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会社法改正―株主提案権の濫用的行使の制限

2020年7月14日
会社法改正―株主提案権の濫用的行使の制限

令和元年(2019年)12月4日、会社法の一部を改正する法律が成立し、同月11日に公布され、公布日から1年6か月以内に政令により指定される日に施行されます。

本稿では今回の改正のうち、株主提案権の濫用的行使の制限について解説します。

なお、以下、本記事の中の条文番号は、すべて会社法のものです。

1.  改正の背景

今回の法改正の背景を理解して頂くため、まず、株主提案権とは何か、という点から説明したいと思います。

(1)株主提案権とは

株主提案権とは、株主総会において決めるべきことについて株主が提案する権利のことで、以下の3つからなります。

① 議題提案権(303条)
② 議案提出権(304条)
③ 議案要領通知請求権(305条)

①議題提案権(303条)と②議案提出権(304条)は文字どおり、株主総会における議題や議案を株主が提案し、それらを株主総会で取り扱うよう会社に請求する権利をいいます。
なお、議題と議案の違いは、以下のとおりです。

議題 会議の目的事項・テーマ

例)「取締役選任の件」

議案 議題に対する具体的な提案

例)「A氏を取締役に選任すること」

 

③議案要領通知請求権とは、株主が提案する議案の要領を、株主総会に先立って株主に通知するよう会社に請求する権利のことをいいます。
これは、議題・議案の提案権を実質化するための権利といわれています。

特に取締役会設置会社の株主総会は、株主総会招集通知書に記載された株主総会の目的事項以外の事項について決議できません(309条5項)。
取締役会設置会社は株主総会招集通知書に目的事項として記載しない限り会社法や定款の株主総会決議事項につき会社として意思決定を行うことができません。
議案があらかじめ招集通知に記載されるなどして、株主に検討する機会が与えられていなければ、その議案について十分な審議と議決(可決)が期待できないからです。

近年、株主提案権行使のあった会社数は増加傾向にあります。
他面、特に取締役会設置会社において、株主提案権の濫用というべき提案権行使も問題視されるようになってきました。
次に、その濫用類型や弊害につき説明します。

(2)株主提案権の濫用的行使

① 濫用的行使の2つの類型

株主提案権の濫用的な行使には、内容面と数の面から、次のような2つの類型があるとされています。

1) 著しく些末な内容を含む、または、個人的目的・会社を困惑させる目的の議案の提案(議案の内容)
2) 膨大な数の議案の提案(議案の数)

② 弊害

株主提案権の濫用的行使があった場合、以下のような弊害があるといわれています。

1) 株式会社における検討や招集通知等の印刷等に要するコストが増大する
2) 審議の時間等が無駄に割かれ、また、株主総会の意思決定機関としての機能が害される

以下、具体的に説明します。

1) コスト増大

ある株主から膨大な数の議案が提出されるなど、濫用的な株主提案権行使をされた会社側としては、権利濫用を理由にその提案を拒絶するかどうかの判断を迫られます。
実務上、会社側が株主提案権の行使が権利濫用に該当するか否かを判断するには、未だ判例の集積もない現時点において、その判断は慎重にならざるを得ません。
また、判断を誤った場合には、株主総会の決議取消や役員への損害賠償請求などの問題を生ずるおそれもあり、会社の判断は萎縮してしまいがちです。

このような判断を迫られれば、法的リスクを詳細に分析・検討することを余儀なくされ、それ自体、会社にとってかなり手間になります。
さらに、提案された議案を株主総会で扱うことにするのであれば、議案の要領を株主総会の招集通知等に記載するコストもかさみます。

2) 株主総会の長時間化・機能阻害

株主総会では、議案が多ければその分審議にも時間がかかり、株主総会が長時間化します。
また、特定の株主からの大量の議案に審議時間が費やされると、他の株主や会社が提出した議案の審議時間を圧迫し、重要な内容に時間を割けないことになってしまいます。

このように、株主提案権が濫用されると、株式会社における最高意思決定機関である株主総会の機能が阻害されてしまいます。

(3)権利濫用を認めた裁判例

株主提案権の行使が個人的な目的のため、あるいは、会社を困惑させる目的のためにされたものであって、全体として株主としての正当な目的を有するものではなかったなどとして、株主提案権行使が権利濫用に該当すると認定した裁判例があります(東京高判平成27年5月19日金判1473号26頁)。

しかし上記判例も、議案の数を権利濫用の考慮要素の1つとしていますが、議案の数だけをもって権利濫用に当たるとは判断せず、諸般の事情から全体として株主としての正当な目的を有するものではなかったと認定しています。
よって、このような裁判例からも、どのような場合に株主提案権行使が権利濫用となるのか明確とまではいえず、個々の場面で権利濫用に当たるかどうかを判断することは、なお難しいと考えられています。

そこで、株主提案権の行使を法律上制限することが検討されてきました。
これまで会社法上、1つの株主総会に提案できる議案の数に制限はありませんでしたが、今回、数の制限が設けられました。

2.改正の概要

改正の概要

(1)改正された条文と内容

① 形式的には305条の議案要領通知請求権のみ制限を設ける

今回の改正では、取締役会設置会社における305条の議案要領通知請求権に関して、議案の数の制限が導入されることとなりました。
従来から305条には、法令・定款違反の議案や、過去3年以内に10分の1以上の賛成を得られなかった議案については、議案の提案ができないという制限がありました(旧4項 → 改正6項)。
今回の改正では、こういった議案の内容に着目した制限に加えて、数に関する制限を設ける形となっています(改正4項、5項)。

この新たな制限は、株主提案権のうち305条の議案要領通知請求権のみが対象です。
すなわち、条文上は、あらかじめ株主に通知するよう請求できる議案の数が限られるにとどまり、株主総会の議場で出すことのできる議案の数は制限されません。

② 実質的には提案できる議案の数を制限することになる

実務上問題視されている株主提案権の濫用的行使への対策として、①議題提案権(303条)の議題の数と②議案提出権(304条)の議案の数まで制限する必要性は高くなく、③議案要領通知請求権(305条)に関して数の制限を加えることで足りると考えられています。

株主総会参考書類を交付等しなければならない株式会社では、303条による議題の提案について、それに対応する議案の要領(305条1項)が株主総会開催日の一定期間前までに追加されなければ会社がその株主の提案を拒否できると考えられていますし、取締役会設置会社では株主総会は株主総会の目的とされた事項以外の決議をできない(309条5項)など、304条に基づく議場での議案提出には制約があるからです。

よって、305条の議案要領通知請求権に関して数の制限を加えることが、実質的に株主が提案できる議案の数を制限することになるといえます。

③ 305条に追加された改正4項と5項の条文

<改正305条4項>

取締役会設置会社の株主が第一項の規定による請求をする場合において、当該株主が提出しようとする議案の数が十を超えるときは、前三項の規定は、十を超える数に相当することとなる数の議案については、適用しない。この場合において、当該株主が提出しようとする次の各号に掲げる議案の数については、当該各号に定めるところによる。

一 取締役、会計参与、監査役又は会計監査人(次号において「役員等」という。)の選任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす。

二 役員等の解任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす。

三 会計監査人を再任しないことに関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす。

四 定款の変更に関する二以上の議案 当該二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを一の議案とみなす。

 

<改正305条5項>

前項前段の十を超える数に相当することとなる数の議案は、取締役がこれを定める。ただし、第一項の規定による請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする二以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には、取締役は、当該優先順位に従い、これを定めるものとする。

(2)改正条文の内容

原則(4項第1文):議案要領通知請求できる議案は10個までになる

例外(同項第2文):複数提案されても、まとめて1個とみなされる議案がある

① 原則(改正4項第1文):議案要領通知請求できる議案は10個まで

取締役会設置会社の株主が10個を超える数の議案を提案した場合、10個を超える部分の議案は株主に通知することを請求できません。
この10という数は、株主総会におけるこれまでの状況を考慮して決められました。
その株主が有する議決権の割合や個数にかかわらず、10個までとなります。[1]また、議案要領通知請求が他の株主と共同でなされる場合、その共同する株主全員で10個までです。

10を超える議案を提案したとしても、その提案自体が不適法として議案すべてが無効になるというわけではありません。
そのうち10個は議案の要領が株主に通知されることになります(後述④)。

なお、この株主が議案要領通知請求できる議案の数の制限は取締役会設置会社のみを対象としており、それ以外の株式会社においては、その数は制限されません。

②例外(改正4項第2文):複数提案されてもまとめて1個とみなされる議案

議題によっては、その性質上議案がいくつか出されることが多い場合がありますので、今回の改正では、議案の数え方に例外を設けるという形で、議案の数の制限による不都合を回避しています。

改正305条4項各号には、複数の議案が提出されていても、まとめて1つの議案とみなされるものが列挙され、数の制限による不都合の回避が図られています。

③例外の具体的内容(改正305条4項各号)

役員等の選任や解任に関する議題は、候補者・現役員ごとに議案がある(「A氏を選任する」、「B氏を解任する」というのをそれぞれ1つの議案と数える)と考えられており、例えば、不祥事を起こした取締役6人の入れ替えが必要であると考えた場合には、解任で6個、選任で6個の合計12個の議案を提出すべきことになりますが、10という議案数の制限が障害となって、必要な議案を十分に提出できないおそれがあります。

そこで、選任または解任しようとする役員の種類や数が多くても、株主が十分な数の議案を提案できるように、以下の各号の議案については、それぞれまとめて1つの議案として数えることとされています。

1号 役員等の選任に関する議案

2号 役員等の解任に関する議案

3号 会計監査人を再任しないことに関する議案

取締役2人と監査役1人について解任の議案を出し、同時に2人の候補者を取締役に、1人の候補者を監査役にそれぞれ選任する提案したとすると、取締役と監査役の解任の提案は「役員等の解任に関する議案」としてまとめて1個、残りの選任の議案も同様に、「役員等の選任に関する議案」としてまとめて1個、合計2個の議案と数えることになります。

また、以下の第4号のように、特定の事項に関して定款を変更しようとする場合に、異なる内容の変更議案が2つ以上提案される場合があります。

4号 定款の変更に関する2以上の議案

このようなときに、議案数の制限による不都合が生じないよう、それらの議案について「異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合」には、まとめて1個の議案とみなす、との条項(4項4号)が置かれました。

これにより、定款変更に関する複数の議題は、提案内容の事項ごとに1つの議案として扱われます。
たとえば、「取締役の員数変更の件」という議題について、「取締役の数は5名とする」という変更議案と「取締役の数は6名とする」という変更議案との2つの相互に矛盾する議案が提案された場合に、仮に両方とも決議されてしまうと取締役の数についての定款の定めに矛盾が生じてしまいます。
これらの議案は、取締役の数という1つの事項に関するものといえ、そのような議案は、複数提案されてもまとめて1つの議案と数えられることになります。

④10を超える議案を提案したとき(5項)

①で述べたとおり、10個を超える議案の要領を株主に通知するよう請求した場合でも、そのうち10個までは請求が認められることになります。
そして、その株主に要領を通知する10個の議案をどのように選ぶかについて、改正5項は、次のように定めています。

5項本文 取締役が決める

同項但書 株主が優先順位をつけた場合は、取締役はそれに従う

このように条文の構造としては、取締役が決められる旨を本文で規定しており、それが原則であるかのような形になっていますが、実際には但書きのとおり株主の定めた優先順位に拘束されることになりますので、株主が選べるようになっています。

(3)改正が見送られたもの

今回、以下の項目の改正も検討されましたが、見送られました。

  • 議案の内容・権利行使目的に着目した制限の導入
  • 300個以上の議決権という株主提案権行使の要件引き上げ
  • 株主総会の8週前という提案権行使期限の前倒し
  • 一定割合の賛成を得られなかった議案についての費用負担の導入

いずれも、株主提案権の濫用的行使に対して有効であろうと指摘されたものですので、今後の状況によっては、改めて法改正が議論・検討されるかもしれません。

特に、議案の内容・権利行使目的に着目する制限は、要件が不明確であるなど諸般の考慮により今回の改正には盛り込まれませんでしたが、引き続き検討されることとされています。
このような経緯に照らしてみても、条文で制限されていないからといって、権利濫用であると判断される余地が否定されるわけではありません。

3.最後に - 本改正の影響と今後の課題

これまで見てきましたとおり、今回の改正では、取締役会設置会社において、株主総会に先立って株主に要領を通知するよう請求できる議案の数が原則10に制限されました。
そこでは、必要な議案は十分提案できるような配慮がなされています。
また、議案の内容や株主提案権行使の目的等による制限の導入は見送られました。
濫用的行使への対策の必要性が高い場合のみに絞って制限を設けたという印象です。

従いまして、株主の立場からすると、適切な株主提案権の行使がしづらくなるようなことはないと思います。
また、取締役会設置会社の立場からすると、株主提案権の濫用的行使とその弊害を抑制でき、会社の負担軽減や、株主総会が適切に機能することを期待できるのではと思います。
ただ今後、こういった規制をすり抜けるような株主提案権の濫用的行使がなされる可能性もないとは言えず、今後の株主総会の状況によっては、さらなる立法対応が必要ともなるでしょう。

また、議案の提出を受けた会社が、その内容や目的に照らして権利濫用であると適切かつ迅速に判断することは、依然として困難な状況です。
裁判例の集積をまちつつ、法改正のさらなる議論が期待されます。

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[1] 305条第1項但書き:取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、当該請求(筆者:議案要領通知請求)をすることができる。

鈴木正之
弁護士鈴木 正之
ベリーベスト法律事務所アソシエイト。東京大学文学部卒業、創価大学法科大学院修了。一般民事事件、刑事事件、企業法務やインターネット関連事件など、幅広い分野を取り扱う。
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