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特許の実施許諾契約とは?知的財産をビジネスに活用するポイント
特許は、他人にその使用を認めることで、さらなる利益を生み出すことができます。
特許の使用を認める契約が、特許の実施許諾契約です。
特許の実施許諾には、さまざまな展開に隠れたリスクが潜んでいるため、契約においては、あらゆる事態を想定して事項を定めなければなりません。
この記事では、特許の実施許諾契約の実情を明らかにしながら、ビジネスに活用する際のポイントについて解説します。
1.特許の実施許諾契約とは
特許の実施許諾契約とは、特許権者が依頼者に特許の実施を許諾する契約のことです。
特許の実施許諾を「ライセンス」ともいいます。
許諾をする特許権者は「ライセンサー」であり、許諾を受けた実施権者は「ライセンシー」と呼ばれます。
特許は、ライセンサーが独占的に実施することで利益を生み出しますが、他人に実施を認めることで、さらなる利益の可能性が広がります。
この他人に実施を認める契約が、特許の実施許諾契約です。
実施許諾契約を結ぶことで、ライセンサーは、相手方(ライセンシー)から実施料(ロシヤリティ)を得ることができます。
一方で、ライセンシーは特許の使用を許諾されたことで、自社製品に組み込むことができ、さらには、研究開発費の費用や時間を節約することができます。
特許の実施許諾契約において、「実施」とは、発明品の生産、使用、譲渡、輸出、輸入、譲渡の申出をする行為をいいます。
また方法の発明にあっては、そのノウハウを使用する行為をいいます(特許法2条3項)。
したがって、実施許諾契約において、実施権を許諾する場合の実施権の態様は、それらの行為のいずれかに該当します。
ただし、生産のみ、あるいは譲渡(販売)のみを実施許諾することは、ほとんど意味がなく、「生産と使用」あるいは「生産と譲渡」がセットになった契約が一般的です。
これらが一体となることで利益を生み出し、実施許諾契約を締結した意義が生じるからです。
2.実施権の種類
特許の実施許諾契約によって、ライセンシーは特許を実施する権利を有します。
この権利を実施権と言います。実施権には、専用実施権と通常実施権の2種類があります。
それぞれの実施権の特徴を解説していきましょう。
(1)専用実施権とは
専用実施権とは、ライセンシーが、独占的かつ排他的にその特許発明を使用することができる権利のことです(特許法77条2項)。
専用実施権が設定された範囲内では、ライセンサーですら、その特許発明を使用することができなくなります。
なお、この権利は、契約締結だけでなく、専用実施権の設定登録を特許庁にしなければ効力は生じません。
(2)通常実施権とは
通常実施権とは、ライセンス契約で設定した範囲内でライセンシーが特許を実施することができる権利です(特許法78条2項)。
専用実施権のような独占的・排他的に実施できるわけではありません。
ライセンサー自身が実施できるのはもちろんこと、ライセンサーはさらに複数の者と実施許諾契約をすることも可能です。
なお、通常実施権は、契約上、独占的通常実施権と非独占的通常実施権が存在します。
ただし契約上の使い分けなので、特許庁への通常実施権の登録において、「独占的」「非独占的」の区分はありません。
独占的通常実施権とは、ライセンサーが他の者に対して重ねて特許発明の使用を許諾しないという特約を付けたものです。
専用実施権と似ていますが、ライセンサーが自己実施権を留保できる点が異なります。
また、海外における契約で、「専用実施権」と同等の権利が定められていない国でのライセンシーに実施権を独占させる場合に用いられます。
3.特許の実施許諾契約は何を定めるのか
特許の実施許諾契約においては、対象や目的などを明確に定めなければ、契約そのものが有効なものとはなりません。
実施許諾契約において定めるべき事項について解説していきましょう。
(1)対象となる特許の特定
基本的なこととして、対象となる特許を特定する必要があります。
対象となる特許を特定するには、実施許諾契約書に「特許番号」と「発明の名称」を記載する方法が有効です。
「特許番号(登録番号)」とは、特許を取得したときに、その特許発明に対して特許庁が付与する番号です。
「特許番号」と「発明の名称」を契約書に記載することで、第三者に対して、対象の特許の実施権を主張することができます。
(2)ライセンスの範囲
「ライセンスの範囲」とは、特許を使用する期間や地域のことです。
許諾期間は、始期と終期を明確にする必要があります。
始期は、➀契約を締結した日、②当事者で合意した日、③契約が発行した日のいずれかで決めます。
終期は、➀将来の特定の日、②一定期間が終了する日、③特許権の存続が満了する日のいずれかから決めます。
許諾地域とは、許諾した特許を使用して生産、販売する地域を特定するものです。
輸出を禁止したり、輸出する国を限定したりすることもできます。
ライセンシーがその範囲を逸脱して特許を利用していると、契約違反として損害賠償請求の対象となる可能性があります。
(3)実施許諾料
基本的に、実施許諾契約においては、ライセンサーに対して実施許諾料を支払う内容で締結します。
実施許諾料に対する法律上の規定はないため、金額やその計算方法、支払方法については、当事者間の合意で決められます。
主な実施許諾料の種類には、「定額実施料」と「経常実施料」があります。
定額実施料は、販売実績とは無関係に、契約時に一定の金額を定めて支払う方法です。
支払いは、一括払いと分割払い(月・年)があります。
契約時に金額と支払方法が確定できるので、双方に分かりやすい点がメリットです。
しかし、事業が想定どおりにいかなかった場合、ライセンシーへの負担が大きくなり、反対に事業が想定以上に成功した場合にあっても、ライセンサーは、追加料を受け取ることができません。
経常実施料は、ライセンシーが獲得した実績に応じた金額を受け取る方式です。
売上金額や利益額などから実施料率を用いて算出する料率制と、製品の生産数に比例して算出する従量制があります。
売上や生産量についての具体的内容(返品、交換品の扱いなど)について、細部にわたり定めておく必要があります。
(4)改良発明の取扱
実施許諾を受けた特許を利用する際に、ライセンシーが特許を応用して改良することや、関連した流れで新たな発明をすることがあります。
これらの発明は、ライセンシーが創造したものであり、ライセンシーが特許を取得できるものですが、発明の土台となったライセンサーが、何らか権利を得たいと考えるのも自然のことです。
しかし、ライセンシーに対して、改良発明に関する権利をライセンサー側に帰属させることや共有することを義務とした場合、独占禁止法で禁止されている「不公正な取引」に該当する可能性があります。
これを回避するためには、改良発明や関連発明の譲渡に対して、相応の対価をライセンサーがライセンシーに支払うという方法があります。これにより基本的には「不公正な取引」には非該当になります。
(5)不争義務
不争義務とは、ライセンシーが、対象となる特許の有効性については争わない義務のことをいいます。
もし特許を取得した発明が、特許権を与えるべきものでないことが判明した場合、特許が無効になってしまいます。
無効になれば、ライセンシーは実施料の支払を免れることができます。
ライセンサーとしては、実施権を与えたばかりに特許権を失う事態は避けたいので、不争義務を課すことで、特許権が無効となる理由がないかライセンシーが詮索する行為を牽制できるのです。
まとめ
特許の実施許諾契約は、発明品の生産、使用、譲渡、輸出、輸入、譲渡の申出をする行為、またはノウハウを使用する行為のいずれかを実施することを認めたものです。
ただし、生産のみ、あるいは譲渡(販売)のみを実施許諾することは、ほとんど意味がないため、「生産と使用」あるいは「生産と譲渡」がセットになった契約が一般的です。
特許の実施許諾契約によって得た実施権には、専用実施権と通常実施権の2種類があります。
専用実施権を得たライセンシーは、独占的にその特許を使用することができます。
ライセンサーですら、その特許発明を使用することはできません。
一方で通常実施権では、ライセンサーは、複数のライセンシーに対して、特許の実施を許諾することができます。
しかし、独占的通常実施権を締結した場合は、他のライセンシーに実施権を許諾することはできません。
特許の実施許諾契約においては、対象や目的などを明確に定めなければ、契約そのものが有効なものとはなりません。
そのため、次のような項目について定める必要があります。
- 対象となる特許の特定……実施許諾契約書に「特許番号」と「発明の名称」を記載します。
- ライセンスの範囲……特許を使用する期間や地域を記載します。
- 実施許諾料……「定額実施料」と「経常実施料」があります。
- 改良発明の取扱……ライセンシーが特許を応用した改良発明を無償でライセンサーに帰属させることは独占禁止法に抵触する可能性があります。
- 不争義務……リスクを回避するため、ライセンシーが、対象となる特許の有効性については争わない義務をいいます。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています