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日中間の債権回収における紛争解決方法 ~近時の事例からの法的分析~

2019年12月9日
日中間の債権回収における紛争解決方法 ~近時の事例からの法的分析~

1.はじめに

近年、国際化が進んだことで、国内取引だけではなく外国企業との国際取引を行う日本企業が増加してきました。特に、その地理的近接性や市場の巨大さから、中国企業との国際取引を行う日本企業が増加しています。

この記事では、そのような中国企業との取引において、債権回収に関する紛争解決方法の変化をご紹介します。

また、直接の取引はなくとも、中国現地に中国法人を子会社として有し、間接的に中国企業と取引を行う日本企業も増加しており、日系中国企業と中国企業との紛争についてもご紹介しますので、日本親会社としても参考になるかと思います。

2.従来の主流な紛争解決方法

従来、中国企業と日本企業との国際取引に関する契約において、債務者が契約通りに債務の支払をせずに債権回収トラブルが発生した場合、仲裁を紛争解決方法として選択することが主流でした。

(1)仲裁が主流となった主な理由

仲裁が主流となった主な理由は、以下の二点です。

⑴相互主義
⑵地方保護主義

①相互主義

国際関係における相互主義とは、複数の国の間において、相互に同一ないし同等な権利・利益を供与し、あるいは義務・負担を引き受けることによって、相互の間に待遇の均衡を維持する関係に立つことを意味します。

日本において、外国裁判所が下した判決に対して執行判決を付与するためには、上記相互主義の観点から、外国が日本の確定判決の効力を認める要件と、日本が当該外国判決の効力を認める要件とを比較して同等か、あるいは少なくとも前者の要件が後者のそれよりもゆるやかであるという相互の保証が必要であり、このことが、当該当事者国間の条約、協定などで明記されていたり、双方の国内法令等によって確保されていたりすることが必要です。

中国でも同様に相互主義を採用していますので、外国裁判所が下した判決に執行判決を付与するためには、上記同様に相互の保証が要求されます。

そして、日本と中国との間には、このような相互の保証に関する条約や協定は存在せず、それぞれの国内法令等によって相互の保証が確保されているわけでもないため、日本の裁判所が下した判決に基づいて、中国において執行を行うことはできず、同様に、中国の裁判所が下した判決に基づいて、日本において執行を行うことはできません。

そのため、中国企業との契約交渉において、負担が軽くなると安易に考え、紛争解決機関を日本の裁判所と設定した場合、中国で訴訟を提起できずに中国で判決を得て執行するという手段が取れなくなり、かつ、日本で勝訴判決を得ても相互主義により中国で執行できないという進退両難の事態に陥るため、紛争解決機関を日本の裁判所と設定することは、避けなければなりません。

他方、仲裁であれば、その判断に基づき、日本及び中国において執行を行うことが認められており、仲裁機関を選択する際には、契約交渉上の便宜のために、第三国または地域の仲裁を選択することが、これまで日本企業に主に用いられてきました。

③地方保護主義

もう一つの主な原因は、中国の裁判所は「地方保護主義」を採用する傾向が強く、日本企業が中国において訴訟した場合、事実上、不利であったということです。

相手方当事者が所在する国の裁判所に対して裁判を提起すれば、当該裁判所の判決に基づいて執行を行うことも可能ですが、そうだとしても、当該外国裁判所の判断において公平性等が担保されているか否かについては疑問があり、特に中国のような地方保護主義が重視される傾向がある国ですと、日本企業が感じる不信感は著しく、このような外国裁判所に対する日本企業の不信感から、中国裁判所における訴訟提起を避け、仲裁を紛争解決方法として選択すべきという実務が日本企業の間で認識されていたのです。

3.訴訟の増加

しかし、近時、仲裁ではなく、訴訟による解決事例が多く見られるようになりました。
増加の理由として考えられる原因は次の2点です。

(1)地方保護主義の変化

近年、中国の経済状況が変わったことや、法学教育制度の整備などで裁判官の質が向上したことから、北京、上海、広州、深セン等の大都市の人民法院には、「地方保護」の姿勢が見られなくなっています。

しかも、地方保護主義の原因の1つであった、裁判官の裁量については、合理的な範囲でしか認められなくなったという実態から、大都市の人民法院の裁判官は、中立な立場で和解を進める傾向にあります。

(2)日本企業の中国進出増加

日本企業の中国市場での販売拡大や進出と共に、中国の裁判所の判決に基づき、中国国内において執行可能な日本企業の資産が増加し、中国企業側が中国国内において債権回収を成し得る状況が形成されつつあります。

4.事例の紹介

上記の理由から、徐々に、日本または中国企業が、中国の人民法院に訴訟を提起し、判決に基づき相手方の財産に対して強制執行をするという方法が増えているのです。

以下、最近の日中間債権回収訴訟の事例をご紹介します。

(1)訴訟提起による和解の成功

中国政府は、15年ほど前から、「和諧社会」という紛争のない平和な社会を形成するという方針を打ち出しており、それによって、裁判所にも和解による紛争解決を重んじる傾向が生まれ、紛争を減少させる努力が行われています。司法界においても、裁判官がなるべく和解を勧め、平和的に紛争を終結させようとする傾向が少なくはありません。このような状況においては、日系企業にとって、中国での訴訟は「最終」の解決手段ではなく、和解の場を作る「最初」の方法だと考えたほうがよいでしょう。この点について、以下の訴訟事例をご紹介します。

日系製造会社A社は中国事業から撤退するため、現地法人B社を清算する予定でした。B社は、中国の大手量販店運営会社C社と販売代理契約を含む提携契約を交わしていました。C社の方が力関係が強く、B社にとっては不利な契約となっていました。

B社の会社清算の過程で、C社は契約の途中解約や返品代金等、約1億人民元の損害賠償をB社に請求しました。この交渉により、B社の清算手続は難航し、B社は、C社に対する売掛金の請求(約6,000万人民元)も放棄する予定でした。しかし、最終的にB社は、その損害賠償に対抗して、C社との交渉を一旦停止し、売掛金の請求訴訟の準備を行いました。

その後、C社が北京市某区人民法院に約6,000万人民元の訴訟を提起し、B社も既に準備していた証拠に基づき約6,000万人民元の債権回収訴訟を提起しました(中国の民事訴訟法の関連規定によりこれら2つの訴訟は併合されました)。B社は、法廷において、証拠が十分に存在し、自身に有利な部分については徹底的に対抗し、証拠が不十分で自身に不利な項目についてはC社の要求を積極的に飲むことで、裁判官に公平な和解案を提示し、協力する姿勢を示しました。裁判官の、和解により案件を平和的に終結させるべきとする心理を利用し、協力的な姿勢を示すことで、B社にとって有利に裁判を進めることが可能となりました。

最終的にB社は、逆にC社から500万人民元の支払いを得ることができ、B社は、法廷内にて和解交渉を行うことで、債権債務を相殺した上で和解金も獲得し、会社清算を行うことが可能となりました。

本件で、B社が人民法院に支払った訴訟費用はわずか50人民元でした。

 

交渉段階においては、相手方の無理な要求を呑むことができず、妥当な金額での解決が不可能な場合が多く存在しますが、このような場合、和解の場を作るためには、事前に訴訟準備を進めた上での訴訟による紛争解決も重要な方法です。

上記訴訟事例は、日中間の国際訴訟ではなく、日系中国企業と中国企業との国内案件です。中国の民事訴訟では国内事件の審判期間が規定されており(民事訴訟法第149条、普通手続によって審理された案件は6ヶ月以内に結審させます。特別な事情により延長が必要な場合、院長の許可によって6ヶ月延長できます。)、難航し長引く交渉を法廷に持ち込むことで審判期間が制限される結果、早めに紛争を解決したい場合には有効です。

この訴訟事例の場合、B社は事前に訴訟戦略を構築したことで、訴訟を交渉の手段として、和解の道を作ることを可能としました。

(2)中国における執行が可能な場合

上記の通り、日本企業の中国市場での販売拡大や進出と共に、中国の裁判所の判決に基づき、中国国内において執行可能な日本企業の資産が増加したため、近年、中国企業が中国の裁判所において行った日本企業に対する訴訟は増加しています。

 中国において現地法人を有さない日本企業のA社は、中国法人B社から、中国国内における建築設計業務を請け負い、設計業務を完了させました。

他方、A社は、中国法人C社との間で、上記設計業務に関連して、企画、翻訳等の業務を委託する旨の業務委託契約を締結しました。

A社は、C社に対する業務委託報酬を一部未払いしていたため、C社は、外交ルートによる送達手段を用いて、A社に対する訴訟を人民法院に提訴しました。

同時に、A社がB社に対して有する請負代金について、仮差押手続きを行いました。

人民法院では、A社がC社に対して業務委託費用を支払うべきとの判断がなされ、仮差押えされたB社に対する債権は、人民法院の執行手続きにより、B社から直接C社に支払われました。

 

おそらくどの国においても、債権の回収が可能かどうかは、結局執行可能であるか否かと関連しています。そのため、債権回収においては、事案処理の初期段階から執行可能性について念頭に置いておく必要があり、事件処理を進めていく上で非常に重要なポイントとなります。

上記の事例のように差押え可能な債権の債務者が中国企業である場合や執行可能な財産が中国国内に存在する場合、現地法人がなくとも保全手続きや執行手続きがなされる可能性があります。この場合、仲裁等の手続や相手側の国内における訴訟よりも、紛争解決コストが大幅に抑えられ、解決スピードも早い場合が多いです。

5.終わりに

中国で事業活動を行い、または、中国企業と取引を行う上で、今後、中国国内での訴訟への対応も想定される状況となっており、かつ、中国の裁判所が迅速で公平な紛争解決機関となりつつあることから、専門家と相談の上、紛争解決の機関の中の一つの選択肢として検討していく必要があると考えられます。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

中国律師(中国弁護士)龐 鑫(Pang Xin)
イギリスでの留学経験、外資系コンサルティング会社と中国法律事務所での勤務を通じて、英語を身に付けたと同時に、外国文化や投資家のニーズ等を深く理解し、外資企業の中国の進出・撤退案件、中国企業との取引、M&A、現地法人経営上の諸問題の対応等の法律サービス経験を積んできました。 今後、国境という枠を超えて、日系及び外資系企業に対する総合法律サービスの提供に尽力します。

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