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責任限定契約とは?制度内容・目的・注意点や締結するメリットを解説

2023年4月14日
責任限定契約とは?制度内容・目的・注意点や締結するメリットを解説

株式会社の業績を向上させるには多様な人材登用が不可欠ですが、過重な任務懈怠責任のリスクがある点がネックになって、「思うように人材を登用できない」という課題を抱えている企業は少なくありません。

そこで今回は、経営層の人材不足問題を解消する「責任限定契約」制度について解説します。
あわせて、責任限定契約をルール化する際の注意点も紹介するので、最後までご一読ください。

1.責任限定契約の概要について

責任限定契約とは、非業務執行取締役等の賠償責任に関する重要な契約のことです。
会社法第427条において定められており、社外取締役などを呼び込むうえで重要な役割を担っています。

まずは、会社法第427条で規定される責任限定契約の概要について具体的に見ていきましょう。

(1)会社法の責任限定契約の内容とは

非業務執行取締役等が締結できる責任限定契約については、会社法第427条1項において詳細な規定が置かれています。

(責任限定契約)第427条

1項 第424条の規定にかかわらず、株式会社は、取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)、会計参与、監査役又は会計監査人(以下この条及び第911条第3項第25号において「非業務執行取締役等」という。)の第423条第1項の責任について、当該非業務執行取締役等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額のいずれか高い額を限度とする旨の契約を非業務執行取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる。

ここから分かるように、責任限定契約とは、「非業務執行取締役等の任務懈怠責任について、一定の要件を充たす場合に一部免除する」ことを旨とする契約類型のことです。

なお、役員等の任務懈怠責任の一部免除については、会社法第425条・第426条でも規定されていますが、425条426条の一部免除は「役員等がすでに負担している任務懈怠責任を事後的・個別的に免除する」という運用のものであるのに対して、会社法第427条の責任限定契約は、「非業務執行取締役等の任務懈怠責任について事前的・一般的に一定範囲に制限できる」というものであるため、まったく別物である点にご注意ください。

(2)会社法の責任限定契約の目的とは

責任限定契約を制度化している目的は、多様な人材が会社経営に参画しやすくなる環境を整えることにあります。

そもそも、会社の経営に携わるためには、会社との間で委任契約を締結しなければいけません。
そして、取締役などの職責にある人物が何かしらの失敗により会社に損害を生ぜしめた場合には、任務懈怠責任に基づく損害賠償請求を追及されることになります。

その一方で、多様化する経済社会のなかで企業成長を促すためには、社内外から多様なスキルを有する人材を集める必要があります。
しかし、「何かしらのミスを犯した場合に高額な賠償請求をされるリスクがある」という状況だと、優秀な人材を登用できず、結果として企業成長が阻害されかねません。

そこで、任務懈怠責任が生じた場合に、当該非業務執行取締役等が負担を強いられる金額に条件を設けて、経営に参画しやすい環境を整備することが求められます。

「責任限定契約を締結しておけばリスクヘッジに役立つ」となれば、多様な人材が非業務執行取締役等として会社のために能力を発揮しやすくなるでしょう。

(3)会社法の責任限定契約の対象とは

責任限定契約を締結できるのは次の4者のみです。
これらを総称して「非業務執行取締役等」と呼びます。

  • 業務執行取締役等以外の取締役
  • 会計参与
  • 監査役
  • 会計監査人

なお、平成26年の会社法改正前は、責任限定契約を締結できるのは、会計参与・会期監査人のほかは社外取締役・社外監査役だけでした。

責任限定契約の対象者が拡大された理由は、過度な責任追及によって経営の萎縮が生じること・役員等のなり手不足が生じることを防止するためです。

(4)責任限定契約を締結するメリットとは

責任限定契約は、会社側・非業務執行取締役等側双方にとってメリットがあります。

会社側のメリット ・多様な人材を集めやすくなる

・「定款の定めが必要」など手続きが厳格化されているので、曖昧なやり取りで経営陣が責任を逃れることがない

非業務執行取締役等側のメリット ・賠償責任範囲が限定されるので役員等に就任しやすくなる

・リスクを軽減した状態でキャリア選択肢を増やせる

2.責任限定契約にまつわる注意点

「多様な人材の採用を促す」という題目のために制度化されている責任限定契約ですが、当事者間で自由に契約内容・契約手続きを決められるというわけではありません。

特に、任務懈怠責任を一部免除するということは「会社に対する損害賠償責任を軽減すること」を意味するので、株式会社・株主の利益を守る目的から責任限定契約を締結するにはいくつかの注意点が存在します。

ここからは、責任限定契約にまつわる注意点について具体的に見ていきましょう。

(1)責任限定契約の手続き上の注意点

まずは、責任限定契約について定められた手続き上の注意点についてです。

①責任限定契約の決議

責任限定契約を締結するには定款にその旨を規定しなければいけません。

そして、定款変更には株主総会の特別決議が必要です。

定款に記載のない状態で締結した責任限定契約は事実上無効なので、非業務執行取締役等は任務懈怠責任全額を免れられなくなります。

②責任限定契約の開示

責任限定契約を締結した非業務執行取締役等が実際に損害を生ぜしめた場合には、その後最初に招集される株主総会において次の事項を開示しなければいけません(会社法第427条4項)。

  • 責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
  • 免除できる額の限度及びその算定の根拠
  • 責任限定契約の内容及び当該契約を締結した理由
  • 第423条1項の損害のうち、当該非業務執行取締役等が賠償する責任を負わないとされた額

なお、これらの事項について株主総会決議は不要です。
非業務執行取締役等の責任を一部免除することを株主に知らせることが目的なので、「開示」で足ります(万が一、当該責任限定契約の内容・根拠や手続き等に問題があると株主が考えた場合には、別途株主代表訴訟等で業務執行取締役等が責任追及されることになります)。

③責任限定契約の登記

責任限定契約を締結できる旨の定款変更をした場合には、その旨の登記をする必要があります。

定款変更の効力が生じた日から2週間以内に法務局に申請しなければいけません。

(2)責任限定契約とD&O保険の違い

責任限定契約と同じように会社責任者等の法的責任を軽減する手段として「D&O保険(会社役員賠償責任保険)」が挙げられます。

責任限定契約は事前に当事者間で責任の範囲を制限できる安心感のある制度である一方で、対象者が限定されている・善意で無重過失の要件が定められている・制限の範囲も決められているというデメリットが存在するものです。

これに対して、各保険会社が用意しているD&O保険を活用すれば、保険会社の契約審査に通れば商品内容通りの保証を受けられます(場合によっては、責任限定契約以上の恩恵がある場合もあるでしょう)。

したがって、「責任限定契約だけでは賠償責任の範囲制限に不安が残る」という場合には、各保険会社のD&O保険を見比べつつ検討すると良いでしょう。

(3)責任限定契約の最低責任限度額

たとえば、「善意・無重過失の場合には、非業務執行取締役等の任務懈怠責任0円にする」という責任限定契約は認められません(責任の全部免除には「総株主の同意」が必要です)。

なぜなら、責任制限の範囲は、「定款で定めた額の範囲であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額のいずれか高い額を限度とする」というルールが定められているからです。

つまり、非業務執行取締役等と責任限定契約を締結する場合には、「最低責任限度額」がポイントとなります。

そして、非業務執行取締役等の最低責任限度額は、「1年あたりの報酬等の額×2」の金額です。

したがって、業務執行取締役等との間で責任限定契約を締結する場合でも、「最低責任限度額若しくは定款で規定された金額のいずれか高い金額までの賠償責任は問われる」という点にご注意ください。

まとめ

責任限定契約を締結できるように定款を変更すれば、多様なバックボーンを持つ優秀な人材を株式会社に招きやすくなります。

ただし、責任限定契約を適切に運用するには、定款変更や株主総会への報告など、手続き上の注意点が少なくありません。

弁護士などの専門家に随時相談をしながら、企業成長を確実にするための環境作りに尽力しましょう。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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