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英文契約解説~Recitals~
1.Recitals(リサイタルズ)とは
英文契約の冒頭で、しばしば下記例のようにWhereas, ……との記述が羅列されることがあります。
これをWhereas clauseとか Recitalsといい、Recitalsは「前文」又は「序文」と訳されることが多いかと思います。
なお、WhereasやRecitalsの標題として置かれることのあるWITNESSETHは今では古めかしい用語と考えられており、使わない契約書も散見されますし、WhereasやWITNESSETHは日本語に訳し難いこともあるので、筆者個人としてはこれらを使わない方が好ましいと感じます。
以下、Recitalsの一例を示します。
Whereas, Company is a successful automobile manufacturing company doing business in the State of California.
(Companyは、カリフォルニア州で事業を行い成功を収めている車両製造会社である。)…①
Whereas, Subsidiary is a wholly owned subsidiary of Company established as a supplier of certain automobile parts for Company and now wishes to expand its manufacturing facilities.
(Subsidiaryは、Companyのために車両の特定の部品を供給するために設立されたCompanyの100%子会社であり、現在その製造設備の拡張を望んでいる。)…②
Whereas, Bank is one of the renowned banks doing business in the State of New York.
(Bankは、ニューヨーク州で事業を行っている高名な銀行の一つである。)…③
Whereas, Subsidiary wants a loan from Bank to expand its manufacturing facilities.
(Subsidiaryは、その製造設備の拡張のためにBankからの融資を望んでいる。)…④
Whereas, Bank is willing to lend funds to Subsidiary for such purpose only if Company guarantees the debt.
(Bankは、Companyが債務保証をするのであれば、当該目的のためにSubsidiaryに貸付けを行う用意がある。)…⑤
Whereas, Company is willing to guarantee Bank’s loan to Subsidiary.
(Companyは、BankのSubsidiaryに対する融資の保証をする用意がある。)…⑥
Whereas, concurrently with an entry into this guarantee agreement between Company and Bank, Bank and Subsidiary are entering into a loan agreement.
(CompanyとBank間で本保証契約を締結するのと同時に、BankとSubsidiaryは融資契約を締結する。)…⑦
Whereas, each of Company and Bank was represented by counsel, had ample opportunity to review this guarantee agreement, and is not relying on any representation made by the other party other than those contained herein.
(CompanyとBankはそれぞれ代理人弁護士を有し、本保証契約を検討する十分な機会を持ち、また、本契約に明記される他方当事者による表明以外のいかなる表明にも依拠していない。)…⑧
NOW THEREFORE, in consideration of the premises and mutual promises contained herein, Company and Bank agree as follows:
(以上の次第で、本契約に記載される本契約の前提及び相互の約定を約因として、CompanyとBankは、以下のとおり合意する。)
2.Recitalsの分類
Recitalsは、以下の三種に分類できます。
(1)Context Recitals(背景)
契約当事者の情報や契約に至るまでの背景事情に関する記述です。
典型的には、契約当事者間の関係、契約当事者が営んでいる事業、契約当事者間で以前に実行された取引等を描写するものです。
上記の例の①~③及び⑧がこれに該当します。
(2)Purpose Recitals(目的)
契約当事者がこの契約で何を達成したいのかを簡潔かつ大まかに記載しているものです。
上記の例の④~⑥がこれに該当します。
(3)Simultaneous-transaction Recitals(同時並行取引)
対象の契約が全体の取引の一部である場合、対象の契約の締結と同時に発生する他の取引要素について記述するものです。上記の例の⑦がこれに該当します。
3.Recitalsの要否
Recitalsは必要なのでしょうか。
米国では、全ての州ではありませんが、大半の州でRecitalsには法的意義はないとされています。
ですから、Recitalsの部分には、そもそも契約当事者の権利義務について記載すべきではないし、記載したとしても、Recitalsの記載を根拠に契約上の権利義務を強制することはできないと考えられています。
また、上記の例のとおり、in consideration of …と明記したとしても、それで実際に約因が存在すると認定されたり推定されたりすることはなく、契約当事者は、実際には約因を欠いていることを立証することができます。
従いまして、Recitalsは必ずしも必要ではなく、Recitalsを省略しても法的には何ら問題ありません。
4.Recitalsの存在意義
それでは、何故にしばしばRecitalsが記載されるのでしょうか。
実際、M&A取引を含む複雑な契約では、長々とRecitalsが羅列されることが通常であり、Recitalsを欠くことはまずありません。
それが伝統であるということはもちろんあるでしょうが、それはさておき、実質的な理由としては、とりわけ複雑な契約においては、契約当事者や契約起草者以外の人物(例えば裁判官)が契約書に接したときに、誰がどのような理由や経緯で契約締結に至ったのかを手っ取り早く知ることができるということがあるでしょう。
また、特にRecitalsが詳細に記述されている場合には、契約本文中の不明瞭又は曖昧な個所の解釈に役立つこともあり得ます。
加えて、上記の例の⑧のような記載を置くことにより、一方当事者が相手方当事者の偽りの声明や説明により騙されて契約してしまった等のクレームを予防するのに役立つと考えられています。
以上のとおり、Recitalsは必ずしも必要ではないものの、とりわけ事実関係や利害関係が複雑で錯綜している契約では、Recitalsを詳細に書き込むことで、時系列その他の事実関係を整理するとともに、契約当事者間の事実認識の相違の蒸し返しを予防する等の役割を期待できますので、そのような点に意義を認めることができるといえるでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています