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改正会社法の制度概要とチェックポイント
1.はじめに
会社法改正案は一部が国会で修正され、2019年12月11日に改正会社法が公布されました。
改正法のうち株主総会資料の電子提供制度は、同日より3年6か月後の2023年6月頃から施行されますので、同月の株主総会から制度として利用できます。
一方、他の改正条項の施行は公布日より1年6か月後ですので、2021年の6月頃と施行時期が迫っております。
改正の内容は、株主総会の規律の見直しや取締役等の規律の見直しなど、これまでのコーポレートガバナンスを一層透明化するものです。
今回は、会社法の改正についての概要をご紹介致します。
尚、紙面の都合上、改正の範囲全てを網羅するものではないことにご留意下さい。
2.株主総会資料の電子提供制度
(1)制度概要
株主総会資料の電子提供制度は、株主総会参考書類、計算書類、事業報告などの株主総会の資料を電磁的方法により株主へ提供することで、適法に上記資料を開示したこととする制度です(改正後会社法(以下、「改正法」といいます。)325条の2)。
例えば、会社のホームページに掲載されることが想定されています。
従来、株式会社は、通常、招集通知に各種資料を同封する必要がありましたが、電子提供により、株主総会の日時及び場所、目的の事項、ホームページのアドレス等を記載した招集通知の発送で済むようになるため、発送業務を省力化できるメリットが生じます。
(2)実施方法のチェックポイント
実施には、電子提供をする資料を定款で定め、登記をする必要があります(改正法911条3項12号の2)。
尚、振替株式の発行会社は電子提供措置を義務付けられているので、上場会社は電子提供制度の対応をする必要があります。
また、電子提供措置をとる場合、議決権行使書面や電磁的方法によって議決権を行使できる旨を定めた会社や取締役会設置会社の株式会社は、株主総会の日の3週間前又は株主総会の招集通知を発した日のいずれか早い日から株主総会の日の後3か月の期間は株主総会の資料の電子提供をしておく必要があります(改正法325条の3)。
この提供期間内にウェブサイトのサーバーのダウンやハッカーやウィルスによる改ざん等があり得ることを想定し、電子提供が中断した場合、一定の場合は電子提供の中断による影響を受けないとしております(改正法325条の6)。
この場合、会社は中断が生じたことを知った後、速やかにその旨や中断の時間、中断の内容について電子提供をしないと、改正法325条の6が適用されませんので、サーバーがダウンした場合やハッカーによる攻撃を受けた際の危機管理のマニュアルに株主総会資料の電子提供の対応について追記する必要があります。
(3)書面交付請求のチェックポイント
インターネットへのアクセスの困窮者に配慮し、電子提供の対象の情報についての書面交付請求権(改正法325条の5)が認められ、資料の書面送付が必要になる場合があります。
書面交付請求がされた場合、電子提供の対象となる資料を印刷し、書面交付請求をした株主に対して郵送する事務が必要になります。
そのため、株主からの書面交付請求に備え、書面の資料を一定程度用意しておく必要があります。
3.株主提案権の濫用的行使の制限
(1)改正の経緯
近年、一部の株主による多数の株主提案権の行使など、株主提案権が濫用的に行使される事例が見られます。
これにより、株主総会の審議時間が無駄に割かれ、株主総会の意思決定が不能になったり、株式会社での提案内容の検討や招集通知の印刷等に要するコストが増加したり等の弊害がありました。
(2)議案数の制限
上記のような濫用的な株主提案権に対処するために、議案要領通知請求権(現行会社法(以下、「現行法」といいます。)305条1項)に基づき株主が同一の株主総会において提案できる議案数の上限を10としました(改正法305条4項)。
議案の数え方について、取締役や監査役などの役員等の選任又は解任については人数に関わらず1の議案としました(改正法305条4項1号、2号)。
また、定款変更の2以上の議案については、「当該2以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを1の議案とみなす」(改正法305条4項4号)と規定されました(以下、「本件規定」といいます。)。
例えば、監査役設置会社の株主が監査等委員会の設置及び監査役の廃止を内容とする定款の変更に関する議案を提案する場合、監査等委員会設置会社は監査役を置いてはならない(現行法327条4項)ので、現行法上、監査役の廃止は当然に予定されていると考えられます。
よって、監査等委員会の設置と監査役の廃止は、本件規定に該当し、1の議案と数えるものとしてよいと思われます。
上記の例のように、いずれかの定款変更をすると、他方の定款変更をしないと法的に矛盾する場合の他に、提案理由も考慮して各議案に一体性が認められる場合も本件規定に該当するかは解釈の余地があり、問題点として残りました。
審議過程では、明確性の確保のため、提案した株主の認識との整合性で判断するのではなく、提案内容も考慮し、合理的と認められる提案の理由との整合性を客観的な観点から判断すべきという意見がありました。
(3)チェックポイント
審議過程で議論されていた条項案と本件規定は異なるものになりましたが、客観的な観点からの判断は本件規定にも当てはまると思われますので、議案の数について株主と見解が異なった場合に備えて、株主を説得できる論理的な説明を用意しておく必要があります。
尚、10を超える議案が提出された場合にどの議題が超過議題とされるのかについては、株主が定めた優先順位があれば、その優先順位に従いますが、優先順位がなければ、取締役が超過する議案を選びます(改正法305条5項)。
4.取締役の報酬等に関する規律の見直し
(1)改正の経緯
近年、取締役の報酬等を取締役の職務を適切に執行するためのインセンティブとするニーズが強く、また、報酬規制の透明性を一層充実させるために、取締役の報酬規制が見直されました。
(2)報酬規制の内容
現状、取締役に報酬として付与される株式やストックオプションが会社法上の報酬として明確に規定されました。
具体的には、取締役に報酬として付与する株式や新株予約権の数の上限が株主総会の決議事項となりました(改正法361条1項3号、4号)。
また、これまで、各取締役の報酬については、株主総会において取締役全員の報酬の総額を決め、具体的な配分は代表取締役に委ねられるなど、各取締役の報酬の配分は明らかにする必要はありませんでした。
今回の改正により、一部の大規模の監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役を除く各取締役の報酬等の決定方針が取締役会の決議事項となりました(改正法361条7項)。
具体的には法務省令で定められますが、法制審議会では、指名委員会等設置会社の報酬委員会が定める「個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針」(現行法409条1項)だけでなく、総体としての取締役の報酬等の内容に関する方針(例えば、最高限度額と取締役の員数との関係についての方針等)も含まれるとしております。
また、各取締役の報酬等についての報酬等の種類ごとの比率に係る決定の方針、業績連動報酬等の有無及びその内容に係る決定の方針、各取締役の報酬等の内容に係る決定の方法の方針等も想定されているようです。
(3)チェックポイント
取締役に対する報酬規制の具体的な内容は法務省令の内容次第ですが、法制審議会の審議過程からすると、今後は報酬の決め方について、例えば、各取締役の実績を考慮して評価するなど一定の方針が必要になると思われます。
また、報酬の決定方針は、公開会社における事業報告による情報開示に関する規定により充実させる予定になっているので、決定方針は最終的には株主の評価を仰ぐことになります。
よって、決定方針について十分に吟味し、合理的な内容とする必要があると思われます。
5.会社補償・D&O保険に係る規律の新設
(1)改正の経緯
現行法上、会社補償に関する規定は存在しませんが、役員等として優秀な人材を確保し、役員等が損害賠償を恐れることによる職務執行の萎縮を防止するために会社補償が必要という指摘がありました。
一方、会社補償が認められる範囲によっては、役員等の職務の適正性が損なわれたり、役員の責任や刑罰等を定める規定の趣旨が損なわれたりして、モラルハザードが生じる懸念もあることから、会社補償の範囲を限定する必要もありました。
(2)会社補償に係る規律
上記の改正の経緯を踏まえ、会社補償と保険に係る規制が創設され、役員等と会社の間で、役員等が職務執行に関して法令違反が疑われる等、責任の追及に係る請求を受けたことで要する費用等を会社が補償する規定が創設されました(改正法430条の2第1項)。
この費用については、全てが認められるわけでなく、相当な範囲に限定するなど補償内容が制限される場合があります(改正法430条の2第2項)。
また、公開会社は、補償契約を締結した場合は、対象役員の氏名や補償契約の内容等を当該事業年度の事業報告書に記載する必要があります。
(3)D&O保険に係る規律
株式会社が、役員等のために加入する保険契約を保険者との間で締結する場合の規制も創設されました。
手続きとしては、保険の内容につき株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議が必要です(改正法430条の3第1項)。
一方、いわゆる生産物賠償責任保険(PL保険)、企業総合賠償責任保険(CGL保険)、自動車賠償責任保険、海外旅行保険等に係る保険契約については、上記の決議は不要です。
公開会社が保険契約を締結した場合は、当該事業年度の事業報告書に被保険者である役員の氏名や保険契約の内容を記載する必要があります。
(4)チェックポイント
会社補償や役員のための保険契約は既に締結している会社もあると思われます。
改正後は、別途手続きが必要になる可能性があるので、会社補償や保険の内容を確認する必要があります。
6.社外取締役活用等に向けた規律の見直し
(1)改正の経緯
例えば、対象会社のマネジメント・バイアウトの場面では、株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるので、社外取締役が会社を代表するという実務があります。
もっとも、その場合に、社外取締役は会社との関係で利益相反にならないか、また、一度社外取締役が会社の業務を執行した場合、社外取締役の要件を充たさなくなるのか等の問題がありました。
(2)業務執行の社外取締役への委託
指名委員会等設置会社を除く株式会社が社外取締役を設置している場合、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務執行により株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務執行を社外取締役に委託できる規定が創設されました(改正法348条の2)。
また、社外取締役に委託された業務執行は、現行法2条15号イに規定する株式会社の「業務の執行」に該当しないものとし(ただし、社外取締役が業務執行取締役の指揮命令の下に当該委託された業務を執行したときは、この限りではありません。)、当該社外取締役が当該行為をすることにより社外取締役の要件を喪失するものではないこととしました(改正法348条の2第3項)。
(3)社外取締役の設置の義務化
公開会社で、大会社である監査役会設置会社であって、金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行株式の有価証券報告書を内閣総理大臣に提出する義務のある会社は、社外取締役の設置を義務付けられました(改正法327条の2)。
(4)チェックポイント
社外取締役に業務執行を委託した場合、業務執行取締役の関与の程度によっては、委託業務の執行後は、社外取締役の要件を充たさなくなります。
そのため、社外取締役の独立性の問題は改正後も残りますので注意が必要です。
また、社外取締役の設置義務が適用される会社においては、定時株主総会における社外取締役を置くことが相当でない理由を説明して義務を免れることが不可能になりますので、社外取締役の人員確保が必要になります。
7.社債管理補助者制度
(1)改正の経緯と制度内容
現行法上の社債管理者の権限が広範かつ資格要件が厳格であるため、設置コストが高く、社債管理者のなり手の確保が難しいことから、現行法702条但書より、社債管理者を置いてない会社が多いという現状があります。
今回の改正により、社債管理者と比べて、責任と権限が限定された社債管理補助者が創設されました。
社債管理補助者は、担保付社債である場合を除き、現行法702条但書に規定する場合には、社債権者のために、社債の管理の補助を行うことができます(改正法714条の2)。
具体的には、社債権者のために破産手続きで債権の届出をする権限、社債権者の請求等により社債権者集会を招集する権限等が認められています(改正法714条の4、717条)。
(2)チェックポイント
社債管理補助者には弁護士及び弁護士法人等が想定されております。
今後は社債を発行する場合、社債管理者か社債管理補助者のいずれをおくのか、社債の発行額やコストパフォーマンスを考えて対応する必要があります。
8.株式交付制度の新設
(1)改正の経緯
買収する会社(以下、「買収会社」といいます。)が当該会社の株式を対価として、買収の対象とする会社(以下、「対象会社」といいます。)を買収する場合、対象会社の株主は、買収によるシナジーとともに、買収後における買収会社及び対象会社の成長や業績向上の利益を得るという考えがあります。
これは、現行法上、株式交換で実現できますが、株式交換は、買収会社が、対象会社の発行済株式の全てを取得する制度であるため(現行法2条31号参照)、買収会社が対象会社の完全子会社化を望んでない場合、株式交換を利用できません。
また、買収会社は、対象会社の株主からその株式の現物出資を受け、当該株主に対し現行法199条1項の募集株式の発行として買収会社の株式を割り当てる方法を採ることもできます。
しかし、この手法は、原則として検査役の調査が必要で(現行法207条)、その手続きにコストと時間を要すること、引受人である対象会社の株主及び買収会社の取締役等が財産価額塡補責任を負うリスクがあること(現行法212条、213条)から、この手法は敬遠される傾向にあります。
(2)株式交付制度の内容
上記の理由から、円滑に他の株式会社を子会社化するために、買収会社の株式を対象会社の株主に対価として交付できる制度として、株式交付の制度が新設されました。
具体的には、買収会社(条文上は、「株式交付親会社」)が対象会社(条文上は、「株式交付子会社」)の過半数の議決権を新たに取得し、対象会社を買収会社の子会社としようとする場合、上記の障害として指摘されている現物出資財産に係る検査役の調査や募集株式の引受人及び取締役等の財産価額塡補責任に相当する手続きが不要になりました(改正法774条の2~11、816条の2~11)。
また、株式交付親会社の株主及び債権者の保護については、株式交換と同様の規制があります。
(3)チェックポイント
予算の制約や経営戦略から、対象会社の完全子会社化までを望まない場合、株式交付の利用が考えられ、M&Aの手法が広がりました。
株式交付をする場合でも、株式交換と同様の手続規制(株式交付計画の本店の備置(改正法816条の2)、株主総会の特別決議(改正法816条の3)、株式交付差止め請求(改正法816条の5)、株式買取請求権(改正法816条の6)、債権者異議手続き(改正法816条の8))や株式交付無効の訴え(改正法828条1項13号)の制度があります。
これらに対応するために、従来のM&Aにおける知見が流用できると思われます。
9.まとめ
ご紹介したもの以外の改正事項として、株主代表訴訟などで和解をする場合に監査役等の同意が必要になったこと(改正法849条の2)、議決権行使書面の閲覧等の拒否事由の改正(改正法311条等)、新株予約権に関する登記事項の改正(改正法911条)、支店の所在地による登記の廃止(改正法930条~932条等)、取締役等の欠格条項の改正(改正法331条)等があります。
今回の会社法改正は各制度に多岐に渡っており、会社の形態によっては、変更が義務付けられているものもあります。
制度概要を理解する意味でも施行前からのご準備をお勧め致します。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています