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企業が著作物を扱う上でおさえておくべきポイント
1.はじめに
著作権は、著作物を保護するための権利です。
そして、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と著作権法で定義されています。
代表的な著作物としては、漫画、小説、アニメ、絵画などが挙げられます。
これらを保護する著作権は、創作と同時に発生する権利だと理解されており、つまり著作権を発生させるために行政機関等で特別な手続をとる必要はありません。
出版業界や広告業界といった、主体的に著作物を扱う企業であれば格別、その他の業界の企業においては、著作権という言葉自体には耳馴染みがあっても、業務の中で著作物を扱う機会は限られているかもしれません。
しかし、著作権に関する正しい理解を欠いたまま著作物を扱うと、思わなぬ形で著作権を侵害して責任を問われてしまうことがあります。
そこで今回は、企業が著作物を扱う上でおさえておくべきポイントについて、資料の作成やSNSでの利用といった具体的な場面を想定しながら概観してみようと思います。
2.社内会議資料や社内研修資料を作成する上での著作権侵害
社内会議や社内研修を実施する際、口頭での説明に加えて、視覚的に情報を説明するために、資料を作成することが一般的だと思われます。
たとえば、マナー研修の実施を任された従業員が、ビジネスマナーについて書かれた市販本を参考にして、参加者に配布する資料を作成したとしましょう。
その際に、市販本のコピーを配布したり、撮影したデータをトリミングして添付したり、スキャンしたデータを社内ネットワークで共有したりすることは許されるのでしょうか。
(1)私的利用の限界
著作物を、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用した場合は、私的利用として基本的には著作権侵害となりません(著作権法30条1項)。
資料の作成においても、一部の従業員に提供するのみに留めるのであれば、このような私的利用として許されると思われるかもしれません。
しかし、作成した資料を会議や研修といった「業務」で使用している以上は、私的利用の限界を超えて著作権侵害が認められる可能性があります。
(2)複製権・公衆送信権
著作者は、その著作物を複製する権利(複製権)を有し(著作権法21条)、また、その著作物について、公衆送信を行う権利(公衆送信権)も有しています(著作権法23条)。
まず、複製権とは、著作物を印刷、写真、複写、録音、録画などの方法によって有形的に再製する権利のことであり、資料として配布するためのコピー、トリミングして資料に添付するための撮影は、複製権の侵害となる可能性があります。
次に、公衆送信権とは、公衆に直接受信されるために、著作物をインターネット等で配信する権利のことであり、ここでいう「公衆」には特定かつ多数の者を含みますので、社内ネットワーク上で共有した場合でも、多数の従業員がアクセスできる場合には公衆送信権の侵害となる可能性があります。
そして、著作権を侵害した場合には、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金、もしくはその双方が科される可能性があります。
(3)著作物の引用
著作権を侵害することなく、市販本を社内会議や社内研修の資料として利用する方法として、著作権者の許諾を得るか、著作物の引用の要件を満たすことが考えられます。
ここでは、後者の著作物の引用について説明します。
著作権法は、公表された著作物は、引用して利用することができると定めており(著作権法32条)、具体的には、以下の要件を全て満たす必要があります。
① 引用の必要性があること
② 引用部分とそれ以外が明瞭に区別されていること
③ 本文が主、引用部分が従であること
④ 引用部分にオリジナルからの改変が加えられていないこと
⑤ 出典を明示すること(出版社名、発行年月日、著者名、ページ数など)
社内会議や社内研修の資料として引用するとき、資料の大部分が市販本からの抜粋となっている場合には、③の主従関係が逆転しているとみなされる可能性がありますし、引用箇所が自身で作成した文章と一体化していたり、引用箇所が不明確なまま配布すると、②や④の要件を満たさない可能性があります。
このように、社内会議資料や社内研修資料であっても、著作権の侵害が認められる可能性がありますので、市販本の内容を資料に反映する場合には、著作権者の許諾を得たり、著作物の引用を満たしているかを慎重に確認する必要があります。
3.企業広報や従業員のSNS利用による著作権侵害
マーケティングの一環として作成した企業広報のSNSアカウントや、従業員の私的なSNSアカウントから発信した情報によって、著作権を侵害してしまうことも考えられます。
たとえば、撮影した表紙の画像と共に、購入した本やお勧めの本を紹介する。
そのような投稿をFacebookやTwitterなどでした場合に、著作権侵害が問題になることがあり得ます。
(1)市販本の表紙の著作権
市販本の表紙には、本のタイトルだけではなく、写真やイラストなども印刷されており、それらが創作的に表現されている場合には、著作物となります。
そして、著作者は、その著作物を複製する権利(複製権)を有し(著作権法21条)、また、その著作物について、公衆送信を行う権利(公衆送信権)も有しています(著作権法23条)。
複製権とは、著作物を印刷、写真、複写、録音、録画などの方法によって有形的に再製する権利のことであり、SNSにアップロードするための撮影は、複製権の侵害となる可能性があります。
また、公衆送信権とは、公衆に直接受信されるために、著作物をインターネット等で配信する権利のことであり、SNSに撮影した表紙の画像を投稿した場合は、公衆送信権の侵害となる可能性があります。
(2)著作権者の対応
出版社によっては、タイトル、著者名、出版社名等を明記するなどの条件を満たしている場合には、本の表紙の投稿を認めるといった独自のルールをホームページ等に掲載していることもあります。
また、著作権者の許可を得ていない場合でも、著作権者にとっても著作物の宣伝になるなどのメリットがあるため、責任追及に発展するケースは限られているかもしれません。
しかし、社内のコンプライアンス意識を高めるためにも、著作権侵害を指摘され得るようなSNSの投稿は避けるべきでしょう。
(3)著作物の引用
著作物の引用の要件については既に説明したとおり、以下の要件を全て満たす必要があります。
① 引用の必要性があること
② 引用部分とそれ以外が明瞭に区別されていること
③ 本文が主、引用部分が従であること
④ 引用部分にオリジナルからの改変が加えられていないこと
⑤ 出典を明示すること(出版社名、発行年月日、著者名)
SNSで本の表紙画像を使用した場合は、引用の必要性があると認められるのか疑義がありますし、投稿できる文字数が限られているTwitterなどでは主従関係が逆転していると判断される可能性もあります。
したがって、SNSでの投稿では、著作物の引用の要件を満たしているのかは慎重に確認する必要があります。
(4)表紙画像をSNSで使用する方法
ここまで説明した通り、本の表紙も著作物と認められることが多く、撮影した画像等をSNSに投稿した場合は著作権侵害を指摘される可能性があります。
表紙画像をSNSで使用する方法としては、Amazonや楽天の商品リンクを使用したり、出版社が定めているルールに従って投稿するなどの方法が考えられます。
4. まとめ
主体的に著作物を扱う機会が限られている業界の企業であっても、社内資料の作成やSNSの運営などで、著作権の侵害を指摘される危険性は一定程度存在します。
どのような場合に著作権侵害を指摘される可能性があり、それを回避するためにはどのような手立てを講じる必要があるのか。
著作権の仕組みを正しく理解して、社内のコンプライアンス意識を高めるために、この記事が少しでも参考になれば幸いです。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています