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不動産買取時に締結する基本契約書とは?売買契約書の意義や雛形を紹介
不動産買取業者・不動産仲介業者・直接取引のいずれであっても、不動産を売買するときには通常「不動産売買契約書」または「土地売買契約書」を取り交わします。
民法上、不動産売買契約が有効なものとして扱われるには書面の交付は必須ではありませんが、高額資産の取引である以上、実務上は契約書が交わされるのが一般的です。
そこで、今回は、不動産買取時に締結する不動産売買契約書について解説します。
あわせて、契約書に記載するべきポイント・雛形や手続き上の注意点も紹介するので、さいごまでご一読ください。
1.不動産買取時に締結する基本契約書とは
不動産売買契約書とは「契約当事者間で目的不動産を売却する意思と買取する意思が合致していること」を証する書面のことを指します。
(1)不動産買取の基本契約書は法的な要請ではない
そもそも、民法上は、不動産売買契約の成立要件に「書面」を掲げていません。
つまり、売買契約は契約当事者の合意だけで成立するので、本来ならばわざわざ契約書を作成する必要はないということです。
(売買)民法第555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。 |
(2)契約書が必要なのは複雑な不動産買取実務に対応するため
もっとも、スーパーなどで日用品を購入するのとは異なり、不動産取引は高額な資産のやり取りです。
また、所有権移転登記等の登記手続、不動産にそもそも問題があった場合の取り決めなど、商品を渡しさえすれば取引が完了するという性質のものでもありません。
このように、相手方との条件交渉、契約内容の確定、求められる手続きなど、不動産売買には特有のポイントが存在するため、合意した内容は書面で保存し、客観的に証明できるようにしておく必要があります。
2.不動産買取時に締結する基本契約書の記載事項・特約条項を具体的に紹介
それでは、不動産買取時に締結する基本契約書の記載内容・特約条項などについて具体的に見ていきましょう。
基本契約書の記載事項・特約条項 | 内容・注意点 |
目的不動産の表示 | 土地・建物の特定に必要な客観的情報を記載。登記情報の確認が不可欠。誤記があると契約自体無効になる可能性あり。 |
売買代金・手付金額・支払期日 | 代金についての取り決め。手付金は売買価格の5%~10%が目安。 |
売買対象面積 | 土地の場合、登記簿記載の面積と、実際に測量した場合の面積が異なることもあるため、いずれの基準による面積で特定するかを明確にしておく。 |
所有権の移転時期・物件引渡日 | 契約日ではなく代金決済日と同日とするのが一般的。土地の引渡しは、引渡し確認書を買主に交付することが多い。 |
公租公課の精算 | 年度途中で不動産売買を行う際には、固定資産税・都市計画税などの負担割合の取り決めが必要。 |
反社会的勢力の排除 | 契約当事者が互いに暴力団等でないことの確認。 |
ローン特約 | 不動産のような高額資産の売買の場合、買主側がローンを組むことが多い。ローン特約がなければ、買主がローン審査に落ちた場合に違約金の負担が発生しかねない。買主側にとって重要な記載事項。 |
負担の消除 | 抵当権・賃借権など、完全な所有権の行使を阻害するような要素を事前に抹消する旨の確認。 |
付帯設備等の引渡し | 売主から買主に引き継ぐ付帯設備区分を明記。引渡し項目に挙げられた付帯設備に瑕疵が見つかると賠償責任が発生しうる。 |
手付解除 | 手付解除の方法、期限について。 |
危険負担 | 売買契約成立後~物件引渡しまでの滅失・毀損の対処法。自然災害・不慮の火災などの場合に、売主・買主の負担割合などについて。 |
契約違反による解除 | 契約違反発生時の解除条項。何が解除理由になるのか、解除時の違約金額などについて記載。 |
契約不適合責任(瑕疵担保責任) | 物件引渡し後に、通常あるべきものとされる品質または性能に欠陥が見つかった場合の扱いについて。賠償責任の範囲、請求可能額、責任の発生期間などを明記。 |
その他特約事項 | 契約の内容は当事者間で自由に決定できるので、双方で話し合って合意を形成した内容は明記しておく。 |
先ほど紹介したように、民法上は、売買契約の目的物が特定されており、対価である代金について契約当事者間で合意が形成されていれば、それだけで不動産の売買契約は成立します。
つまり、「売買契約の有効性に関わる記載事項以外」について漏れがある基本契約書を作成しても、契約の成立にあたって何の問題もないということです。
ただし、不動産売買のような高額資産の移転では、万が一のケースを想定して契約の詳細をつめておいた方がリスクヘッジになりますし、ローン特約や契約不適合責任のように売買手続が終わった後で金銭負担が生じる事項もありますので、合意内容については契約書を作成して明記をしておくべきでしょう。
不動産仲介業者に依頼をすれば基本契約書の雛型を用意してくれますし、不動産買取業者なら契約不適合責任の完全免除特約などを盛り込んだサービスも期待できます。
不動産買取をめぐるトラブル回避を考えるのなら、基本的には不動産業者に依頼をし、直接取引をする場合は弁護士・司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
3.不動産買取時に締結する基本契約書についての注意点
さいごに、不動産買取時に締結する基本契約書(不動産売買契約書)に関連する注意点を3点紹介します。
- 不動産買取時の必要書類(基本契約書以外)
- 不動産売買の基本契約書を自分で作成することの是非
- 不動産売買契約書と土地売買契約書の違い
(1)不動産買取で基本契約書を締結する前に何を用意するべきか
不動産の売買には、基本契約書以外にもさまざまな書類を用意しなければいけません。
具体的な買取手続がスタートした段階で一度に用意するのは大変なので、必要書類は事前に用意しておくことをおすすめします。
不動産の種類によって必要な書類は異なりますが、一般的に以下のようなものが必要となります。
- 本人証明に必要な書類(身分証明書・印鑑証明書・実印・住民票)
- 権利証(登記済証)
- 固定資産税納税通知書・固定資産税評価証明書
- 銀行口座書類、ローン残高証明書
- 建築確認通知書・検査済書(マンション買取を除く)
- 耐震診断報告書
- 建築図面・工事記録書
- 土地測量図面・建物図面(マンションを除く)
- 管理規約書・使用細則(マンションのみ)
- 購入時のパンフレットなど
不動産買取業者によって必要書類が異なるケースがあるので、詳しくは買取依頼をご検討の不動産業者までお問い合わせください。
(2)不動産買取で締結する基本契約書は自分で作成できるのか
不動産の売買契約書は、不動産仲介業者に依頼をした場合には、売主側・買主側のいずれかの不動産会社が作成をしたうえで、他方の不動産業者に確認をしてもらう流れが一般的です。
また、不動産買取業者に依頼をした場合には、不動産業者側で用意をしてくれます。
とはいえ、親族に不動産を売却するように、わざわざ仲介業者に依頼するメリットが見られないケースも少なくありません。
そのような場合であれば、不動産売買契約書を自分で作成して手続きを進めることも可能です。
ただし、トラブルを予防できる売買契約書を作成したり、登記手続をスムーズに行ったりするには専門的な法的知識が不可欠であり、素人が自ら行うにはハードルが高いのが実際のところです。
ですから、不動産仲介業者に依頼するかどうかはさておき、個人間で不動産取引をする際には、弁護士・司法書士などにアドバイスを求めるべきでしょう。
(3)不動産売買契約書と土地売買契約書は違うのか
不動産売買契約書と土地売買契約書では「契約の目的物」が異なります。
土地売買契約書における目的物は「土地」です。これに対して、実務上、不動産売買契約書の目的物は「土地・建物」とされています(もちろん、不動産売買契約書の目的物が「土地」だけであっても差し支えありません)。
つまり、マンション売却のように「土地以外のもの」が売買目的物に含まれる場合には不動産売買契約書を、純粋に土地だけを売却する際には土地売買契約書を作成するのが一般的です。
ただし、土地・建物の売買はいずれも登記手続き等が必要なので共通点が多く、内容・記載項目には大きな違いはありません。
まとめ
不動産を売買するときには、契約書を作成するのが一般的です。
インターネットで検索すれば契約書の雛型が見つかるので、売買の対象となる不動産のことを互いによく分かっていて、相手のことも互いによく分かっているというような、トラブルが発生する危険が非常に低い場合なら、売主・買主が自分で不動産売買契約書を作成しても差し支えないでしょう。
もっとも、不動産は一般的に高額かつ長期に渡って保有するものですから、親しい間柄同士の取引であっても、契約書に明記しておいたほうが望ましい条項は少なくありません(危険負担、負担の消除、各種特約など)。
不動産を個人から直接買い取るときには、弁護士・司法書士などの専門家に相談のうえ、円滑に不動産取引ができる環境を整えましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています