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民法改正4月1日より施行|危険負担に関する契約上の注意点

2020年4月24日
民法改正4月1日より施行|危険負担に関する契約上の注意点

1.はじめに

平成29年6月2日に公布された民法の改正法が、令和2年4月1日から施行されました。
今回は、売買等、当事者双方が債務を負う双務契約で広く問題となる危険負担について、改正点を踏まえて解説します。

2.危険負担

危険負担

(1)危険負担とは?

危険負担とは、売買等の双務契約が成立した後に、一方の債務が債務者の責めに帰することができない事由で目的物が滅失・毀損等してしまったことにより履行不能となった場合に、そのリスクを当事者のいずれが負担するか、という問題のことをさします。

具体例を挙げると、

事例①

売主Aと買主Bの間で、20XX年4月1日、ある機械についての売買契約が結ばれ、その売買契約には、機械Cの引渡しと代金の支払いを20XX年5月1日(1か月後)とする特約が付いていました。

しかし、売買契約が締結された14日後の4月15日、地震が発生し、それにより売買の目的物となっていた機械Cが損壊してしまいました。

このように買主売主双方の責任が問えない際にどちらがそのリスクを負担するか、本件の例でいえば、買主Bは売主Aに代金を支払う必要があるのか、という問題です。

(2)旧民法の規定するルール

①原則: 債務者主義 (旧民法536条1項)― 売主がリスクを負担債務者主義の場合、一方の債務が債務者の責めに帰すべき事由によらないで履行不能となったときには、債権者の負う反対給付債務は消滅します。

上の事例にこのルールを適用すると、機械Cは地震で損壊したので、売主Aのせいで引渡しをできなくなったわけではなく、買主Bは機械Cの代金を支払わなくて良いことになるのです。

しかし、一見、当たり前のように見えるこのルールですが、旧民法では、上のルールは、以下に述べる例外にあたる場合には適用されず、別のルールが適用されることになります。

旧民法第536条

① 前2条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。

② 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

②例外1 : 債権者主義 -買主がリスクを負担

例外的に、以下の場合は、反対給付債務(買主Bの代金支払義務)は存続します。

ア 債権者の責めに帰すべき事由によって履行できなくなった場合(旧民法536条2項)

これは、例えば、注文者が業者に対し、建物の屋根の修繕を依頼し、業者が屋根の修繕をしていると、その仕事の作業期間中に注文者の過失によって建物が焼失してしまい、修繕作業が続行できなくなったといった場合です。

この場合、注文者(債権者)の都合で業者(債務者)は修繕業務を完成させることができなくなったのですから、業者は注文者に報酬を請求することができます。

もっとも、全額請求できない場合もあり、工事を途中で止めたことで、人件費や材料費などの支出が減った部分があれば、その分を差し引いた額が支払われることになります(旧民法536条2項)。

このように債権者の都合や責任で、債務者が債務を履行できなくなった場合には、債務者は債権者に対価を請求できることになります。

イ 「特定物」を目的とする契約について債務者の責めに帰すべき事由によらないで目的物が滅失又は損傷した場合(旧民法534条1項)

「特定物」とは、当事者がその物の個性に着目した物のことです。
このように書くと、よく分かりませんが、もう少しわかりやすく言えば、代替性のないものを指します。例えば、中古の機械を購入するとします。
その中古の機械は、同じ型番の機械はほかにあるかもしれませんが、全く同じ状態の機械は他にはありません。
つまり、全く同じものを探しても見つからず、代替性がないといえます。
このように、代替性のないものを「特定物」といいます。中古品の他の典型例としては、不動産や特注品、ペット、競走馬などがあげられます。

また、「不特定物」であっても、「特定物」と法的な扱いが同様となる場合があるため注意が必要です。
「不特定物」とは、個性に着目しない(代替性のある)物のことをいいます(つまり、代替性のあるものです。)。
「不特定物」であっても、物の給付に必要な行為を完了したとき(例えば、買主が売主のもとに商品を取りに来る契約であれば、売主が商品を他の物と分離し、引き渡しの準備をし、買主に通知することを言います。)、または、債権者の同意を得て給付すべき物を指定したとき(401条2項後段)には「特定」されたことになり、特定物として取り扱われます。
というのも、不特定物であれば代替物があるので、仮に滅失しても履行不能にならないといえますが、それでは売主がいつまでたっても、履行責任を免れることができないことになります。
そこで、売主がものを給付するのに必要な行為を完了したとき(やるべきことをやった場合)、危険負担を売主から買主に移すという考え方が取られたからです。

「特定物」を目的とする契約で債務者の責めに帰すべき事由によらないで目的物が滅失又は損傷した場合の具体例を以下で挙げます。

事例②

売主Aと買主Bの間で、20XX年4月1日、ある建物についての売買契約が結ばれ、その売買契約には、建物の引渡しと代金の支払いを20XX年5月1日(1か月後)とする特約が付いていましたが、しかし、売買契約が締結された14日後の4月15日、落雷が原因で、売買の目的物となっていた建物が損壊してしまったような場合です。
この場合も、買主は売主に対して、代金を支払わなければならないとされていました。

このような結論になる理由は、特定物の場合、売買契約が成立すると同時に、相手方に目的物の所有権が移ると解釈されており、所有者がリスクを負うべきであると考えられていたためです。

旧民法

第534条

1 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

2 不特定物に関する契約については、第401条第2項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。

第401条

1 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。

2 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。

③ 例外2:― 停止条件付双務契約の場合(旧民法535条2項)

停止条件付双務契約については、上記とは別に旧民法535条2項で規定されていました。

停止条件付双務契約とは、将来に一定の事実が発生したときに初めて法律的な効力が生じる旨を特約した双務契約のことを言います。

具体例を挙げると、住宅資金の融資について金融機関の承認を得ることを条件とする宅地売買契約や、地主の承諾を条件とする借地権の売買契約などです。

停止条件の成否が未定のときに目的物が滅失した場合、債権者の負う反対給付債務は消滅します(535条1項)。
つまり、買主は代金を払わなくて済むということです。

もっとも、停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によらずに損傷した場合は、反対給付債務は存続することになります(535条2項)。

旧民法

第535条

1 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。

2 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。

3 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

(3)旧民法の「危険負担」規定の問題点

上記、事例①の場合のように、旧民法の「危険負担」の規定に従うと、特定物に関する契約の場合に、単に契約が締結されただけで、未だ目的物の引き渡しも登記の移転も受けていない段階で目的物のリスクを買主が負担しなければならない点で、買主にとって非常に酷な制度になっていると指摘されていました。

上記問題点があることから、従前の取引においても契約書において特約を定め、債権者主義の規定を修正して債務者主義のルールが適用できるように修正している契約書を用いる企業も従前は多く存在しました。

(4)改正民法における「危険負担」制度の変更点

① 債務者主義に統一された点

改正民法では、旧民法での問題点を踏まえて、債権者主義を定めた旧民法534条、旧民法535条を削除し、債務者主義に統一することになりました。

すなわち、特定物か不特定物かを問わず、滅失等のリスクは債務者(売主)が負担しなければならないということになります。

改正民法

(債務者の危険負担等)

第536条

1 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 

また、改正民法536条「履行することができなくなったとき」(履行不能)には、従前「履行不能」の定義とされていた「契約成立後に目的物が滅失するなどして履行することができなくなった場合」、だけでなく、「契約成立時に目的物が既に滅失していたため履行できない場合」(旧民法で「原始的不能」とされていた場合)も含まれるという改正がされました(改正民法第412条の2参照)。

改正民法

(履行不能)

第412条の2

1 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。 

② 履行拒絶という効果が生じることになった点

旧民法では、ある債務が履行不能となった場合、反対給付債務が消滅するという効果が生じると規定していましたが、改正民法では、反対給付債務が消滅するのではなく、反対給付債務の履行を拒絶できるという効果が生じると規定されました。

改正民法では、解除制度の適用において、債務不履行に債務者の責めに帰すべき事由を要しないという新たな考え方を採用した影響で、ある双務契約において債務者の責めに帰することができない事由により履行不能が生じた場合に、両制度がともに適用されることになりました。

つまり、改正民法では、危険負担の制度によって履行拒絶はできるものの債務は消滅しないとされ、債務を消滅させるには、債務不履行に基づく解除により債務を消滅させるとして、債務の消滅の原因を解除に一本化して整理したことが影響したためです。

 

したがって、改正民法の下では、上述した事例②の場合、買主は引渡しを受けておらず、かつ、引き渡しが不能であるので、代金の支払いを拒絶でき(履行拒絶)、支払わなくてよいということになります。
あくまで、「履行拒絶できる」のであって、「債務が消滅するのではない」ことには注意が必要です。

よって、訴訟における主張の観点からも、買主は、旧民法のもとでは、債務が債務者の責めに帰することができない事由により履行不能となったことを基礎づける具体的事実を主張していましたが、改正民法のもとではそれと異なり「反対給付債務の履行を拒絶する」(権利主張)との主張をすることが必要になります。

(5)改正民法において「履行拒絶できない場合」

① 債権者(買主)の責めに帰すべき事由によって履行できなくなった場合

この場合は、債権者(買主)は反対給付を履行拒絶できません(改正民法536条2項)。
この点は、旧民法と大きく変わらない部分です。

② 売買契約において目的物の引き渡し後に目的物が滅失・損傷した場合

この場合は、買主は代金支払いを拒絶できません(改正民法567条1項)。
なぜなら、引き渡しを受けた時点から、買主は目的物を自分で管理できるからです。

また、引き渡しを受けられる状態であるのに買主が受領しなかった場合も、買主は代金支払いを履行拒絶できません(改正民法567条2項)。
これについても、本来買主が引き渡しを受けて管理する責任があるはずなのに、買主が受領しなかっただけであるため、買主に管理が移っているとして買主に危険を負担させて良いと考えられるからです。

 

3.危険負担と解除制度の関係-債務の消滅に関する規律―

旧民法では、債務の消滅について、債務者の責めに帰することのできない事由による履行不能の場合は危険負担の制度により法律関係を規律しており、一方で、債務者の責めに帰すべき事由による履行不能の場合は解除の制度により法律関係を規律していたため、危険負担制度と解除制度では適用の場面が異なるものとされていました。
よって、ある双務契約に履行不能が生じた場合、「債務者の責めに帰すべき事由」の有無によって、危険負担制度と解除制度のどちらかが適用されていたということになります。

改正民法

(目的物の滅失等についての危険の移転)

第567条

1 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。

2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。

これに対して、改正民法では、解除制度の適用において、債務不履行に債務者の責めに帰すべき事由を要しないという新たな考え方を採用した影響で、ある双務契約において債務者の責めに帰することができない事由により履行不能が生じた場合に、両制度がともに適用されることになりました。

つまり、改正民法では、危険負担の制度によって履行拒絶はできるものの債務は消滅しないとされ、債務を消滅させるには、債務不履行に基づく解除により債務を消滅させるとして、債務の消滅の原因を解除に一本化して整理しました。

解除制度に関する民法改正については、本稿とは別に詳しく解説する予定ですので、そちらも併せてご覧ください。

4.危険負担制度の変更に伴う契約上の注意点

上述の通り、改正民法では危険負担の定めは、契約解除に関する定めと併せて理解する必要があり、債務者の責めに帰すべき事由によらず取引上の債務が履行不能となった場合には、債権者による反対給付の履行拒絶および契約解除がいずれも可能とされました。

上述した「危険負担」制度の変更点からすれば、特に特定物の売買等における危険負担の制度が大きく変更されることとなるため、特定物の売買を業とする事業者は、改正民法により大きな影響を受ける可能性があることに注意が必要です。

従前通り、危険負担につき債権者主義として契約を締結したい場合には、その旨の特約を契約において明確に定めるとともに、改正民法における買主の解除権をも併せて排除するために、契約解除が可能な場合を、当事者に故意・過失があったときのみに限る旨を併せて特約で明確に合意するなどして、法定解除よりも狭い範囲に解除権を制限することも検討する必要があるかもしれません。

 

また、注意しなければならない点としては、改正法によって変更があった点について、全て明文で異なる規律をすれば、変更できるというわけではない点です。
改正の趣旨や従前の裁判例が公序良俗違反と判断した条項及びその理由等を踏まえて条項案を作成しなければ、必要以上の修正をしてしまい、場合によっては裁判になった際に予期していなかった条項についてまで無効と判断されてしまい、大きな損害を被る場合もあるかもしれません。

旧民法のもとでは、実務の積み重ねがあり条項例について書籍も充実していたため、弁護士などに相談するということをあまりされていない方もいらっしゃったかもしれませんが、改正法のもとで裁判所がどのような判断がなされるかわからない点があることから、一度弁護士に相談してみることが後の法的紛争を回避する観点から、適切といえるかもしれません。

5.終わりに

今回の民法改正が原因で予期せぬトラブルに巻き込まれる可能性もあります。
一度自社の契約書について、弁護士に相談することをお勧めします。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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