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CostsとExpensesの違い
1. はじめに
英文契約書を作成する際には、英語ならではの類義語(Doublet)の使い分けに注意する必要があります。
普段使い慣れている日本語をベースに内容を考え、日本語の単語に対応する英単語を探して置き換える。
私達は、そんなことをやってしまいがちですが、そこに落とし穴があります。
今回は、「費用」を意味する類義語であるCostsとExpensesを取り上げます。
2. CostsとExpensesの違い
Costsとは、事業の遂行、家計維持、車の保有等にかかる費用全般をいいます。
他方、Expensesとは、ある物の製造や、一定の成果実現のために支出した費用の総計をいいます。
両者の区別は難しいのですが、前者が複数の支出や支払いを包摂する概念であるのに対し、後者は具体的な支出や支払いを指しているといえます。
また、CostsよりもExpensesのほうがよりフォーマルな言葉と扱われることがあります。
3. 法律上の概念と会計上の概念との違い
CostsとExpensesは、会計上の概念としても用いられています。
Costsは、特定の製品の製造やサービスの供給に結びつく原価(直接材料費、直接労務費、製造間接費)に対応する概念として用いられることがあります。
他方、Expensesは減価償却等により消費が完了したCostsです(広告宣伝費等)。
これらの区別はあくまでも会計上のものであり、法律上の概念としてのCostsとExpensesの区別と完全に対応しているわけではありませんが、このように用途次第で意味が変わることがあることから、どういった場面でCostsやExpensesという言葉を使用しているのかにも注意が必要です。
4. 注意すべき点
CostsとExpensesを上記のように区別するとしても、注意すべき点があります。
国際契約でよく見られる条文の類型として、訴訟等に敗訴した当事者が勝訴した当事者の様々な費用を負担するという条文があります。
(条項の記載例)
In the event of any litigation arising from or related to this Agreement, the prevailing party shall be entitled to recover from
the non-prevailing party all reasonable costs and expenses incurred in such litigation.
(訳)本契約に起因又は関連する訴訟が発生した場合、勝訴当事者は、かかる訴訟で発生した全ての合理的な費用を非勝訴当事者から回復する権利を有するものとする。
弁護士費用は個々の事件に際して支払われる具体的な支出ですから、Expensesに含まれそうです。
しかし、英文契約書の世界では、弁護士費用は一般にExpensesには含まれないのが原則とされています。
そこで、何らかのExpensesの負担を一方当事者に負わせる条項を書く場合には、この原則を意識する必要があります。
すなわち、弁護士費用を含めた負担を規定する場合には、Expensesとは別に、弁護士費用をも負担することを示す文言(attorneys’ fees)を入れなければなりません。
(条項の記載例)
In the event of any litigation arising from or related to this Agreement, the prevailing party shall be entitled to recover from
the non-prevailing party all reasonable costs and expenses, including attorneys’ fees, incurred in such litigation.
(訳)本契約に起因又は関連する訴訟が発生した場合、勝訴当事者は、かかる訴訟で発生した全ての合理的な費用(弁護士費用を含む)を非勝訴当事者から回復する権利を有するものとする。
こうした扱いは、国際契約における弁護士費用に関するルール(一般にAmerican RuleとEnglish Ruleとして区別されます)に起源がありますが、機会を改めて説明します。
5. むすび
英文契約書の作成に際しては、類義語に注意し、その語が意味する射程を正確に理解しなければなりません。
そのためには、英文契約書が前提とする取引慣行に対する理解を深めることも必要になります。
安易に日本語の逐語訳をせずに、不安を感じたら必ず語句の正確な意味を確認しましょう。
加えて、英文契約で使われるcostsやexpensesと、例えば会計上のcostsやexpensesには違いがあることから、一般的なcostsやexpenses以外について英文契約に記載する場合にも注意が必要です。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています