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SES契約により受託した業務はどこまで責任範囲があるのかを解説
SES契約とは、システムエンジニアの技術力を提供するための契約です。
労働者を委託事業者先に派遣するので、派遣社員と混同することがありますが、両者の責任範囲は大きく異なります。
そればかりか責任範囲を明確にしておかないと、偽装派遣としてペナルティの対象になることもあるのです。
この記事では、
- SES契約で受託した業務はどこまで責任範囲があるのか
について解説します。
1. SES契約とは
「SES契約(System Engineering Service)」とは、システム、ソフトウエアなどの開発、保守などを業務委託する契約の一種で、当該業務に従事する技術者の労働を提供するために締結される契約のことをいいます。
(1)準委任契約
システム開発業務の発注では、「請負契約」あるいは「準委任契約」のいずれかの契約をします。
請負契約は、仕事の完成を目的としていますが、準委任契約は仕事の完成を目的としていない点に大きな違いがあります。
SES契約をした場合、基本的に仕事の完成を目的とせず、技術者の労働を提供することを目的とするので、法的には準委任契約に該当します。
「委任」とは、当事者の一方が法律行為を委任することをいいます(民法643条)。
システム開発サービスは法律行為ではありませんから、法律行為以外の事務の委任である準委任になります(民法656条)。
(2)受託会社からのみ指揮命令を受ける
派遣労働者であれば、派遣先の直接雇用労働者と同様に派遣先事業者から業務の指揮命令を受けます。
しかし、SES契約においては、労働者は、自身の雇用主である受託会社からしか指揮命令を受けません。
委託事業者は、受託会社から派遣された労働者には直接指揮ができませんから、必要な場合は、受託会社の現場責任者に対して指示を出すことになります。
2.SES契約の責任範囲とは
SES契約で、受託者はどこまでが責任範囲になるのか解説していきましょう。
(1)仕事の完成は責任範囲ではない
仕事を完成させる義務がある請負契約では、期限までに完成させないと債務不履行になり、損害賠償責任を負います。
一方、SES契約は準委任契約であるため、結果とは無関係に、所定の時間に技術やサービスを提供することで、報酬を得ることができます(民法648条2項)。仕事の完成は責任範囲ではありません。
(2)「成果完成型」準委任では成果物が求められる
2020年4月の改正民法施行により、準委任契約に「成果完成型」が創設されました。
ここでは、「委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない(民法648条の2第1項)」とされています。
SES契約において、成果完成型の準委任契約を締結した場合、受任者は契約で定めた成果物を納めなければ、報酬を請求することはできません。
(3)契約不適合責任は負わない
準委任契約では、契約不適合責任は負いません。
契約不適合責任とは、成果物に欠陥や品質不良などの不備があった場合に、受託者が負う責任のことをいいます。
請負契約では、請負人に契約不適合責任が発生しますが、準委任契約は、報酬を支払う対象が成果物ではなく作業であるため、契約不適合責任を負うことはありません。
(4)「成果完成型」のSES契約における責任
成果完成型のSES契約では、契約不適合責任こそないものの、別にいくつかの責任を負います。
成果完成型では、作業完了時に報酬が支払われるのではなく、その結果として完成した成果物の引渡しと同時に報酬が支払われます。
受託者は、単に作業の遂行だけでなく、成果物の完成を求められるので、完成できない事態になれば、債務不履行責任を負います。
また受託者は善管注意義務を負います(民法644条)。
善管注意義務とは「善良な管理者の注意義務」のことで、受託者は、当該地位にある者として通常要求される程度の注意義務を払うことが求められます。
システム開発の専門家として求められるレベルのスキルや業務を遂行する注意義務を負うため、善管注意義務を怠ったことが原因で仕事が完成しなかった場合は、損害賠償を請求されることがあります。
3.「偽装派遣」にならないための責任の明確化
SES契約によって、受託労働者が委託事業者先に常駐して作業をすることになります。
しかし、委託事業者が受託労働者に次のようなことを行っていれば、SES契約が偽装派遣と判断されることがあります。
- 業務方法に関する技術指導・教育
- 作業工程の作成、調整、指示
- 能力評価等
- 作業日数・作業時間の管理
- 作業員数の決定、配置および変更
- 業務の処理に必要な機材等の供給
SES契約が偽装派遣と判断された場合、発注事業者や受託会社は、罰則を受ける可能性があります。
そのため、契約書で責任範囲を明確にしたうえで、それを順守する必要があります。
(1)委託事業者の罰則
偽装派遣と判断された場合、受託会社が派遣事業の許可を得ていないと、労働者派遣事業主以外から派遣労働者を受け入れたこととなり、罰則(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)の対象となります(労働者派遣法59条2号)。
(2)受託会社の罰則
偽装派遣に該当すると判断された場合、派遣事業の許可を得ていなければ、1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となります。
派遣事業の許可を得ていたとしても、偽装派遣の場合には、派遣元事業主に求められる労働者派遣契約の締結(労働者派遣法26条)の義務を履行していないとして、厚生労働大臣の指導・助言(同法48条1項)、改善措置命令(同法49条)、是正措置勧告(同法49条の2)などの行政監督の対象となります。
労働者供給に該当する場合には、労働者供給事業の禁止に反するものとして、1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となります(職業安定法64条10号)。
(3)負担責任を契約書に記載する
旅費交通費、器具、備品、消耗品などを委託事業者が負担することも偽装派遣と判断される要因となります。
通常、受託会社で負担すべき経費を委託事業者が負担をしていれば、委託事業者は受託会社の労働者を自社の社員と同列に扱っていると見なされるからです。
ただし、必ずしもこれらの負担が否定されるわけではありません。
委託事業者が負担する場合は、たとえば、次のような文面によって、委託事業者が負担することに合意したことを契約書面に記載することで適法となります。
「○○条(費用負担) 本件業務の遂行に必要な旅費交通費、器具・備品、消耗品等にかかる費用はすべて甲(委託事業者)が負担するものとし、甲と乙(受託会社)との間で別途の合意がある場合を除き、乙は甲に対し委託料以外の費用を請求できないものとする。」
まとめ
SES契約は、基本的に仕事の完成を目的としていないので、法的には準委任契約に該当します。
準委任行為では、所定の時間に技術やサービスを提供することで報酬を得ることができます。
仕事の完成は責任範囲ではありません。ただし、成果完成型のSES契約では、成果物の完成が求められます。
また成果完成型のSES契約は、契約不適合責任を負うことこそないものの、成果物が完成できない事態になれば、債務不履行責任を負います。
さらに善管注意義務を怠ったことが原因で仕事が完成しなかった場合は、損害賠償を請求されることがあります。
SES契約によって、受託労働者が委託事業者先に常駐して作業をすることになります。
派遣労働者と類似しているため、SES契約が偽装派遣と判断されることがあります。
そのため、委託事業者が受託労働者に直接指示を出さないといったルールの順守が求められます。
さらに経費負担についても、負担範囲を契約書において明確にしておく必要があります。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています