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M&A秘密保持契約書のポイント

2020年2月10日
M&A秘密保持契約書のポイント

1. はじめに

M&Aを進めるにあたって、初期の段階から締結を要求されるものとして秘密保持契約(英語ではCA[Confidentiality Agreement]又はNDA[Non-Disclosure Agreement]と称されます)があります。
この契約は、秘密保持契約書として単独で締結される場合以外にも、基本合意書の中に含まれていたり、M&A仲介会社を依頼している場合には仲介契約書の中にもその内容が盛り込まれる場合があります。

M&Aの対象会社の技術上又は営業上の秘密を守るための契約であり、重要な内容ではあるものの、どのような視点でレビューすればよいのか分からないこともあるかと思います。

そこで、秘密保持契約の内容を検討するに当たっては、どのようなことに気を付ければよいか、ポイントを解説していきます。

 

2. 秘密保持契約の内容

秘密保持契約の内容

(1)目的

M&Aを進めるかの具体的な検討に当たっては、デューデリジェンスを通じ対象会社の内部情報が開示されることになりますが、このような情報がM&Aの目的以外に利用あるいは漏洩されてしまっては、対象会社の利益が不当に損なわれることになってしまいます。そのため、秘密保持契約が必要となります。

(2)違反した場合

秘密保持契約に違反して秘密情報を漏洩しようとする契約当事者に対しては、漏洩行為の差止めを請求することができます。
実際に漏洩があった場合、契約不履行を理由に損害賠償を請求することができます。
漏洩された情報が不正競争防止法の「営業秘密」に当たれば、損害の推定規定(不正競争防止法第5条)の適用がありえます。

(3)秘密保持契約の条項

そのため、どのような範囲で秘密保持義務を規律すべきかについては、慎重に検討する必要があります。

以下は、中小企業向け事業引継ぎ検討会の秘密保持契約の抜粋ですが、下記のような条項がどのようなケースにも対応できるものではないことにご留意下さい。

 

秘 密 保 持 契 約 書

(前文略)

(定義)

第1条 (第1項略)

2 本契約でいう情報とは、書面、電波、電磁的記録、口頭及び物品等の一切の情報並びにそれらを基に作成した資料をいう。

(情報の使用)

第2条 甲及び乙は、相手から開示された情報を本件以外の目的で使用してはならない。

(秘密保持)

第3条 甲及び乙は、相手方より入手した情報の秘密を保持するものとし、相手方の事前の承諾なく第三者に開示、漏洩してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するものについては、この限りではない。

⑴相手方から開示された時点で、既に公知となっているもの

⑵相手方から開示された後、開示を受けた当事者の責によらずに公知となったもの

⑶相手方から開示された時点で、既に開示を受けた当事者が保有していたもので、その旨を遅滞なく相手方に通知したもの

⑷正当な権限を有する第三者から開示に関する制限なく開示されたもの

⑸法令に基づき、正当な権限を有する公的機関から開示要求されたもの

2 本契約でいう第三者とは、本件の目的を遂行する上で必要かつ最小限の範囲の両当事者の役員、従業員、顧問弁護士、公認会計士、税理士及び顧問等(以下、「役員等」という。)および事業承継マッチング支援に関与する甲の職員及びコーディネーター以外のものをいう。

3 甲及び乙は、その役員等に対し本契約の内容を遵守させることについての一切の責任を負う。

(情報の返還)

第4条 甲及び乙は、第5条の規定により本契約が終了した場合及び本契約に基づく事業承継が成立する可能性がないことを相互に確認した場合には、本契約に基づき相手方から提供又は開示された一切の情報(複製したものを含む。)を速やかに返還するものとする。

(有効期間)

第5条 本契約の有効期間は、本契約締結日より2年間とし、有効期間満了までにいずれの当事者からも解約の申し出がない場合には、さらに1年間延長し、以後も同様とする。

2 前項により、本契約が終了された場合といえども、本契約第2条、第3条及び第7条で定める義務は、本契約終了後2年間は存続する。

(協議事項)

第6条 本契約に定めなき事項又は本契約の条項の解釈につき疑義が生じた場合には、甲乙誠意を持って協議決定するものとする。

(準拠法及び管轄裁判所)

第7条 本契約の準拠法は日本法とし、本契約に関して生じる一切の紛争については、甲の住所地を所轄する地方裁判所をもって第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

(以下略)

 

引用元:中小企業向け事業引継ぎ検討会『事業引継ぎガイドライン~M&A等を活用した事業承継の手続き~』

(4)秘密情報の範囲

秘密保持契約で保護の対象とされる秘密情報については、定義規定を置いた上で除外事由が設けられるのが一般的です。
上記契約書の第1条2項においても、どのような媒体を用いた情報かを定義した上で、第3条でその除外事由を定めています。

秘密情報の定義を定めるに当たっては、その媒体のほか、秘密であることの明示を要求するか、するとしたらその方法なども検討事項となります。

 

以下のような条項も一つの例です。

第X条 本契約における秘密情報とは、本件取引に関して開示当事者が他方当事者に開示した情報であって次の各号の一に該当するものをいう。なお、本契約の存在及び本件取引の交渉中である事実も含むものとする。

(1)文書、図面その他の書類又は電磁的、磁気的若しくは光学的媒体に記載又は記録された情報であって、開示時に当該書類又は媒体上に秘密情報である旨明示された情報

(2)口頭その他の方法で開示され、開示時に前号のように明示し得なかった情報であって、開示後7日以内に、当該情報を秘密として特定するとともに、秘密である旨の表示を付した書面が交付された情報。

 

秘密情報を開示する側からすれば、秘密情報の定義に該当する範囲を広くしたいという観点からは、秘密であることの明示を求めないほうが有利になります。
但し、あらゆる情報を秘密情報と取扱うようなやり方ですと、秘密情報と秘密情報に値しない情報とが混在することになり、開示当事者として、秘密情報とそうではない情報との峻別管理ができているのか疑問ということになりかねないので、その点は留意する必要があります。

 

他方、開示を受ける側からすれば、秘密情報に該当するような情報の範囲が増えれば増えるほど、その管理コストが増えたり、もともと開示を受ける側が有していた情報との混在が起きたり、秘密保持契約への抵触を考慮しなければいけないケースが生じやすくなったりするなどのデメリットがあるので、できる限り秘密情報を特定することが望ましいことになります。

 

また、秘密情報からの除外事由についても、上記契約書第3条の⑴から⑷は定型的に入れられるもので、秘密性を喪失したと認められる情報を列挙したものですが、これら以外(例えば、独自の開発活動を行って得た情報等)の条項も場合により加えることを検討します。
これに対し、同条の(5)は、該当する場合には開示し得るという開示禁止行為の例外であり、秘密性を喪失した訳ではなく、秘密情報の例外である⑴から⑷とは性質を異にすることから、両者を分別して規定することもあります。

 

最終的にどのような情報を秘密情報とするかは、株式譲渡によるM&Aを例にとれば、売主側と買主側でより取引を進めたい方が妥協することもあるでしょうし、取引の目的が何かによっても変わってくるでしょう。
例えば、対象会社の事業が専ら物を仕入れて売るのみで、その売上が目的であれば、売主側も買主側も余り秘密情報に神経質にならなくて良いかもしれない一方で、対象会社の技術・ノウハウが目的の場合は、売主側と買主側とで対象会社のセールス・ポイントである当該技術・ノウハウを特定の上厳格な秘密管理に合意するという流れになると思われます。

 

(5)秘密保持義務の例外

上記契約書第3条2項のように、M&Aを進めていくに当たって情報開示が不可欠な関係者らに対しては、秘密保持義務の対象外とされるのが通常です。

 

ただし、このように秘密保持義務の対象外とされた場合であっても、同条3項に定められるように、相手方の秘密情報を受け取った側は、当該関係者らに対して、秘密保持義務を遵守させる必要があります。

 

ここで注意すべきことは、「両当事者の役員、従業員…」では、各当事者の関連会社が含まれないことです。
例えば、上場企業の子会社がM&A取引の当事者となる場合には、親会社である当該上場企業に在籍していて知る必要のある役員や従業員らに開示する必要が出てきますから、そのような場合には、その当事者の親会社の役員や従業員らが含まれるようにドラフティングしなければなりません。

 

(6)秘密情報の破棄・返還、契約の有効期間

秘密保持契約には有効期間が設けられるのが一般的であり、その期間はM&Aの検討に必要な1~2年又は両当事者がM&Aを断念したときの何れか短い方とされることが多いです。

 

また、秘密情報については、秘密保持契約終了時に返還又は破棄の方法がとられることとなりますが、どのような方法を採るべきかについては、やりとりされる秘密情報の性質に応じて決められます(メールやワードファイルなどの電子情報は返還になじまないなど)。
なお、相手方の秘密情報に基づき受領当事者が作成した社内文書が、法令に基づく文書保存義務や当該当事者の文書保存規程の対象となることがありますので、そのような場合には返還又は廃棄の例外とする旨の条項もよく見られるところです。

 

秘密保持契約終了後の秘密保持義務の存続期間もしばしば議論になります。
買主側としては、なるべく早期に秘密保持義務を免れたい一方、売主側としては、秘密情報が公知にならない限りは秘密保持義務を負わせたいと考えるからです。
売主側が強硬に期限の定めのない秘密保持義務を主張することも多いのですが、現代における情報の陳腐化の速度に鑑み、1年~長くて3年で決着することが多いように思われます。

 

(7)管轄・紛争解決・差止

上記第7条では、一方当事者の住所地を管轄する地方裁判所を管轄としています。
ただし、秘密情報について紛争が生じた場合には、公開が原則の訴訟で争うことが適切ではないこともありますので、仲裁を選択することも考えられます。

 

情報漏洩に対する差止請求の保全処分をする場合、専属的管轄合意裁判所がある場合にはもちろん同裁判所で申立てが可能ですが、仲裁の場合は可能でしょうか。
この点、日本の仲裁法上は、「仲裁合意は、その当事者が、当該仲裁合意の対象となる民事上の紛争に関して、仲裁手続の開始前又は進行中に、裁判所に対して保全処分の申立てをすること、及びその申立てを受けた裁判所が保全処分を命ずることを妨げない」とされています(仲裁法第15条)。

 

3. ベンチャーキャピタルと秘密保持契約

秘密保持契約は、ベンチャーキャピタル(VC)による投資の場合は別途の考慮が必要です。
VCが対象会社の株式や潜在株式を取得する場合は、通常支配株主を目指しているわけではなく、最終的に持株を売却して利益を得ること(エグジット)を目的としていますから、M&Aとはいい難い面があるのですが、VCを代理して業務をしていると、M&Aの場合と区別なく秘密保持契約を要求される例が多いことに鑑み、本稿で解説したいと思います。

 

VCは、秘密保持契約を締結すべきではありません。
その理由は、VCはいわゆるスタートアップの小規模企業を対象とし、多数の候補企業の中から最も見込みのある企業を選定して投資するという手順を踏むわけですが、それらの候補企業はしばしば同一又は類似する分野の事業に取り組んでいるため(AIやロボット関係が非常に多い)、個々の候補企業と投資の条件交渉をする過程でどうしても他の候補企業の秘密情報を漏らして契約違反となるリスクがつきまとうからです。

 

この点、候補企業にとっても、秘密保持契約を締結して自社情報の開示を禁止すると、相手先のVCは他のVCに同社の情報を開示できなくなるわけですが、それは他のVCからの投資の機会を失わせるというデメリットを生じさせます。

 

候補企業としては、秘密保持契約なしに自社の新技術やアイディアをVCに開示するのは抵抗があるかもしれません。
しかし、VCの業界は狭く、VCがみだりに対象会社の情報を開示したりすれば、そのようなVCは直ぐに悪評が立ち相手にされなくなります。
また、そうした悪評のおそれ、通常VCの存続期間は限られていること及びVCは投資ビークルであり、実業を行うための人的・物的構成を備えていないこと等に鑑みれば、VCがスタートアップ企業の新技術やアイディアを盗んで競合ビジネスを始めるリスクについては余り神経質に考える必要はないと思われます。

 

4. まとめ

秘密保持契約については一定の部分で定型の条項があることは確かですが、その検討に当たっては、対象とされる秘密情報の内容や、当事者間の競業関係等も含めて、個別的な検討が不可欠になります。
また、秘密保持契約は適正な内容で締結さえすればいいというものではなく、自社が保有していた情報の整理や、管理体制の構築などの運用面も重要になります。

 

M&Aにおいても初期段階で秘密保持契約書の作成がされますが、このような個別的な検討が欠けたまま進めてしまうと、秘密情報とされるべきものがそのように扱われなかったり、元々自社で保有していた情報であるにもかかわらずその利用が制限されたりする可能性もあります。

 

そのため、M&Aを進めるにあたって秘密保持契約書の作成や確認を求められた場合には、M&Aの経験が豊富な弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

ベリーベスト法律事務所
ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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