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改正民法~法定利率に関する大幅な見直し
法定利率に関する改正は、市民生活や取引社会に大きな影響があります!!
1.改正の概要
利息を算定するための割合のことを利率といいます。
この利率には、法定利率と約定利率があります。法定利率とは、法律によって利率が決められている場合のことをいい、約定利率とは、当事者間の合意によって利率を決める場合のことをいいます。
今回、法定利率に関する大幅な改正がありました。
まずは、その概要をみていきたいと思います。なお、本稿においては、改正前の民法を「改正前民法」、改正後の民法を単に「民法」といいます。
(1)法定利率年5%から年3%に
改正前の法定利率年5%(改正前民法404条)については、市中金利を大きく上回る状態が長く続いていたため、 利息や遅延損害金の額が著しく多額となる一方で、中間利息の控除の場面では不当に賠償額が抑えられるなど、当事者の公平を害するのではないかという批判がありました。
今回、こうした批判も踏まえ、年3%に引き下げられました(民法404条2項)。
(2)固定制から3年毎に法定利率の見直しを可能とした変動制の導入
また、今後も市中金利と大きく乖離する事態が生ずるおそれがあることから、合理的な変動の仕組みをあらかじめ法律で定めておき、予測可能性を高めるために変動制が採用されることになりました(民法404条3項)。
(3)商事法定利率の廃止
さらに、商事法定利率(商法514条)については、現代社会において、商行為によって生じた債務のみを特別扱いする合理的理由に乏しいとして廃止(同条削除)されることになりました。
2.法定利率の適用場面
法定利率の適用される場面は、以下の3つの場面です。
- 利息を支払う合意はあるが、約定利率の定めがない場合の利息の算定に適用する場面
- 約定利率の定めがない遅延損害金の算定に適用する場面
- 逸失利益などの損害賠償の額を定める際の中間利息控除に適用する場面
※中間利息控除とは、将来にわたって受け取るべきお金を現時点で一括払いするとした場合に、将来にわたって発生するはずの利息分を差し引くことをいいます。
3.法定利率の改正の具体的内容
(1)法定利率が適用される時期は、明文化されました。
今回の改正で、法定利率は現行の年5%から年3%に変更になりましたが、適用時期について以下のように定められました。
民法404条1項 | 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、 その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。 |
民法419条1項 | 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害 賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における 法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を 超えるときは、約定利率による。 |
今後、法定利率は3年毎に変更される可能性があるため、変更時期をまたぐ利息期間や債務不履行期間があった場合、いずれの法定利率を適用するか争われることのないよう適用時点を明文化したのです。
①利息の算定に適用する場面での適用時期
利息付でお金を借りたが、利息の利率に関して合意がないときは、法定利率が適用されます。適用時期は、「その利息が生じた最初の時点」(民法404条1項)となります。
利息は金銭の交付を受けた時点から生じますので、金銭交付時の法定利率が適用となります。
②遅延損害金の算定に適用する場面での適用時期
売買代金を支払期限までに支払わないときは、債務不履行に基づく遅延損害金が生じます。適用時期は、「遅滞の責任を負った最初の時点」(民法419条1項)となりますので、売買代金の債務不履行にあたる場合は、売買代金の支払期限を過ぎた時点の法定利率が適用となります。
法定利率の適用を受ける1つの債権については、1つの法定利率しか適用されないと覚えておけばよいでしょう。
(2)法定利率の変更ルールは明文で定めてあり、変更の有無が予測可能となりました。
今回の法定利率の改正は、市場金利との大きな乖離は望ましくないという観点からなされました。
しかし、法定利率の改正が頻繁にあったり、変更差が大きかったりすると、かえって混乱を招くおそれがあります。
そこで、今後の法定利率の見直しにあたっては、国内銀行の短期貸付けの貸出約定平均金利(5年間の平均値)を指標にすることになりました(民法404条5項)。
この平均金利は日本銀行が定期的に発表していますので、法定利率の変更は予測可能です。
また、算定上は1%未満の端数は切り捨てられることになりましたので(民法404条4項かっこ書)、加減されることになる実際の金利差は1%の整数倍(1%、2%、・・)となります。
例えば、今回の改正時の法定利率は年3%でスタートしますが、見直し時期の計算結果と1.5%の差があった場合でも、1%未満の端数は切り捨てられるので、以後3年間の法定利率は年4%ということになります。関係条文は以下のとおりです。
民法404条3項 | 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を1期とし、1期ごとに、次項の規定により変動するものとする。 |
4項 | 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。 |
5項 | 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。 |
3. 中間利息控除の金額が大きく変動します!
(1)中間利息控除に法定利率を適用することが明文化されました。
改正前には、中間利息控除に適用される利率に、法定利率を適用するという明文の規定はありませんでした。
しかし、中間利息控除に法定利率を適用すると判断した最高裁判例(平成17年6月14日判決)があることから、裁判実務も中間利息控除には法定利率5%を適用していました。
今回の改正で、中間利息控除に法定利率を適用することが明文化されました。関係条文は以下のとおりです。
民法417条の2 | 将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。 |
2項 | 将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。 |
民法722条1項 | 第417条及び第417条の2の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。 |
(2)今回、中間利息控除に適用する法定利率が年5%から年3%に下がったことで、逸失利益の請求額が大きくなります。
典型的な例は、労働災害や安全配慮義務違反を理由とした逸失利益を請求する場面です。
逸失利益とは、事故がなければ将来得られたであろう収入や利益のことをいいます。
被害者が請求できる逸失利益の金額が大きくなるのは、上記のとおり、中間利息控除に適用される法定利率が5%から3%に下がることになったからです。
具体例で説明します。
設定例 被害者は独身の男性 事故時年齢30歳 基礎収入年額500万円 業務中の事故で死亡 |
設定例の逸失利益は、この男性が働くことができたと考えられる67歳まで、現在の年500万円の収入があるという前提にして、生活費及び中間利息の控除を行って計算します。
算式に表すと、
500万円×(1-0.5*)×中間利息控除率(ライプニッツ係数*) |
となります。
*設定例の独身男性の生活費控除率は、0.5としました。
*ライプニッツ係数とは、67歳までの期間(37年)の中間利息を控除する
ための特殊な係数のことです。
この算式に改正前民法の法定利率5%を適用すると、以下のとおりとなります。
500万円×(1-0.5)×16.7113(年5%のライプニッツ係数)
=4177万8250円 ←改正前の逸失利益の請求額
次に、今回の法定利率3%を適用すると、以下のとおりになります。
500万円×(1-0.5)×22.1672(年3%のライプニッツ係数)
=5541万8000円 ←改正後の逸失利益の請求額
なんと、1363万9750円もの差があります!
改正前民法では、中間利息控除に適用される法定利率が5%と高かったため、逸失利益の請求額が不当に低額に算出されているとの批判もありましたので、今回の法定利率の改正はこうした批判に対応した面もあるのです。反対に安全配慮義務違反があったとして請求を受ける企業にとっては、従前より多額の請求を受けることになりますから、悩ましいものといえます。
4.企業法務のチェックポイント
企業間継続的取引契約については、改正法附則17条1項について注意する必要があります。
改正法附則17条1項 | 施行日前に債務が生じた場合(施行日以後に債務が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。附則第25条第1項において同じ。)におけるその債務不履行の責任等については、・・・なお従前の例による。 |
この規定は、債務不履行の責任について、当事者間に契約があるときは、契約日を基準に改正法を適用するかどうかを決するというものです。
すなわち、債務不履行が今年の4月1日以降であっても、その債務の原因となる契約が4月1日より前であるときは、「従前の例による。」、すなわち改正前民法の適用があることになります。
契約書に遅延損害金の利率の明記をしておくことが重要となります。
企業間での取引は継続的であることから、当初取引基本契約を締結し、その後個別取引契約を交わして取引することもよくあります。
両者の契約日が今年の4月1日を跨ぐ場合において、債務不履行があった場合、両者どちらの契約日を基準として規定を適用するのか争いになることも想定されます。
遅延損害金の利率は、約定がないときは法定利率の適用となります。
逆に言うと、契約書に遅延損害金の利率について、当事者間で合意した適用利率を明記しておけば、こうした争いも回避することができます。
5.まとめ~分かりやすい民法に一歩前進
民法は、市民の法律ともいわれ、お金の貸し借りや売買など身近な生活に関係した法律ですから、その改正は私たちの生活に少なからず影響があります。
今回の法定利率の改正も、市中金利との乖離幅を調整するとともに法定利率の変動制を採用して、私たちの身近な生活に大きな影響がある内容となっています。
法律は、一般に馴染みやすいものではありませんが、民法は、日常生活にも大いに関係しますから、国民一般にとって分かりやすい法律であるのが理想です。
条文を読んでも、弁護士等の専門家しか知らない隠れた判例ルールがあったりして分かりにくいものであると、市民の法律とはいえません。
今回、法定利率に関する条文もいつくか判例ルールが明文化されましたし、条文の文言も具体的になっています。
その意味では、今回の改正は、民法のあるべき姿に一歩近づいたものになっているといえるでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています