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商標ライセンス契約とは?メリット・デメリットと交渉時の注意点を解説

2023年3月31日
商標ライセンス契約とは?メリット・デメリットと交渉時の注意点を解説

商標権は企業の重要な財産です。
商標は、企業が培ってきた顧客の信頼の結晶であり、それ自体に顧客を集客する力があります。
自社の商標権を上手に活用すればさらに収益アップを目指せますし、他社の保有する商標権を活用すれば効率的に事業を軌道に乗せやすくなるでしょう。

これを実現する方法として、商標ライセンス契約という手段があります。
これは、商標権の使用を他者に認めることを内容とする契約です。

そこで今回は、商標ライセンス契約の内容やメリット・デメリットについて解説します。
あわせて、当事者間で商標ライセンス契約を締結する際の注意事項も紹介するので、最後までご一読ください。

1.商標ライセンスとは

商標ライセンスとは、商標権者(ライセンサー)が有する登録商標について、第三者(ライセンシー)に使用権を設定する行為・使用許諾許可のことです。

(1)商標権とライセンス契約の関係性

l  商標:権利者の商品・役務を他社のものと区別・識別する機能がある標識のこと。登録権者が商標に対して独占的権利を有するのが特徴。

l  ライセンス: ライセンサーが保有している商標の使用をライセンシーに許諾する契約。

商標権も財産権の一つなので、ライセンサーがどのように利用・処分するかは自由です。

たとえば、「X」という商標について商標権を有するAは、「X」を自分で使用しても良いですし、「X」を他人Bに使用させることも可能です。
しかし、権利者Aが「X」の使用を他人Bに許可する場合には、トラブル回避のために、AB間で事前に使用許諾の範囲・方法・時期・地域などについて明確なルール設定をする必要があります。

このルール設定をするのが「商標ライセンス契約」です。

したがって、商標権は権利者が独占的に有する権利であり、ライセンス契約によって、その商標の使用を第三者に付与する(「他者に使用権を許諾する」という形での使用方法)という関係性があるといえるでしょう。

(2)商標ライセンスのメリット・デメリット

商標ライセンスには、ライセンスを付与する側(ライセンサー)・与えられる側(ライセンシー)の2者が登場することになりますが、両当事者にメリット・デメリットが存在します。

①商標ライセンスを付与する側(ライセンサー)の主なメリット・デメリット

商標権者が第三者と商標ライセンス契約を締結するメリット・デメリットはたとえば次のようなものがあります。

ライセンサーのメリット ・ライセンスを付与することで対価を得られる

・ライセンシーを通じブランド価値を維持・向上させることができる

ライセンサーのデメリット ・ブランド価値が毀損されるリスクがある

・不正使用などのリスクが高まる

商標権者にとってのライセンス契約とは、コストを節約しながらもライセンシーを通じて営業・広告・事業拡大を可能にするという点で大きなメリットがある取引だと言えるでしょう。

ただし、第三者に対して商標権にまつわる権利行使の許諾を与えることによって、自社の監督が及ばない範囲にまで営業市場が拡大する可能性がある等、さまざまな事業リスクに晒される可能性がある点に注意が必要です(この点のリスクヘッジについては、契約に先立って専門家と入念に準備することが不可欠になります)。

「メリットの大きさに比例してデメリットも大きくなる(だからこそ、デメリットを回避・軽減するために事前のライセンス契約が重要になる)」という点を理解して、取引相手との間で適切な商標ライセンス契約を締結しましょう。

②商標ライセンスを与えられる側(ライセンシー)の主なメリット・デメリット

ライセンシー側が商標ライセンス契約を締結するメリット・デメリットは次の通りです。

ライセンシーのメリット ・既存のブランド力を利用して事業展開できる
ライセンシーのデメリット ・商標ライセンス契約違反によって賠償責任を負うリスクがある

・売上を維持しなければライセンス料で赤字になるリスクがある

・ライセンス契約の解除、更新拒絶をされると事業展開が難しくなる

ライセンシー側にとっては、すでに存在するライセンサーの商標を使用することで、そのブランド力を土台にして事業展開できる点が最大のメリットです。
ゼロから自社努力でブランドを創造するよりも、既存のマーケットを活用して事業展開する方が効率的なのは言うまでもないでしょう。

ただし、商標ライセンス契約には「商標権者の立場が強い」という特徴があるため、ライセンシー側がどれだけ事業継続を希望しても、ライセンサー側の許諾を得られない限りは事業撤退のリスクを避けられないという点に注意が必要です。

したがって、ライセンシー側は、将来に渡って事業を継続できるように、商標ライセンス契約内容を吟味する必要があります。
商標ライセンス契約締結後もライセンサー側との有効な関係を継続できるような条項を盛り込むことも考えられます。
たとえば、第三者によって商標権侵害があった場合に、ライセンシーが協力する旨の条項を盛り込むことはライセンサーの信頼を得るために有効でしょう。
一方で、どこまで協力するかを明示すれば、問題発生時にどこまでの対応が必要になるかが予見可能になり、自己防衛にもつながります。

2.商標ライセンス契約で気をつけること

以上を踏まえると、商標ライセンス契約によるメリット・デメリットを十分に考慮し、相手方との関係性を維持しつつ自分の立場が不利になりすぎないように注意しなければならないことがわかります。

ここからは、商標ライセンス契約締結時の注意点について具体的に見ていきましょう。

参照:「商標使用許諾契約のドラフティング」日本弁理士会HP

(1)商標ライセンス料の金額決定方式

商標ライセンス契約締結時に気を付けるべき最重要項目は、「商標ライセンス料の金額決定方式」です。

商標ライセンス料(ロイヤリティ)とは、商標権の使用許諾を受ける対価となる金銭のことであり、ライセンス料があまりに高額だとライセンシー側のコスト負担が重くなりますし、その一方で、低額過ぎるとライセンサー側の収益性が低下するという相反関係にあります。

一般的な商標ライセンス料の金額決定方式は次の通りです。

金額決定方式 内容 ライセンサーの主なメリット ライセンシーの主なメリット
出来高払い方式(ランニング・ロイヤリティ) 売上高に対してライセンス料が発生する方式。製品価格を基準にする「従率法」、製品数を基準にする「従量法」などに区別される。 ・売上げ次第で高額のライセンス料が入る

・最低保証金額条項で売上げ低額時のリスクヘッジが可能

・売上げが低いときにはライセンス料を低額に抑えられる

・ライセンス料率を定率に交渉することでコスト負担を軽減できる

固定額払い方式(ランプサム・ペイメント) ライセンス料を定額にする方式。もしくは、契約時に一時金のみを支払う方式。 ・売上げに関係なく固定額が入ってくる ・売上げが高くなるほどライセンス料の負担割合を下げられる
組み合わせ方式 頭金として一定のライセンス料を支払ったうえで、出来高払い方式を継続 ・固定収益を維持しつつ、売上高に対するライセンス料を期待できる ・ライセンス契約の諸条件を細かく使用料に反映しやすくなる

ライセンス契約締結時の料金設定を後から変更するのは現実的ではないため、使用許諾交渉を実施する際には、ライセンサー・ライセンシー双方の利益を最大化できる料金設定方式を見つけられるように、弁護士等の専門家に相談するとよいでしょう。

①商標の使用許諾料金は無償でも可能

商標ライセンス契約の内容は当事者間の合意で確定されるものです。

つまり、商標権者の合意が得られる場合には、ライセンス使用料金を無償に設定することも可能です。
実際、グループ会社において、親会社が所有する商標を子会社が無償で使用しているケースは少なくありません。

(2)商標ライセンスの態様・対象範囲の明確化

商標ライセンス契約を締結する際には、ライセンスの態様についての具体的な取り決めが必要です。具体的には、次の4つの態様が挙げられます。

  • 専用使用権:商標権使用できるのはライセンシーのみ(ライセンサーも使用不可)
  • 独占的ライセンス:商標権使用できるのはライセンシー・ライセンサーのみ(ライセンス契約当事者以外の使用不可)
  • 非独占ライセンス:ライセンシー以外の第三者にも使用許諾を与えることが可能
  • サブライセンス:ライセンシーが第三者に再許諾できる

専用使用権を付与する態様で商標ライセンス契約を締結する場合には、特許庁に対して専用使用権の登記申請をする必要があります。
これに対して、独占的ライセンス・非独占的ライセンス・サブライセンスについては契約当事者間の合意のみで成立します。

いずれの態様を選択するかは、商標権の使用権者を将来的にどこまで広げる可能性があるかによって決定されるべきものです。
事業内容や経営方針なども総合的に考慮して、不当に権利行使が阻害されるような状況に追い込まれないように契約内容を精査しましょう。

(3)製造物責任法上のリスク

当該商標を使用して事業を展開するライセンシーの商品等の製造物に何かしらの欠陥が存在し、これによって他人の生命や身体、財産等に損害を与えてしまった場合に、ライセンサー側が損害賠償責任等を追及されるリスクを否定できません。

ライセンサーはライセンシーを通じて利益を得ているため、製造物責任法上、ライセンサーも責任を負う可能性があるためです(製造物責任法2条3項2号、3条)。

そこで、商標ライセンス契約にあたっては、そのようなライセンサー側のリスクを回避できるような条項を盛り込んだり、製造物責任保険への加入を求める必要があり得ます。

(4)独占禁止法違反リスク

商標ライセンス契約では、ライセンサーが自由にライセンス先を選ぶことができ、商標の使用形態等の条件を設定することもできるのが原則です。
そのため、ライセンサー側が圧倒的に有利な立場にあることがほとんどです。

だからといって、ライセンサー側が正当な理由なくライセンス先との取引を拒絶する行為は、不公正な取引方法(独禁法2条9項)等にあたり得る行為であり、独禁法上問題となり得ます。

また、契約の条件において、ライセンシーの販売先や販売価格等を限定する行為も、独禁法上問題になり得ます。このような条項はライセンシー企業の取引の自由を侵害するばかりではなく、当該商品の取引市場における公正な競争を阻害する可能性があるからです。

独占禁止法等の関係法令の抵触可能性については、専門的な判断が必要不可欠ですから、必ず弁護士に相談しましょう。

(5)その他商標ライセンス契約締結時の重要項目

その他、商標ライセンス契約締結時に契約書に盛り込むべき重要項目は次の通りです。

  • 契約当事者:子会社・関連会社を含むのか、など
  • 許諾商品:許諾商標を使用できる範囲を明確化する
  • 商標の使用態様
  • 品質管理条項:ライセンシーが遵守するべき品質基準について
  • 契約期間
  • 解約事由
  • 契約期間満了時の再許諾の取り扱いについて
  • 秘密保持条項

まとめ

商標ライセンス契約を締結すれば、ライセンサーが保有する商標権を利用して効率的に収益を得られる反面、ブランド価値が毀損されるリスクが生じるものです。

他方、ライセンシーも、ライセンス契約不履行による損害賠償責任や、赤字のリスクが生じるものです。

したがって、商標ライセンス契約を締結する場合には、ライセンス料の算定方式・ライセンスの態様などの重要項目だけではなく、違約金や契約解除事由などについても明確な取り決めをする必要があります。

そして、事業リスクのみならず、独占禁止法抵触可能性のような、法律上のリスクについても熟考しなければなりません。

商標ライセンス契約締結前・契約締結時・契約締結後にはかならず弁護士等の専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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