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外資企業との合弁企業(ジョイントベンチャーカンパニー)設立について/本では教えてくれないこと
私は、何度か日本企業と海外企業間で合弁企業を立ち上げるビジネスをご一緒させて頂きました。
この経験を通じて本では得られない知見が得られましたので、本記事においてエッセンスをご共有させて頂こうと思います。
海外の会社との提携を考えていらっしゃる方、特に、合弁企業を作ることも選択肢だが、本当のところうまく行くのか、他の選択肢と比べてその選択肢を採るべきかをお悩みの方に是非ご一読頂きたいと思います。
1.はじめに
(1)合弁会社とは
合弁会社は、二つの会社が株式を持ち合って一つの株式会社を作る(又は既存の会社に相手の資本を入れる)もので、ジョイントベンチャー(カンパニー)とも呼ばれることもあります。
古くはゼロックスと富士フィルムの合弁会社である富士ゼロックスが有名ですし、最近ではLINEとグリー・サイバーエージェントとの合同会社等があります(LINE、ゲームで合弁新会社 グリー・サイバーエージェントとそれぞれ設立)
ちなみにジョイントベンチャーという用語は、ビックカメラとユニクロの共同店舗のビックロや建設ゼネコン間のプロジェクト遂行用の組合など、資本関係のない業務提携に使われることもあります。
(2)メリットとデメリット
具体的には本文の中で見ていきますがポイントだけ先出ししますと、まずメリットは相手方のブランドネームの共有、海外と行う場合には現地の法規制(特に外資規制)の回避、現地での知識・ネットワークやインフラの共有により比較的立ち上げがスムーズと言った点が挙げられます。
例えば日本の会社が海外に進出する場合には、良く知らない国で一緒に業務をしてくれる相手がいるため安心感があると思います。
他方、デメリットは、船頭が多くなるため意思決定に難があること、資本という形の初期投資と労力の投下があるので「別れにくい」(メリットにもなりますが・・・)ことです。
ここからは、私の経験談を含めてお話しします。
2.合弁会社を選択するか?
私が取り扱った案件の一つを挙げますと、最初のきっかけは、とある日本企業の社長が来社され、ある中国企業の製品を日本に輸入して販売するための合弁会社を作りたいので合弁会社設立契約をドラフトしてくれと依頼されたことでした。
そのときまず私の頭によぎったポイントは、そもそも相手方が(その能力も含めて)信頼できるのかという点と、合弁会社という形態が適当なのかです。
合弁会社という形態が適当かどうかについて考えると、例えば今回のような物品を輸入し販売することが目的であれば、単純に既存の会社同士で代理店契約を締結するだけの関係に留め(互いの経営には関わらない)という方法があり、むしろこちらの方が普通と思います。
この場合には、失敗した時のリスクは単純に契約を終了させるだけですし、新しい法人を作る必要もありません。
他方で、契約だけの関係性は、相手方に容易に逃げられるリスクをはらんでいます。
上記の件では、話をより深く聞いてみると、依頼会社の社長は相手方中国企業の製品にほれ込んでおり、その中国企業との結びつきを強く望んでいらっしゃるようでした。
契約関係だけの場合、条件として独占販売権を盛りこむことは考えられるものの、一定の期限が付けられることが想定されますし、契約上の違反に対する一定のサンクションや訴訟のリスクを覚悟さえすれば契約外の相手に販売させることも可能なので、相手企業が離れる可能性は比較的高くなります。
この点を考慮して、ある程度長期的・継続的に関係を作ることを重視するのであれば、合弁会社という形態も視野には入ってくると思います(前述の「別れにくい」という点がメリットとして出てきます。)。
合弁会社を作る必要性は一定程度理解しましたが、今度はリスクの方を見ていかなければなりません。
相手方が本当に信頼できるか、期待した成果が挙げられるのか、場合によってはデューデリジェンス=中身の調査を経て、本当にその会社と資本提携をするのかを考えなければなりません。
このリスクを測るためには、一定の時間がかかることを社長に申し上げました。
より詳細に申し上げると、もちろん財務面や技術面でも、相手方が適切なパートナーかを確認して頂く必要がありますが、上記の例では中国企業の製品を日本に輸入して販売する話でしたので知的財産権が気になりました。
この時点では、どこが気になるというより単にコピー大国の企業が相手なので引っかかっただけだったのですが、調べていくうちに、コピーではなくより違う観点から知的財産をやはり中心に見ていかなければいけない話なのだということが分かってきました(この点については4.調査の項目で後述します。)。
初回の打ち合わせでは、私はまずMOU(Memorandum of Understanding)を出して独占交渉権を得て、その後一定の期間を経てどのようなスキームが適当であるのか、また知財権の問題が解消できるのかどうかを確認しようとの提案をし、そのように進めることになりました。
3.MOU(Memorandum of Understanding)
このステップは絶対必要なものではありませんが、相手方との交渉や調査に時間をかけかつ相手を逃がしたくない場合においては、一定期間の独占交渉権や秘密保持等の義務を規定したMOU(Memorandum of Understanding)やLOI(Letter of Intent)等を締結することがあります。
これらの書面は原則として法的拘束力がないものですが、上記の中国企業の例のように独占交渉権やその他の法的な義務を盛りこもうとする場合は「この点においては法的拘束力がある」と記載しておきます。
なお、残りの部分はその時点での計画の青写真を記載しておき、その点については変更もありうるので法的な拘束力なしとします。
上記の件でも、MOUを締結してその後調査(特に知的財産権)に時間をかけることになりました。
4.調査
合弁会社の設立に限って言えば、多くの場合、例えばM&Aでやるような相手の会社の詳細な調査までは必要ないように思います(直接相手方本体の財務状態や法務の問題が関わってくるものではないため)。
他方で、上記の件では、前述のように知的財産権の点が気になりました。
海外の会社との取引では、知的財産に関する法制度の違いが顕在化する(例えば中国では技術ライセンスをするためには登録が必要であるため、許可を得なければライセンスができない)こともあります。
ここまでは本に書いてあることですが、更にここで考えて頂きたいのは、例えばGoogleが中国から撤退したように、グローバルな大企業でも中国国内での市場を諦めるということがあります。
そうすると、他の主要な国では特許出願をしているのに、中国国内での特許権が出願されていないということがあります。
これが実際の問題にどう跳ね返ってくるかというと、最悪の場合、中国ではとある機械が特許侵害にならないので大丈夫と思って日本で販売したら、日本では巨大企業から特許侵害で訴えられてしまうリスクがあるということになります。
また、相手の国で知的財産権の侵害については調べたからと言われても鵜呑みにせず、自らこの点は精査しなければリスクが洗い出せません。
前述の案件では、弁理士もチームに入って頂き、問題になりそうな日本国内の特許を洗い出し、その特許と商品を比べて問題ないかを何度も調査をすることになりました。
ちなみに、後にこの合弁会社の社長となった方にお聞きした話では、この時かけたコストは無駄にはならず、むしろ生きたようです。
というのは、その後の実際の販売段階で、営業や契約にあたり、様々なお客様から知的財産権は大丈夫なのかを聞かれ、少なくとも調査をして大丈夫となるようにした旨を言えたためライバルとの競争において優位に立てたとのことでした(私自身もそこまで狙ってアドバイスをしたわけではありませんが・・・)。
5.本契約の交渉
(1)合弁企業の構成
合弁会社を作るときに、最も議論になるのが、コントロールの確保です。代表取締役の選定、経営方針や、利益の分配等様々な点で極めてこの点が重要になるのは皆様にも良くご理解いただけるかと思います。
ここでいくつかの書籍を読むと、合弁会社の株式の過半数を取得し多数派となり代表取締役を選定できる権限を持つことや、他方で少数派になる場合においては少数派であっても例えば取締役の選任権を契約で確保し、一定のコントロールを確保する方法が書かれています。
これは法律的には正しいのですが、一歩進めて実際のビジネスを見るとまた違った面が見えてきます。
例えば、物品の販売を主にする物品の流入を止められてしまうと商売ができないということであれば、結局過半数を取得して社長を選任できたとしても、潜在的な力関係としてはどちらが上かは明白です(このような場合、議決権においては少数派であっても合弁会社に物品を卸すことを止めてしまい、新しい会社を作って実質的なビジネスを移動するという手段があります。そのような場合には、影響力としては少数派の方が強いということになります)。
無論、JV設立時の契約書でその点を手当てすることは考えられます。
例えば、契約時には両方とも前向きなので、何年間独占権を付与するとかそういったことも契約書に書けるかもしれません。
しかし、その期間も限定されることが多いと思いますし、契約が守られない可能性も考え併せると決して安泰ではないでしょう。
契約や株主構成でコントロール権を得て安心するのではなく、(法務的にはこれ以上どうしようもない点ですが)本当に自分達のコントロールがどこまで及ぶのかを認識しておくことが必要となります。
また、どちらが多数派をとるかの交渉においては、収益をどこから上げられるかも必要な観点になってきます。
一つの例として、多数派になって配当から収益を挙げなければならない側と、物品や原材料を供給するときにそこから適切なマージンを取れたり、ライセンスのロイヤリティーを取れたりする側が同じ持ち分比率というのはバランスを欠くとして、多数派になることを正当化する事情として主張することも考えられます。
(2)情報開示
合弁会社のパートナー同士は、元々他人の関係であり、別れた後はまた他人に戻るので、相手方にどこまで情報を開示するかは難しい問題です。
ものの本には、合弁会社の設立交渉時に、別れた後も見据えて秘密保持についての契約をしっかりするべきであるとか、開示の必要性とか重要性とかに応じて整理して情報を出すべきとかそのようなことが書かれています。
法務的には正しいのですが、実は、秘密保持義務違反というのはなかなか証明が難しい類型の一つです(客観的に自社の秘密情報を使っていると思える状況であっても偶然であると言い切られる可能性があり、直接に情報に接したとか第三者に開示したとかそういった証拠がない限り違反を問うのは難しいものがあります。)ので、契約に秘密保持の義務を盛り込んでいたからと言って安心できるものではなく、また合弁会社が想定するビジネスを上手く回すためにはやはり広く情報を開示しなければ相手方との信頼が得られないこともあるでしょう。
弁護士としてはこのようなリスクがあることは当然お伝えするべきですが、そのリスクを承知頂いた上で広く開示する判断もありうべきでしょう。
(3)外資規制/資金移動規制
海外、特にアジアの国に対しては外資規制が広く存在しています。
その業界の分野によって、国内資本が保有しなければならない持分割合はそれぞれ違いますので、事前に調査が必要です。
こちらで過半数を取ろうと思って交渉に入ったら、実はとれなかった場合、交渉の主導権を取られてしまうこともありますし、場合によっては過半数が取れないのではビジネスの目的が達成できないと考え交渉がその時点で終わることもあります。
他方、日本で海外の会社が株主になることは比較的容易です。
ただ、手続として外為法の届出(多くは事後の届出ですみます。)が必要になります(外為法Q&A 対内直接投資・特定取得編)。
なお、ここはクリティカルな問題ではないのですが、日本では企業の目的を定款に広く書くことが一般的に推奨されているところ、そのような書き方では所轄の官庁も多くなるので外為法に基づく届出を出すときに何通も同じものを出すことになります(バスケット的な条項を入れておけば、無駄に広すぎる目的を書く必要はありません。)。
ちなみに海外(特に中国)から日本に出資する場合、外貨規制のため、資金移動に関して当局の許可が必要であり、時期にもよるようですが、半年程度許可が下りないこともあるようです。
そのため、資金移動の時期も予定に組み込んでおく必要があります。
(4)手続
海外で会社を作るときにはそもそも色々手続が煩雑で、例えば、こちらの取締役候補の誓約書・サイン証明や、会社の定款などの英訳(場合によっては現地語訳)と翻訳者が真正に翻訳したことを証明する公証人の公証等を要求されたりします。
しかも、その国の行政によって細かな対応が異なってくるので、日本の法律事務所で細かなところまで調べられるわけでもなく、現地の事務所や相手方に一定程度任せることが必要になります(相手方の企業に任せても安心できる場合もありますが、そうでない場合には現地の法律事務所と連携して調べなければなりません。
私も、長い交渉の末に合弁契約を締結して終了だと思ったら、このような手続のためにその後もインドの現地事務所と連日連夜問い合わせをしなければならなかったことがあります。)。
(5)合弁会社の解散(ジョイントベンチャーの解消)
最後に触れておかなければならないのは、合弁関係の解消です。合弁会社を作ろうとする場合にはいつか別れる可能性を念頭に契約を作成しておかなければなりません。
契約書では、残る方の片方が買い取る権利を持つとか、買い取り先が見つからない場合には清算するとか色々な場合分けをして対処法を書きこみ、いざというときに揉めないようにしておくのが一般的なプラクティスです。
なお、解消時点では開始時と違って互いにギリギリの交渉になる可能性は高いので、その点も付け加えておきます。
ビジネスに即した観点から見ると、合弁企業は、合弁パートナーがそれぞれ不可欠な役割を担っていることが多い(例えば、アメリカで作った製品を日本で販売し、アメリカ側企業が製品の製造を、日本側企業が日本のマーケティング・販路確保をする等)、そのような場合には、片方が撤退すると残された方がビジネスをすることも決して容易ではありません。
片方が続けたくとも、結局合弁会社を解散させそのビジネスを解消することになり、投下資本の回収が難しくなってしまうこともあり得ます。ジョイントベンチャーにはこのようなリスクもあることを認識しておく必要があります。
6.小括
ジョイントベンチャーのメリットは、冒頭にお話ししたように、資産・組織・信用を活用して事業を進められることにあります。
しかしながら、このメリットは一定程度事業が進み、その国に慣れてきたり、潜在的顧客が判明してきたりすると薄れてきます。
加えて、うまく行っている場合も、当事者の片方が取り分を相手方とシェアしていることに不満を覚え独力での経営に乗り出すこともあります。
そういった事情から、一説では合弁企業の寿命は3年から7年と言われています。
そうすると、ある程度時限的なものになってしまう可能性のある合弁会社について、まずは設立に向けての契約交渉、設立手続、いずれかの時点での解消についての労力・コスト等に鑑みて、割に合うかどうかを検討する必要があるでしょう。
(弁護士が申し上げる筋のものではないかもしれませんが)本記事を読んでいただけたら、ビジネスに即した正確な認識と、それに即した判断が重要であると認識して頂けるのではないかと思っております[1]。
7.最後に
海外の企業と協同をすることそれ自体については現在の日本では必然ともいえる部分がありますが、様々なスキームの中でどれを選ぶかについては本記事で挙げた様々な考慮要素を総合して判断するしかありません。
その中で、弁護士から、どこまでその企業と事情に即したアドバイスを受けられるかは成功の肝になるように思います。
その弁護士の知識やレベルもさることながら、円滑なコミュニケーションが取れる弁護士をお選びになることをお勧めしたいと思います。
[1]例えばWebで検索すると、KPMGのFAS Newsletter(2015年1月)等が見つかる。 https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/pdf/2016/03/jp-joint-venture.pdf
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています