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仕事上付き合いのある公務員から賄賂を要求されたら、どうしますか?!
1.普通の会社が、公務員によって犯罪に巻き込まれる?
(1) 行政官庁や議会議員などの公務員による犯罪行為
我が国には多種多様な数多くの会社があり、その業務内容や業態も様々ですが、公共工事の入札や許認可などを含め、多かれ少なかれ、何らかの形で行政官庁などの公務員との関わりがあると思われます。
そのような中で、ほとんどの公務員は適正に職務を行っていると思いますが、私の検察官時代の経験から言いますと、時々、犯罪関係で報道されるように、中には、信じがたいような要求をしてくる公務員も現実におります。
今回は、贈収賄を例にして、普通の会社でも巻き込まれてしまう可能性があり、その対応に苦慮する公務員による犯罪行為について説明いたします。
(2)公務員から賄賂を要求される?
贈収賄事件といえば、通常頭に浮かびやすいのは、公共工事などで不正の利益を得ようとしている会社が、公表されていない入札予定価格などを土木事務所の担当者を通じて知ろうとしたり、大きい工事についての指名競争入札の指名を受けようとしたり、ある業種を営む会社にとって必要な法案・条例案などの表決に賛成してくれるよう他の議員を説得してもらったりなどを狙って金品を渡す行為でしょう。
また、市役所などで、複数の出入り業者がいる場合、自分の会社を使ってもらうために市役所側の担当者に金品を渡したり、過剰な接待をするようなこともありえます。
そして、これらの犯罪では、入札予定価格を知りたい、指名競争入札の指名の枠内に入れてもらいたい、自社に都合のよい条例を可決してもらいたいなどと希望する側、つまり会社側の担当者が、公務員側の担当者に働きかけて賄賂を渡すという行為が浮かびやすいと思います。
確かに、賄賂を渡そうとする側から働きかけて賄賂を渡すケースも多数ありますが、逆に、その担当公務員側が会社の担当者に賄賂を要求するケース(このケースを(公務員)要求型などと呼ぶこともあります。)も少なくないのです。
例えば、先ほどの例のうち、公共工事でいえば、入札予定価格決定が事前に分かれば、(他の業者との談合様の話し合いも必要になりますが)、それを知らずに入札するより高い金額で落札でき、その分会社の利益は増えますので、工事請負業者としては、なんとしても、それを知りたくなります。
そのために、工事業者としては、土木事務所の関係者などさまざまな関係個所に出入りして、少しでも情報を得ようと努力することがよくあります。
そして、それを担当している公務員側もその事情はよく分かっていますので、その関係を利用して、金品を要求することがあるのです。
もちろん、公務員側から要求する際の言い方は様々で、明確な言葉で金品そのものを要求する人はあまりいないでしょうが、それでも、金品を要求しているのだとわかるように仕向け、場合によっては、会社側から自発的に賄賂をもってきたかのように仕向けることもありえます。
(3)金品を要求された会社担当者の苦悩
そのような場合、金品を要求された会社側担当者は、明らかな犯罪行為を求められているわけですので、真剣に悩むでしょう。
もし、それに応じて賄賂を提供したことが発覚すれば、新聞やニュースなどで大々的に実名で報道され、会社の信用性は地に落ち、また、今後、公共事業に参加することは難しくなり、経営が傾いたりする可能性があるでしょうし、その家族も世間から白い目でみられるでしょう。
ですが、その一方で、公務員側から賄賂を要求された会社の担当者は、それを断れば、今後の業務で、それと分からないようなやり方で、何かしらの不利益を受けたり、今までのような付き合いをしてくれなくなって情報が得られなくなったりなど、様々な不利益を想像し、結局は、公務員の違法な要求に従ってしまうこともあるのです。
会社側としては、今まで、ルールは守って違法なことまではしないようにしていたのに、結局、その公務員の要求に応じることで、自分達も犯罪者とならざるを得ないわけで、その不安、くやしさ、屈辱は、相当なものとなるようです。
2.贈収賄事件について
(1)贈収賄事件の成否について
では、ここで、贈収賄事件について、いくつかの問題となるポイントについてご説明します。
一口に贈収賄といっても、その態様は様々で、刑法上も、(単純)収賄、受託収賄罪、事前収賄罪、第三者供賄罪、加重収賄罪、事後収賄罪、あっせん収賄罪(これらに対応する贈賄罪)があり、それ以外にも、同様のものとして、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律によるあっせん利得罪などもあります。
これらのうち、単純贈収賄罪、受託収賄罪、事前収賄罪、第三者供賄罪、加重収賄罪、事後収賄罪(それぞれに対応する贈賄罪)には、それらが成立するためには、「公務員」が「その職務に関し」て、「賄賂」を収受(供与)することが規定されています。
①公務員
賄賂を供与する相手としては、「公務員」とされていますが、ここで注意しなければならないのは、贈収賄罪の主体としての公務員には、特別法上、公務員とみなされる者も含まれます。
みなし公務員
国立大学法人法第19条1項、介護保険法第28条8項など。
なお、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社法16条では、北海道旅客鉄道株式会社などの取締役や執行役、職員などについての収賄罪を直接規定しており、同法17条では、贈賄罪を規定しています。
また、同様の規定は、日本電信電話株式会社等に関する法律第19条にも規定されております。
②賄賂
では、次に、「賄賂」とはなんでしょうか。
賄賂とは、判例上、有形無形を問わず、人の需要や欲望を満たすに足りる一切の利益をいうとされています。
そのため、現金などの金品をもちろん、金融の利益(貸付け行為など)や飲ませ食わせ(供応接待)、男女間の情交も賄賂となりうるのです。
では、日常の社会生活でよくみられるようなお礼や挨拶の際に相手に渡すお菓子などは、賄賂になるのでしょうか。
この点について、社交的な儀礼の範囲内のものであれば、賄賂には当たらないとする見解が一般的ですが、それが、公務員の職務に関して授受されると、賄賂となり得るとされています。
判例は、この社交的な儀礼の範囲内かどうかを厳しく考えているものと思われます。
そして、判例は、賄賂性の有無は贈賄者や収賄者がなんと言っていたかなどで決まるのではなく、公務員の職務内容、その職務と利益を供与した者との結びつき、双方の特殊な関係の存否、利益の多寡、授受の経過等諸般の客観的事情に照し合理的に判断すべきものとしています(大阪高判S26.3.12)。
③「職務」に関して
次に、その賄賂が、その公務員の「職務に関し」て渡されたものである必要があります。
そして、この「職務に関し」(職務関連性)は、具体的のその公務員がその職務についての権限等を有していなくとも(具体的な事務の分配まではなくても)、一般的にその公務員に、その職務権限があれば、その「職務に関し」て賄賂を贈ったと認められる可能性があり、さらに、その公務員の職務の権限内ではなくとも、それと密接な関連する行為(職務密接関連行為)も、含まれるとされています。
そのため、その公務員の権限の範囲内ではなくても、その公務員の権限に密接に関連する行為について賄賂を贈れば、贈収賄が成立する可能性があります。
(2)贈収賄事件として立件された場合、あなたやあなたの会社は、どうなる?
前記のとおり、たとえ、公務員側から要求されて、それを断らずに金品など賄賂を贈ると、どうなるでしょうか。
まず、贈賄者側としては、例えば、単純収賄であれば、3年以下の懲役または250万円以下の罰金(刑法第198条、197条)に処せられます。
また、捜査が始まれば、贈賄担当者(共犯者を含みます)は逮捕・勾留される可能性があり、そうなれば、捜査期間中はもちろん、起訴されれば、保釈ないし判決で執行猶予となるまでは原則として身柄が拘束されますので、それまでと同様の営業などできなくなるでしょう。
さらに、贈収賄事件であれば、広く実名で報道されますので、それまで培ってきた社会的信用はあっという間に失墜するでしょうし、また、入札行為などに関連した贈収賄では、その入札に関連したすべての会社にも事情聴取等の捜査が入り、同業他社にも多大な迷惑をかけることになります。
そればかりか、指名競争入札などでの指名が取り消されることも考えられ、残された会社は、大きな経済的な損失を甘受しなければならなくなることも考えられます。
3.会社内の適正なコンプライアンス体制の確立の重要性
(1)まずは、知らずに贈賄者となってしまわないように
前記のとおり、その相手が、特別法でみなし公務員とされているものもありますので、交渉等する相手が公務員であるのか(みなされるのか)どうかは、法令等できちんと見極めなければなりません。
また、賄賂とは、人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益であり、金品に限りません。
また、社交的な儀礼行為は日常の営業の中などで、あたりまえに行われていることでしょうが、賄賂に該当するかという観点で考えた場合、裁判所は厳しい目で見ていると思われますので、どのようなものが賄賂とされてしまうのかについて、きちんと理解する必要があります。
さらに、前記のとおり、公務員側に、例えば、会社側として社交的な儀礼行為と考えて何らかの物を交付したり、何らかの行為を一緒に行う際、金銭的負担が問題となったりする際には、前記「賄賂」に該当しないかを留意するとともに、あらぬ疑いをかけられないために、それがその公務員の「職務に関し」て提供した利益と認定されないように注意しなければならないでしょう。
これらの点については、会社内部での刑事コンプライアンスに関する研修などを重ねて、従業員に贈収賄についての具体的な知識を理解してもらい、また贈賄者となることを避けるべき行為準則を整え、さらに、問題事案が発生した場合の相談窓口の設置などを通して、会社全体でそのような違法行為が行われないようにする必要があります。
なお、賄賂の定義や公務員やみなし公務員の定義は国ごとに異なりますので、海外に子会社や関係会社がある場合には、その国の賄賂や公務員、みなし公務員の定義について法令調査をして、海外子会社等に周知する必要があります。
特に、中国、東南アジアは税関その他で金銭を要求してくる公務員が多いので要注意です。
(2)仕事上付き合いのある公務員側から賄賂を要求されたらどうしたらよいでしょうか?
これも前記したとおり、その場は、賄賂を渡すことで何らかの利益が得られるかもしれませんが、発覚したときのことを考えると、到底わりにあうものとは思えません。
では、発覚しないのでしょうか。いいえ、警察は、実に様々な地道な捜査を行って、日々そのような不正行為に目を光らせており、ほんの些細な点から発覚することはよくありますので、発覚しないことを前提に賄賂を贈るという考え方もとるべきではりません。
たしかに、公務員側から賄賂を要求された場合、それを断るとどうなるのか等の心配や不安があるかもしれませんが、公務員の要求に応じて、賄賂を渡した後の罪悪感、違法行為の片棒を担ぐことを断れなかった屈辱、発覚して犯罪者となる不安、会社や家族、同業他社にかける迷惑、そして、それが現実となった場合の取り返しのつかないダメージを考えると、そのような要求を断るべきであることはいうまでもありません。
もっとも、現実問題として、近時においても、公務員側から賄賂を要求してくるケースがあり、その場になって考えても十分な対応は難しいと思われます。
そこで、この点についても、日頃から、研修などを通して、従業員にコンプライアンスについての意識付けをするとともに、そのような事態に遭遇した際に、担当者のみで考えるようなことにならないよう、相談窓口を設ける必要があります。
そのうえで、その個々の事態に応じて具体的にどのように言って断るかを記載した対応マニュアルを作成するなどしたうえ、状況に応じて、そのような違法な要求に対する刑事手続き及び民事手続きを見据えた対応を検討できる体制を整えるべきです。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています