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INCOTERMS(インコタームズ)2010から2020へ-何が変わったのか?

2019年11月6日

1.はじめに

国際商業会議所(International Chamber of Commerce=ICC)は、2019年9月10日、Incoterms 2010から2020への改訂を発表しました。
Incotermsとは、International Commercial Termsの略称であり、ICCの登録商標であって(日本では登録第4536978号)、物品売買契約における取引条件の国際的な標準規則を表したものです。
前回は、2010年9月27日に公表され、2011年1月1日に発効しましたが、今回は2020年1月1日の発効となりますので、9年ぶりの改訂となります。
ただ、名称としては、Incoterms 2010と2020ですし、その前がIncoterms 2000ですので、一般的には10年毎のリニューアルと認識されています。

2.改訂のポイント

Incoterms 2020年版における変更点として、以下の7項目が挙げられています。それぞれの概要は、下記のとおりです。

(1)Bills of Lading with an on-board notation and the FCA Incoterms rule

物品が海上輸送を対象としてFCAルールで販売される場合、売主又は買主(信用状が発行されている場合は売主又は買主より銀行)は、船積証明追記がされている船荷証券を求めることがあります。

船荷証券の表面や裏面には、通常、約款やその他の文言が英文で細かく記載されていますが、日本の船会社などが発行する船荷証券の場合、表面右上部の船荷証券番号の下欄に20行前後の英文が印刷されています。
ここに、“Shipped on board the vessel…”と記載されている場合、この船荷証券を“Shipped B/L”又は“On Board B/L”(船積船荷証券)といいます。
これに対し、“Received by the carrier from the shipper…”等で始まる船荷証券は、“Received B/L”(受取船荷証券)と称されます。
両者の違いは、実際に貨物の船積みが完了しているか否かです。
在来船の場合は、通常、貨物が実際に船積みされた後で船積船荷証券が発行されますが、コンテナ船の場合、貨物はコンテナ・ヤード又はコンテナ・フレート・ステーションで受け渡しがなされ、受取船荷証券が発行されます。
この点、信用状取引の場合、銀行は、通常、受取船荷証券の買取りには応じないため、船積船荷証券が要求されるところ、受取船荷証券の場合は、実務上、日付の入った“On Board Notation”(船積証明追記又は積込付記)を証券上に追記することにより、船積船荷証券と同等の扱いとしているわけです。

ところで、FCAルールでは、物品が本船の船上に荷揚げされる前に引渡しは完了しますが、売主が運送人から船積船荷証券を受け取れるかどうかは定かではありません。
運送人は、運送契約の下では、通常、物品の船積みが実際に完了したときにのみ船積船荷証券の発行義務を負い、また、発行することができます。

この状況に応えるため、Incoterms 2020年版では、FCAルールのA6項及びB6項(A項は売主の義務で、B項は買主の義務です)にオプションを追加しました。
売主及び買主は、物品の船積み後に、買主が、買主のコストとリスクで、運送人に対し船積船荷証券を売主に発行するよう指示し、その後に売主が、典型的には銀行を通じて、買主に対し当該船積船荷証券を提示する義務を負うことを合意できます。
但し、このオプション方式が採用されたとしても、売主は、買主に対し、運送契約の条件に関しては何らの義務を負いません。

(2)Costs、 where they are listed

条項の記載順序が新たになったIncoterms 2020年版では、各IncotermsルールのA9項及びB9項にコストの記述が設けられました。
但し、このコストの配置換えとは別の変更点もあります。
Incotermsルール内の様々な条項が分担していた多岐にわたるコストは、伝統的には各Incotermsルール内の異なる個所に記載されてきました。
例えば、Incoterms 2010年版のFOBルールでは、荷渡し文書の取得に関するコストは、「Delivery Document(荷渡し文書)」の表題の条項であるA8項に言及されていて、「Allocation of Cost(コストの分担)」の表題の条項であるA6項には言及されていませんでした。
しかしながら、Incoterms 2020年版では、A6項及びB6項に相当するA9項及びB9項が、各Incotermsルールにより分担されるコストを全て列挙しています。
結果的に、Incoterms 2020年版のA9項及びB9は、Incoterms 2010年版のA6項及びB6項よりも長文になりました。

 

この目的は、一箇所でわかるコストの一覧をユーザに提供することです。
これにより、売主又は買主は、ある特定のIncotermsルールの下で自身が負担すべきコストを一目で認識できます。
あるコストの項目は、当該コストのホーム条項にも言及されています。
例えば、FOBルールで書類を取得するのにかかるコストは、A9項及びB9項に記載されている他、A6項及びB6項にも記載されています。
これは、書類コストの具体的な分担を探したいユーザは、全てのコストを列挙した一般条項よりも、荷渡し文書に特化した条項を参照したがるという考え方に基づいています。

(3)Different levels of insurance cover in CIF and CIP

Incoterms 2010年版のルールでは、CIF及びCIPのA3項は、売主に対し、「少なくともロンドンの協会貨物約款(ロイズ市場協会/ロンドン国際保険業者協会)の(C)約款又は類似の約款により規定されている最低限の補償範囲に準拠する貨物保険を売主のコストで手配する」義務を課しています。

同貨物約款(C)は、列挙された多数のリスク(例外として掲げられた項目を除く)を対象とする補償を提供している一方、同貨物約款(A)は、これも例外として掲げられた項目はあるものの、全てのリスクをカバーしています。
無論、後者の方が買主の保護に手厚い保険となりますので、保険料は高くなります。

今回の改訂では、慎重な審議を経て、CIFルールとCIPルールでは異なる最低限の補償範囲を設定することが定められました。
海上物品取引においてより多く利用されるCIFルールでは現状維持となり、引続き貨物約款(C)がデフォルトで適用されます。
もとより、取引当事者は、より手厚い保険の付保に合意することができます。
これに対し、CIPルールでは、売主は、貨物約款(A)に準拠する保険を付さなければならないというルールに変更されました。
この場合も、取引当事者は、当然ながら、より低補償の保険の利用を合意することができます。

(4)Arranging for carriage with seller’s or buyer’s own means of transport in FCA、 DAP、 DPU and DDP

Incoterms 2010年版のルールでは、全体を通じて、売主が買主に物品を運送する場合には、利用されるIncotermsのルールに応じ、売主又は買主により起用された第三者の運送人が物品を運送するという前提でした。

しかしながら、Incoterms 2020年版に至る審議の過程で、売主が買主に物品を運送する際に、第三者の運送人を一切介在させることなく運送する場合もあることが明らかになりました。
例えば、Dルールを利用する売主が、自らの運送手段を利用することにより、第三者に運送機能を委託することなく運送の手配を行うことは妨げられていません。
同様に、FCAルールに基づく購買においても、買主が物品を収集し、買主の所に運搬するために自らの運送手段を用いることは妨げられません。

これまでのルールは、こうした事態を考慮に入れていませんでしたが、Incoterms 2020年版ルールでは、明示的に、運送契約を締結するということのみならず、単に必要な運送を手配するという態様も考慮されています。

(5)Change in the three-letter initials for DAT to DPU

Incoterms 2010年版でのDATルールとDAPルールの唯一の相違点は、DATルールでは、物品が到着した輸送手段から「ターミナル」に荷卸しされた時点で売主による引渡しがなされるのに対し、DAPルールでは、荷卸しのために到着した輸送手段上で物品が買主の手に委ねられたときに引渡しがなされるというものでした。
この点、Incoterms 2010年版のDATルールの案内注釈(Guidance Notes)によれば、「ターミナル」は、「…屋根に覆われているか否かを問わないあらゆる場所」と広く定義されていました。

今回DATルールとDAPルールで2点の変更が施されました。
一つは、Incoterms 2020年版では、両ルールの記載順序が逆になり、荷卸し前に引渡しが完了するDAPルールは、DATルールの前に記載されることになった点です。
もう一つは、DATルールの名称がDPU(Delivered at Place Unloaded)に変更され、目的地が、「ターミナル」のみならず、いかなる場所でもあり得るという現実を強調している点です。
但し、その場所が「ターミナル」内ではないならば、売主は、物品の引渡しを意図している場所が売主にとって物品を荷卸しできる場所であることの確認を要します。

(6)Inclusion of security-related requirements within carriage obligations and costs

Incoterms 2010年版では、各IncotermsのルールのA2項/B2項及びA10項/B10項を通じて、セキュリティに関連する要件が控え目に記載されていました。
Incoterms 2010年版は、今世紀初頭にセキュリティに関連する関心が非常に高まってから発効した最初のIncotermsルールの改訂版でした。
そうした関心とそれに続いて産み出された関連する運送実務は、今や益々確立したものとなっています。
それらが運送要件と強く結び付いているため、セキュリティ関連の義務の明示的な分担が各IncotermsルールのA4項及びA7項に追加されました。
これらの要件から発生するコストもまた、A9項/B9項のコスト条項においてよりはっきりと記載されています。

(7)Explanatory Notes for Users

Incoterms 2010年版の各ルールの冒頭に記載されていた案内注釈(Guidance Notes)は、ユーザ用説明注釈(Explanatory Notes for Users)に変更されました。
これらの注釈は、Incoterms 2020年版の各ルールの基本概念、即ち各ルールがいかような時に使用されるべきか、売主と買主間で何時危険負担が移転し、コストはいかに分担されるのか等を説明するものです。
これらの説明注釈は、ユーザが、ある特定の取引に適合するIncotermsのルールに向かって正確かつ効率的な舵取りをするのに役立つ他、Incoterms 2020年版に準拠する紛争や契約を決定したり、それらについてアドバイスしたりする人々に対し、解釈を必要とし得る事項に関するガイダンスを提供しています。

3.まとめ

以上が、Incoterms 2010年版と 2020年版との相違点となります。
Incoterms 2020年版では既存のルールの一部廃止、変更、新たなルールの創設を含め相当変更があるのではないかと予想されていましたが、蓋を開けてみれば、思ったほどの変更はなかったと評価して良いのではないでしょうか。
それでも、上記のとおり、幾つかの事項で適切かつ注目すべきアップデートが施されていますので、とりわけ貿易従事者にとってはその内容の理解が望まれるところです。

折田忠仁
弁護士折田 忠仁
ベリーベスト法律事務所パートナー。1986年に早稲田大学法学部を卒業し、同年司法試験合格。1989年に最高裁判所司法研修所修了後、主に知財案件を扱う特許法律事務所に入所。1994年に米国ロースクールに留学し、LL.M.修了。1995年にNY州司法試験に合格し、同年NY州弁護士登録。帰国後、米国法律事務所との外国法共同事業事務所、大手渉外事務所を経て、2018年9月にベリーベスト法律事務所に参画。帰国以来、外国企業との商取引、内国企業による外国企業及び外国企業による内国企業の買収、外国企業と内国企業との合弁事業の組成・解消等に係る契約審査を中心に、国内一般民商事案件や内外紛争案件も加え、幅広い経験を積んでおります。
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