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労働審判法とは?会社が従業員に訴えられたときの対処法と注意点を解説
労働審判法とは、従業員と会社との間で生じたトラブルを早期に解決するための手続きのひとつである「労働審判」について定めた法律のことです。
労働審判は、通常訴訟とは違ってスピーディーに手続きが進行される点、労働実務に詳しい専門家が当事者の意見を丁寧に聴取してくれるという点が特徴として挙げられます。
そこで今回は、下記内容についてわかりやすく解説します。
- 労働審判法とは
- 労働審判法の手続きの流れ
- 従業員から労働審判法に基づく申立てをされたときの注意点
- 労働審判を申し立てられたときに弁護士へ相談するメリット
労働審判を申し立てられると限られた時間内に反論方法を明確化する必要があるので、できるだけ早いタイミングで弁護士までご相談ください。
1.労働審判法とは
まずは、労働審判法がどのようなものかを下記に沿って解説します。
- 労働審判法の制度趣旨・目的
- 労働審判手続きの特徴・メリット
(1)労働審判法の制度趣旨・目的
労働審判法とは、個別労働関係民事紛争(労働契約の存否その他労働関係に関する事項について、個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争)について、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図るための裁判所における非公開手続きについて定めた法律のことです。
当事者の申立てがあったとき、裁判所において労働審判委員会が事件を審理し、調停の成立見込みがある場合には調停成立による紛争解決を試み、調停不成立の場合には労働審判を下します。
(2)労働審判手続きの特徴・メリット
労働審判手続きの特徴・メリットは以下の通りです。
- 迅速な紛争解決を期待できる
- 労働関係の専門家が関与してくれるので実態に即した解決を期待できる
- 紛争解決に至るまでの費用を節約できる
まず、通常の裁判手続きとは異なり、労働審判手続きの期日は原則3回までです。
そのため、数ヵ月以内での紛争早期解決を期待できるでしょう。
実際、平成18年から令和3年までに終了した労働審判事件の平均審理期間は80.6日で、全体の67.6%が申立てから3ヵ月以内に終了しています。
なお、訴訟手続きには口頭弁論期日の回数に制限がないため、判決確定まで1年以上を要する可能性もあります。
次に、労働審判は、裁判官1名と労働審判員2名で構成される「労働審判委員会」が手続きに関与します。
労働審判員は雇用関係の実情や労使慣行などに関する詳しい知識と豊富な経験を有する者から選任されて、当事者の意見を丁寧に聴取してくれるので、労働実態に即した解決を期待できるでしょう。
さらに、労働審判手続きは訴訟手続きよりも安価で済むので、労働紛争解決までの費用を節約したいというニーズに適うものです。
このように、労働審判手続きは「安価で早期に労働紛争を解決したいと希望する労働者」が選択する可能性が高い紛争処理制度だと考えられるので、会社側としては「従業員に労働審判を申し立てられたときの対処法や予防策」について精通しておくべきでしょう。
2.労働審判の手続きの流れ
労働審判の手続きの流れについて下記に沿って解説します。
- 申立ての準備
- 手続きの流れ
(1)申立ての準備
労働審判を申し立てる場合や、相手方から労働審判を申し立てられた場合には、手続きの円滑な進行のために丁寧な事前準備が必要です。
申立書及び答弁書を作成したうえで、予想される争点についての証拠書類を準備し、証拠説明書を用意しましょう(労働審判規則第16条第1項、同規則第18条)。
例えば、残業代の未払いが争点になっている事案では、下記のような証拠書類が挙げられます。
- 雇用契約書
- 就業規則
- 給与明細
- 出勤簿
- タイムカード
- 賃金台帳
- 給与管理システムデータなど
さらに、従業員の労働実態を細かく争う場合には、下記のような証拠も必要になることがあるでしょう。
- 業務内容や営業記録
- 事業所内に設置した防犯カメラ映像
- 他の従業員の証言内容
労働審判手続きは原則3回の期日で終結するので、第2回期日の段階で証拠書類の提出はすべて終わっていなければいけません。
初回期日から充実した主張展開をするために、申立て準備はしっかりと行いましょう。
(2)手続きの流れ
労働審判手続きは以下の流れで進められます。
- 弁護士と相談
- 労働審判の申立て
- 第1回期日まで
- 第1回期日
- 第2回期日以降
- 審判に対する対応
より詳しい内容を知りたい方は、下記記事をご覧ください。
3.従業員から労働審判法に基づく申立てをされたときの注意点
従業員側から労働審判を申し立てられたときには、以下5点の注意事項を踏まえたうえで、労働審判委員会からの呼び出しには誠実に対応するべきでしょう。
- 答弁書などの提出期限までには限られた時間しか与えられない
- 労働審判期日の口頭での聴取への準備・練習が必要
- 労働審判手続き内で解決に至らなければ紛争が長期化するリスクが生じる
- 労働審判手続きの呼び出しに応じないとペナルティが科される
- 円滑な労働審判手続きの進行を希望するなら弁護士への依頼は不可欠
(1)答弁書の提出期限に余裕がない
従業員に労働審判を申し立てられたときには、答弁書の提出期限に注意が必要です。
そもそも、第1回労働審判手続き期日は、労働審判の申立てがなされた日から40日以内の日に指定されるのが原則です(労働審判規則第13条)。
そして、労働審判手続き期日までに会社側は答弁書を提出する必要がありますが、答弁書の提出期限は2~3週間程度しか与えられません。答弁書の提出期限は、労働審判規則第14条各項で定められており、下記のように記載されています。
「第十四条 労働審判官は、答弁書の提出をすべき期限を定めなければならない。
2 前項の期限は、答弁書に記載された事項について申立人が前条の期日(以下「第一回期日」
という。)までに準備をするのに必要な期間をおいたものでなければならない。」
通常業務と並行しながら反論内容を基礎付けるだけの証拠書類を準備するのは簡単なことではありません。
労働審判を申し立てられたことがわかった時点で弁護士にご依頼のうえ、反論戦略や答弁書準備を任せましょう。
(2)口頭でのやり取りに備えた準備が求められる
労働審判手続き期日では、労働審判委員会から直接口頭で紛争に関するさまざまな事項について聴取されます。
質疑応答の際に回答に詰まったり、証拠書類などと矛盾する内容を答えたりすると、労働審判の結果が会社側に不利なものになりかねません。
したがって、労働審判手続き期日に出席する際には、事前に口頭のやり取りに備えた準備も行う必要があります。
弁護士に想定問答を作ってもらって審尋の準備・練習を行いましょう。
(3)労働審判手続きのなかで解決を目指さないと訴訟手続きに移行するリスクがある
労働審判手続き期日内で解決できなければ、訴訟移行によって争訟期間が長期化しかねません。
特に、労働審判で訴訟移行するケースでは、審判段階で双方が合意を形成できなかった状態が前提になるため、訴訟移行をしたとしても和解成立の見込みは低いです。
結果として、双方がさまざまな証拠・証人を駆使して主張内容を激しく衝突させるので、複数の口頭弁論期日を経なければ判決確定にまで至らないでしょう。
紛争の長期化は費用・労力面で負担にしかなりません。
労働審判手続き段階で紛争を解決するには、可能な限り早いタイミングで証拠書類と主張内容を提出しきって相手方と妥協点を探り合う作業を開始する必要があるので、かならず弁護士にご依頼のうえ、効率的な手続き進行を目指しましょう。
(4)労働審判手続きを無視するとペナルティが科される
従業員から労働審判を申し立てられたときには、決して無視をしてはいけません。
なぜなら、労働審判官の呼び出しを受けたにもかかわらず正当な理由なく出頭しないときには、「5万円以下の過料」の対象になるからです(労働審判法第31条)。
(5)弁護士に依頼した方がコストを節約できる可能性が高い
「弁護士費用がもったいない」という理由から、専門家への相談・依頼を躊躇する会社は少なくありません。
確かに、弁護士にわざわざ相談をしなくても、会社自身の判断だけで労働審判手続きへ対応することは可能です。
しかし、労働審判手続きは法的専門性がなければスムーズな対応が難しいのが実情です。
手続きの流れを理解したり、必要書類を準備したりするだけでも労力を奪われるでしょう。
また、労働審判を申し立てた従業員側は弁護士への依頼によって入念な準備をしていることが想定されるので、会社側が審判準備に手を抜いて素人知識だけで挑もうとすると、充分な反論を展開できずに、解決金の金額などが不利に傾くリスクに晒されかねません。
したがって、従業員側から労働審判を申し立てられたときには、労力面・経済面のコストを節約するために、できるだけ早い段階で弁護士へ相談・依頼した方が理に適っていると考えられます。
4. 労働審判を申し立てられたときに弁護士へ相談するメリット
従業員側から労働審判を申し立てられたときには、できるだけ早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。
なぜなら、労働問題や労働審判事件の取扱い実績豊富な弁護士への相談によって、以下6点のメリットを得られるからです。
- 従業員の主張内容に対する反論方針を早期に明確化してくれる
- 答弁書の提出期限までに会社側の主張を根拠付ける証拠の収集を進めてくれる
- 労働審判期日当日に実施される口頭での聴取・審尋対策をしてくれる
- 労働審判手続き内での紛争解決により解決金の金額を引き下げてくれる
- 労働紛争の早期解決に役立つ「現実的な妥協点・落としどころ」を見逃さない
- 将来的に労使紛争が生じないような社内体制構築に向けたアドバイスを期待できる
まとめ
労働審判法は、労使間で賃金未払いや解雇、損害賠償などのトラブルが生じたケースを対象にする法律です。
労働審判法で規定された手続きを履践することで紛争の早期解決を期待できる一方で、限られた制限時間内にさまざまな準備をしなければいけません。
労働審判では事実認定や法律論が争点になるケースが少なくないので、必ず弁護士に依頼をしたうえで、会社側の主張内容が通るような万全の体制・戦略を整えてもらいましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています