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基礎工事の欠陥とは何か?建物に及ぼす影響と防止方法について解説
建物の基礎は、建物を支える要となる構造体であり、良好な地盤の上に設置することで、その役割を果たします。もし基礎工事に欠陥があれば、地震や台風で建物が倒壊する危険があるため、とても安心して住むことはできません。
この記事では、基礎工事の欠陥とは何かを明らかにしたうえで、建物に及ぼす影響と防止方法について解説します。
1.基礎工事の欠陥とは
居住している建物の床が傾いていたり、建具の建付けが悪くなったりしたら、基礎工事の欠陥を疑った方がいいかもしれません。まず建物の基礎とは何かを解説していきましょう。
(1)基礎の役割
建物の基礎は、建物の荷重や、地震・風等による力を、地盤に伝えて分散させる役割を果たす構造体です。
建物は、基礎を介して地盤の地耐力によって支えられます。
そのため、基礎は、建物の安全性を確保し、建物を利用する人々の安全を守る上で、必要不可欠な役割を果たしています。
そこで、国民の安全を守ることを目的として、建物の構造等を定めている建築基準法令は、「建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下または変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない(建築基準法施行令28条)」と定めています。
(2)基礎の種類
地表付近の地盤が良好で、建物を支えるための地耐力を有していれば、鉄筋コンクリート製のべた基礎や布基礎によって建物を支えます。
これを「直接基礎」といいます。
良好な地盤面が、地面から数メートルから数10メートル下にしか存在しない場合は、鉄筋コンクリート基礎の下に杭を打ち込みます。これを「杭基礎」といいます。
(3)基礎工事の欠陥は2種類
基礎工事の欠陥は、大きく次の2種類に分類できます。
- 基礎そのものが施工不良である
- 基礎が良好な地盤に達していない
基礎は、建築物への荷重等を適切に地番に分散させる役割があります。
そのため、それ自体適切に施工されていなければならず、これが良好な地盤上に置かれることで、本来の役割を果たすことができます。
どちらかの要因がひとつでも欠けた状態だと、基礎工事の欠陥となり得ます。
2.基礎の施工不良による欠陥とは
主な基礎の施工不良による欠陥の種類を解説していきます。
(1)鉄筋の本数が不足
鉄筋コンクリートは、コンクリートが圧縮力を、鉄筋が引張力を負担しています。
単に建物が載っているだけであれば、垂直方向の荷重に対抗すればよく、コンクリートだけで十分です。
しかし、実際には地震や強風などで横からの力が働くため、水平方向の力にも抵抗できる構造が求められます。
工事費削減のために、故意に鉄筋の本数を減らしたり、あるいは無筋にしたりすることで、基礎工事が欠陥になることがあります。
(2)コンクリート強度が不足
コンクリートの強度は構造計算などにより、設計基準強度が定められています(建築基準法令74条)。
コンクリートは、JIS認定工場から出荷された製品を使用することで、必要な強度を保つことができます。
しかし、JIS認定工場以外で製造されたコンクリートを使用した場合、設計強度以下の脆弱なコンクリートになることがあります。
あるいは、JIS認定工場のコンクリートを使用したのに、雨の日に打設したために、大量の水分が混入して、必要な強度にならないことがあります。
このようにコンクリートの強度が不足した基礎工事は欠陥です。
(3)アンカーボルトの取り付けが不良
建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝えるためには、基礎と土台を接続するアンカーボルトの存在が欠かせません。アンカーボルトは、適正な本数を、コンクリート打設前に基礎と垂直になるよう配置しておく必要があります。
アンカーボルトによって、木造建造物の場合、柱や壁等に作用する荷重等を基礎へ伝達する重要な役割があります。
このアンカーボルトの設置を忘れたり、設計図と異なる位置に取り付けたりした基礎工事は欠陥でとなり得ます。
(4)基礎の施工不良が建物に及ぼす影響
基礎の施工不良は、施工者の技術力不足やモラルの欠如等あらゆる要素が要因となり得ます。
基礎が施工不良である場合、水平力に対する耐力が不足するため、地震や強風によって、建物全体が倒壊するおそれがあります。
3.基礎が良好な地盤に達していない欠陥とは
基礎自体がしっかり施工されていても、良好な地盤の上に設置されていなけれればなりません。
地盤は、建物の荷重を負担する重要な役割があるため、良好な地盤でなければ、建物が荷重に耐えられず倒壊する可能性があるからです。
(1)杭が支持層に達していない
地盤が軟弱であり、深い位置にある場合、杭を支持層まで圧入し建物を支えるための支持杭工法が必要となる場合があります。この際に、支持層に到達しているかどうかを確認する必要があります。
2014年に横浜市のマンションで、杭の施工データが流用されていた問題が発覚しました。
杭工事は、打ち込み箇所を掘り進めていき、電流計データの数字の変化によって良好な地盤に達したかどうかを確認する方法があります。
支持地盤に達すると、掘削に対する抵抗が増し、電流の値が一定以上になるので、支持層に達していると判断できるのです。
これを怠り、他の現場のデータを流用すれば支持層に達していない杭を打ち込むおそれがあります。
(2)直接基礎下の地耐力(許容応力度)が不足している
住宅などの小規模な建物で直接基礎を施行する現場でも、地盤調査の結果、地耐力が不足していることが判明した場合は、地盤改良などの対策を講じる必要があります。
この地盤調査を怠ったり、データを無視して工事を進めたりすると、基礎工事の欠陥になります。
(3)基礎が良好な地盤に達していない場合の影響
基礎が支持層に達していない場合、たとえば、建物が徐々に沈んでいくという不具合現象が生じます。
そうすると、「建物が傾いた」「建具の開閉が困難になった」といった現象があらわになります。
社会問題となった横浜市のマンションでも、建物の傾きが顕著になったことから、調査が開始され、杭の施工データを流用していたことが判明しました。
4.基礎工事の欠陥を防止する方法
基礎工事の欠陥を未然に防ぐためには、どのような対策を講ずればいいのでしょうか。基礎工事の欠陥を防止する方法について解説します。
(1)専門家による監理を依頼する
工事で「管理」という言葉を使った場合、工事現場の責任者が工事の進捗などを見守ることをいいます。
通常は、施工者が現場を運営する業務でいわゆる現場監督がそれを行います。
そのため、第三者の立場で公平に工事の状況を判断する可能性は低いです。
同じ「かんり」でも、工事の「監理」だと、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいいます。
監理者を依頼するのは建築主であり、施行者とは契約関係がありませんから、施行者の利益を優先する可能性は低く、建築主の立場で工事を見守ってくれます。
たとえ施工会社が設計した建物であっても、工事監理を別の設計事務所に依頼することで、基礎工事の欠陥を未然に防ぐことができます。
工事監理については、一定の報酬を要しますが、安心な建物を建てるうえで、十分な役割を果たしてくれます。
(2)工事の進捗を自らチェックする
工事現場を自らチェックするのは、建築に関する知識がない人にとっては大変なことです。
また、基礎工事は短期間の間に進められるので、効率的に行う必要があります。
主に、次のようなポイントに着目をして、現場の状況をチェックします。
- 地盤調査の結果を確認する……N値が5以上であることを確認します。ただし、新たに盛土をした土地は、N値が高くても地盤改良工事をした方が安心です。
- べた基礎底板の鉄筋が波打っていないか
- 鉄筋の口径や間隔は設計図どおりか
- アンカーボルトやホールダウン金物が設計書どおり適切に取り付けられているか
- 鉄筋の被り厚さは適正か……鉄筋の被り厚さはスペーサという金具で確保します。型枠が組まれる前に、スペーサが適正に取り付けられていることを確認します。
- 基礎コンクリートの厚さは適正か……型枠が組まれた段階で確認します。
- コンクリートの打設日は適切か……雨が予測されている日のコンクリート打設は避けましょう。万が一打設中に降雨があったら、養生シートを被せて雨水がコンクリートに混入しないようにします。
- 型枠の解体は養生期間を確保する……コンクリートに一定の強度が出る前に型枠を解体するのは、不良な基礎を生み出す要因となります。少なくとも3日間は、型枠に刺激を与えることなく、静かに見守りましょう。なお、コンクリートが一定硬化した後の雨は、むしろ強度を促進する効果がありますから、養生シートで保護する必要はありません。
建築主が現場を注視することで、施行者も緊張感をもった仕事が余儀なくされますから、それだけでも基礎工事の欠陥を防止するのに大きな効果が期待できます。
まとめ
基礎工事の欠陥を未然に防ぐための手段の1つに、施行者と契約関係のない第三者の立場となる設計事務所に工事監理を依頼する方法があります。
また、設計事務所に依頼するのが最善の方法ではありますが、費用的に困難な場合は、基礎工事の基本的な知識を身につけて、自らが工事の進捗を見守る方法も有効です。
もっとも、建物は、これを利用する人だけでなく、その周辺に居住する人や近くを歩行する人等、多くの人々にとって安全なものでなければなりません。
たとえば、コンクリートの必要な強度が満たされていないような場合は建築基準法令違反74条違反になり得ますし、アンカーボルトの取り付け等に不備があれば、42条2項違反となり得ます。
また、売買契約の目的である建物が、買主の求める品質を有していなかったった場合、買主は売主に対して、契約不適合による契約不履行を追及することができます。
さらに、新築住宅については、住宅品質確保促進法(品確法)により、特別な保護が図られています。
たとえば、請負人・売主は、新築建物の引き渡し後、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵について、最低10年間は責任を負い、20年まで伸長することができます。
以上のように、建物に関する法律関係は極めて複雑でありながら、法律に違反した場合のリスクも大きいため、建物の売買や工事等の際には、必ず弁護士に相談するようにしましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています