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社外取締役が責任限定契約を締結する流れを解説!その他責任の免除方法も紹介
社外取締役とは、社内取締役と比べて客観性の高い取締役のことです。
企業の外部から登用されるため、企業内の利害関係に囚われずに経営の意思決定に参画できる点に特徴があります。
社外取締役などの非業務執行取締役等は、株式会社との間で「責任限定契約」を締結することで、将来的な損害賠償リスクに対して危機管理できます(会社法第427条)。
そこで今回は、社外取締役が締結できる責任限定契約の要件・効果・手続きの流れについて解説します。
あわせて、会社法上は責任限定契約以外にも社外取締役の賠償責任を免除する方法が定められているので、これらについてもご参照ください。
1.社外取締役が締結できる責任限定契約とは
社外取締役が責任限定契約を締結すれば、次のようなメリットが得られます。
- 社外取締役に就任する前の段階で任務懈怠責任の範囲を限定できる
- 任務懈怠責任に怯えずに会社経営に参画できる
社外取締役を招聘する株式会社にとっても、社外取締役が委縮することなく力を発揮してもらえる方が良いはずです。
それでは、社外取締役が締結できる責任限定契約の要件・効果について具体的に見ていきましょう。
(1)社外取締役が締結できる責任限定契約の要件
責任限定契約の要件は次の4つです。
- 社外取締役などの「非業務執行取締役等」であること(その他、会計参与・監査役・会計監査人が該当する)
- 社外取締役などの非業務執行取締役等が職務を行うにつき「善意・無重過失」であること
- 責任限定契約について定款の定めが置かれていること
- 当該人物と株式会社との間で責任限定契約が締結されたこと
責任限定契約は、社外取締役などの任務懈怠責任を一部免除するものであると同時に、株式会社側が非業務執行取締役等に対して責任追及できる範囲を制限するものでもあります。
したがって、非業務執行取締役等・株式会社(株主)双方の利害を調整するために、契約主体や善意・無重過失などの要件が課されることになります。
(2)社外取締役が締結できる責任限定契約の効果
社外取締役が責任限定契約を締結した場合の効果は、社外取締役の任務懈怠に基づく損害賠償責任の範囲を限定できる点にあります。
責任限定契約では、賠償責任の範囲を次の1,2のいずれか高い方まで限定できるとされています。
- 定款で定めた金額
- 最低責任限度額
社外取締役の最低責任限度額は、「2年分の報酬や退職慰労金、新株予約権の行使・譲渡によって得られた利益」の合計額です(会社法第425条1項)。
したがって、社外取締役が事前に責任限定契約を締結しておけば、個人資産では到底支払えないような任務懈怠責任を生ぜしめた場合でも、一部範囲まで賠償責任を限定できると考えられます。
2.社外取締役が責任限定契約を締結する流れとは
社外取締役が責任限定契約を締結して賠償責任に対してリスクヘッジをするには、次のような手続きの流れを経る必要があります。
- 株式会社側が責任限定契約についての定款の定めを置く
- 社外取締役と株式会社が責任限定契約を締結する
- 責任限定契約通りに責任を免除する場合には株主総会に情報開示する
(1)責任限定契約について定款で定める
社外取締役との間で責任限定契約を締結するには、事前に株式会社の定款でその旨を定める必要があります。
原始定款に責任限定契約についての規定が存在しない場合には、株式会社内で定款変更手続きを経なければいけません。
定款変更をするには、株主総会の特別決議が必要です(会社法第466条・会社法第309条2項11号)。
なお、監査役設置会社が責任限定契約について定款変更をするには、株主総会に議案を提出する際に、監査役全員の同意が必要です(会社法第427条3項、第425条3項)
また、定款変更手続きが終了した場合には、効力発生日から2週間以内に登記変更手続きをしてください。
責任限定契約の定款の記載例
株式会社が責任限定契約について定款で定める場合、次のような記載例になるのが一般的です。
基本的には、責任限定契約について定めている会社法第427条1項を踏襲する形になります。
定款第〇〇条
当社は、会社法第427条1項の規定に基づき、非業務執行取締役等との間で、同法第423条1項に規定する賠償責任を限定する契約を締結することができる。当該契約における賠償責任の限度額は、あらかじめ当会社が定める△△万円または最低責任限度額のいずれか高い金額とする。 |
(2)取締役会決議で社外取締役と責任限定契約を締結する
責任限定「契約」というように、任務懈怠責任の賠償範囲を限定するには、株式会社と社外取締役との間で契約を締結する必要があります。
後にトラブルにならないよう、適切な契約書を取り交わしておくべきでしょう。
①責任限定契約に係る取締役会決議の議事録
責任限定契約を締結するか否かは株式会社の「重要な業務執行の決定」に該当するので、取締役会決議が必要です。
たとえば、取締役会決議の議事録は次のように記載されます。
第〇〇号議案 △△社外取締役と責任限定契約を締結する件
議長は、社外取締役就任予定Aとの間で、会社法第427条1項に基づく責任限定契約を締結したい旨を説明し、本議案について諮ったところ、出席取締役全員が異議なく賛成し、承認決議が得られた。なお、本議案の特別利害関係人であるAは議決に参加しなかった。 |
②社外取締役が締結する責任限定契約書の雛型
責任限定契約書には次のような事項が記載されるのが一般的です。
- 責任限定契約を締結する目的
- 賠償責任の限定
- 会社法上の制約等(新株予約権の行使等)
- 責任限定契約の効力
- 法令・定款と責任限定契約の関係
- 税務処理の方法
- 契約内容の変更及びその方法
- 完全合意
- 分離可能性
- 準拠法及び合意管轄
- 責任限定契約の解釈をめぐる協議方法
弁護士などの専門家に相談すれば、個々の会社の事情に即した契約書を作成してくれます。
(3)社外取締役の責任免除について株主総会に情報開示する
社外取締役について実際に任務懈怠責任が発生した場合、賠償責任を一部免除するには、損害が発生したことを知った後、最初に開催される株主総会において次の項目を開示する必要があります(会社法第427条4項)。
- 責任の原因となった事実
- 賠償の責任を負う金額
- 責任限定契約により免除できる金額の限度及びその算定根拠
- 責任限定契約の内容及び契約を締結した理由
- 任務懈怠によって生じた損害のうち当該社外取締役が責任を負わないとされた金額
責任限定契約に基づく賠償責任の一部免除効果を得るにあたって、株主総会決議は不要で、株主総会への情報開示だけで足ります。
ただ、責任限定契約に基づく賠償額免除は会社側にとってある意味”損失”とも言うべきものなので、「開示したから問題ない」と開き直るのではなく、株主の不信感を招かないために丁寧に説明しましょう。
3.責任限定契約以外に社外取締役が責任負担を軽減・免除する方法
社外取締役のような非業務執行取締役等の任務懈怠責任を免除する方法は「責任限定契約」に限られません。
たとえば、次のような方法が会社法上予定されています。
- 株主全員の同意による免除
- 責任追及等の訴えにおける訴訟上の和解による免除
- 株主総会決議による一部免除
- 定款規定による一部免除
- D&O保険による保証
なお、D&O保険を除き、1234のいずれの方法も「実際に社外取締役の賠償責任等が発生した場合の事後的な対処法」でしかないという点に注意が必要です。
そして、株主総会などで責任免除について必ず同意が得られるという確証はありません。
つまり、「社外取締役に就任する段階で将来的な賠償責任範囲を限定したい」と考えるのなら、責任限定契約が最適な方法だということです。
定款変更手続きなどの事前準備が必要なので株式会社側が常に応じてくれるとは限りませんが、「安心して社外取締役に就任したい」という人は、責任限定契約締結について交渉を進めるのが無難でしょう(株式会社側から見れば、責任限定契約制度を充実させておけば優秀な人材を社外取締役として招聘しやすくなるということです)。
(1)株主全員の同意による免除
社外取締役の会社法第423条1項の任務懈怠に基づく損害賠償責任は株主全員の同意があれば免除されます(会社法第424条)。
なお、責任限定契約では非業務執行取締役等だけが責任の一部免除の対象でしたが、株主全員の同意があれば代表取締役や業務執行取締役などの責任を免除することも可能です。
(2)責任追及等の訴えにおける訴訟上の和解による免除
株式会社が責任追及等の訴えにおいて訴訟上の和解をするときは、免除に際して株主全員の同意は必要とされないので(会社法第850条4項、第424条)、当該訴訟の和解について会社を代表する者の意思表示で責任を免除することができます。
ただし、監査役設置会社において上記の和解をするには、各監査役の同意が必要です(会社法849条の2)。
(3)株主総会決議による一部免除
社外取締役の任務懈怠責任について、善意・無重過失の場合には、株主総会の特別決議によって賠償責任の一部免除が可能です(会社法第425条1項、第309条2項8号)。
免責の上限額は「最低責任限度額」とされ、非業務執行取締役等である社外取締役については「報酬等の2年分」とされています。
(4)定款規定による一部免除
取締役が2人以上の監査役設置会社・委員会型の会社では、取締役会の決議若しくは取締役の過半数の同意により、社外取締役の任務懈怠責任を一部免除できる旨を定款に定めることができます(会社法第426条1項)。
これは、一部免除について常に株主総会の特別決議を必要とすると、社外取締役の責任を免除するかどうかが不確定な期間が長期化し、経営に萎縮が生じるおそれが生じるため、取締役会の判断で機動的な対処が可能とする趣旨に基づくものです。
ただし、常に取締役会判断で任務懈怠責任の一部免除を決定できるとすると株主が不利益を被るリスクが高まるため、この旨の定款を規定できる会社形態を限定しています。
定款には、免除の要件として、任務懈怠責任であること、職務を行うにつき善意・無重過失であることのほか、「責任の原因となった事実の内容、職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるとき」は、社外取締役の任務懈怠責任を一部免除することができる旨を定めることができます(会社法第426条1項)。
(5)D&O保険による保証
株主代表訴訟制度の充実・普及によって社外取締役が任務懈怠責任を追及されるリスクが高まったことから、社外取締役の個人資産を守るためにD&O保険(会社役員賠償責任保険)が販売されています。
ただし、D&O保険の適用要件・保証範囲は商品ごとに異なるので、詳しくは各保険会社までご相談ください。
なお、D&O保険の不正利用によって社外取締役が賠償責任を免脱するのを防ぐために、役員等賠償責任保険契約について内容を決定する際には、株主総会若しくは取締役会の決議が必要とされています(会社法第430条の3)
まとめ
社外取締役が責任限定契約を締結すれば、賠償責任リスクに対する予見可能性を高めつつ、賠償範囲の限定を確約された状態で、株式会社の役員としてスキルを発揮できます。
つまり、株式会社が多様な人材・色々なバックボーンを有する人物を社外取締役に登用したいのなら、定款変更をして責任限定契約についての定めを置くべきでしょう。
複雑化する経済社会を生き抜くためには、優秀な人材確保が急務です。
すみやかに弁護士などに相談をして、責任限定契約制度について社内整備を進めましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています