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グアムで事業を始める方法|具体的な流れを専門家がわかりやすく解説
本稿では日本人がグアムにて事業を始める場合の一連の流れを紹介しています。
1.法人設立
(1)事業体の類型
グアムにて日系企業が営利目的の事業を行う場合、主に以下の形態で行うことができます。
- 個人事業主(Sole Proprietorship)
- 組合(Partnership)
- 株式会社(C Corporation又はS Corporation)
- 有限会社(Limited Liability Company)
本稿では最も一般的であるC Corporationについて説明します。
その他の形態で事業をお考えの場合、リスク・使用に制限等がある可能性がありますので、事前にしっかりと調査する又は専門家のアドバイスを受けるようにしてください。
(2)グアムの株式会社の基本的な知識
米国には連邦法と州法があり、会社法は州法によって定められています。グアム[1]の会社法もグアム独自のものであり、他州と同様の内容であるとは当然には推定できませんし、するべきではありません。
ただ、グアムの現在の株式会社法は、Model Business Corporation Act(模範事業会社法)に基づいており、同様の模範法を採用している州と共通する法律が多くあります(ただ、採用に際して、各州で様々な変更を加えて採用していたり、そもそも何年度版の模範法を採用しているか次第でも大きく異なります)。
グアムに存在する株式会社は旧グアム株式会社法(The General Corporation Law[2])と新グアム株式会社法(Guam Business Corporation Act[3])の何れかに基づいて設立されています。
2009年4月30日以降に設立された株式会社は新法に基づいて設立されています[4](それ以前に設立された株式会社は原則旧法の適用を受けますが、任意に定款変更することにより、新法の適用を受けることも可能です[5])。
旧法のほとんどの条文は第二次世界大戦後すぐに施行され、その後ほとんど変更されていなかったため、現代の会社法制には即していませんでしたが、2009年に新法が成立[6]し、グアムの株式会社法が現代化されました。
旧法に基づいて設立された株式会社は様々な問題点を抱えていますが(存続が永続ではなく最長50年間という期間制限があること等)、本稿ではこれから新しく事業を開始される方向けに執筆しており、これから設立される株式会社は全て新法に基づいて設立されるため、本稿では旧法には触れませんが、旧法で設立された会社で事業をされている場合には、顧問弁護士とご相談されることをお勧めいたします。
本稿で特段の定めがない限り、以下で書いている内容は全て新法に基づいて設立された株式会社について言及しています。また、できるだけわかりやすく説明するために専門的な用語や名称は可能な限り省くようにしており、また、一般的な内容を書いています。
また、グアムや他の米国の各州では、原則として取締役(Directors)に加えて役員(Officers)の選任が必要です。従って、グアムにおける法人組織は次のようになります。
(3)株式会社の設立の流れ
グアムで株式会社を設立するためには、発起人が定款(Articles of Incorporation)を税務局(Department of Revenue & Taxation)に提出します[7]。
グアムの株式会社は定款の提出が受領された瞬間に設立が完了します。
設立後、発起人が設立総会を開催し、取締役の選任や付属定款(Bylaws)の採用等を行います[8]。
その後、選任された取締役が取締役会を開催し、会社の会計年度の決定、役員の選任等を行います[9]。
また、任意に送達代理人(Agent for Purposes of Service of Process)の任命を行うこともできます[10]。
従って、実務上、適法に株式会社を設立するためには、最低でも以下が必要になります。
- 定款
- 付属定款
- 発起人総会の議事録
- 取締役会の議事録
また、任意ではありますが、以下の作成も推奨されます。
- 送達代理人の任命書
- 送達代理人の受任書
2.連邦・グアムの納税者番号の取得
法人設立後は連邦納税者番号(Federal Employer Identification Number、通称EIN)の取得及びグアムの納税者番号(Gross Receipt Tax Number、通称GRT)の取得が必要です。
GRT番号の取得にはグアムでの住所及びEINが必要となります。
EINは、新たに設立されたグアム法人の責任者が申請する必要があります。
グアム法人の責任者は個人である必要があり、法人を究極的にコントロールしている者である必要があります。
従って、通常であればグアム法人の社長が責任者に該当すると考えられます。
この責任者が米国の社会保険番号(Social Security Number)を保有している場合には、インターネット上での申請が可能ですが、SSNを持っていない場合には、郵送又はファックスでの申請が必要となります。
EINはインターネット申請の場合には申請時に、郵送の場合には1ヶ月程度、ファックスの場合には1週間程度で通常は取得可能です。
EIN取得後、GRT番号の申請を行います。GRT番号の取得には申請方法により、数日から数ヶ月かかることがあります。
3.銀行口座の開設
グアムの主要な銀行は次の銀行となります。
- ファースト・ハワイアン・バンク(First Hawaiian Bank)
- バンク・オブ・ハワイ(Bank of Hawaii)
- バンク・オブ・グアム(Bank of Guam)
- オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)
これら以外にも中小の銀行や信用組合等があります。
銀行によって各種手続の手数料、島内でのATMの数、窓口での取引の待ち時間、日本人スタッフの常駐の有無等、大きく異なることがありますので、各銀行にグアム法人が主に行うであろう取引に関して詳細に確認した上でどの金融機関で口座開設をするかを決定することをお勧めいたします。
例えば、大きく手数料が銀行によって違う取引として、電子送金があります。
金融機関によっては送金する合計額のパーセンテージを請求する銀行もあれば、一律の金額を請求している銀行もあり、高額の送金を行う場合には後者の一律の金額を請求する銀行の方が有利な可能性があります。
銀行口座の開設には、既に述べた法人設立書類に加え、法人設立時に交付される設立証書や各種納税者番号(中には納税者番号通知書を要求する銀行もあります)等が必要となります。どの書類が必要なのか、口座開設される金融機関と確認されることをお勧めいたします。
4.営業許可証の取得
一部の専門職(弁護士業等)を除き、全ての事業で営業許可証(Business License)が必要となります。
取得には業種次第ですが、数週間から数ヶ月かかることも珍しくありませんので、事業計画を立てられる際には注意が必要です。
5.就労ビザの取得
就労ビザの種類や取得方法に関しては複雑であるため弁護士とご相談することをお勧めいたしますが、主にグアムで法人設立した日本人や日系企業が新たに設立した法人で取得するビザはE-2ビザ(投資駐在員ビザ)又はL-1Aビザ(管理職ビザ)となります。
大前提としてグアム法人の国籍や、各ビザを取得しようとする人物の経歴がビザの要件を満たす必要がありますが、これに加え、ビザ申請時にビザが許可される可能性を極力上げるためには、可能な限り実体のある事業であることを証明する必要があります。
実体のある事業であることを証明するためには、法人設立、賃貸物件の契約、納税者番号の取得、銀行口座の開設、営業許可証等の取得、店舗等の内装工事等を全て完了しておくことが望ましいでしょう。
これ以外にも事業が実体のあるものだということを証明する事実が多ければ多い程にビザ申請が認められる可能性が上がります。
もしEB-5ビザ(投資家ビザ)申請を通して永住権取得を考えている場合には、法人設立前から計画的に投資をする必要があります。
既に米国での法人設立等全て終わっている場合で、EB-5の要件を満たせていない場合には、申請が認められない可能性等もありますので、事前準備が重要です。
[1] グアムは州ではなくunincorporated territory(未編入領域)であり、州とは様々な違いがありますが、会社法を考える際には領土であるということは特に影響しませんので、本稿で領土と州の違い等については触れていません
[2] 18 GCA § 1101以下
[3] 18 GCA § 28101以下
[4] 18 GCA § 281701
[5] 18 GCA § 281702
[6] P.L. 29-144 (Jan. 30, 2009)
[7] 18 GCA § 28201
[8] 18 GCA § 28203
[9] アメリカでいう役員とは広義には取締役を含みますが、狭義では含みません。ここでいう役員とは社長(President)、書記役(Secretary)、会計役(Treasurer)の3役をいいます。
[10] 模範法では送達代理人は任意ではなく義務付けられていますが、グアム法上は任意です。ただ、実務上税務局が送達代理人の選任を求める場合がありますので、波風を立てたくない場合には選任されるのが推奨されています
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています