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日本政府、ハーグ送達条約による郵送送達に拒否宣言―日本企業が注意する必要のある点

2019年8月8日
日本政府、ハーグ送達条約による郵送送達に拒否宣言―日本企業が注意する必要のある点

2018年12月に日本政府がハーグ送達条約での郵送送達に拒否宣言をしました。
これにより、米国訴訟での日本にいる被告に対して郵送での送達が行われた場合、その有効性を争うことができるようになりました。
本稿では、最初にハーグ送達条約に関する基礎知識をご説明した上で、米国において郵送送達がどのように問題となっていたかを説明し、その後日本政府が拒否宣言に至った経緯、郵送による送達を争う場合のポイント及び日本企業が注意する必要のある点について解説します。

1.ハーグ送達条約がそもそも誰に影響があるか

米国企業と取引のある日本の企業や個人。米国内から日本にいる企業や個人に対して訴訟提起を考えている個人や企業。
日本国外の訴訟で被告になる可能性のある日本にいる企業や個人。

2.ハーグ送達条約とは

2019年時点で日本やアメリカを含む75の国が通称「ハーグ送達条約」(正式条約名:民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約)に加盟しています[1]

ハーグ送達条約では商取引に関連して提起された訴訟における、締約国間での訴状等の送達方法を定めており、締約国間での送達はハーグ送達条約に従って行われなければなりません。
ハーグ送達条約では、各締約国の中央当局(日本の場合には外務省)を通じた訴状等の文書の送達の仕組み等が定められています(第二条)。
訴訟提起された国(本稿では米国)が締約国であり被告が締約国(本稿では日本)にいる場合にはハーグ送達条約に基づいた送達を行う必要がありますが、一方の国がハーグ送達条約の締約国ではない国(例えば台湾等)の場合にはハーグ送達条約による送達は行われません。

3.米国訴訟におけるハーグ送達条約10条(a)の問題

(1)ハーグ送達条約10条(a)

ハーグ送達条約では中央当局を通じた送達を含む、様々な送達方法を規定しており、その中の10条(a)では「この条約は、名あて国が拒否を宣言しない限り、外国にいる者に対して直接に裁判上の文書を郵送する権能を妨げない」と規定しています。

(2)日本は拒否宣言を行っていなかったという事実

まず、米国訴訟におけるハーグ送達条約10条(a)の問題をご説明する上で、前提として、日本が締約国になった1970年以降つい最近まで10条(a)への公式な拒否宣言をしていなかったという事実があります。

(3)米国内における10条(a)の争い

この事実から、米国ではハーグ送達条約が米国に対して有効となった1969年から、10条(a)に基づいて、日本のように10条(a)に拒否宣言をしていない国の被告に対する送達がそもそも認められているのかが長年争われてきました。

この争いが起こってきた理由として、10条(a)は「文書を郵送」することができると定めているのに対し、10条(b)や(c)等では「送達又は告知を」することができると定めているため、10条(a)の郵送するという言葉の解釈が問題となってきました。
郵送という言葉が送達という意味で使われているのか、それとも厳格に解釈し10条(a)に基づいて郵送された訴状等は送達としては有効ではないのかが長年争われていました。

(4)10条(a)の解釈の重要性

この問題が重要である理由は、通常の米国内での訴訟の場合、送達が行われてから(つまり被告が訴状及び召喚状等を受け取ってから)一定の日数以内に答弁をする必要があり(連邦民事訴訟法では訴状及び召喚状受取後21日以内に答弁する必要があります)、訴訟提起がされたことをいち早く察知できたとしても、郵送送達の場合には数日程度の猶予しかなく、訴状受け取り後、被告として答弁を行うのにあまり時間がありません。
米国の顧問弁護士がいない場合には、まず弁護士を探すことから始める必要があり、それだけで答弁の期間が経過してしまうリスクがあります。

それに対し、中央当局を通しての送達では、通常3~6ヶ月はかかることに加え、訴状や召喚状の和訳が必要になるなど、原告にとっては多くの時間及びコストがかかることになります。
一方、被告にとっては、いち早く訴訟提起を察知できれば、早期から準備を行うこともでき、また、場合によっては訴状を中央当局を通さず直接受け取ることに合意する代わりに相手方から有利な条件を交渉して得ることも可能であったりと選択肢が増え、有利に働くことがほとんどです。

これらの理由から、郵送送達が有効であるかは重要です。
また、ハーグ送達条約に基づいて有効な送達を行っていない場合、送達の有効性を争うことができ、裁判所が有効ではないと判断した場合には、再度送達を行うよう命じられることになります。
結果、米国におけるクロスボーダー訴訟では、有効な送達が行われるのに訴訟提起から1年以上かかることも珍しくありません。

(5)2017年、ウォータースプラッシュ事件により10条(a)の争いが決着

「文書の郵送」の解釈に関する争いはついに2017年3月22日にWater Splash v. Menon[2]事件における米国最高裁判決により48年ぶりに決着し、「10条(a)よる郵送は送達である」と解釈されるようになりました。
この判例は条約の解釈であるため、米国の全ての裁判所で10条(a)の解釈がこの判例を基に行われます。
結果、日本が10条(a)に拒否宣言をしていなかったため、日本にいる被告に対する10条(a)に基づく郵送送達が行えるようになったのではないかといわれるようになりました。

4.2018年、日本の拒否宣言

ウォータースプラッシュ事件により、2017年以降、日本のように10条(a)に拒否宣言をしていない国にいる被告に対する郵送送達が全米で行えるようになったところ、2018年12月21日に日本政府がついに10条(a)について公式に拒否宣言を行いました。

結果、米国から日本にいる被告に対して送達を行う場合、2018年12月21日以降は郵送送達が認められなくなり、中央当局を介した外交ルートによる送達を行う必要があることが明確になりました。

5.まとめ

日本の10条(a)への拒否宣言により、米国で長年争われて来た日本の被告への郵送送達の有効性に関する決着がつき、日本の被告に対しては外交ルートでの送達のみが認められるようになりました。

通常、外交ルートでの送達は3ヶ月~6ヶ月程度かかることに加え、日本語に翻訳された訴状や召喚状の作成が必要等、アメリカ側の原告に対する負担が大きいことが特徴です。
また、外交ルートを通じた送達が行われている間に訴訟提起されていることを早期に発見できた場合等には、いずれ受け取る訴状への抗弁をしっかりと準備できることに加え、原告との様々な交渉を行う猶予期間となり、被告にとっては大きなアドバンテージとなります。

ただ、拒否宣言により郵送送達が日本にいる被告に対して有効ではないということを知らずに抗弁をしてしまうと、郵送送達の有効性を争うことができなくなる可能性があるため、米国での訴訟提起の可能性を察知した場合や、訴状を受け取ってしまった場合には、すぐにでも弁護士と相談し、対策を取っていく必要があります。

 

[1] 英語では通称Hague Service Convention、英語正式条約名Convention of 15 November 1965 on the Service Abroad of Judicial and Extrajudicial Documents in Civil or Commercial Matters
[2]Water Splash, Inc. v. Menon, 137 S. Ct. 1504 (2017)

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

外国法事務弁護士(カリフォルニア州法、ハワイ州法)
タイタノ 誠
はじめまして。 外国法事務弁護士(カリフォルニア州法、ハワイ州法)のタイタノ誠と申します。 2007年にアメリカ合衆国グアムで弁護士として登録後、アメリカ合衆国の北マリアナ諸島、カリフォルニア州、及びハワイ州の資格を取得しました。 今まで米国では主に中小企業の企業法務、特に米国の労務問題及びベンチャーキャピタル投資に注力してきました。 それ以外にも米国の民事訴訟や一般民事の経験もございます。 日本語及び英語はどちらもネイティブでの会話及び読み書きができます。 米国での弁護士経験及び言語能力を生かし、最善を尽くしてまいります。
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