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労働審判が訴訟移行する場面とは?紛争長期化リスクを回避するコツを解説
本来、個別労働紛争を解決するには、下記の制度や手続きを利用できます。
- 労働審判
- 民事訴訟
- 少額訴訟
- 民事調停など
従業員側が簡易・迅速な紛争解決を希望した場合には、この中のうち、労働審判手続きが申し立てられることが多いです。
ただし、従業員側が紛争解決方法として労働審判を選択したとしても、手続き内で紛争の終局的解決に至らなかった場合には、訴訟移行によって紛争が長期化する可能性がある点に注意しなければいけません。
特に、調停不成立のケースや労働審判に対して異議を申し立てられるケースでは、最終的に会社側により不利な内容となってしまうリスクも上がってきます。
そのため、下記項目が会社側にとって重要なポイントになるでしょう。
- 訴訟移行をさせないこと
- 訴訟移行したとしても適切な防御活動を尽くすこと
そこで今回は、下記内容についてわかりやすく解説します。
1. 労働審判が訴訟移行するケース
2. 訴訟に移行するときの手続きの流れ
3. 労働審判が訴訟移行したときの注意点
4. 労働審判を申し立てられたときに弁護士へ相談するメリット
従業員との間で労働紛争が生じたときには「早期解決」が最も重要な目標となります。
弁護士に依頼すれば反論方針・戦略の決定や証拠書類の準備などをすべて任せることができるので、迅速かつ有利な条件での紛争解決を期待できるでしょう。
1.労働審判が訴訟移行するケース
労働審判が訴訟移行するのは以下3つのパターンです。
1. 労働審判に対して異議が申し立てられた場合
2. 労働審判が取り消された場合
3. 「24条終了」によって労働審判手続きが終わった場合
(1)労働審判に対して異議が申し立てられたとき
労働審判委員会が下した「労働審判」に対して適法な異議の申立てがあった場合、労働審判手続きの申立てがなされたときに地方裁判所に訴えの提起があったものと擬制されることによって訴訟移行します(労働審判法第22条第1項)。
また、管轄は労働審判事件が係属していた地方裁判所になります。
従業員が労働審判の申し立てをすると、原則として最大3回まで、調停による話し合い行われます。
調停手続きで合意に達しなかった場合、期日に提出された証拠や双方の意見を検討し、それに基づいて認められる権利関係や手続きの経過を考慮して、労働審判委員会が「労働審判」を行います。(労働審判法第20条第1項)。
そして、労働審判の中で確認された下記内容に納得できない場合は、裁判所に対して異議の申立てをすることができます。
- 権利関係
- 金銭・物の引渡しなどの財産上の給付命令
これらは、労働審判法第21条第1項において、以下のように明記されています。
「当事者は、労働審判に対し、前条第四項の規定による審判書の送達又は同条第六項の規定による労働審判の告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。」
しかし、異議の申立てがなければ労働審判は「裁判上の和解」と同一の効力を有することになります。
つまり、会社側が労働審判の内容に納得できないときには、異議申立てをして更なる審理を求めることができます。
一方、会社側が労働審判内容に満足をしていたとしても、従業員側が異議を申し立てた場合には、訴訟移行に付き合わなければいけないということです。
紛争の長期化による負担を回避するには、労働審判手続き内の調停・労働審判段階で両当事者が納得できる着地点を見出すのが重要だといえるでしょう。
(2)労働審判が取り消されたとき
労働審判の結果は審判書の送達もしくは期日における告知によって当事者に伝えられます。
しかし、労働審判書を送達する場合において以下4つのいずれかに該当する場合には、労働審判が取り消されて、労働審判の申立てがなされた時点において訴訟提起があったと擬制されます(労働審判法第23条各項)。
1. 当事者の住所、居所など送達すべき場所が知れないとき
2. 書留郵便等に付する送達(民事訴訟法第107条第1項)ができないとき
3. 外国における送達(民事訴訟法第108条)でも当事者に審判書を送達できないと認められるとき
4. 外国における送達(民事訴訟法第108条)に基づいて外国の管轄官庁に嘱託を発した後6ヵ月を経過しても送達を証明する書面の送付がないとき
(3)労働審判法第24条に基づいて労働審判事件が終了したとき
労働審判法第24条第1項では下記のように明記されています。
「労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。」
24条終了によって労働審判手続きが終了したときには、労働審判の申立てがなされた時点で訴えの提起があったと擬制されるため、訴訟移行によって労働紛争が継続することになります。
労働審判手続きは簡易・迅速な紛争解決を目的とした制度なので、期日は原則3回までとされています。
そのため、以下のようなケースでは労働審判が紛争解決に馴染まないと考えられるので、24条終了によって訴訟移行する可能性があります。
- 大量の証拠を調べる必要がある事案(日報やパソコンのログ履歴などから詳細な労働時間を判定する必要がある残業代未払い事件など)
- 事実認定をするために多くの証人を尋問しなければいけない事案(ハラスメント事件など)
- 労使間で合意形成することが難しく、異議申立てされる確度が高い事案(懲戒解雇処分の無効が争点になって労働者側が復職を希望している事件など)
2.訴訟に移行するときの手続きの流れ
労働審判手続き及び訴訟移行後の手続きの流れは以下の通りです(異議申立てのケースを前提とします)。
1. 従業員が労働審判を申し立てる(必要書類を提出)
2. 労働審判委員会が期日を指定して当事者を呼び出す
3. 会社側が答弁書・証拠説明書などを提出する
4. 労働審判手続き期日で審理・口頭聴取がおこなわれる
5. 労働審判委員会が調停成立を目指す
6. 調停不成立の場合、労働審判委員会が「労働審判」をする
7. 当事者の一方または双方が異議を申し立てる
8. 訴えの擬制によって、労働審判の申立書が訴訟の担当裁判官に引き継がれる(原告である従業員側が訴えの手数料を納付する)
9. 原告である労働者側が「訴状に代わる準備書面」を提出する
10. 被告である会社側が「答弁書」を提出する
11. 裁判所から指定された口頭弁論期日において、主張の整理・証拠調べ・弁論手続きが実施される
12. 口頭弁論期日に提出された証拠などを踏まえて、裁判所が判決内容を言い渡す
3.労働審判が訴訟移行したときの注意点
労働審判が訴訟移行したときの注意点は以下3点です。
1. 労働紛争が長引く
2. 労働紛争対応の負担が重くなる
3. 早期に紛争を解決した方が会社側のメリットは大きくなる
(1)紛争解決に至るまでの期間が長期化する
労働審判から訴訟移行すると、紛争の終局的解決までに長期間を要します。
訴訟手続きでは、当事者双方が充分に主張立証を尽くしたと言える状態まで期日が繰り返されます。
労働審判手続きのように期日の回数に制限はありません。
したがって、労働審判手続き内で解決に至れば(調停成立、労働審判への同意)平均約3ヵ月で労働紛争が終結するのに対して、訴訟移行した場合には判決が確定するまでに1年以上を要するリスクに晒されるでしょう。
(2)紛争解決に要するコストが増加する
訴訟移行すると会社側は以下3つのコストが増加します。
- 長期化する通常訴訟のための打ち合わせ準備、口頭弁論期日への出廷に労力を割かれる
- 訴訟対応に従業員を充てざるを得ないので通常業務に支障が出る
- 労働紛争を弁護士に依頼した場合には労働審判事件とは別に通常訴訟分の費用が発生する
(3)【注意!】労働審判手続き内で解決を目指した方が会社側のメリットは大きい
労働審判手続きは、当事者双方の妥協点で合意を形成する「調停」、当事者の意見を踏まえたうえで下される「労働審判」のいずれかで労働紛争を解決するものです。
例えば、「民事執行に着手する負担なく会社側がすぐに残業代未払いに応じてくれるなら、解決金はある程度引き下げても良い」というように、従業員側の譲歩を引き出すことも可能です。
その一方で、訴訟移行によって判決が下される場合には、客観的な事実に対して厳正に労働基準法・労働契約法が適用される点に注意が必要です。
例えば、従業員側の”好意”によって未払い残業代が引き下げられることはありません。
また、慰謝料額も過去の裁判例を参考としつつ算出されるので、会社側にとって不利な賠償額が言い渡されるリスクがあります。
したがって、少しでも会社側に有利な条件で紛争解決を実現するなら、訴訟移行を回避して労働審判手続き内で「調停・労働審判への同意」による紛争解決が望ましい考えられます。
労働問題に強い弁護士へ相談をすれば労働審判手続き期日前から入念な準備活動を尽くしてくれるので、早期の紛争解決を期待できるでしょう。
4. 労働審判を申し立てられたときに弁護士へ相談するメリット
従業員側から労働審判を申し立てられたときには、できるだけ早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。
なぜなら、労働問題や労働審判事件の取扱い実績豊富な弁護士への相談によって、以下6点のメリットを得られるからです。
1. 従業員の主張内容に対する反論方針を早期に明確化してくれる
2. 会社側の主張を根拠付ける証拠の収集を効率的に進めてくれる
3. 労働審判期日当日に実施される口頭での聴取・審尋対策をしてくれる
4. 調停成立による訴訟回避で解決金の金額を引き下げてくれる
5. 労働紛争の早期解決に役立つ「現実的な妥協点・落としどころ」を見逃さない
6. 将来的に労使紛争が生じないような社内体制構築に向けたアドバイスを期待できる
まとめ
労働審判手続きが終了して訴訟移行すると、会社側は不利な状況に追い込まれます。
なぜなら、手続き遂行の負担を強いられるだけではなく、不利な判決が確定するリスクが高まるからです。
低いコストで有利な形での解決を目指すなら、従業員側の労働審判申立てが判明してすぐに反論準備をはじめて、「訴訟移行して争う意義が乏しい、労働審判手続き内で解決に合意をした方が得だ」と従業員側に思わせる戦略が重要になります。
労働紛争の実績豊富な弁護士に依頼をすれば防御方針・証拠準備などをすべて任せることができるので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています