専門的な企業法務サービスが、この価格。月額3980円(税込)から顧問弁護士。

お問い合わせ

【公式】リーガルモールビズ|ベリーベスト法律事務所がお届けする企業法務メディア改正民法債権者の味方、詐害行為取消権についておさえておくべきポイント~債権法改正を踏まえて~
専門的な企業法務サービスが、この価格。月額3980円(税込)から顧問弁護士。
ベリーベスト法律事務所の弁護士・税理士等からのサポートが受けられます。
企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
電話受付時間:平日 9:30~18:00 土日祝除く

債権者の味方、詐害行為取消権についておさえておくべきポイント~債権法改正を踏まえて~

2020年8月25日
債権者の味方、詐害行為取消権についておさえておくべきポイント~債権法改正を踏まえて~

1.はじめに

令和元年(2020年)4月1日、ついに改正民法(債権法)が施行されました。
明治時代に民法が制定されてから、実に約120年ぶりの大改正です。

この時代の変化に見合った債権法の大改正により、私達の日常を取り巻く債権関係は大きく変わります。

ここでは、この大改正が私達の暮らしにどのような影響を及ぼすのか、詐害行為取消権に絞って、具体例とともに解説していきます。

なお、説明の中で該当条文を引用しております。注の番号をクリックして頂くと、文末の条文をご覧いただけます(戻る(←)をクリックすると本文の元の箇所に戻ります。)。

2.詐害行為取消権とは

詐害行為取消権は、民法424条から同426条に規定があります。

詐害行為取消権とは、債権者が債務者の行為を一定の要件の下に取消してしまうことができる権利です(424条1項本文[1])。

詐害行為取消権

簡単にいうと、Xさんから1000万円借りているAさんが、十分な資力がないにもかかわらず、唯一の資産である500万円をYさんにあげてしまったというケースの場合に、XさんはYさんを相手にAさんの行為の取消しを請求することができるという権利です。

3.要 件

詐害行為取消権行使のための要件は、以下の5つです。

①債権は、詐害行為前の原因に基づいて生じていたこと(424条3項[2])。
②債務者が無資力であること。
③債務者が債権者を害する行為を行い、その行為が財産権を目的としていたこと。
④債務者が詐害行為時、取消債権者を害することを知ってしたこと。
⑤受益者や転得者が、取消債権者を害することを知っていたこと。

以下、各要件について、具体的に説明していきたいと思います。

①債権は、詐害行為前の原因に基づいて生じていたこと(民法424条3項)

債権者が詐害行為取消権を行使するためには、その債権者の債務者に対する債権(これを「被保全債権」といいます。)が、債務者の第三者に対する財産処分行為(これを「詐害行為」といいます。)前の原因に基づいて生じていたことが必要です(以下、詐害行為取消権を行使する債権者を「取消債権者」といいます。)。

なぜなら、詐害行為取消権は、あくまで財産権(憲法29条1項[3])に基づく財産不可侵の原則(財産の処分は所有者の意思を尊重するというもの)の例外だからです。

すなわち、詐害行為取消権は、財産不可侵の原則の例外として、「債務者の財産から債権を回収できるだろう」との債権者の期待を保護するための制度です。

それゆえ、詐害行為後に生じた原因により債務者に対して債権を取得した債権者には、上記期待は生じずその債権は法的保護に値しないため、その債権者は詐害行為取消権を行使できないこととなります。

その他、被保全債権は、金銭債権である必要はありません。
例えば、不動産や動産等の特定物でも債務者の詐害行為により、債務者が無資力になるときは、債権者は詐害行為取消権を行使できます(最判昭和36年7月19日)。

なお、後述するように、詐害行為取消権は本来、後の強制執行の準備として債務者の責任財産を保全するためのものです。

そのため、債権者は、被保全債権が強制執行により実現することのできないものであるとき(例えば、強制執行に付さない旨の合意である不執行合意のある債権や、強制執行のためには訴訟で勝訴判決を得て、債務名義なるものが必要なのですが、そもそも訴訟に付さない旨の合意を当事者間で約した訴訟不提起特約付き債権などが挙げられます。)は、詐害行為取消権を行使できません(民法424条4項[4])。

②債務者が無資力であること

次に、債務者が詐害行為時及び債権者の詐害行為取消権行使時に無資力(財産よりも債務が超過している状態)であることが必要です。
なぜなら、前述のように詐害行為取消権はあくまで財産不可侵の原則の例外であるところ、債務者に資力があるのであれば、債権者は詐害行為取消権を行使する必要はなく、単に債務者に債務の履行を請求すればいいだけだからです。

③債務者が債権者を害する行為を行い、その行為が財産権を目的としていたこと

ア 総論

まず、詐害行為とは、債務者の当該財産処分行為により債務者が無資力になり、債権者への債務の返済が困難になる行為をいいます。

また、前述したように、詐害行為取消権は本来、後の強制執行の準備として債務者の責任財産を保全するためのものです。
それゆえ、詐害行為が財産権を目的としたものでなければ、強制執行できないため、詐害行為取消権の対象とはなりません(424条2項[5])。

もっとも、詐害行為取消権の対象は、旧民法では「法律行為」とされていましたが、改正民法では厳密な意味での法律行為に限られることになり、例えば、弁済や時効中断事由としての債務の承認といった行為も含まれます(424条1項)。

イ 各論

では、どのような行為が詐害行為になるのか、具体的にみていきましょう。

(ア)相当の対価を得てした財産の処分行為について(424条の2[6]

相当の対価を得てした財産の処分行為の場合、全体としてみて債務者の資産が減少しているわけではないので、原則として、詐害行為には該当しません。

しかし、次の要件のいずれにも該当する場合、詐害行為として詐害行為取消請求をすることができます。

(ⅰ) 不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下、「隠匿等の処分」といいます。)をするなど、債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさせるものであること(424条の2第1号)。

(ⅱ) 債務者が(ⅰ)のとき、対価として取得した財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと(424条の2第2号)。

(ⅲ) 受益者(受益者とは債務者の詐害行為により直接利益を得た者をいいます。)が、(ⅰ)のとき、債務者が(ⅱ)の意思を有していたことを知っていたこと(424条の2第3号)。

(イ) 特定の債権者に対する弁済等について(424条の3[7]

特定の債権者に対する弁済等は、全体としてみて債務者の資産が減少しているわけではないので、原則として詐害行為には該当しません。

しかし、次の各(あ)、(い)について、(ⅰ)、(ⅱ)の要件のいずれにも該当する場合、詐害行為として詐害行為取消請求をすることができます。

(あ) 既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅行為

(ⅰ) 債務者による当該担保の供与又は債務の消滅行為が、債務者が支払不能(債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます。)の時に行われたこと(424条の3第1項1号)。

(ⅱ) その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること(424条の3第1項2号)。

(い) (時期を含む)義務なき既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅行為

(ⅰ) 当該行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたこと(424条の3第2項1号)。

(ⅱ) 当該行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること(424条の3第2項2号)。

(ウ) 過大な代物弁済等について(424条の4[8]

代物弁済とは、弁済者が債権者との間で、債務者の負担した債務に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をし、弁済者が当該他の給付をすることで弁済と同一の効果を生じさせることをいいます(482条[9])。

そして、代物弁済の場合、債務者の受益者に対する代物弁済が、債務者の受益者に対して負っている債務に比して過大である場合には、(2)①~⑤の要件を満たす限り、上記(イ)の要件に関係なく、債権者はその過大部分について詐害行為取消権により債務者の代物弁済を取消すことができます。

例えば、特定の債権者に対し100万円の債務しか負っていないにもかかわらず、その債務の弁済のために唯一の資産である1000万円の土地をもって代物弁済した場合、上記(イ)の要件に関係なく、過大な部分について債権者は詐害行為取消権を請求できます。

(エ) 遺産分割協議について(907条1項[10]

遺産分割協議とは、亡くなった被相続人の財産(以下「相続財産」という。)について、相続人間で話合い、誰に何を与えるか、相続財産の分け方を決めることをいいます。

従いまして、遺産分割協議は、「相続財産が誰に帰属すべきか確定させるものだから、性質上、財産を目的とする法律行為」(最判平成11年6月11日)です。

そのため、債務者が、債権者に弁済したくないがため、わざと自分の相続分を少なくした場合、詐害行為として、その遺産分割協議は債権者から取消されるおそれがあります。

(オ) 相続放棄について(915条1項本文[11]

相続放棄とは、相続人が被相続人の財産を一切相続しないことをいいます。
従いまして、前述したように遺産分割協議が財産を目的とする法律行為であるのに対し、相続放棄は、「身分行為であるから、詐害行為取消権の対象にならない」(最判昭和49年9月20日)とされています。
そのため、仮に相続放棄により、債務者の財産が減ったとしても、債権者は詐害行為取消権を行使できません。

(カ) 財産分与について(768条1項[12]

財産分与は、夫婦が離婚する際に夫婦の共有財産を分割することです。
財産分与は、離婚した後の生活保障という性質もあるため、原則、身分行為として詐害行為取消権の対象にはなりません。

しかし、例えば、すでに夫が債務超過の状態になっていて、夫が当該財産分与により債権者に害を加えることを認識しながら、妻と結託して、不相当に過大な財産を妻に分与したような特段の事情がある場合(例えば、1000万円の財産があるのに、夫は50万円、妻は950万円という財産分与をした場合)には、詐害行為取消権の対象になります(最判昭和55年12月19日)。

④債務者が詐害行為時、取消債権者を害することを知ってしたこと

詐害行為取消権が成立するためには、債務者が当該詐害行為により債権者への返済が困難となることを認識している必要があります(424条1項本文)。

もっとも、債務者はただ認識していれば足り、債権者を積極的に害する意図までは必要ありません。

⑤受益者や転得者が、債権者を害することを知っていたこと

前述しましたように、受益者とは債務者の詐害行為により直接利益を得た者、転得者とは受益者以外の者で債務者の詐害行為により利益を受けた者(例えば、債務者が受益者に不動産を譲渡した場合、さらに受益者から当該不動産の譲渡を受けた者)をいいます。

そして、受益者は債務者の詐害行為時、転得者は受益者から転得の当時、債務者の行為が債権者を害する行為であることを知っている必要があります(424条1項但書き、424条の5第1号[13])。

また、その転得者から更に他の者(転得者)が転得した場合、その転得者及びその前に転得した全ての転得者がそれぞれの転得の当時、債務者の行為が債権者を害する行為であることを知っている必要があります(424条の5第2号[14])。[15]

これは、取引の安全を図るために要求されています。というのも、債務者の意思や資力状態を知らずに債務者の唯一の資産を譲り受けた第三者がいる場合に、債権者の詐害行為取消権がいたずらに認められると、第三者は常に詐害行為取消権により債務者との取引が取消されるリスクにさらされます。
このような状況を許容すると、一般社会における取引の安全が害され、社会における流動的な取引が滞ってしまうため、民法は424条1項但書き、424条の5で上記要件を要求して、債権者にその要件を立証する責任を負わせています。

4.効 果

効 果

(1)詐害行為取消権行使の効果

詐害行為取消権は本来、後の強制執行の準備として全ての債権者のために債務者の責任財産を保全するためのものです。

その確定判決の効力は、旧民法では、取消債権者と被告とされた受益者ないし転得者及び全ての債権者の利益のためにその効力が生じるとされ、債務者との間には生じないとされていました。

そのため、取消債権者の詐害行為取消権により損失を被った受益者は、例えば、債務者と受益者間の(詐害)行為は有効であるため、債務者に契約責任を問うことはできず、債務者に対して不当利得返還請求(703条[16])等をすることにより損失の補填をするしかありませんでした。

詐害行為取消訴訟により債務者の詐害行為が否定されたはずなのに、以前として債務者の詐害行為が有効とされることは法律関係をいたずらに複雑にしますし、皆さんも違和感を感じると思います。

そこで、改正民法ではこの点が修正され、詐害行為取消権の確定判決の効力は、債務者及びその全ての債権者に対して効力が生じるとされています(425条[17])。

そして、詐害行為取消権により債務者の詐害行為が取消された場合、債務者が詐害行為により処分した財産は、原則として債務者の元に戻ると考えられています。

これに伴い、受益者が債務者との契約時に交付したものがあれば、受益者は債務者に対し、対価としての反対給付を返還請求できます。

① 対象財産が金銭、動産である場合

もっとも、対象財産が金銭や動産である場合、債務者が受取りを拒否したり、受領したとしてもすぐに費消したりするおそれがあります。

そこで、対象財産が金銭や動産である場合、取消債権者は相手方である受益者ないし転得者に対し、債務者ではなく自己(取消債権者)に直接、支払いないし引渡しをすることを求めることができます(424条の6第1項前段又は第2項前段[18]、424条の9第1項前段[19])。

そして、取消債権者が受益者ないし転得者に対し、動産の代わりに価格賠償を請求する場合でも同様に、自己に直接支払うように求めることができます(424条の6第1項後段又は第2項後段、424条の9第2項[20])。

なお、取り立てたものが金銭であるときには、取消債権者は、被保全債権と、債務者が有する受領した金銭の返還請求権とを対当額で相殺することにより、他の債権者に先んじて事実上の優先弁済を受けることができます。

また、この場合、受益者ないし転得者は既に対象財産を債権者に支払いないし引渡しているので、当然のことながら、その後、あらためて債務者に支払いないし引渡しをする必要はありません(424条の9第1項後段)。

② 対象財産が不動産の場合

これに対し、対象財産が不動産の場合、債務者の意思に関係なく登記や債務名義を戻せば目的は達成できるため、原則どおり、財産はいったん債務者の元に戻されることになります。

なお、取戻し対象は、現物返還が原則ですが、受益者又は転得者による現物返還が困難であるときには、取消債権者は、動産の場合と同様に、受益者又は転得者に対して債務者ではなく自己に直接、その価格を償還するよう請求することができます(424条の6第1項後段又は第2項後段、424条の9第2項)。

③ 詐害行為取消権の行使を受けた受益者ないし転得者の権利

(あ) 受益者の権利

取消債権者による詐害行為取消権の行使を受け、債務者の詐害行為が取消された場合、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができます。
債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は債務者に対し、その価格の償還を請求できます(425条の2[21])。

そのため、債務者が受益者に対する債務の弁済のために金銭等を給付した行為が取消された場合には、当然ながら、受益者の債務者に対する債権は復活します(425条の3[22])。

例えば、債務者が受益者に対して150万円の債務があり、その弁済のため150万円を支払ったが、その弁済が詐害行為として取消された場合には、受益者の債務者に対する150万円の債権は復活します。

もっとも、詐害行為が過大な代物弁済の場合には、「消滅した債務の額に相当する部分以外の部分について」のみ詐害行為取消権による取消しが認められ、「消滅した債務の額に相当する部分」の残額については代物弁済は依然として有効なので、受益者の債務者に対する債権は復活しません。(425条の3、424条の4)。

過大な代物弁済について改正前民法下での取扱いは明確でなかったものの、過大部分の弁済は財産減少行為としての実質を有するものであることから、424条の4は、倒産法上の否認権の規律と合わせ、424条の3第1項の要件を充足しない支払不能前の過大な代物弁済は、424条の要件を該当するときは過大部分のみ取消対象となり得ることを明記したものです。
これに対し、支払い不能後になされた過大な代物弁済など、424条の3第1項の要件を充足すれば、過大でない部分の弁済も同項により取消が可能であり、この場合は代物弁済行為全体が取消されることから債務消滅の効力も覆ることになります。

例えば、債務者が受益者に対して150万円の債務を負っており、200万円の土地をもって代物弁済した場合、支払不能前であれば、過大な50万円部分については詐害行為取消権により取消されます。
そして、150万円の部分については依然として有効な弁済なので、受益者の債務者に対する債権は復活しません。
これに対し、支払不能後になされた過大な代物弁済など、424条の3第1項の要件を充足すれば、150万円の部分についても取消しが可能となります。

(い) 転得者の権利

債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取消されたときは、その転得者は受益者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価格を限度として、受益者が債務者に対して有する反対給付返還請求権について代位できます(425条の4[23])。

例えば、債務者が唯一の財産である車を受益者に200万円で売却し(詐害行為)、さらに受益者が転得者にその車を100万円で売却したとします。
このような状況下で、取消債権者により債務者の詐害行為が取消された場合、転得者は、せっかく受益者に100万円を支払って車を取得したのに取消債権者に車を渡さなければなりません。
このような転得者を救済するために、受益者が債務者に対して有する200万円の反対給付返還請求権のうち、100万円の限度で転得者は債務者に対して100万円を支払うよう請求できます。

(2)詐害行為取消権行使の範囲

詐害行為取消権は、財産不可侵の原則の例外としてその効果も限定的に考えられています。
そのため、取消債権者は、債務者の詐害行為について、債務者がした行為の目的が可分であるときは、被保全債権を上限として取消すことができるにとどまります(424条の8[24])。

5.権利行使方法・相手方

詐害行為取消権は、被告を受益者又は転得者とし(424条の7第1項[25])、裁判所に請求(訴訟提起)することにより行使できます(424条1項本文)。

そのため、債務者の財産が転得者に帰属しており、かつ受益者及び転得者のいずれに対しても詐害行為取消権を行使することができる場合には、取消債権者は、受益者を被告として取消訴訟を提起して金銭での賠償を請求できますし、転得者を被告として取消訴訟を提起して転得者から直接に財産を取り戻すこともできます。

そして、前述のように、詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者に対してもその効力が生じる(425条)ので、被告とはされない債務者にも審理に参加する機会を保障するために、取消債権者は訴え提起の際、遅滞なく、債務者に対し、受益者ないし転得者に訴訟告知しなければなりません(424条の7第2項[26])。

確定判決に生じる効力は、既判力(民事訴訟法114条1項[27])といいますが、この効力の根拠は、「裁判で争う(自分の言い分をいう)機会が保障され、その上で判断が下ったのだから、その判断に服することになっても仕方がない」というものです。

訴訟告知をされた場合、債務者は訴訟に参加でき、取消債権者の詐害行為取消権の主張を争うことができます(民事訴訟法53条[28])。

このように、確定判決の効力を債務者にも及ぼす以上、債務者にも審理に参加する機会を保障するため、取消債権者は、債務者に訴訟告知をしなければならないとされています。

なお、債務者が訴訟に参加しなくても、それは債務者が訴訟に参加して取消債権者の主張を争う機会を自ら放棄したものであり、訴訟の結果がどうなろうとその責任は債務者も負うべきとの考えから、やはり、確定判決の効果は債務者にも生じます。

また、詐害行為取消権はすべての債権者のために債務者の詐害行為を取消し、債務者の財産を保全するための権利なので、詐害行為取消請求を認容する確定判決は、2⑶アのように、当該債務者に対して債権を有するすべての債権者に対しても効力が生じます(425条)。

詐害行為取消権の要件として無資力要件がありますので、債務者が破産申立てなどをすることも多く、他の破産債権者達のために債務者の財産を保全するという機能があります。

6.権利行使の時期的制限

詐害行為取消権は、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを取消債権者が知ったときから2年が経過するまでに訴えを提起しなければ、行使できなくなります。
また、詐害行為時から10年が経過したときも訴えを提起できなくなります(426条[29])。

旧民法では、上記期間制限は時効に基づくものとされていましたが、改正民法ではそのような定めはされていません。
というのも、詐害行為取消権は、裁判所に訴訟を提起することでのみ行使が可能な権利であり、訴訟外でも行使可能な実体法上の権利とは異なります。
このような性質から、この期間制限を、消滅時効というよりは除斥期間・出訴期間と捉えた方が適格であるため、改正民法では期間制限を時効に基づくものとはしていません。
そのため、当然のことですが、時効にみられる中断等もこの期間制限にはありません。

また、期間についても、旧民法では「詐害行為時から20年」とされていましたが、20年もの長い年月、詐害行為取消権の行使を債権者に認めることは取引の安全を不当に害するとともに、過度に債権者を保護することにつながるとして、改正民法では前述のように「詐害行為時から10年」とされています。

いざ詐害行為取消権を行使しようといくら証拠を完璧に揃えても、上記期間を徒過していれば意味がなくなってしまいますので、詐害行為取消権行使の際には、その点に十分にお気を付け下さい。

7.終わりに

以上のように、詐害行為取消権は、債務を負っていながらその債務を免れるないし、一部の債権者のみ利する行為を阻止しようというものです。

債権者にとっては、非常に心強い権利ではありますが、裁判上で行使する必要があるため、法律上の専門的な知識が要求されます。
そのため、詐害行為取消権を行使したい場合、まずは、弁護士まで相談されることをお勧めいたします。

ここまで、詐害行為取消権に絞って説明してきましたが、本記事が少しでも皆様の生活の一助になれば幸いです。

※ 法令名のないものは、民法です。

[1] 第424条1項 「債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。」

[2] 第424条3項 「債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。」

[3] 憲法第29条1項 「財産権は、これを侵してはならない。」

[4] 第424条4項 「債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。」

[5] 第424条2項 「前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。」

[6] 第424条の2 「債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。

一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。

二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。

三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。」

[7] 第424条の3 「債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。

一 その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。

二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

2 前項に規定する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。

一 その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。

二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。」

[8] 第424条の4 「債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第424条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第1項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。」

[9] 第482条 「弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。」

[10] 第907条 「共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」

[11] 第915条1項本文 「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」

[12] 第768条1項 「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」

[13] 第424条の5 「債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。

一 その転得者が受益者から転得した者である場合 その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。」

[14] 「二 その転得者が他の転得者から転得した者である場合 その転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。」

[15] 債務者の行為を取り消したい債権者に債務者、受益者、転得者、その後の転得者、全員がそれぞれ自己の行為が債権者を害することを知っていたことについての立証責任を負わせることは酷なので、「債務者の行為が債権者を害すること」を知っていたことを立証すれば足りるとしました。それでもこの立証は容易ではありません。

[16] 第703条 「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」

[17] 第425条 「詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。」

[18] 第424条の6 「債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。」

2 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。

[19] 第424条の9 「債権者は、第424条の6第1項前段又は第2項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。」

[20] 「2 債権者が第424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。」

[21] 第425条の2 「債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。」

[22] 第425条の3 「債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。」

[23] 第425条の4 「債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。

一 第425条の2に規定する行為が取り消された場合 その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権

二 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。) その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権」

[24] 第424条の8 「債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。

2 債権者が第424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。」

[25] 第424条の7 「詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。

一 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え 受益者

二 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え その詐害行為取消請求の相手方である転得者」

[26] 「2 債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。」

[27] 民事訴訟法第114条 「確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。」

[28] 民事訴訟法53条 「当事者は、訴訟の係属中、参加することができる第三者にその訴訟の告知をすることができる。

2 訴訟告知を受けた者は、更に訴訟告知をすることができる。

3 訴訟告知は、その理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してしなければならない。

4 訴訟告知を受けた者が参加しなかった場合においても、第四十六条の規定の適用については、参加することができた時に参加したものとみなす。」

[29] 第426条 「詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。」

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

弁護士齊田 貴士
中央大学法学部、神戸大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て、 ベリーベスト法律事務所に入所。 主に離婚事件、労働事件等の一般民事や刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小 企業法務含む。)、税務事件等を扱っているが、その他幅広い分野を扱っている。 海外のローファームでの実務経験もあり、国内外問わず幅広い分野のリーガルサービスを提供 している。
↑ページの先頭へ
0120-538-016
0120-538-016