企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
電子署名の作成方法とは?契約手続き簡素化のポイントを解説
複雑化する経済社会のなかで各企業が存在価値を示すためには、目新しいサービス・商品を世の中に提供することだけではなく、企業活動の効率化・合理化を推し進めて次世代対応型の企業を創造することが急務です。
たとえば、デジタル化が声高に叫ばれる現代においては、企業のバックオフィス部門の業務体制を抜本的に見直して社会情勢に対応するべきでしょう。
そこで今回は、コストカット・業務効率化に役立つ「電子署名」の意義・作成方法について解説します。
自社業務と相性の良い電子署名サービスを積極的に採用して、デジタル社会に対応できる組織体制構築を目指しましょう。
1.電子署名の意義と機能
近年普及し始めている電子署名については、「電子署名及び認証業務に関する法律」において詳細な規定が定められています。
(1)電子署名の要件
「電子署名」とは、電磁的記録に記録できる情報について行われる措置であって、以下2つの要件を満たすものをいいます(第2条各号)。
①当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること
②当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること
つまり、「電子署名」の意義は、「本人性」「非改ざん性」を担保することにあるといえるでしょう。
(2)電子署名の推定機能
また、本人による電子署名が付されている場合には、電子署名文書の真正な成立が推定されます(第3条)。
真正な成立とは、名義人の意思に基づいて当該文書が作成されていることを意味します。
契約書等の文章は極めて重要な証拠なので、その名義人がその意思に基づいて作成したかどうかが重要です。
そのため、民事訴訟法では、名義人の署名・押印があれば、本人の意思で作成されたことを推定する規定があります(民訴法228条4項)。
そこで、電子署名においても、本人による電子署名が付されている場合には、当該文書の真正な成立が推定される規定がおかれているのです。
このように、電子署名には、従来の物理的な署名・押印に代わる重要な役割があるといえます。
もっとも、本人による電子署名が付され、3条の適用を受けるか否かは、その後の紛争を未然に防ぐためにも極めて重要な事項であるため、弁護士といった法律の専門家のアドバイスを受けるべきでしょう。
参考:利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A
そして、電子署名サービスが適正に運用されれば、次で紹介するようなデジタル化の恩恵を受けられるようになります。
2.電子署名を作成するメリット3つ
ビジネスシーンで電子署名を利用するメリットは次の3点です。
- 契約手続きの簡素化・迅速化
- 契約手続きのコスト削減
- 電子契約書なので収入印紙代を節約できる
- 経営意思決定への貢献
(1)契約手続きを簡素化・迅速化できる
電子署名による契約手続きを採用すると、手続きの簡素化・迅速化が実現します。
そもそも、紙媒体で契約手続きを行うためには、対面なら契約書の作成・印刷・押印という流れが不可欠ですし、遠隔地との取引の場合には郵送・返送にも時間を要するというデメリットを避けられませんでした。
これに対して、電子署名を採用すれば、そのような時間的なコストを削減することができます。
また、従来の契約手続きに必要だった時間・労力を別の業務に振り分けられるので、電子署名には業務効率化促進の効果が期待できると考えられるでしょう。
(2)契約手続きのコストを軽減できる
電子署名による契約手続きを採用すれば、紙媒体にかかる費用を大幅に節約できるというメリットが生じます。
たとえば、紙媒体の契約書が不要になるため、ペーパーレス化が実現します。
用紙代・印刷代・インク代だけではなく、プリンターなどの費用負担も軽減できるでしょう。
(3)印紙税が非課税になる
紙媒体の契約書の場合、印紙税法の課税対象になると契約書ごとに収入印紙を貼り付ける必要があります。
これに対して、電子契約書は印紙税非課税という運用が採られているので契約手続きコストを大幅に節約可能です(ただし、電子契約書をプリントアウトして押印する場合には収入印紙が必要になることがあります)。
契約書を紙媒体で作成した場合に発生する印紙税額(電子契約書により節約可能な印紙税額)については、「No.7140 印紙税額の一覧表(その1) 第1号文書から第4号文書まで(国税庁HP)」をご参考ください
(4)経営の意思決定への貢献
大量に蓄積されている契約書等を電子化してデータとして管理することで、これらを業績予測や業務の改善に役立てることができます。
このように、電子署名を導入することは、結果的に経営の意思決定について役立てられるということも大きなメリットのひとつでしょう。
3.電子署名を作成する注意点2つ
たとえばデジタル改革関連法の成立に見られるように、国策としてデジタル化推進の動きが強まっているなか、企業としても積極的に電子署名文書を取り入れて業務効率化を目指すべき状況になっていますが、電子署名文書を取り入れる際には次の2点に注意する必要があります。
- 電子署名文書が利用できる契約場面か否か
- 電子署名文書の有効性を担保できる環境が整っているか
それでは、電子署名を作成する際の2つの注意点について、それぞれ具体的に見ていきましょう。
(1)電子署名を使える場面かを確認する
紙媒体書面からデジタル文書に切り替える際には、電子署名文書が使える場面か否かを事前に確認しましょう。
なぜなら、例外的に一部業務分野では紙媒体の契約書を作成することが法的要件として掲げられていたり、法的な要請でないとしても商慣習等から紙媒体の契約書発行を求められていたりするからです。
また、相手方の承諾がある限り電磁的方法による契約書面の交付が許容される場合もあり得ます。
たとえば、電子署名文書が使えるか否かについて慎重な判断を要する場面として、次のようなものが挙げられます。
- 不動産取引における媒介契約書・重要事項説明書
- 定期借地借家契約書
- 任意後見契約書
- 訪問販売等で交付する書面
- 公正証書
- 貸金業や風俗営業など、契約トラブルが頻発する可能性が高い契約類型 など
このように、契約当事者間で情報の不均衡が存在するケース・契約締結によって一方当事者が不当に不利益を被るリスクがあるケース・作成した書面を公正証書として保管しなければならないケース等では、書面を作成とその交付が義務付けられ得ます。
そのため、結果として全面的な電子署名運用がトラブル要因になるリスクを避けられません。
したがって、電子署名化によって業務効率化の向上などを目指す場合には、デジタル化によって生じ得る契約相手方の不利益にも配慮するような運用が求められると考えられます。
電子署名が許容されうるケースか否かは、法律的な問題も含まれ得るため、必ず弁護士のアドバイスを受けるようにしましょう。
(2)電子署名の有効性を担保する
電子署名文書を業務内に取り入れる場合には、電子署名の有効性を担保する環境が整っているかにも注意しなければいけません。
まず、契約書などをデータ管理することになるので、ハッキングなどへのリスクヘッジ体制を整備する必要があるでしょう。
たとえば、社内にデジタル人材を採用する、安心安全なクラウドサービス等と契約する、情報漏洩などの事態が発生したときに迅速に対応できるような社内マニュアルを完備するなどの対策が考えられます。
次に、電子署名文書が「本人証明・非改竄証明」の役割を担う点に鑑みて、電子証明書・タイムスタンプを用いることが求められます。
なぜなら、電子署名文書の方が偽造・変造リスクに対応でき幅広いビジネスシーンで通用する証明サービスを採用した方が電子署名文書に対する安心感・安全性が増すと考えられるからです。
なお、電子証明書・タイムスタンプなどの完全防止対策を利用するためには、事前に認証局で登録手続きを済ませて自社の専用IDを作成する必要があります。
4.電子署名の作成方法
さいごに、実際に電子署名を作成する際の流れについて具体的に見ていきましょう。
(1)PDF文書に電子署名する方法
PDF文書に電子署名する流れは次の通りです。
- 署名箇所を指定する
- デジタルIDを設定する
- 電子署名を追加する
- 送信者側が電子署名を付与したPDFファイルを「書き出し」、受け取り手に送信する
- 受信者側がPDFファイルをインストールする
参照:「PDFファイルで電子署名を利用する方法(Acrobat DC/Acrobat Reader DC)」Adobe HP
(2)ワード・エクセル・パワーポイントで電子署名する方法
Microsoft OfficeのWord・Excel・PowerPointで電子署名を作成する流れは次の遠いです。
- 電子署名を付与するファイルを開く
- 電子署名を付与する場所で「挿入」をクリック、「署名欄の追加」を選択
- 「署名の設定」でダイアログボックスに必要情報を記載
- 「署名」をクリックし、手書きもしくは画像を追加、保存
参照:「Office ファイルでデジタル署名を追加または削除する」Microsoft HP
(3)各種電子署名サービスを利用して作成する方法
現在、多くの電子署名サービスが展開されているため、自社内で統一サービスを導入するのも選択肢のひとつです。
電子署名を付与するだけではなく、電子署名サービス内で文書作成・保存が可能な商品も販売されているので、現在の自社システムと連携しやすいものを選びましょう。
たとえば、代表的な電子署名サービスは次の通りです。
まとめ
現在、多くの企業が電子署名などの新しいツールを取り入れて企業活動の合理化を目指しています。
確かに、新規システムに慣れるまでの間は予測不能なトラブルに見舞われる可能性もありますが、時代遅れの業務体制に固執し続けたままでは、競合他社・時代・社会全体から大きく取り残されて、多くのビジネスチャンスを失うことにもなりかねません。
デジタル後進国と言われた日本でさえ、国策として多業界におけるIT技術普及を目指し始めている状況です。
電子署名などの新しい技術を積極的に取り入れて、今後更なる発展が予測されるデジタル社会に乗り遅れないようにしましょう。
そして、それに伴って生じうる法律上の紛争に備えて、弁護士の専門的なアドバイスを受けるようにしましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています