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国際特許とは| 外国への出願方法、相談先について
「国際特許」や「世界特許」は、その名称から、「全世界で有効な特許」というイメージを持たれるかもしれませんが、残念ながらそのような便利な特許は存在しません。
日本の特許権は日本国内に限られるため、外国で特許を取得しないまま海外展開を進めると、例えば、製品が世界中で模倣され模造品が出回るといったリスクがあります。
この記事では、国際特許とはどういう意味かという基本的なことから、外国への出願方法や相談先までを分かりやすく解説します。
1.国際特許とは
「国際特許」とは、1か国に出願することにより全世界で有効な特許権を取得できるという仮想的な概念で、実際にはそのような制度は存在しません。
国際法上、属地主義という考え方があって、日本で取得した特許権は日本国内でしかその効力は及びません。
外国で特許を取得したい場合には、原則、国ごとに個別に出願して権利を取得する必要があります。
しかし、最初に出願した者に特許が付与されるという先願主義を採用している国が大勢である一方、言語と出願書類の様式が異なるそれぞれの国に同時に出願することは、翻訳を短期間で行う等多くの労力を要し、事実上、困難でした。
そこで、工業所有権の保護に関するパリ条約が1883年に成立し、パリ条約の同盟国に最初に特許出願した日から12か月以内に、他のパリ条約の同盟国に特許出願した場合、後の出願は、最初の出願の出願日(以下、「優先日」という。)に出願されたのと同様な取扱いを受ける、パリ条約による優先権(通称、「パリ優先権」)を主張することが認められるようになり、外国への出願が容易になりました。
このパリ優先権の主張を伴って外国に出願することを、通称、「パリルート」と呼んでいます。
経済のグローバル化が進むと、より多くの国に出願したいという要望が高まり、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)が1970年に成立し、1つの出願願書を条約に従って提出(国際出願)することで、PCTに加盟している全ての国(PCT加盟国)に同時に出願したことと同じ効果が与えられるようになり、さらに多くの外国への出願が容易になりました。
この国際出願は、あくまで出願手続を国際的に統一したものであり、実際に特許を取得したい国(指定国)には国内移行手続きをとり、各国内の特許出願として審査されることになります。
この国際出願することを、通称「PCTルート」と呼んでいます。
2.国内の特許出願と外国への特許出願の違い
国内で特許出願する場合は、所定の願書及び出願書類を日本特許庁に提出し、審査請求をすることにより審査官による実体審査を経て特許査定を得て、特許料を納付することにより特許権が発生します。
国内で取得した特許権は、日本国内でのみ有効であり、外国での効力はありません。
外国で特許出願する場合は、前述したように、「パリルート」と「PCTルート」の2つの方法があります。次項に、それぞれの利点や手続きについて説明します。
3.外国への特許出願には2ルートある
外国へ特許出願する場合、国内と同様に希望する外国に直接出願することができます。
しかし、国内で出願した同一の発明について外国に出願する場合、当該外国での新規性、進歩性等の実体審査において国内で出願した日を基準に判断される有利な取扱いを受けられるパリ優先権の主張を伴うパリルートの利用を勧めます。
また、最初から国内だけでなく多くの外国に出願することを希望する場合、PCTルートを利用することができます。
日本特許庁(受理官庁としての日本国特許庁)に国際出願願書及び所定の出願書類を提出すると国際出願として認められ、所定期間内に日本を含むそれぞれの国に国内移行のための書類を提出することによってそれぞれの国内出願として認められることになります。
さらに、国内で出願した同一の発明について、パリ優先権の主張を伴いつつ、PCTルートを利用することもできます。
ここでは、パリルートとPCTルートのそれぞれについて、出願から特許取得までの手続と費用相場についてみていきます。
(1)パリ条約による優先権主張を伴う第二国出願、パリルート
①パリルートの要件
パリルートは、パリ条約の同盟国(第一国)に特許出願した同一の発明について、他のパリ条約の同盟国(第二国)に特許出願する場合、後の出願(第二国出願)の新規性、進歩性等の判断に関して、優先日(第一国における出願の日)に出願されたのと同様な取扱いを求める主張を伴って出願するものです。
パリ優先権を主張する要件として、第一国も第二国もパリ条約の同盟国であること、パリ優先権を主張することができる者はパリ条約の同盟国の国民で出願した者又はその承継人であること、第一国の出願が正規に出願され、最初の出願であること、が求められます。
また、パリ優先権の主張を伴う特許出願を第二国にできる期間(優先期間)は、優先日から12か月です。
②パリルートの手続
出願書類の様式及び言語については、第二国の国内特許出願の様式及び言語に従って作成し、願書にパリ優先権を主張する旨の表示をするか、同内容の優先権主張書を提出し、さらに第一国の認証がある優先権証明書を所定期間内に提出します。
第二国の特許庁への出願及びその後の手続は、第二国内に住所又は居所を有する代理人である必要があるため、第二国の代理人(現地代理人)に依頼します。
③パリルートの費用項目と費用相場
パリルートで必要な費用の項目
- 翻訳代
- 弁理士費用
- 現地代理人費用
- 出願手数料等の第二国の特許庁費用
出願から特許取得までの費用は、第二国の審査制度や発明の技術分野などによって大きく異なります。
目安としては、翻訳料を含まず、1回の中間対応を含めて、出願から特許取得までの費用で100万円~150万円程になります。
(2)特許協力条約(PCT)に基づく国際出願、PCTルート
①PCTルートの要件
特許協力条約に基づく国際出願は、1つの出願願書を条約に従って提出することで、PCT加盟国である全ての国に同時に出願したことと同じ効果を与える制度です。
したがって国際出願する要件として、国際出願をすることができる者は、原則、PCT加盟国の居住者又は国民であること、当該居住者又は国民の自国の特許庁を受理官庁として、国際的に統一された様式に従い、受理官庁が認める言語による出願書類を1通作成し、出願すること、が求められます。
②PCTルートの手続
PCTルートの大きな特徴は、手続きが国際段階と国内段階に分かれていることです。
- 国際段階
国際段階において、受理官庁が受理した国際出願ついて、国際調査機関は先行技術があるか否かを調査した「国際調査報告」及び特許性についての「国際調査機関による見解書」を作成し、出願人に送付します。また、優先日から18か月経過後に国際事務局は国際公開します。
- 国内段階
出願人は、国際調査報告及び見解書を参考にして国内移行するか否かを検討し、優先日から30か月以内に、希望する国(指定国)の特許庁に翻訳文を提出し、手数料を支払う国内移行手続きをすることにより、国内段階に入ります。
指定国の特許庁への翻訳文の提出及びその後の手続きは、指定国に住所又は居所を有する代理人である必要があるため、指定国の代理人(現地代理人)に依頼します。
③PCTルートで取得する場合の費用相場
国際段階と国内段階にかかる費用の合計がPCTルートのトータル費用になります。
国際段階(出願時)
- 国際出願手数料
- 送付手数料
- 調査手数料
- 弁理士費用(料金の目安は20万円~40万円)
2022年4月1日より送付手数料と調査手数料が改定され、国際段階にかかる費用の合計は、50~70万円程度になります。
出願書類の枚数などによっても料金は変動します。
なお、日本特許庁では、中小企業等を対象として、国際出願促進交付金や国際出願に係る手数料の軽減措置制度を設けています。
- 国際出願交付金:国際出願手数料の1/2~2/3に相当する額を交付
- 国際出願に係る手数料の軽減:送付手数料、調査手数料等が1/3~1/2軽減
詳しくは、下記のサイトで入手できる特許庁のパンフレットをご覧ください。
国内段階
- 翻訳代
- 弁理士費用
- 現地代理人費用
- 指定国の特許庁費用
国内段階にかかる費用は、指定国の審査制度や発明の技術分野などによって大きく異なります。
具体的な費用の目安を知りたい方は一度弁理士などの専門家に相談することをお勧めします。
なお、中小企業等外国出願支援事業として、パリルートの出願やPCTルートの国内段階の国内移行費用の1/2を助成する制度もあります。
詳しくは、上述したサイトのパンフレットをご覧ください。
4. 外国への特許出願の相談先
(1)無料相談
特許出願等に関して、「全く知識がなくて基礎的なところから分からない」「専門家のところに行くのは相談料がもったいない」という方はまずは無料で相談にのってもらえるところを探してみるのはいかがでしょうか。
①日本弁理士会の無料相談
日本弁理士会には無料の知的財産相談室が常設されています。
外国への特許出願に限らず、国内の特許、実用新案、意匠、商標等について、弁理士が相談に応じてくれます。
②独立行政法人 工業所有権情報・研修館 相談担当
独立行政法人 工業所有権情報・研修館では、産業財産権に関する一般的な相談について窓口を設けています。
対面だけでなく、電話や文書、FAX、メール、オンライン等で相談を受け付けています。
下記のサイトをご覧ください。
(2)具体的な相談は特許事務所や弁理士法人へ
具体的な相談に入るのであれば、特許事務所や弁理士法人に相談しましょう。
相談費用は、30分または1時間ごとに料金が設定されているところが多いです。
5.まとめ
これからの事業展開を考えるうえで、国内、海外を問わず、特許をはじめとする知的財産権について意識しておくことは重要です。
日本で取得した特許は、日本国内でしかその効力は及ばないということはしっかりと覚えておきましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています