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労働審判に解決金相場はある?弁護士への相談で有利な結論を目指そう
労働審判の解決金は事件ごとの個別事情を踏まえて決定されるので「相場」は存在しません。
ただし、従業員側から提出された主張に対して効果的な反論を展開したり、従業員側に妥協を迫るような示談交渉を展開したりすることによって、解決金を大幅に引き下げることは可能です。
労働審判の解決金について詳しく知りたい方は、下記記事もご覧ください。
不当解雇の解決金に相場はある? 提示金額が低すぎるときの対応方法
そこで今回は、下記項目についてわかりやすく解説します。
- 労働審判の解決金の実態
- 労働審判で解決金の金額が決定する流れ
- 労働審判の解決金を引き下げるコツ
- 従業員から労働審判を申し立てられたときに弁護士へ相談するメリット
労働審判の解決金を引き下げるには、どれだけスピーディーに反論体制に入ることができるかがポイントになります。
労働問題に強い弁護士の力を借りて、できるだけ会社側に有利な条件での紛争解決を目指しましょう。
1.労働審判の解決金の実態
労働審判の解決金の相場について解説します。
具体的な内容は以下のとおりです。
- 労働審判の解決金相場は存在しない
- 労働審判の解決金額を決定する要素
- 労働審判の解決金の実態
(1)労働審判の解決金相場は存在しない
そもそも、労働審判の解決金に相場は存在しません。
なぜなら、事件によって争点は異なりますし、また、違法状態の内容・深刻度などにも差異があるからです。
例えば、懲戒解雇処分を不当として労働審判を申し立てられた場合、下記の事情を総合的に考慮して解決金額が決定されます。
- 解雇理由の合理性・相当性
- 従業員側の勤労継続意欲の程度
- 会社側の退職意向の程度
- 再就職まで要した期間など
解雇理由の合理性・相当性が高いほど解決金額は下がり、逆に解雇理由が合理性、相当性を欠くものである場合や、その一方で従業員側の勤労継続意欲が強いような場合には、解決金額は高くなることが見込まれます。
(2)労働審判の解決金額を決定する要素
労働審判の解決金額は、事案の争点・個別事情を踏まえて決定されます。
代表的な労働審判事件類型において解決金額を左右するポイントは以下の通りです。
労働審判の争点 | 解決金を決定する際に考慮されるポイント |
不当解雇事例 | ・解雇の合理性、相当性
・従業員側が解雇された企業で働き続けることを希望する程度 ・会社側が当該従業員を解雇したいと希望する程度 ・解雇された従業員が再就職するまでに要した期間 |
賃金・残業代の未払い事例 | ・就業規則や労働基準法違反の未払い賃金総額
・消滅時効で従業員側が請求できなくなった未払い賃金総額 ・遅延損害金の総額 ・社会保険料や源泉徴収税、住民税への影響分 ・民事訴訟で未払い賃金の支払いを争った場合の労力・費用 ・賃金未払いが生じた原因と会社側の違法性に対する認識 |
ハラスメント事例(パワハラ・セクハラなど) | ・ハラスメントの内容
・ハラスメントの回数 ・ハラスメントの期間 ・ハラスメントの証拠 ・ハラスメントによって生じた健康被害など ・ハラスメントに関する会社側の帰責事由の程度 |
(3)労働審判の解決金の実態
労働審判事件等における解決金額等に関する調査に係る主な統計表の情報を元に、令和4年度の労働審判事件の解決金額の実態を解説します。
具体的な内容は以下の通りです。
【労働審判(調停・審判)での解決金額】
解決金額 | 件数 | 割合 |
1万円~5万円未満 | 1件 | 0.1% |
5万円~10万円未満 | 4件 | 0.5% |
10万円~20万円未満 | 13件 | 1.7% |
20万円~30万円未満 | 16件 | 2.1% |
30万円~40万円未満 | 23件 | 3.0% |
40万円~50万円未満 | 25件 | 3.3% |
50万円~100万円未満 | 149件 | 19.6% |
100万円~200万円未満 | 219件 | 28.9% |
200万円~300万円未満 | 109件 | 14.4% |
300万円~500万円未満 | 107件 | 14.1% |
500万円~1000万円未満 | 62件 | 8.2% |
1000万円~2000万円未満 | 19件 | 2.5% |
2000万円~3000万円未満 | 7件 | 0.9% |
3000万円~5000万円未満 | 3件 | 0.4% |
5000万円以上 | 2件 | 0.3% |
平均値 | 2,852,637円 |
【通常訴訟における和解での解決金額】
解決金額 | 件数 | 割合 |
1万円~5万円未満 | 0件 | 0% |
5万円~10万円未満 | 2件 | 0.7% |
10万円~20万円未満 | 7件 | 2.5% |
20万円~30万円未満 | 4件 | 1.5% |
30万円~40万円未満 | 4件 | 1.5% |
40万円~50万円未満 | 2件 | 0.7% |
50万円~100万円未満 | 33件 | 12.0% |
100万円~200万円未満 | 54件 | 19.6% |
200万円~300万円未満 | 28件 | 10.2% |
300万円~500万円未満 | 54件 | 19.6% |
500万円~1000万円未満 | 45件 | 16.4% |
1000万円~2000万円未満 | 26件 | 9.5% |
2000万円~3000万円未満 | 6件 | 2.2% |
3000万円~5000万円未満 | 6件 | 2.2% |
5000万円以上 | 4件 | 1.5% |
平均値 | 6,134,219円 |
ここからわかるように、従業員から労働審判を申し立てられた場合、訴訟移行する前の労働審判手続き内で調停・労働審判による紛争解決をした方が、解決金の額は低めになる傾向があります。
訴訟移行を回避した方が手続き遂行の負担も軽減できるので、労働問題に強い弁護士へ相談のうえ、紛争の早期解決を目指しましょう。
2.労働審判で解決金の金額が決定する流れ
従業員に労働審判を申し立てられた場合、以下の流れで解決金額が決定されます。
- 当事者間で合意に至ると「調停」成立
- 調停不成立の場合には「労働審判」が下される
- 労働審判の内容について当事者の一方又は双方に異議がある場合には「訴訟移行」
なお、従業員が何かしらの不満を抱えている場合でも、労働審判を申し立てるのではなく、会社との間で直接交渉の場を求めるケースも少なくありません。
直接の示談交渉ならさらに会社側に有利な結論を獲得できる可能性も高まるので、示談交渉自体を弁護士に依頼するのも選択肢のひとつでしょう。
(1)調停による合意
労働審判手続きでは、原則3回の期日内で「調停成立による紛争解決」が目指されます。
調停成立を目指すまでの流れは以下の通りです。
- 第1回労働審判手続き期日までに当事者双方が主張内容・証拠説明書を書面で提出する
- 期日当日に労働審判委員会が書面確認と口頭の事情聴取をおこなう
- 労働審判委員会が各当事者の意向を確認して意見のすり合わせをしながら和解成立の余地を探る
- 労働者側と会社側で和解条件について合意に至れば「調停成立」
調停条項に掲げられた解決金を支払わなければ、強制執行によって会社財産などが差し押さえられる可能性が生じます。
(2)労働審判
原則3回までの労働審判手続き期日で当事者双方の意見がまとまらないとき(調停不成立)には、期日内に出た証拠・意見と労働審判委員会が抱いた心証を根拠に、「労働審判」が下されます。
労働審判の内容について、審判書の送達または労働審判の告知を受けた日から2週間以内に当事者双方のいずれからも異議が出さなければ、労働審判が確定します。
確定した労働審判の内容通りに解決金を支払わなければ、強制執行が実行されるリスクに晒されます。
(3)訴訟
当事者のどちらかが労働審判に異議を申し立てた場合や、いわゆる「労働審判法 24条」によって労働審判手続きが終了した場合には、労働事件が通常訴訟の場で争われます。
原則3回以内の労働審判手続きとは異なり、通常訴訟の口頭弁論期日の回数には制限がありません。
労働審判手続きで提出された証拠がそのまま転用されるケースがほとんどですが、新たな証拠が提出されたり証人尋問をする必要があったりするので、判決が確定するまでに相当の期間を要することが予想されます。
少しでも会社側にとって有利な解決金条件での紛争終結や早期解決を希望するなら、訴訟移行を回避して、労働審判手続き内で調停成立・労働審判の確定を目指すべきでしょう。
3.労働審判の解決金を引き下げるコツ
労働審判の解決金を下げるためのポイントは以下3つです。
- 可能な限り紛争の早期解決を目指す
- 労働審判への事前準備に力を入れる
- 労働問題に強い弁護士へ相談をする
(1)可能な限り早期解決を目指す
労働審判の解決金を引き下げるには、早期の紛争解決が不可欠です。
下記のように、解決に至るタイミングが早いほど解決金引き下げの期待が高まります。
解決に至るタイミング | 詳細 |
従業員に労働審判を申し立てられる前 | 当事者間の交渉による解決を目指す |
従業員に労働審判を申し立てられた場合 | 調停成立を目指す |
調停が成立しなかった | 労働審判の内容を受け入れるか否かを検討する |
労働審判手続きが不同意のまま終了して訴訟移行した | 和解での解決を目指しつつ、どうしても合意に至らない場合には、判決を求める |
そのためには、労働紛争が勃発した初期段階から力を入れて主張を展開して当事者間での着地点を探る作業が不可欠です。
労働審判手続き期日の回数・期間は限られているので、かならず弁護士に依頼をしたうえで、効率的な手続き遂行を目指してもらいましょう。
(2)労働審判への準備を怠らない
労働審判の解決金を少しでも引き下げるには、労働審判期日前から入念な準備をおこなう必要があります。
例えば、会社側の主張内容を基礎付ける証拠書類を収集するだけではなく、従業員側から提出された主張内容を覆すような証拠・法律論を展開できると効果的です。
また、労働審判手続き期日では当事者が「口頭で」事情を聴取されるので、労働審判委員からの想定質問を作成したうえで受け答えの練習もしておくべきでしょう。
ただし、労働審判手続き期日前に会社側に与えられた時間は2~3週間程度なので、通常業務と並行しながら期日に向けた準備をするのは簡単ではありません。
弁護士に依頼すれば反論戦略や答弁書の準備などをすべておこなってくれるので、専門家のサポートを受けながら効率的に準備活動に励みましょう。
(3)労働問題に強い弁護士へ相談をする
従業員側から労働審判を申し立てられたときには弁護士へ相談することを強くおすすめします。
なぜなら、弁護士のサポートを受けると、以下5点のメリットを得られるからです。
- 解決金引き下げのために紛争の早期解決を目指してくれる
- 解決金引き下げに役立つ効果的な反論材料を提示してくれる
- 労働審判手続きに必要な書面の準備などをすべて代理してくれる
- 労働審判手続き期日当日の口頭のやりとりへの対策をしてくれる
- 今後労働紛争が生じないような社内体制構築に向けた具体的・現実的なアドバイスを期待できる
なお、弁護士費用は法律事務所ごとに異なるので、可能であれば、複数の法律事務所に相談をしたうえで見積もりを提示してもらうと良いでしょう。
ただし、弁護士費用だけに注目して依頼先を決めると相性が合わないなどのリスクもあるので、契約する弁護士を決めるときには、費用面だけではなく、相性や労働審判の経験や解決金引き下げ実績なども材料に含めましょう。
4.従業員から労働審判を申し立てられたときに弁護士へ相談するメリット
従業員側から労働審判を申し立てられたときには、できるだけ早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。
なぜなら、労働問題や労働審判事件の取扱い実績豊富な弁護士への相談によって、以下6点のメリットを得られるからです。
- 弁護士は従業員の主張内容に対する反論方針を早期に明確化してくれる
- 答弁書の提出期限までに会社側の主張を根拠付ける証拠の収集をサポートしてくれる
- 労働審判期日当日に実施される口頭での聴取・審尋対策をアドバイスしてくれる
- 労働審判手続き内での紛争解決により、解決金の金額を適切に抑えるサポートをしてくれる
- 労働紛争の早期解決に役立つ「現実的な妥協点・落としどころ」を見逃さないようアドバイスしてくれる
- 将来的に労使紛争が生じないような社内体制構築に向けた具体的なアドバイスを期待できる
まとめ
労働審判の解決金相場は事件ごとに異なります。
労働問題に強い弁護士に相談すれば、さまざまな交渉ノウハウや専門知識を動員して労働審判手続きの早期解決・解決金引き下げを実現してくれるでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています