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アドバイザリー契約とは?類似契約との違いや報酬の決め方を解説
アドバイザリー契約とは、専門性の高い知識やそれに基づく助言・勧告などのサービス提供を役務とする契約類型のことです。
本来、提供する役務の種類は問われないので幅広いビジネスシーンで登場し得る契約類型ですが、一般的には、企業がM&Aを検討している場面においてM&A仲介会社やM&Aアドバイザリー会社との間で締結する契約が念頭に置かれます。
そこで今回は、
- M&Aで不可欠なアドバイザリー契約の内容・詳細
- アドバイザリー契約と混同しがちな契約類型
- アドバイザリー契約締結時の注意点
などについて、わかりやすく解説します。
「M&Aを契機として経営改善を目指している」「将来的なM&Aを視野に入れて、今の段階でアドバイザリー契約の重要性を理解したい」という経営者様の助けになれば幸いです。
1.アドバイザリー契約とは
アドバイザリー契約とは、M&A実行に向けて当事会社が専門会社との間で締結する業務委託契約の一類型のことです。
そのうち、M&Aで用いられるものを特にファイナンシャルアドバイザリー契約と呼びます。
本来、M&Aは当事会社双方で合意に至りさえすれば、各事業会社に課された会社法等上の手続きを履践するだけで成立するはずです。
しかし、M&Aは事業会社の存亡をかけて実施される重要な組織再編行為である以上、経営者間の曖昧な口約束を前提にしたり、交渉過程がいい加減だったりすると、株主・従業員に多大なる損害を生ぜしめかねません。
これを回避するために、バリュエーションやデューデリジェンス、M&A実行後の経営リスクの洗出しなどを行おうとしても、自社内の人材だけで会計・財務・法務などの高い専門性の壁をクリアするのは簡単ではないでしょう。
そこで重要な役割を果たすのが、当事会社だけでは対応できないM&Aの専門業務を取り扱うM&A仲介業者であり、M&Aの当事会社と仲介業者が締結する契約がファイナンシャルアドバイザリー契約です。
たとえば、決算書の準備・企業価値評価の実施・買収予定企業の査定・デューデリジェンス・シナジー効果の予測など、財務・税務・法務などのあらゆる観点からのサポートを期待できます。
それでは、M&Aにおけるアドバイザリー契約の重要性を前提として、当該契約の種類や交渉形式などについて具体的に見ていきましょう。
(1)契約形態の種類
事業会社とM&A業者との間で締結するアドバイザリー契約は、以下2種類の契約形態に大別できます。
- 専任契約
- 非専任契約
専任契約とは、契約期間中、売り手が選んだ1社とだけFA契約を締結することです。
専任契約では、単独のM&A業者に一任する形になるので、「情報漏洩のリスクを軽減できる」というメリットが得られます。
また、専属的なフィナンシャルアドバイザリー契約は「M&A業者のモチベーション向上に繋がる」ので、好条件でのM&A成立を実現しやすくなるでしょう。
他方で、M&Aアドバイザーの能力や相性に問題があった場合にも、期間内は他のアドバイザーと契約できなくなるというデメリットがあります。
非専任契約とは、複数のM&A業者と同時並行的にアドバイザリー契約を締結することです。。
非専任契約では複数業者の顧客層にフォーカスできるので、「買い手候補企業を見つけやすくなる」という点がメリットに挙げられます。
また、複数のM&A業者の査定等を見比べることができるので、M&Aの内容を適正化しやすい点もメリットです。
さらに、営業担当者との相性を図れるので、信頼できるM&A業者との専任契約の前段階としても機能するでしょう。
他方で、情報漏洩のおそれやいわゆる出回り案件のリスクがあるとともに、M&Aアドバイザーのモチベーションが下がる可能性も否定できません。
このように、専任契約・非専任契約にはそれぞれメリット・デメリットがあるので、M&Aのプランなどを総合的に考慮して、ファイナンシャルアドバイザリー契約の種類を判断してください。
(2)交渉形式の種類
ファイナンシャルアドバイザリー契約は、M&Aの交渉をどのように進めるかによって以下の2種類に大別できます。
- アドバイザリー方式
- 仲介方式
アドバイザリー方式とは、売り手企業・買い手企業がそれぞれ異なるM&A業者とアドバイザリー契約を締結し、各M&A業者の担当者が契約条件などの折衝を取り仕切る契約形式のことです。
依頼を受けたM&A業者は、依頼企業の利益を最大化するために尽力してくれるので、好条件での成約に至る可能性が高いでしょう。この方式は大規模取引や上場企業のM&Aに向いているといえます。
仲介方式とは、売り手企業・買い手企業が同一のM&A仲介業者との間でアドバイザリー契約を締結する契約方式のことです。
各事業会社の利益を最大化することではなく、当事会社双方が納得できる条件を見つけ出して円滑な合意形成に至ることを優先します。
この方式は中手企業や小規模のM&Aに向いているといえます。
つまり、アドバイザリー方式では自社利益を最大化しやすい反面、交渉が決裂して合意に至らない可能性がありますが、仲介方式ならある程度の妥協は強いられるものの、M&A自体は達成しやすいということです。
M&Aという経営判断の重要度などを総合的に考慮して、適切な交渉形式を選択しましょう。
(3)報酬の種類
ファイナンシャルアドバイザリー契約を締結するときには、M&A業者が設定している報酬について確認しましょう。
業者ごとに費用・報酬体系が異なるので、アドバイザリー契約締結前に見積もりをとることをおすすめします。
一般的なM&A業者が設定している報酬項目は以下の通りです。
- 着手金:契約締結段階で発生する費用。M&Aの成否にかかわらず支払う必要がある。
- 中間報酬:M&Aの進捗段階に応じて発生する費用。前払いの成功報酬のニュアンスをもつ。
- 成功報酬:M&A成約後に発生する成功報酬。取引金額に応じて報酬が変動する「レーマン方式」が採用されることが多い。
2.アドバイザリー契約と似て非なる契約との違い
ファイナンシャルアドバイザリー契約と混同しがちな契約として、以下3種類の契約類型が挙げられます。
相違点・類似点などについて、それぞれ具体的に見ていきましょう。
- コンサルティング契約
- 業務委託契約
- 顧問契約
(1)アドバイザリー契約とコンサル契約の違い
アドバイザリー契約は、事業会社の組織全体を見渡して、将来的に起こり得る問題を予測し、それに対する効果的なリスクヘッジを提案するものです。
将来予測の観点が含まれるため、必然的に業務の範囲は広くなります。
これに対して、コンサルティング契約は、事業会社が既に抱えているトラブルを発見して、具体的な改善策を提示するものです。
既に生起している事情に対する解決を目指すので、特定の狭い範囲のサービスを提供する傾向が強くなります。
ただし、アドバイザリー契約・コンサルティング契約の違いは相対的なものであり、業者によっては同一サービス内において全サービスを提供することもあります。
(2)アドバイザリー契約と業務委託契約の違い
繰り返しになりますが、アドバイザリー契約とは、専門性の高い知識やそれに基づく助言・勧告などのサービス提供を役務とする契約類型のことです。
つまり、自社内では完遂できない専門性の高いサービスを第三者に依頼するということです。
業務委託契約とは、自社内で対応できない業務を外部に任せる契約類型を意味します。
したがって、アドバイザリー契約は、業務委託契約の一種であると考えられます。
(3)アドバイザリー契約と顧問契約の違い
アドバイザリー契約は、M&A実行に向けて専門性の高いサービスを提供する契約類型です。
つまり、M&Aの成立が契約の終期であり、手続き完了時には成功報酬を支払う必要があります。
これに対して、顧問契約は、契約の終了時期が存在せず、継続的にクライアント企業に対して助言・提言などのサービスを提供する契約類型です。
具体的な「成功」というものは想定されていないので、1カ月ごとに報酬を支払う方式が採用されます。
3.アドバイザリー契約の注意点
さいごに、アドバイザリー契約を締結するときの注意点について解説します。
(1)業務範囲の明示
M&A業者との間でファイナンシャルアドバイザリー契約を締結する際には、明示されている業務範囲を確認するのが重要です(候補企業の探索、対象企業の調査、株価算定、条件交渉など)。
これにより、M&A業者の業務内容が明確化され、中間報酬などの体系も理解しやすくなるでしょう。
(2)秘密保持契約の明記
ファイナンシャルアドバイザリー契約を締結するときには、契約書内に秘密保持契約が明記されているかを確認しましょう。
なぜなら、M&A業者による情報漏洩によって不測の損害を被るおそれがあるからです。
たとえば、機密事項の取扱い方法、秘密保持契約の対象範囲、情報漏洩による損害発生時の賠償責任などについて不十分であれば、ファイナンシャルアドバイザリー契約とは別に秘密保持契約を締結するのも選択肢のひとつです。
(3)直接交渉の可否
アドバイザリー契約締結時には、直接交渉の可否についての定めもご確認ください。
なぜなら、当事会社同士での直接交渉が許されているのなら、M&A業者に情報収集等だけを任せて実際の契約締結は当事者間で実施することによって成功報酬の支払いを免れることができるからです。
ただし、多くのアドバイザリー契約で直接交渉は禁止されていますし、直接交渉が許されるケースでも中間報酬額が高く設定されている可能性が高いので、直接交渉が許されているからといって安易にM&A業者との契約を切るのは避けるべきでしょう。
自社内の人材レベルや費用感などを総合的に考慮して、直接交渉に踏み出すかをご判断ください。
まとめ
ファイナンシャルアドバイザリー契約はM&Aを実行するにあたって不可欠のステップです。
ただし、M&A業者によって契約内容に差異がありますし、当該会社の事業規模や事業会社が望むM&Aの内容・時期によっても適切な契約類型は異なります。
したがって、契約形態・報酬体系・M&A業者の実績・担当者との相性などを総合的に考慮して、どのようなファイナンシャルアドバイザリー契約を締結するかを決するべきでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています