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改正民法と運送契約|定型約款の導入が与える影響とは

2020年10月20日
改正民法と運送契約|定型約款の導入が与える影響とは

1.  はじめに

平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立し、同年6月2日に公布されました。
民法は、私人間の法律関係を幅広く規律している民事の基本法ですが、債権関係の規定については、明治29年に同法が制定されて以降、約120年間今回のような大改正はありませんでした。
現在の社会・経済は当然120年前と大きく異なるため、現在の社会・経済への対応を図るというのが今回の改正の趣旨です。
なお、今回の改正は、一部の規定を除き、令和2年4月1日から施行されています。
本稿では、平成29年改正前の民法を旧民法、改正後の民法を新民法といいます[1]

民法の大改正に伴って、他の関連法令についても種々の改正がされています。
平成30年5月18日、商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律(平成30年法律第29号)が成立し、同年5月25日に公布されました。
同法は、平成31年4月1日から施行されています。
民法と同様に、商法のうち運送・海商法制に関する部分については、明治32年(1899年)の商法制定以来、実質的な見直しがほとんどされていませんでした。
そこで、民法の大改正に伴い、商法についても整備することになりました。
本稿では、平成30年改正前の商法を旧商法と、改正後の商法を新商法といいます[2]

本記事では、運送契約に対して民法改正(債権法改正)が与える影響について、まず運送契約の意義について触れた上で、関連する民法の改正点を踏まえて解説します。

2.  運送契約とは

運送契約とは

運送契約といっても、その運送の対象や方法によって様々な態様があります。
例えば、国内旅行であれば、目的地へ行くのにバスや鉄道を利用しますし、荷物が多い場合には、前もって旅行先に荷物を送っておくこともあるでしょう。
これらは、新商法における物品運送契約(新商法570条)、旅客運送契約(同法589条)に該当します。
新商法は、このような運送契約をその対象と運送方法によって分類しています。
運送の対象によって前述の物品運送及び旅客運送とに分類し、運送の方法により陸上運送、海上運送及び航空運送とに分類しています(新商法569条2号ないし4号参照)。

3.  定型約款

定型約款

(1)約款の意義

運送契約についていえば、バスや電車に乗る際に契約書を見て署名・押印して乗車をする人はいないと思います。
これらも旅客運送「契約」ですから、原則的には個々人ごとに契約内容を吟味して契約をするべきです。
しかし、毎朝時間のない時にそのようなことをしていたら、運送業が成り立ちません。
そこで登場したのが約款という概念です。
不特定多数者を相手とする業務において、迅速・画一的な処理を目的として、あらかじめ定型的な契約内容(約款)を定めておき、それに基づき契約を行うという手法です。

約款は、新民法が制定される前から用いられており、国土交通省のHPでは、標準的な約款例などもあがっています。
しかし、旧民法において約款に関する規定はありませんでした。
そこで、今回の大改正にあたり、約款に関する規定を置くことになったのです。

(2)定型約款

ア 定型取引

新民法は、「定型約款」という概念を設けました。
定型約款は、「定型取引」に関するものであり、定型取引と認められるポイントは、

①不特定多数の者を相手方として行う取引であること、
②その内容の全部又は一部が画一的であること、
③②が双方にとって合理的なものであること

です(新民法548条の2第1項括弧書)。

①ないし③のポイントからすれば、先ほどのバスや電車の旅客運送契約などは、定型取引の典型ではないかと思われます。

イ みなし合意

新民法は、548条の2第1項各号の要件を満たせば、定型約款の個別の条項についても合意したものと「みなす」と規定しています。
1号は、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたときというものですが、黙示の合意も含まれ、通常は、そのような合意があるといえます

次に、2号は定型約款準備者(通常は事業者など)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨相手方に表示していたとき、です。
したがって、契約にあたっては、定型約款を相手方にあらかじめ「表示」しなければなりませんが、先ほどの鉄道による旅客運送契約については、「公表」でよいと緩和されています(鉄道営業法18条の2)。
ですので、各社のHPに約款条項を載せるだけで、この要件を満たすことになります。

定型約款の個別の条項についても合意したものとみなす場合
1号 定型約款を契約の内容とする旨の合意があった(黙示の合意も含む)
2号 定型約款準備者があらかじめ定型約款を契約の内容とする旨「表示」した

※鉄道の旅客運送契約については「公表」でよい

ウ 不当条項

新民法は、約款の個々の条項についても規制をしています。
つまり、約款当事者の一方にとって著しく不当な条項については、合意内容からはずすというものです。
不当条項にあたる要件は、

①「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項」であること、

かつ、

②その条項が信義則の規定に反して「相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」であること、

です(新民法548条の2第2項)。

例えば、運送人の過失によって荷物が滅失したにもかかわらず、運送人がその損害を一切賠償しないという内容が不当条項にあたる可能性があります。
また、ここまで不当な内容ではなくとも、相手方に不利な条項をわざと小さな文字で記載し、相手方が認識しにくくなるような条項も、不当条項に該当する可能性があります。
ですから、定型約款準備者としては、このような条項がないか確認する必要があるでしょう。

(3)経過措置

定型約款に関する新法の規定は、施行日前に締結された定型取引にも適用がある点には注意が必要です(新民法附則33条1項)。
なお、反対の意思表示がされた場合には旧民法が適用されますが、この意思表示は施行日前にしなければなりません(同33条3項)。

4.  債務不履行責任

債務不履行責任

(1)運送人の債務不履行責任

運送人は、その注意を怠ったことにより、運送品の滅失や損傷、延着が生じた場合、債務不履行として損害賠償責任を負う(新商法575条)と規定されています。
この規定に関しては、基本的に改正前の文言をそのまま引き継いでいます。

(2)履行補助者の過失

運送人は、その運送業務を履行代行者などに引き受けさせることが多いです。
この履行補助者の過失について、旧商法577条は、「運送取扱人又ハ其使用人其他運送ノ為メ使用シタル者」の過失についても運送人が責任を負うと規定していましたが、新商法では削除されています。
その理由としては、民法上、債務者は履行補助者の過失について責任を負うと解されているからです(大判昭和4年3月30日民集8巻363頁等参照)。

伝統的学説においては、①狭義の履行補助者については、債務者はその故意・過失について常に責任を負い、②履行代行者については、明文上履行代行者を使用できないのにそれに反した場合、債務者は常に責任を負い、③明文上又は債権者の承諾により使用が許されている場合は、債務者はその選任・監督のみ責任を負うと解されていました(我妻・総論参照)。

③についての根拠であった旧民法105条は、改正によって削除されました。
そうすると、③については、選任・監督のみではなく、その使用した者の過失について責任を負うものと考えられます。

なお、上記規定は任意規定と解されていますから、特約や約款で排除可能です。
しかし、新民法において定型約款についての規定が新設されましたので、新商法575条の責任を排除するような約款は、「相手方の権利を制限…する条項」にあたり、合意内容に含まれない可能性がある(新民法548条の2第2項)ことには注意が必要です。

(3)除斥期間

新商法585条1項は、上記運送品の滅失等の運送人の責任の除斥期間を、運送品の引渡しがされた日(運送品の全部滅失の場合にあっては、その引渡しがされるべき日)から1年と規定しています。
旧商法では、引渡しの日から1年で時効消滅し(旧商法589条・566条1項2項)、運送人に悪意があった場合には、短期消滅時効の規定は適用されないとしていました(旧商法589条・566条3項)。

請求期間を制限する趣旨は、運送営業の特殊性に基づくものであるから、運送人の主観的態様により期間に差を設ける合理性がないという理由で改正されました。
なお、除斥期間内に裁判上の請求がなされた場合は、民法の消滅時効の規律に服します(新民法166条1項1号、2号)。

5.  旅客の運送人についての短期消滅時効

旅客の運送人についての短期消滅時効

(1)民法上の改正点

旧民法においては、債権の消滅時効の期間は、その権利を行使することができる時から10年と規定されていました(旧民法167条1項)。
その特則として、職業別の債権については、短期消滅時効という形で規定されていました(旧民法170条ないし174条)。
この趣旨は、例えば、飲食代の債権については、その金額からして長期間記録を保管していることは考えにくく、証拠散逸による立証困難という時効制度の趣旨から、その期間を制限する点にありました。
しかし、職業別の短期消滅時効制度については、ある債権にどの時効期間が適用されるのか分かりにくいうえ、1~3年という区別に合理性も乏しいとの批判がありました。

そこで、改正法の下では、職業別短期消滅時効制度を廃止し、消滅時効期間の原則も、権利を行使することができる時から10年間又は行使することができることを知った時から5年間と変更されました(新民法166条1項)。

改正前 改正後
起算点 時効期間 起算点 時効期間
原則 権利を行使することができる時から  

10年

知った時から 5年
権利を行使することができる時から 10年
職業別 同上 1~3年 廃止

(2)商法上の改正点

これに伴い、商事消滅時効制度は廃止され、(陸上)物品運送契約において、運送人の荷送人又は荷受人に対する債権については、これを行使することができる時から1年の時効にかかることが規定されました(新商法586条。旅客運送契約については同法594条。)。
改正前においても、物品契約については旧商法589条、567条により、旅客契約については改正前民法174条3号により、消滅時効は1年とされていました。

したがって、今回の改正により大きな変化はないといえます。

6.  運送契約における危険負担

運送契約における危険負担

(1)旧民法の問題点

旧民法は、双務契約における一方の債務が当事者双方の責めに帰すべき事由によらないで消滅した場合につき、次のように規定していました。
債権者の負う反対給付債務は消滅することを原則としつつも(旧民法536条1項)、双務契約が特定物に関する物権の設定又は移転を目的とするなど例外的な場合において、反対給付債務は存続する(旧民法534条1項)と規定していました。
しかし、この旧民法534条1項に対しては、合理性がないなどの強い批判がかねてからありました。

(2)改正点

そこで、新民法においては、批判のあった改正前民法534条及び535条を削除し、併せて、同制度の効果を反対給付債務の消滅から履行拒絶権という形で規定しました(新民法536条1項)。
この民法改正に合わせて、旧商法576条の運送契約における危険負担の規律も、同様のものとされました。

したがって、今回の改正で大きな影響はないと思われます。

7.  おわりに

今回の民法改正によって大きな影響があるポイントは、やはり約款の部分だと思います。
この点については、使用している約款が「定型約款」に該当するのか、該当する場合には、合意内容に含まれるための要件(「表示」など)を満たしているのか、さらに、約款中に相手方を著しく不利にする条項が含まれているのか、という点をチェックする必要があります。

 

・法務省HP(民法の一部を改正する法律について
・法務省HP(商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律について
・金融商事法務No.2084、18頁【民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)の概要―商法関係―・大野晃宏】
・債権法改正の重要ポイント(東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会)
・改正債権法の逐条解説
・商法・商行為法―青竹正一

[1] 法務省HP(民法の一部を改正する法律について
[2] 法務省HP(商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律について

 

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

弁護士堀内 平良
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