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労働審判は会社側に不利?弁護士への相談で手続きが有利になる理由を解説
労働審判は会社側に不利な手続きと言われることがあります。
なぜなら、そもそも労働審判で争われる個別労働関係民事紛争を対象とする労働基準法・労働契約法という法律は労働者保護の要請で定められた法律です。
また、申し立てられた側は労働審判手続き期日当日までに反論・戦略を練る充分な時間が与えられないからです。
そこで今回は、下記内容についてわかりやすく解説します。
- 労働審判が会社側に不利と言われる理由
- 労働審判を申し立てられたときにやってはいけないこと
- 労働審判手続きが会社側に不利にならないようにするコツ
- 労働審判手続きを弁護士に依頼するべき理由
弁護士への依頼によって不利な労働審判手続きを有利に展開することも不可能ではないので、従業員に労働審判を申し立てられたときには、できるだけ早いタイミングで弁護士までご相談ください。
1.労働審判が会社側に不利と言われる理由
労働審判が会社側にとって不利と言われる理由は以下4点です。
- 答弁書の提出期限が迫っているから
- 口頭での聴取に向けて入念な準備を要するから
- 労働基準法や労働契約法は労働者の権利保護目的で定められた法規制だから
- 労働審判を申し立てた従業員への対応も意識する必要があるから
(1)答弁書の提出期限に余裕がないから
第1回労働審判手続き期日は「申立てがなされた日から40日以内」に指定されるのが一般的です(労働審判規則第13条)。具体的な日時は裁判所から呼出状が送付されることで判明します。
会社側が注意しなければいけないのは、第1回労働審判手続き期日前に提出を求められる答弁書・証拠説明書等の提出期限です。
会社の主張内容及び主張を根拠付ける疎明資料は「第1回労働審判手続き期日」までに提出をすれば良いわけではなく、「答弁書等に記載された事項について申立人が第1回労働審判手続き期日までに準備をするのに必要な時間をおいた日時」までに提出をしなければいけません(労働審判規則第14条第2項)。
労働審判を申し立てるために時間をかけて入念な準備活動をできる従業員側と違って、会社側に与えられる準備期間は2~3週間程度でしょう。
このような準備期間の短さを理由に、労働審判は会社側に不利と言われます。
(2)口頭でのやり取りに向けて準備をしなければいけないから
実際の労働審判手続き期日では、提出された証拠書類がチェックされるだけではなく、労働審判委員会から直接口頭でさまざまな事項について聴取をされます。
労働審判委員会は、裁判官に加えて、労働実務に詳しい労働審判員2人で構成されているので、証拠書類に反する証言や労働実態・労働実務と乖離した供述はすぐに嘘・隠蔽だとバレてしまうでしょう。
したがって、会社側が労働審判手続き期日に出席する際には、従業員側よりもはるかに限られた準備期間内に、口頭でのやり取りへの準備や練習をしなければいけません。
通常業務とは別にこれらの準備活動に時間を割くのは会社側にとってかなりの負担になるでしょう。
(3)労働基準法・労働契約法は従業員を保護する目的で定められているから
そもそも、労働審判で争われる個別労働関係民事紛争に適用される労働基準法・労働契約法などの労働関係法令は、相対的に弱い立場に置かれている労働者側を保護するために制定された法規制です。
したがって、労働審判では労働基準法・労働契約法などによって強く保護された労働者側と意見をぶつけ合う必要があるため、会社側に不利な判定が下される可能性が高いでしょう。
(4)労働審判を申し立てた従業員以外への対応も意識しなければいけないから
労働審判で争点になる内容次第では、会社側は「労働審判を申し立てた労働者以外の従業員」への対応も強いられる可能性が生じます。
たとえば、労働審判を申し立てられたことがきっかけで、いい加減な勤怠管理体制システムや法令遵守精神の欠如が原因で時間外労働に対して正当な賃金を支払っていないことが判明した場合、労働審判を申し立てた従業員以外の労働者すべてへの未払い残業代・遅延損害金の支払い対応に迫られかねません。
全職員からの請求に応じるには相当高額な費用を用意する必要があるため、場合によっては企業経営自体へ支障が生じかねないでしょう。
このように、労働審判をきっかけに紛争原因が会社全体に波及したときの対策も同時並行的に検討する必要があるため、一般的に労働審判は会社側に不利だと言われます。
2.労働審判を申し立てられたときにやってはいけないこと
労働審判を申し立てられたとき、以下2点の行動をとってしまうと、会社側がさらに不利な状況に追い込まれかねません。
- 労働審判手続き期日を勝手に欠席する
- 答弁書を提出しない
(1)期日に出頭しない
労働審判委員会が指定した期日に正当な理由なく欠席すると、「5万円以下の過料」が処されます(労働審判法第31条)。
また、労働審判手続き期日に出頭しないと、労働者側の主張内容だけが聴取されて、これを前提に労働審判内容が決定されるので、会社側に不利な裁定になる可能性が高いです。
もちろん、労働審判の内容に同意をせずに訴訟移行で争うことも可能ですが、紛争長期化リスクは免れられないでしょう。
さらに、労働審判手続き期日を正当な理由なく欠席するだけで、労働審判委員会からの印象は悪くなりかねません。
従業員からの労働審判申立てを面倒に思って無視したくなる気持ちも理解できなくはありませんが、出頭しないことで会社側自らが首を絞めるだけなので、かならず弁護士へ相談のうえ、誠実な姿勢で労働審判手続きに向きあうべきでしょう。
(2)答弁書を提出しない
労働審判手続き期日では、各当事者から事前に提出された証拠書類を前提に事実確認・意見聴取がおこなわれます。
つまり、指定された期日までに答弁書などを提出しておかなければ、期日当日の限られた時間内に充分な聴取をしてもらえないリスクに晒されかねないということです。
不利な状況を回避するには、弁護士に相談をしたうえで、反論内容や戦略を踏まえた答弁書の作成が不可欠でしょう。
3.労働審判手続きが会社側に不利にならないようにするコツ
労働審判を会社側に有利に進めるポイントは以下3点です。
- 労働問題に強い弁護士へ相談をする
- 弁護士費用などの経費面にこだわりすぎず実績重視で専門家を選ぶ
- 紛争の早期解決を意識する
(1)労働問題に強い弁護士へ相談をする
会社側に有利な形で労働審判手続きを進めるには、労働問題に強い弁護士への依頼が不可欠です。
なぜなら、弁護士への依頼によって以下5点のメリットを得られるからです。
- 会社側に有利な主張内容・反論方法の戦略を練ってくれる
- 答弁書や証拠書類の準備を任せることができる
- 労働審判手続き期日における口頭聴取に向けた準備をしてくれる
- 労働審判手続きの今後の流れを予測して現実的な妥協点について解説してくれる
- 労働紛争の予防に役立つ社内体制構築に向けた現実的なアドバイスを期待できる
(2)弁護士費用にこだわり過ぎない
「弁護士費用をできるだけ節約したい」というニーズが働くのは当然ですが、労働審判手続きを有利に進めたいなら「安い弁護士」にこだわり過ぎるのは危険です。
なぜなら、弁護士費用は法律事務所によって異なるところ、労働紛争の解決実績の有無や相性などによって、スムーズに手続きを進められるか否かが変わることもあるからです。
労働審判の内容を会社側に有利なものにするには、従業員側の主張に対して効果的な反論を展開し、また、対立従業員側から現実的な妥協点での合意を引き出す必要があります。
弁護士費用は多少割高でも、労働審判や示談交渉の経験・ノウハウ豊富な弁護士に依頼をした方がトータルで有利な状況を作り出せることが期待できるので、慎重に労働審判の依頼先を決めるべきでしょう。
(3)できるだけ早期解決を目指して訴訟移行を回避する
労働審判手続きを申し立てられたときには、できるだけ早期の紛争解決を目指すのがポイントです。
なぜなら、労働審判手続き内で解決策について合意を形成できなければ、訴訟移行によってさらに面倒な状況に追い込まれかねないからです。
たとえば、民事訴訟になると紛争解決までに年単位の月日を要するリスクがありますし、手続き遂行のための労力・費用面の負担も重くなります。
「調停の成立」「労働審判内容への合意」によって労働紛争を解決するには、原則3回限りの労働審判手続き期日内で充分な主張・反論を展開する必要があります。
かならず労働問題に強い弁護士に相談のうえ、効率的な手続き進行と早期解決を目指してもらいましょう。
4. 労働審判の手続きになじまないと思われる場合は24条終了を求める
争点や事実関係が複雑な場合や、詳細な事実関係の確認が必要な場合など、労働審判手続き期日内で解決をすることが困難と思われる場合には、「24条終了」を求めることも考えられます。
「24条終了」とは、「事件の性質に照らして労働審判手続きをおこなうことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないときと認められるときに、労働審判委員会が労働審判事件を終了させること」です(労働審判法第24条)。
訴訟手続き対応には相当の労力を要しますが、労働審判手続きで解決することが難しいと思われる複雑なケースでは、24条終了を求めたうえで、来たる訴訟手続きに万全の体制で挑みましょう。
5.労働審判手続きを弁護士に依頼するべき理由
労働審判を申し立てられたときには、できるだけ早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。
なぜなら、労働問題や労働審判事件の取扱い実績豊富な弁護士への相談によって、以下6点のメリットを得られるからです。
- 労働法・労働問題についての多くの知識があるため、会社側に有利な解決が期待できる
- 裁判所の対応がスムーズにできる
- 調停が成立しやすくなる
- 「手続代理人」として、労働審判に同席し、会社に代わって交渉してくれる
- 弁護士が労働審判の期日当日に同席し、法的アドバイスをしてくれる
- 弁護士は交渉の専門家であるため、交渉を有利に進められる
まとめ
一般的に、労働審判は会社側に不利な手続きと言われますが、労働事件に強い弁護士への相談によって有利な形で手続きを終結させることも不可能ではありません。
複数の弁護士事務所に相談をして見積もりや今後の展望を解説してもらったうえで、信頼に値する労働問題に強い弁護士までご依頼ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています