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データ提供契約について知ろう|締結で注意すべきポイントを解説
データを提供するという行為は、対象物が目に見えないという点で、一般的な物品の取引と大きく異なります。
そのため、契約書で定めるべき事項が分からないという声も少なくありません。
この記事では、データ提供契約の基本を押さえながら、契約書の中で注意すべきポイントについて解説をします。
1.データ提供契約とは
データ提供契約とは、データ提供者から受領者にデータを提供する際に、当該データに関する他方当事者の利用権限や提供条件などを取り決めるための契約です。
たとえば、自社の製品開発テストのデータや自社マーケティング活動のデータを提供することで、受領者が製品開発の工程を大幅に削減できるという利点を享受できる状況下において、そのデータの販売や利用許諾をする取引における契約が、データ提供契約です。
データ提供契約における利用権限には、次のようなものがあります。
- データの利用権
- データの保有、管理に係る権利
- データの複製を求める権利
- データの販売・権利付与に対する対価請求権
- データの消去・開示・修正・利用停止の請求権の行使
2.データ提供の方法は3種類
データ提供の方法には、「譲渡」「利用許諾(ライセンスの付与)」「共同利用(相互利用許諾)」の3種類があります。
(1)データの譲渡
データの譲渡とは、データをコントロールできる権限を譲受人に移転させて、データ提供者は当該データに関する一切の権限を失う契約です。
譲渡の対象となるデータについてデータベースの著作権などの知的財産権が確立している場合には、データに関する知的財産権が提供者に残ることを避けるために、データベースに登録された各個別のデータの利用をコントロールできる地位だけでなく、付帯する知的財産権についても譲渡する必要があります。
データの譲渡の手法としては、次のようなものがあります。
- データを記録した記録媒体を引き渡し、提供者は当該データを消去する
- データを譲受人の記録媒体に複製し、提供者は当該データを消去する
- 第三者のサーバにあるデータに対するアクセス権を譲受人に付与し、提供者は当該データのアクセス権を失う
- 提供者が当該データの管理に係る第三者との契約上の地位を譲受人に移転させる
一般的な商品の譲渡は、所有権の移転を意味しますが、データは目に見えないものであることから、民法上の所有権の対象にはなりません。
データに著作権などの知的財産権が確立していれば、データ受領者へ知的財産権についても譲渡することになります。
(2)データの利用許諾(ライセンスの付与)
データの利用許諾は、データ提供者が保持するデータの利用権限(ライセンス)を一定の範囲でライセンシー(受領者)に与えるものの、ライセンサー(提供者)は提供データに関する利用権限を失うことはありません。
そのため、ライセンシー以外の者に対しても重ねてデータの利用許諾をする権利を留保しておくのか、ライセンシーに独占的に当該データを利用させるのかについても、契約で定めておく必要があります。
データの利用許諾をする手法としては、ライセンサーのサーバにあるデータの利用権限をライセンシーに与えるものの、ライセンサーも当該データの利用権限を失わず、かつ、契約終了時にライセンシーに対して当該データの消去義務を負わせるとともに、当該データに対するアクセス権限を停止するといったことが想定できます。
(3)データの共同利用(相互利用許諾)
データの共同利用(相互利用許諾)とは、契約当事者である甲と乙が、甲が保持するデータの利用権限を乙に与え、一方で乙が保持するデータについて、利用権限を甲に与えることをいいます。
この契約形態は、当事者が3者以上いる場合も可能です。
データの共同利用では、甲乙がそれぞれのデータを相手方が利用することを認めていることから、甲乙それぞれのデータの利用権限が混在するおそれがあるため、契約においては、データの分別管理を規定したり、データにアクセスできる従業員を限定したりすることが重要です。
データの共同利用の手法としては、 甲乙それぞれのサーバにあるデータに対する利用権限を契約によって相手方に与えつつ、自身も当該データに対する利用権限を失わず、かつ、契約終了時に相手方に対して当該データの消去義務を負わせ、さらに当該データに対するアクセス権限を停止するといったことが想定できます。
3.データ提供契約の締結で注意すべきポイントとは
ここでは、データ提供契約を締結する際に注意すべきポイントを解説します。
(1)派生データの取り扱い
データ提供者から提供された提供データが何の整理もされていないデータである場合、そのデータを加工・分析・編集・統合することによって、新たな知見・価値を伴うデータになることがあります。
このような派生データの利用権限がデータ提供者にもあるのか、それともデータ受領者のみにあるのかについては、明確に取り決めをしておく必要があります。
(2)知的財産権の取り扱い
データ受領者が提供データを加工・分析・編集・統合等する過程において、特許権等の知的財産権を提供データに基づいて生み出すことがあります。
この生み出された知的財産権を一方の当事者に帰属させるのであれば、後のトラブルを回避するために、他方当事者に利用を許諾するのか否かを定めておく必要があります。
許諾する場合においては、範囲や対価を定めます。
(3)提供データの品質
データを受領する者は、当然、提供されたデータが正確性を維持していることを前提としています。
提供データが不正確である、あるいは不完全である場合、データ提供契約は目的を果たすことができません。
そのため提供データの正確性、完全性、有効性、安全性等について、表明保証条項等により、データ提供者の責任の範囲を明確にしておく必要があります。
なお、契約において、担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、データ提供者が故意または重大な過失により提供データの品質に問題があった場合には、責任を免れることはできません(民法572条)。
(4)提供データに起因して生じた損害の負担
データ受領者が提供データを利用している際に、第三者から当該データに関する知的財産権の侵害を理由に損害賠償請求がなされるなど、提供データの利用に関連して、データ受領者と第三者との間で法的な紛争が生じるようなケースが想定できます。
そのため、契約において、提供データの利用に関連して第三者との間で法的な紛争が生じた場合の費用や賠償金の負担について規定しておく必要があります。
(5)提供データの目的外利用の禁止
データが無制限に使用されないように、目的外利用禁止条項を設ける必要があります。
(6)提供データの第三者提供
提供されたデータについて、そのデータをデータの受領者だけが取り扱うことは、現実としてそう多くありません。データの利活用を行う会社は、多くの場合複数のベンダーを抱えていますし、他の会社と共同開発を行うことが少なくないからです。提供データを第三者へ提供する可能性がある場合には、事前にデータ提供者に対して報告をして同意を得るといった制限規定を加えておくことが重要です。
(7)提供データのラベリング
データには色がありません。一度他のデータと混在すると、いつ、誰から提供されたデータなのか見分けることが困難となります。事前にデータの提供者に対して、ラベリングを義務付ける規定を加えるといった対応が必要です。
参考:経済損行商「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版」
まとめ
データ提供契約とは、データ提供者から受領者にデータを提供する際に、当該データに関する他方当事者の利用権限や提供条件などを取り決めるための契約です。
データ提供の方法には、「譲渡」「利用許諾(ライセンスの付与)」「共同利用(相互利用許諾)」の3種類があります。
データの譲渡では、譲渡後データ提供者もデータに関する権限をすべて失います。
データの利用許諾は、提供者も提供者は権限を失わないため、受領者以外の者に対しても重ねてデータの利用許諾をする権利を留保しておくのか、受領者に独占的に当該データを利用させるのかについて契約で定めておく必要があります。
データの共同利用では、データの利用権限の混在を防ぐために、当事者間で利用できる従業員を限定することが重要です。
データ提供契約の締結で注意すべきポイントには、次のようなものがあります。
- 派生データの取り扱い……派生データの利用権限が誰にあるのかを明確に定める
- 知的財産権の取り扱い……データに基づいて生み出された知的財産権の帰属先を定める
- 提供データの品質……提供の品質についてデータ提供者の責任の範囲を明確に定める
- 提供データに起因して生じた損害の負担……提供データの利用に関連して、データ受領者と第三者との間で法的な紛争が生じた場合の負担を定める
- 提供データの目的外利用の禁止……目的外利用禁止条項を設ける
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています