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カスタマーハラスメントの主な事例とは?企業がとるべき対応策も解説

2024年9月5日
カスタマーハラスメントの主な事例とは?企業がとるべき対応策も解説

近年、カスタマーハラスメント(カスハラ)による被害が急増し、社会問題化しています。

カスハラは従業員の心身にダメージを与えるだけでなく、他の顧客にも迷惑を及ぼしたり、ひいては企業の業績を悪化させたりする可能性が高い深刻な問題です。

企業としてはカスハラ被害を防止するための対応策を備えておく必要がありますが、その一方で、正当なクレームは真摯に受け止めて適切に対処する必要もあります。
そのため、カスハラへの対応策を検討する際には、どのような事例がカスハラに該当するのかを知っておくことが大切です。

そこで今回は、カスハラへの対応に苦慮している経営者の方のために、以下の事項について分かりやすく解説します。

  • カスハラの判断基準
  • カスハラに該当する主な事例
  • カスハラを放置した場合に生じるリスク
  • 企業がとるべきカスハラ対応策

企業法務に強い弁護士は、さまざまなカスハラ事例に対してとるべき対処法や被害の防止策を熟知しています。

従業員が働きやすい職場環境を整え、自社の経済的損害を回避するために、弁護士へご相談ください。

1.カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

どのような事例がカスタマーハラスメント(カスハラ)に該当するかを理解しやすくするために、まずはカスハラの定義と判断基準についてご説明します。

(1)カスハラの定義

カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義は、現在のところ、法律で明確に定義されているわけではありません。

しかし、厚生労働省が公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラとは「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業関係が害されるもの」と定義されています。

参考:厚生労働省|カスタマーハラスメント対策マニュアル

分かりやすくいうと、カスハラとは、顧客から企業に対する理不尽なクレームや嫌がらせなどの迷惑行為のことを指すといえます。

今後、カスハラを規制する法律や条例が制定される可能性もありますが、現時点では、上記の厚生労働省の定義がカスハラの特徴を最も的確に捉えたものといえるでしょう。

(2)カスハラの判断基準

カスハラの判断基準は、上記の定義から明らかです。つまり、次の3つの要件を満たす顧客の言動がカスハラに該当します。

要件1:顧客の要求内容に妥当性がないこと

要件2:要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当であること

要件3:労働者の就業環境が害されること

<要件1:顧客の要求内容に妥当性がないこと>

顧客の要求内容に妥当性がなければ、それだけでカスハラに該当する可能性があります。

要求内容の妥当性は社会通念に従って判断しますが、自社の過失の有無によっても異なってくることにも注意が必要です。

もし、自社に何らかの過失があれば、返品・返金の要求や苦情・説教、謝罪要求なども、度を超えたものでなければ、基本的には正当なクレームに該当するでしょう。

しかし、自社に過失がないのに、これらの要求を執拗に受けた場合は、カスハラに該当する可能性が高まります。

<要件2:要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当であること>

顧客の要求内容が妥当なものであっても、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当であれば、カスハラに該当する可能性があります。

例えば、顧客が購入した商品に軽微な欠陥があったとしても、「今すぐ代わりの商品を持ってこい」と脅迫的に要求したり、土下座による謝罪を強要したりすることは、カスハラに該当するでしょう。

<要件3:労働者の就業環境が害されること>

要件1または要件2を満たす場合は労働者の就業環境が害されることが多いと考えられます。

2.カスハラに該当する主な事例

カスハラに該当する言動には多種多様なものがありますが、ここでは主な事例として以下の7種類をご紹介します。

  • 長時間の苦情やクレーム
  • 無理な要求
  • 人格や能力を否定する発言
  • 脅迫的な言動
  • 暴力などの実力行使
  • 不当な謝罪要求
  • SNSへの不適切な投稿

(1)長時間の苦情や頻繁なクレーム

長時間にわたる苦情や頻繁なクレームは、要求内容が妥当であっても手段が社会通念上不相当であるため、カスハラに該当します。

具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 店内で1時間以上にわたって苦情を述べる
  • 従業員が退去を求めても無視して居座る
  • 従業員の発言の揚げ足をとって同じ苦情を繰り返す
  • クレームの電話をかけてきて1時間以上にわたって話し続ける
  • 頻繁に電話やメールで同じクレームをつけて回答を求める

「長時間」や「頻繁」に該当するかどうかは、明確なルールはないため、社会通念に従って判断するしかありません。
おおよそですが、対面や電話による対話の場合は、1時間程度が目安となるでしょう。
電話やメールの頻度については、1日1回でも連日のように続く場合はカスハラに該当する可能性があります。

(2)無理な要求

契約の範囲を超えた過剰なサービスなどを無理に要求することも、カスハラに該当します。

具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 難癖をつけて値下げを要求する
  • 納期前に「今すぐ納品しろ」と迫る
  • 自社で取り扱っていない商品を他社から取り寄せろと要求する
  • 開店前や閉店後に来店し、サービスを求める
  • 社長を呼べと要求する

顧客が感情的になるなどして無理な要求をすることは少なくありませんが、すぐ冷静になって要求を撤回した場合は問題にする必要はないでしょう。
しかし、従業員が「できない」ことを説明しても引き下がらず、無理な要求を繰り返す場合はカスハラに該当する可能性が高いです。

(3)人格や能力を否定する発言

従業員の人格や能力を否定するような侮辱的な発言も、カスハラに該当します。

例えば、「バカ」「アホ」「ブス」「ハゲ」「こんなこともできないダメ店員」「ノロマ」「クズ」「死ね」などの発言が代表的ですが、他にもさまざまな発言がカスハラに該当する可能性があります。

たったひと言の発言を捉えてカスハラ問題にするのは現実的ではありませんが、従業員が日常的に侮辱的な発言を受けると、精神的なダメージを蓄積させてしまいます。
そのため、侮辱的な発言もカスハラとして捉え、企業としての対応策を備えておくことが重要です。

(4)脅迫的な言動

顧客から従業員に対する脅迫的な発言も、カスハラに該当します。

脅迫とは、相手が身の危険を感じるような言動のことです。
例えば、以下のような言動は脅迫にあたるといえるでしょう。

  • 従業員の些細なミスで怒鳴りつける
  • テーブルや椅子、壁などを叩いたり蹴ったりする
  • 「店に火をつけるぞ」「痛い目に遭わせてやろうか」などと危害を加える旨の発言
  • 「家族がどうなっても知らないぞ」などと近親者への危害をほのめかす発言

脅迫に該当しないまでも、顧客の命令口調や威圧的な態度もカスハラに該当する可能性があります。

例えば、「早く食器を下げろ」「こちらから言わなくても水を入れろ」「お辞儀するときはもっと頭を下げろ」などと顧客から言いつけられたら、従業員が働きにくくなることは明らかでしょう。

企業側と顧客は、本来、対等な関係です。
「お客様は神様です」と考えて顧客にへりくだっていると、カスハラを招きやすいので注意しなければなりません。

(5)暴力などの実力行使

暴力などの実力行使は刑法上の暴行罪や傷害罪などに該当する重大な違法行為であり、顧客から従業員に対する暴力はカスハラにも該当します。

殴る・蹴るといったあからさまな暴力だけでなく、胸ぐらや腕をつかむ、小突く、物を投げつけるなどの行為も「暴行」に該当することに注意しましょう。

男性の顧客が女性従業員の身体を触ることは、わいせつ行為に該当し、カスハラの一種でもあります。

女性従業員のスカート内を盗撮したり、通勤時に付きまとったりする行為も、就業環境の悪化に繋がるためカスハラに該当することがあります。

(6)不当な謝罪要求

顧客からの不当な謝罪要求も、内容や程度によってはカスハラに該当します。

自社に何らかの過失があったとしても、土下座を要求することはカスハラに該当する可能性が高いです。

その他にも、次のような謝罪要求はカスハラに該当する可能性があります。

  • 「今すぐ自宅へ謝罪に来い」と要求する
  • 「社長から謝罪させろ」と迫る
  • 謝罪の証として金品や過剰なサービスを要求する
  • 具体的な要求はしないものの「誠意を見せろ」と言い、特別な対応を求める

顧客をなだめるために従業員や店長が謝罪するのはよくあることですが、不当な要求に対しては毅然とした態度で対応することが重要です。

(7)SNSへの不適切な投稿

近年、急増しているカスハラの事例として、SNSへの不適切な投稿が挙げられます。

昨今はSNSや掲示板サイトなどが普及し、誰もが簡単に企業や従業員に対する批評を投稿できるようになっています。

インターネットに企業に対する悪評や従業員の氏名などの個人情報が投稿されると、多くの人の目に触れる可能性が高いです。
このような情報が広く拡散されると、従業員が働きにくくなったり、企業の業績が悪化したりすることもあるでしょう。

また、「ネットで晒すぞ」と脅して無理な要求をすることも、悪質なカスハラに該当するといえます。

3.カスハラを放置するリスク

カスハラ被害を回避したいと考えても、「お客様は神様です」という観念が根強い現在の社会状況では、カスハラ顧客を追い返すことは容易ではありません。

しかし、企業としては、カスハラを放置すると以下のリスクを負うことを知っておく必要があります。

  • 従業員の離職や休職が増加する
  • 安全配慮義務違反の責任を問われる
  • 業績悪化につながる

カスハラによって第一に被害を受けるのは、顧客に直接対応する従業員です。
顧客対応に疲弊した従業員は、苦痛に耐えかねて退職することが少なくありません。
ストレスで心身に不調をきたした従業員が、休職を申し出ることもあるでしょう。

企業は、従業員が生命、身体等の安全を確保しつつ就業できるように必要な配慮をしなければならないという、「安全配慮義務」を負っています(労働契約法第5条)。
心身にダメージを受けた従業員から企業に対して、安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求される可能性があることにも注意が必要です。

企業としては、カスハラ顧客の迷惑行為によって業務に直接的な支障をきたすだけでなく、従業員の離職や休職、従業員からの損害賠償請求などによっても、業績が悪化するおそれがあることに注意しなければなりません。

4.悪質なカスハラへの企業の対応策

悪質なカスハラによる被害を回避するために、企業はあらかじめ、カスハラへの対応策を備えておく必要があります。

カスハラへの対応策に関しては、以下の4つのポイントに留意して検討を進めていきましょう。

  • カスハラ対応マニュアルの作成と従業員研修の実施
  • 社内で事例を共有する
  • 証拠を確保する
  • 弁護士に対応を依頼する

(1)カスハラ対応マニュアルの作成と従業員研修の実施

まずは、カスハラへの対応方法をまとめた社内マニュアルを策定することが重要です。

カスハラ対応マニュアルに盛り込むべき項目として特に重要なものは、以下のとおりです。

  • 会社としての基本方針、基本姿勢
  • カスハラの判断基準と具体例
  • 顧客への接し方の注意点
  • カスハラ顧客への対応体制
  • カスハラに遭遇したときの具体的な対応手順
  • パターン別の対処法についてのケーススタディ

マニュアルを作成する際には、本記事の解説の他に、厚生労働省が公表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」も参考になります。

厚生労働省のマニュアルには、カスハラへの対応策として知っておくべきことが詳細に解説されています。
これを参考にしつつ、自社の実情に応じたマニュアルを作成しましょう。

参考:厚生労働省|カスタマーハラスメント対策マニュアル

マニュアルの作成ができたら、その内容を全従業員に周知・徹底する必要があります。

定期的に全従業員を対象とした研修を実施し、マニュアルの内容を説明するとともに、自社における実例も交えてケーススタディを重ねていくとよいでしょう。

(2)社内で事例を共有する

自社で発生したカスハラについては、その内容や対処の顛末を記録し、社内で情報を共有しましょう。

カスハラの主な事例は本記事でご紹介しましたが、他にも多種多様な事例が存在します。
会社や業種によっては、特有の事例が発生しやすい傾向が現れることもあるでしょう。

自社に特有の実例を蓄積し、分析して対応策を練ることで、従業員がより効果的な対応を取れるようになるはずです。

事例の蓄積がある程度たまったら、社内マニュアルに追記や修正をしてブラッシュアップしましょう。
そして、定期的な従業員研修で新たな情報を共有することです。

(3)証拠を確保する

悪質なカスハラ顧客への法的措置に備えて、カスハラの証拠を確保することも重要です。

カスハラの内容や程度によっては、顧客に対する損害賠償請求や刑事告訴などの法的措置を検討しなければならないこともあります。
法的措置をとる際には、カスハラ被害の実態を裏付ける証拠が必要です。

カスハラの主な証拠としては、次のようなものが挙げられます。

  • 店内の防犯カメラなどで顧客の言動を記録したもの
  • 顧客との電話でやりとりした内容を録音したデータ
  • 顧客とのメールでのやりとりが残っているログ
  • 従業員や担当者がカスハラ行為を記録した日誌など

企業法務に強い弁護士に相談すれば、有力な証拠や、その集め方などについて具体的なアドバイスが受けられます。

(4)弁護士に対応を依頼する

カスハラの内容や程度もさまざまですが、社内での対応が難しい悪質なケースでは、速やかに弁護士へ対応を依頼した方がよいです。

依頼を受けた弁護士は、企業または従業員の代理人として顧客との間に入ってくれます。
その後は、弁護士が当該顧客との連絡窓口を全面的に引き受けてくれるので、企業側は基本的に当該顧客と直接やりとりする必要がなくなります。

もし、カスハラ行為が続く場合には、弁護士が当該顧客に対して法的措置をとる可能性があることを告げ、不当な行為をやめるように警告・交渉してくれます。

企業としては、迅速に弁護士へ相談できる体制を整えておきましょう。

また、企業法務に強い弁護士に相談すれば、マニュアルの作成や改訂についてもアドバイスを受けることが可能です。弁護士によっては、従業員研修の講師を務めてくれることもあります。

カスハラへの対応策に万全を期すために、企業法務に強い弁護士によるサポートを利用しましょう。

まとめ

カスハラへ適切に対処するためには、さまざまなカスハラ事例を知り、事例ごとの対応策を備えておくことが大切です。

カスハラの主な事例については、本記事の解説をぜひ参考にしてください。
その上で、弁護士によるサポートも活用し、自社の実情に応じたカスハラ対応策を策定していくとよいでしょう。

企業法務に強い弁護士に相談し、万全なカスハラ対応策の策定を目指しましょう。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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