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秘密保持契約(NDA)とは|基本定義や書類作成時に役立つ知識
秘密保持契約(NDA=Non-Disclosure Agreement)とは、各種取引の前提として、取引当事者間で開示される情報及びその過程で当事者が知り得た情報の第三者への開示や漏えい等がなされないように締結されるものです。
会社により締結される契約の中では、一定程度定型性がある契約でもありますので、その作成やレビューに資するよう、いくつかのポイントにつき、御説明いたします。
1.一方向の契約か、双方向の契約か
(1)秘密保持契約を作成するに当たっては、その契約を当事者の片方が秘密保持義務を負うとするか、あるいは両当事者が秘密保持義務を負うものとするかをまず決めて作成、レビューしていく必要があります。
作成の仕方は情報を開示するのが一方当事者なのか、双方の当事者なのかによって変わってきます。
片方の当事者が一方的に情報の開示を行い、他方はそれを受領するのみであれば、当該受領する側のみが秘密保持義務を負う一方向の契約でよいということになりますが、他方当事者の側も秘密として保持されるべき情報を開示するということになれば、他方当事者の側としては、両当事者が秘密保持義務を負う双方向の契約にするべく交渉することになるでしょう。
(2)なお、英米法系の法律が秘密保持契約の準拠法となる場合は、considerationがあるか否かということにも注意しておく必要が出てきます。
considerationは約因(やくいん)と訳されますが、いわば対価ないし当事者間の対価関係のようなもので、それがないと英米法系の契約の場合、契約が成立していないとされます。
そこで、当事者の一方のみが秘密保持義務を負うような場合は、一方的に義務を負うということになると、その当事者側に対価として与えられているものがない、約因がないのではないかという問題になる可能性があります。
通常、約因を広くとらえれば(例えば相手方からその秘密を開示してもらえることを対価ととらえる等)問題はなくなりますが、過去に提供された対価は約因とならないといった問題もあるため、情報提供が契約より前にすでに終わっていた場合などは、こうした問題を避けるため、名目上の対価として少額の金銭を払うといった内容の契約にされる場合もあるようです。
また、こうした問題を避けるため、秘密保持契約は、一般的にdeed(捺印証書)として、あらかじめ通常の契約書よりも厳しい締結形式の文書にすることによって合意の拘束力を確保しておくという国もあるようです。
2.保持されるべき秘密情報の範囲
(1)秘密保持契約により保護される範囲は、保護されるべき秘密情報の定義により異なってきます。
書面により、口頭により、その他開示の方法を問わず一方当事者によって開示されるか、必ずしも当事者による具体的な開示によらなくても他方当事者が取引の過程で知った相手方の営業上、技術上その他の一切の情報といったように広く規定される場合もあります。
秘密を守ってもらいたい当事者にとってはこの方が望ましいということになるでしょうが、秘密を守る義務を負う方にとっては、義務を負う範囲が広いということになります。
よって、当事者が秘密保持義務を負う範囲を狭めたい場合は、秘密情報とは、上記のような情報であって開示の際に書面により秘密情報であることが明示されたもの及び口頭等により開示された情報にあっては、開示後何日以内に秘密情報である旨が書面により明示されたものに限ることとするなどの方向で交渉していくことが考えられます。
(2) 秘密情報から除かれるもの
ア 秘密情報からは、一般的に次のようなものが除かれます。
- 開示の時点において既に受領者が保有していた情報
- 開示者が開示するより前に公知、公用であった情報
- 開示後、受領者の故意又は過失によらずに公知となった情報
- 開示後、受領者が秘密保持義務を負わずに第三者から正当な手段で入手した情報
- 開示者から開示された秘密情報によらずに受領者が独自に開発した情報
イ 上記に加えて、開示者側が、第三者への開示につき、事前に(書面により)個別に同意した情報は、秘密保持義務の範囲から除かれ得ます。
また、法令により、あるいは当局からの要請により開示が求められる場合を上記の例外に加えておくこともよくあります。
その場合には、情報の受領者は開示に先立って開示者側に連絡し、協議しなければならず、その上で開示範囲を必要最小限の範囲にとどめるよう努力するといった規定が置かれることもあります。
さらに、秘密情報であっても、秘密情報を知ることが必要な受領者の役員、従業員、弁護士、会計士等には、必要最小限、秘密情報を開示できると規定しておくこともあります。
この場合には、秘密保持情報を開示する受領者が、秘密情報を開示された従業員等と、事前に開示者の同意を得た内容の秘密保持契約を締結するものとしたり、又は、従業員等が当該秘密情報を漏えい等した場合には、それらの者に開示した受領者自身が、自ら漏えい等した場合と同様の責任を開示者に対し負うと規定しておくこともあります。
3.目的外使用の禁止と守秘義務
(1) 最初に述べましたように、秘密保持契約は、各種取引の検討のためにその前提として締結されるものです。
よって、開示される秘密情報も当該取引の検討のため以外には使用してはならない旨を規定しておきます。
(2) また、開示された秘密情報は、秘密に保持されなければならず、受領者は善良な管理者の注意をもって秘密情報を管理すること等が規定されます。
4.秘密情報の返還等
秘密情報を開示した目的が達成されないことが確定した場合等、秘密情報を受領した側が秘密情報を保有しておく理由がなくなった場合には、秘密情報を記録している媒体等の返還や開示者側の指示による破棄などが必要となります。
情報の受領者側で破棄した場合には、破棄したことが確認できる書面の提出を開示者側が求めるという規定にしておくこともよくあります。
なお、法令や内規等により、受領者側において開示者の秘密情報を記録した文書等の保管を要し、必ずしも直ちに返還や廃棄ができない場合には、その旨の例外規定を置くこともあります。
5.秘密保持義務違反の場合の救済
(1)損害賠償
ア 契約違反に対する救済としては、まず、損害賠償があります。民法416条は、債務不履行によって通常生ずべき損害の賠償を原則とし、特別の事情によって生じた損害については、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは(2020年の民法改正法の施行以後は、当事者がその事情を予見すべきであったときは)、その賠償も請求することができるとされています。
ただ、そのような民法の規定があったとしても、実際の損害の範囲を決める上ではやはり困難がありますので、直接的な通常の損害と規定するなどして、間接的な損害は排除する規定にしたりすることもあります。
しかし、損害の範囲を一義的に決めることは、なおなかなか困難ですし、損害があったことの証拠をあげることも困難な場合があります。
イ なお、この点につき、不正競争防止法は、例えば、同法第2条第1項第7号において、「営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為」を「不正競争」に該当するものとし、第5条で、このような不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、
- 侵害者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量に、被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を被侵害者が受けた損害の額とすることができる、
- 侵害者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する、
- 故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対し、当該侵害に係る営業秘密の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる
といった規定を置いています。
同法における「営業秘密」とは、同法第2条第6項で「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」とされており、情報の開示に当たっては、秘密保持契約を締結しないで開示すると秘密として管理されていないものとして営業秘密ではないとされる可能性があるかもしれませんので、注意が必要です。
(2)契約の解除
ア 相手方が契約に違反した場合の救済としては、他に契約の解除が挙げられます。しかしながら、秘密保持契約の場合は、相手方の秘密漏えいに対し秘密保持契約を解除してしまうと、相手方はますます秘密保持義務から免れてしまうことになってしまいます。
このため、秘密保持契約の場合は、契約違反の場合の救済措置として契約解除の規定は置かないことが通常です。
イ 秘密保持契約の中に契約当事者が反社会的団体ではないことの表明保証にあたる規定(以下「反社条項」といいます。)を入れ、その規定に違反した場合は、契約を解除するとして秘密保持契約を解除することにしている契約例も散見されますが、これも上記同様、秘密保持義務をそれで解除してしまってよいのかという問題があります。
秘密保持契約は、上述のように、本体となる何らかの取引の前提となる契約ですので、反社条項を入れる場合は、当該本体となる取引に関する契約の方に入れ、反社条項に違反した場合は、当該本体となる取引の契約を解除するとした方がよいのではないかと思われます。
6.契約期間
秘密保持契約の場合、契約期間を置かずに秘密保持義務の終期を規定しないということも考えられます。
前述した、本体となる取引契約の中に秘密保持条項が入れられている場合などは、本体となる取引に関する契約の終了後も秘密保持義務は存続するとのみ規定され、本体となる取引に関する契約の終了後の秘密保持義務存続期間が書かれていない場合もあります。
秘密を開示する側にとっては、その方がよいということになりますが、開示される側にとっては、義務を負う期間は限定してほしいということになります。
また、その間に開示された情報が陳腐化することもあり得るので、いつまでも秘密保持義務を負うのはどうかということも考えられます。
どのような契約有効期間にすべきかは、開示の目的や、開示される情報の内容等によって決めていくことになるでしょう。
7.用字用語等
(1)「及び」と「並びに」、「又は」と「若しくは」
標記の各用語は、日本語の契約では一般に次のように使われています。契約書を作成する側も、読む側も、そのことを前提に作成し、あるいは読んでいるので、注意が必要です。なお、英語の契約書の場合は、「及び」と「並びに」、「又は」と「若しくは」のような用語の使い分けはなく、その代わりに「,」を入れるなどして書かれている場合がありますので、注意が必要です。
① 「及び」と「並びに」
契約書の中で多くのものを並べていく場合、同じレベルにすべてのものが並んでいれば、各項目は、点でつなぎ、最後の項目の前に「並びに」ではなく「及び」を入れます。
レベルが2段階以上あるときは、一番小さいくくりのグループの最後に「及び」を入れ、それ以上のレベルについてはすべて「並びに」を使います。よって「並びに」の中には、「及び」でつながれているグループの一段上のグループのくくりを示すものと、それ以上のグループのくくりを示すものがあります。「大並び」、「小並び」で記憶しておくと思いだしやすいかと思います。
② 「又は」と「若しくは」
こちらは、各項目を選択的に並べるときに使われますが、「及び」と「並びに」とは逆に、一番大きいくくりだけに「又は」を使い、それより下のレベルのくくりには、「若しくは」を使います。「大若し」、「小若し」で記憶しておくと覚えやすいかもしれません。
(2)漢字、ひらがな、送り仮名
この言葉は、漢字で書くべきなのか、ひらがなで書くべきなのか、漢字で書いた場合、どこから送り仮名をふるべきなのかに迷う場合があるかもしれません。
法的な文書は、一般に、以前は内閣総理大臣官房で監修されていた公用文用字用語例集に則って、漢字、ひらがな、送り仮名を使用しておけばよいでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています