮して判断しなければなりません。
最終的には、その言動が社会通念上、許容されるかという判断になるので、客観的に見て同じような言動でも判断が異なることがあります。
例えば、ミスをした部下を指導する際に、上司が部下の肩や背中を軽く叩いた場合、励ましたり慰めたりする目的であれば、一般的にはパワハラには該当しないと考えられます。
しかし、上司が腹立ち紛れに叩いたのであれば、パワハラに該当する可能性が出てきます。
部下の頭や尻を叩いた場合には、軽くであってもパワハラに該当する可能性が高まるでしょう。
(3)6類型は限定列挙ではない
厚生労働省のパワハラ防止指針では、6類型に分類して掲げたパワハラの具体例は限定列挙ではないことが明記されています。
本記事でもそうですが、パワハラに該当するケースをすべて漏れなく、ひとまとめに列挙することは不可能です。
したがって、パワハラ防止指針や本記事に掲載された具体例は、あくまでも一例として参考にしてください。
3.職場におけるパワハラの実態
ここでは、各企業でパワハラ防止措置を講じるための参考として、厚生労働省が実施した調査結果に基づき、パワハラの実態をご紹介します。
参考:厚生労働省|令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書
(1)労働者の5人に1人がパワハラを受けている
労働者を対象としたアンケート調査の結果、過去3年間に勤務先でパワハラを受けたと回答した人の割合は19.3%でした。約5人に1人の割合です。
割合的にいえば、小規模な事業所でも1人〜数名はパワハラの被害に遭っている可能性が十分にあるといえます。
企業としては、経営陣が把握していなくても、既に自社でパワハラが発生している可能性があるという認識を持って、対策を講じることが重要となるでしょう。
(2)6類型の中で最も多い事例は「精神的な攻撃」
受けたパワハラの内容に関するアンケート調査の結果は以下のとおりであり、精神的な攻撃が最も多くなっています。
- 精神的な攻撃…48.5%
- 過大な要求…38.8%
- 人間関係からの切り離し…27.8%
- 個の侵害…27.5%
- 過小な要求…24.5%
- 身体的な攻撃…5.8%
- その他…4.8%
精神的な攻撃に分類されるパワハラ行為は目に見えず、勤怠記録や業務報告書などのデータにも表れないものが多いため、企業としては特に注意する必要があります。
具体的には、どのような言動がパワハラに該当するのかを明確化して従業員に周知・啓発するとともに、被害者が相談しやすい体制を整えることが重要です。
(3)パワハラを認識しても何もしない会社が多い
これも労働者を対象としたアンケート調査の結果ですが、勤務先がパワハラの発生を認識した後にどのような対応をしたのかについて、「特に何もしなかった」が最も高く、53.2%でした。
このような現状では、多くの従業員は「上司などに相談したところで、まともに取り合ってもらえない」「何をしても解決できない」と考えてしまうでしょう。
パワハラ被害に遭った従業員から相談してもらえなければ、経営陣が気づかないところでパワハラが横行することにもなりかねません。
そうなると、離職者が相次ぐなどして業績が悪化するおそれもあります。
被害者から訴えられると、多額の損害賠償義務が生じたり、企業イメージが低下したりするおそれもあるでしょう。
4.企業のパワハラ対策は弁護士へ相談を
従業員が働きやすい職場環境を維持するために、企業はパワハラの発生を未然に防止するとともに、万が一、パワハラが発生した場合には迅速かつ適切に対応できる体制を整備しておかなければなりません。
パワハラ対策を講じることは、労働施策総合推進法で定められた事業主の義務でもあります(労働施策総合推進法第30条の2)。
そのため、十分な対策を講じないままパワハラ被害が発生すると、企業が安全配慮義務(労働契約法第5条)違反などで訴えられ、多額の損害賠償義務を負う可能性が高まることにも注意が必要です。
万全なパワハラ対策を講じるためには、弁護士へのご相談をおすすめします。
企業法務の経験が豊富な弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。
- 企業の実情に合った「パワハラ対策マニュアル」の作成をサポートしてもらえる
- 従業員を対象とした研修の講師を務めてもらえることもある
- 従業員とのトラブルが発生した場合には、パワハラに該当するか判断してもらえる
- 被害者との交渉を弁護士に任せて、穏便な解決が期待できる
まとめ
本記事では、パワハラに該当する6類型について、具体例を交えてご紹介しました。
ただし、6類型は限定列挙ではありません。
そのため、企業がパワハラ対策を講じる際には、業種や社内の実態に応じて、他にもさまざまなパワハラ行為が発生しうる可能性を想定しておく必要があります。
企業法務の経験が豊富な弁護士へ相談すれば、企業の実情に応じたパワハラ対策の構築について丁寧なアドバイスが期待できます。
万が一、パワハラ被害が発生した場合にも、弁護士に対応を任せて穏便な解決を目指すことをおすすめします。
企業のパワハラ対策をご検討中の方や、パワハラに関するトラブルでお困りの方は、お気軽に弁護士へご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています