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サブリース契約でマンション経営は安泰なのか?検討すべき課題とは
サブリース契約は、マンションを経営するうえで、一定の収入が約束されているというメリットがあります。
しかし、その一方でサブリース契約に関わるトラブルを目にする機会が多いのも事実です。
サブリース契約でマンション経営は安泰するのでしょうか。
この記事では、
- サブリース契約で検討すべき課題
について解説します。
1.サブリース契約とは
サブリース契約とは、マンション管理の手法のひとつです。
マンション経営を行う場合、管理は、次のいずれかの方法で行われます。
- 自主管理……オーナー自らが直接管理を行う
- 管理委託……管理業務を不動産管理会社に委託する
- サブリース契約
サブリース契約では、不動産管理会社がマンションを一括で借り上げます。
契約で保証賃料が決められているので、たとえ大量の空室が発生しても、オーナーには定額の保証賃料が支払われます。
保証賃料は、賃貸物件が満室になった場合の家賃収入の80~90%です。
2.サブリース契約のメリット
サブリース契約を行った場合、マンション経営上どのようなメリットがあるのか説明します。
(1)管理事務から解放される
マンション経営を始めると、家賃の集金、契約更新、退去の処理、建物のメンテナンス、入居者募集などの様々な管理事務が伴います。
従業員の多い会社で管理しているのであれば、担当者を適切に配置することでこなせますが、個人や小規模の会社では、なかなか手が回りません。
サブリース契約では、そうした管理事務をすべて不動産管理会社に任せられます。
(2)空室や家賃滞納のリスクがない
マンション経営で最も頭が痛いのは、空室がなかなか埋まらない事態です。
空室が発生すれば、それだけ家賃収入が減ってしまいます。
また入居者の中には、何らかの事情で家賃滞納する人がいます。
これも家賃収入減収の要因となります。
サブリース契約では、空室や滞納などがどれだけ発生しても、満室時の家賃収入の一定割合が保証されます。
保証される割合は契約内容によって異なりますが、相場としては、80~90%程度です。
入居者の状況とは無関係に一定の収入が見込めることは、サブリース契約の大きなメリットです。
3.サブリース契約の検討すべき課題とは
「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が2021年6月15日に完全施行しました。
ここでは、サブリース契約の不動産管理会社とオーナーとの間の賃貸借契約の適正化に関する行為規制が設けられています。
これは一時期社会問題化したサブリース契約のトラブル解消を目的としたもので、主に契約締結前の重要事項の説明と契約締結時の書面の交付についての規定が定められています。
つまり、事前説明を適切に行うことを求めているものであり、本質の課題は依然として存在していることを意味しています。
ここでは、サブリース契約で検討すべき課題について解説していきます。
(1)借地借家法が適用される
サブリース契約では、借地借家法が適用されます。借地借家法は、基本的に賃借人を守る法体系になっています。
そのため、契約の期間や更新・解約については、賃借人が長く住み続けられるような規定が定められています。
一般的な借家であれば、賃借人の立場は弱く、法の庇護がなければ安心して住み続けることができません。
しかし、サブリース契約では、賃借人は居住者ではなく、契約の当事者である不動産管理会社です。
サブリース契約を手掛ける不動産管理会社の多くは、大手不動産会社の系列です。
ほとんどの会社で法務担当を配属しており、とても弱い立場とはいえません。
しかし法律上は、こちらが賃借人の立場になるのです。
サブリース契約を検討する際には、この構図をしっかり念頭に置く必要があります。
(2)保証賃料は減額される
サブリース契約のメリットとして、保証賃料による安定収入を挙げました。
しかし、この保証賃料は、いつまでも変わらないわけではありません。
借地借家法で、「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる(32条)」とされています。
これにより、周辺の家賃が低いことを理由に、契約更改の際に保証賃料が引き下げられる可能性があります。
同条に「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合は特約に従う」と規定されています。
反対に、減額しない旨の特約の扱いについては明記されていません。
したがって、増額を認める特約規定のみがある以上は、賃料を減額しない旨の特約は認められないと解するのが一般的です。
そのため、サブリース契約で、「当初10年間は保証賃料を減額しない」と契約していても、この特約は無効であり、「周囲の家賃が下がった」データを示せば、契約更改時に保証賃料を引き下げることができるのです。
(3)オーナーからの解約はハードルが高い
保証賃料が減額されることで、サブリース契約のメリットが消滅することがあります。
あるいは、家賃を引き下げることで、安定した入居が見込めることがあります。
このような状況であれば、サブリース契約に頼る必要はありません。
しかし、オーナーの都合だけでサブリース契約を解約することは極めて困難です。
一般の貸家を思い浮かべてください。家主の都合だけで自由に追い出せるとしたら、賃借人は安心して生活ができません。
そのため、家主に正当の事由があると認められる場合でなければ解約の申し入れはできないとされています(借地借家法28条)。
正当の事由があるといえるか否かは、賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情、従前の賃貸借契約の経過、建物の利用状況、建物の現況、立退料の有無や金額等を総合的に考慮して判断されます。
このルールが、サブリース契約においても適用されます。
つまり、マンションオーナー側の都合による解約の申入れには、高いハードルがあるということになります。
もっとも、賃借人が家賃を滞納し続けているなど、賃借人側に賃貸借契約における義務の不履行があり、これによって契約当事者間の信頼関係が破壊されてしまった場合は、少し異なります。
このような場合には、債務の履行についての催告を行い、それでも履行がされなければ、債務の不履行を理由として賃貸借契約の解除をすることが可能となります。
(4)中途解約条項では、オーナー側からの解約の条件は緩和されない
上でご説明したとおり、オーナー側からの解約は容易にはできません。
これは、契約書で中途解約について特約を定めたとしても、同様です。
なぜなら、借地借家法は、建物の賃貸人から賃借人に対する更新拒絶や解約の申し入れには、正当の事由がなければならないとしていて(借地借家法28条)、同上より不利な特約は無効と定めているからです(借地借家法30条)。
そのため、立退料の設定を含めた正当な事由を満たす工夫がないと、賃貸人からの解約はできません。
(5)不動産管理会社から解約の申し入れがある
賃借人が解約の申し入れをした場合、6カ月を経過することで賃貸借契約は終了します(同法27条)。
サブリース契約で、10年間解約の申し入れをしないとされていても、賃借人に不利なこの特約は無効です(同法30条)。
サブリース契約において、サブリース会社から解約の申し入れがあれば、オーナーは拒否することができません。
告知期限が過ぎれば契約が解除され、以後は保証賃料も入りません。
つまりオーナーは、いつか解約されるかもしれないという不安を抱えたままで、マンション経営をしていくことになるのです。
(6)入居者の選択ができない
サブリース契約では、不動産管理会社が入居者募集や入退去に関する管理を行います。
オーナーは、入居者の選定に関わることができないため、たとえば若い人中心のマンションにしたいと考えても、高齢者ばかり入居するマンションになることもあります。
不動産管理会社は、入居率を高めることが利益アップになりますから、入居条件のハードルはかなり引き下げると考えた方がいいでしょう。
場合によっては、他のマンションで入居を断られたような人物が入居する可能性も否定できません。
(7)不動産管理会社が倒産するリスクがある
サブリース契約で不動産管理会社が倒産した事例は、「かぼちゃの馬車問題」と呼ばれる著名な出来事があります。
女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を展開する不動産管理会社が、建物のオーナーに家賃収入を30年間保証していましたが、支払いが滞るようになり、最終的に倒産してしまいました。
たとえ順調に経営を展開していても、サブリース事業をする不動産管理会社は民間会社ですから、経営不振によって倒産することもあり得ることを念頭に置く必要があります。
マンションのローン返済中に保証家賃の収入が途絶えると、たちまちローンの返済に窮する事態になりかねません。
まとめ
サブリース契約では、相場としては、満室になった場合の家賃収入の80~90%程度が保証賃料として収入になります。
家賃の集金や居住者の募集は、不動産管理会社にすべて任せることができます。
一方で、サブリース契約では借地借家法が適用されるため、不動産管理会社は賃借人として法の庇護を受けることになります。
当初の契約で約束した保証賃料も、周囲のマンションの家賃が下がったことを理由に引き下げられることがあります。
10年保証の特約をしていても、借地借家法の規定により、この特約は無効とされます。
また不動産管理会社の方から突然解約されるリスクもあります。
一方で、オーナー側からの解約には高いハードルがあり、このハードルは契約で中途解約条項を定めても下げることはできません。
サブリース契約は、一律の内容ではありません。
それぞれ様々な規約を設定していますから、内容を吟味しできる限りのリスクを避けた契約を結ぶことが重要です。
ただし、内容次第では、借地借家法で無効とされる可能性もありますので、十分に注意をしてください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています