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M&Aを成功させるために!リスク回避のためのM&Aの流れを弁護士が解説
M&Aは、企業の売買や事業の一部の売買など、様々な方法があります。M&Aの手続きの流れは法律上特に決まりはありません。
しかし、M&Aには多額の費用がかかるうえ、様々なリスクが伴います。
今回はこのようなリスクを回避するためにとるべきM&Aの流れと、M&Aに通常かかる費用・期間について解説していきます。
1.M&Aの流れ
M&Aの流れはどのようなものになるのでしょうか。
M&Aの流れは、大きく分けて、契約準備の段階、契約締結までの段階、契約実行の段階に分けることができます。
(1)契約準備の段階
契約準備の段階では、まず、企業や事業の売却・買収を行うM&Aの提案相手を探します。
M&Aの相手方候補が見つかると、売主の情報を買主に開示するに際し、秘密保持契約が締結されます。
また、通常は秘密保持契約の締結にとどまらず、その時点において両当事者が了解した事項を確認し、一定の項目について合意をする目的で基本合意書を締結します。
(2)契約締結までの段階
契約締結段階では、買主側が各種デューデリジェンス(DD)を実施します。
DDとは、M&Aの失敗によるリスクを回避するために買主が売主の企業の情報を調査する手続きのことです。
また、買い取った事業が失敗したときに、取締役が職務を適正に行ったといえるということもDDが行われる理由の一つです。
買主のDDが完了すると、最終条件の交渉を行い、最終契約の締結に進みます。
最終契約の締結のために必要となる具体的な手続きは以下の3(2)で説明するとおり、M&Aの手法ごとに異なります。
(3)契約実行の段階
最終契約を締結すると、締結した契約を実行する段階に移ります。
締結した契約にしたがって、買主が対価を提供し取引が実行されます。この取引の実行をクロージングといいます。
クロージング手続きによって組織再編や株式の引渡し、買収対価の支払い、代表者の交代などが行われます。
クロージング手続きの完了によってM&A自体は終了しますが、M&Aによる統合成果を実現するために経営統合作業(PMI, Post Merger Integration)が行われます。
PMIを怠ってしまうとシナジー効果が得られないことにもなりかねず、M&Aに関する一連の手続きの中でも重要なものといえます。
以下では、それぞれの段階で具体的にどのような手続きを行うのかを細かく解説していきます。
2.契約準備の段階
M&Aの最初の段階は契約準備の段階です。
契約準備の段階では、M&Aの相手方を選定し、交渉を始めることになります。
(1)M&A提案先の選定
M&Aの提案先の現れ方は様々で、競合会社が会社や子会社の売却の話を持ち掛けてきたり、コンサル会社から会社の購入を勧められたり、投資ファンドから株価を上げた会社の株式の購入を持ち掛けたりすることもあります。
このような場合、競争相手にも話を持ち掛けているように装い、価格のつり上げを交渉してきたりします。
売却を持ち掛けられた会社や事業は不採算事業や不採算事業を抱えて経営がひっ迫している会社が多いので注意が必要です。
また、会社や株式の売却の話が来たとしても、不採算事業を除いた事業だけを買い取る交渉をすることもあります。
相手方はこのような売却には消極的ですが、経営がひっ迫している会社であれば、他に選択肢がなく、不採算事業を除いた事業だけを売却せざるを得ない場合もあります。
買主候補の会社が、売主の企業の情報やM&Aの条件が簡潔に記載されたノンネームシートを見て、売主の情報を更に知りたいと考えると、秘密保持契約を締結します。
そのうえで、買主は、売主のより詳細な情報を得ることになります。
一般社員が知るということは社外に情報が漏れることと同じことだからです。
(2)M&Aの提案
M&Aの提案先が見つかると、売主がノンネームシートを買主に交付します。
買主はこのノンネームシートに記載された情報を基にして、M&Aを進めるか検討します。
もっとも、ノンネームシートには抽象的な情報しか記載されていないため、買主がM&Aの可否を判断するためには詳細な情報が必要となります。
そのため、売主は、より詳細な情報を記載したネームクリアを買主に提供します。
ただし、ネームクリアには売主の詳細な情報が記載されており、買主が第三者にその情報を漏えいする可能性があります。
そこで、売主は自身の情報が第三者に漏洩されないようにするため、ネームクリアを提供する際には、買主と秘密保持契約を締結することが必要です。
(3)条件の交渉
すでにM&Aの相手方が決まっている場合は、相手方との条件交渉から始まります。
条件交渉の段階では、買収価格、買収方法など、大まかな条件について交渉を行うことになります。
この際、「意向表明書」と呼ばれる書類が提示されることがあります。
「意向表明書」には買収価格や買収方法などに関する事項が記載されており、この「意向表明書」に買主と売主の双方が署名をします。
(4)基本合意書の締結
買主売主双方の希望条件が一致すると、基本合意書が締結されます。(※1)
基本合意書は最終的な契約を締結するまでの仮の合意であり、基本合意書の作成によってM&Aが完了するわけではありません。
あくまでもその時点までの両当事者の了解事項を確認する目的で作成されるものです。
基本合意書には、買収方法、買収価格、M&Aの時期や交渉期限、独占交渉権、費用負担、秘密保持条項などに関する事項が記載されます。
基本合意書は、法的拘束力を持たないものとされるのが通常ですが、独占交渉権や交渉期限、秘密保持条項に関しては、法的拘束力の例外条項として法的拘束力を持たせます。
また、交渉期限については、延長覚書で延長することがしばしばあります。
3.契約締結までの段階
基本合意書を締結すると、契約締結までの段階に入ります。
契約締結までの段階では、M&Aに関するリスクを回避するためにDDが実施されて最終的な契約の締結に至り、M&Aの手続きが完了します。
(1)DDの実施
M&Aには、訴訟の存在や過去の税務申告の誤り、簿外財務など、様々なリスクが伴う恐れがあります。
デューデリジェンス(DD)とは、M&Aを検討している当事者が上記のようなM&Aに伴う様々なリスクを回避するために、M&Aを行う相手方の企業を調査し、問題点を分析する手続きのことです。
DDは、法務、税務、財務、人事、環境など、様々な観点から相手方の調査を行うことになります。
M&Aの相手方と取引先との契約の中に競業避止義務やチェンジオブコントロール条項などが定められていることがあります。
そのような場合は対応をとる必要があり、M&Aを行ったにもかかわらず取引をすることができないということにもなりかねません。ですから、重要な取引先との契約書はよく確認しておく必要があります。
また、DDでは、代替のきかない売主のキーパーソンが誰であるのかを探ります。その他の社員や役員が退職したとしても企業価値にあまり影響はないからです。そして、このキーパーソンの能力や性格を分析します。また、キーパーソンの買収後の地位の保証などの方策をとり、キーパーソンの退職を防止します。
DDは売主の企業価値を見極めるための重要な手続きとなります。また、前述のように、買い取った事業が失敗したときに、取締役が職務を適正に行ったと言えるためにも、十分なDDを行うことが必要です。
なお、基本合意書において独占交渉権を定めていない段階でDDを実施すると、高額の費用を費やしてDDを行ったにもかかわらず他の企業に買収されてしまうリスクもあります。そこで、DDを実施する前に基本合意書で独占交渉権を定めておくことが重要です。
(2)最終契約の締結
DDを実施し、買収に伴うリスクが明らかになると、最終条件に関する交渉に入り、最終契約が締結されます。
M&Aには、合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡、株式譲渡といった方法がありますが、場合によっては株主総会の特別決議などを経る必要があることもあります。
また、臨時株主総会では、取引の承認の外、存続会社などで新たに役員になる者の承認等も行われます。
最終契約書では、買収価格や買収方法、買収の実行条件、表明保証条項、誓約条項などが規定されます。
最終契約書に規定されるこれらの事項は、当事者に重要な影響を与えるものなので、リーガルチェックは必須といえます。
4.契約実行の段階
(1)クロージング
最終契約を締結すると、最終契約で定めた内容を実行します。
具体的には、最終契約で定めた内容を実行する条件をリストアップし、実行日までにその条件を全てクリアしたうえで、最終契約に従って買収代金の支払いや組織再編、事業譲渡、株式譲渡などを行うことになります。これをクロージングといいます。
クロージング準備段階では、クロージングに向けて手続きなどの進捗状況を確認していき、クロージングに備えることになります。
例えば、事業譲渡の場合には、二桁に及ぶクロージング条件を最終契約に記載します。
最終契約記載のクロージング条件をリストアップして、個々の条件ごとに担当者と期限を決めて進捗管理をし、クロージング日までに全ての条件をクリアするようにします。
また、クロージング日は最終契約に規定しておき、延期合意ができるようにします。
なお、社名や住所などに変更があれば、不動産や知的財産などに登録された財産の登録変更をクロージング日までに済ませるようにし、保有する法人に変更がある場合は名義変更手続きに必要な書類を準備してクロージング日に交付することになります。
クロージングの具体的な行為は、買収方法として、株式譲渡、合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡などのうち、どの方法を選択するかによって異なります。
例えば、株式譲渡の場合であれば、売主の証明保証内容を証明する書面、株主名簿、取締役会議事録、売主の株主による株式譲渡の承認書などのクロージング書類の確認や株券などの交付と代金の支払い、株主名簿の書換えや役員の交代などが行われます。
実際の指定口座の入金確認は、予め銀行と協議し、担当者にスタンバイをしてもらったうえで、買主の経理担当者や銀行と電話で話しながら確認をすることになります。
(2)PMI(Post Merger lntegration)の実施
PMI(Post Merger lntegration)とは、M&Aを行ったことによって生じるシナジー効果を得るための経営統合作業のことです。
M&Aの手続きにおいてクロージングが重要であることは間違いないのですが、M&Aの最終目的は、M&Aによって発生したシナジー効果を獲得することにあるので、PMIはM&A手続きの中でも重要な手続きの一つといえます。
重要なことは、PMIはクロージング完了してから始めるのではなく、クロージング前から準備を始めなければならないということです。
DD直後から経営統合に向けた準備を始め、クロージング終了後から本格的な経営統合を行うことになります。
経営統合準備の段階では、DDによって検出された問題点などを検討します。
そして、クロージング後、数か月以内に行う経営統合作業計画を策定します。
その内容は、社内規程類の見直しや人事労務の見直し、経営管理の見直し、財務・経理の見直しなどに関するものです。
社内規程類の見直しでは、就業規則などの変更が行われることがあります。
変更の際、就業規則が法律に適合しない形で変更されないよう、注意が必要です。
また、人事労務の見直しでは、従業員の削減や労働条件の変更が行われることがあります。
特に給与水準の統合は、給与水準の低い方の会社に合せる場合など他方の社員にとっては減給となるため難しく、移行期間を設けた方がよいでしょう。
従業員の削減や労働条件の変更は法律上の制限が多いため、注意が必要です。
このような経営統合の準備によって、買主の新体制を早期に確立することが可能となります。
本格的な経営統合の段階では、買主がクロージング後100日以内に行う100日プランを策定することが重要です。
これによって、売主が長年解決することができなかった問題や立ち入ることができなかった問題などに対しても解決策を講じることが可能となります。
通常は、プロジェクトチームを組織したうえで現状分析を行い、経営目標や課題を設定したうえで実行計画をたてることになります。
その後は実行計画を実施していくことになりますが、計画を漫然と実施するのではなく、着実に計画が遂行されているかどうかを定期的に確認し、フォローしていくことが重要となります。
5.M&Aにかかる費用と期間
(1)M&Aにかかる費用
M&Aにかかる費用は大きく分けて、仲介業者やコンサルタントなどに支払う費用やDD費用などの専門家にかかる費用、税金その他の実費があります。
仲介手数料や弁護士費用は着手金、毎月の報酬、成功報酬、などが必要となります。
着手金は業者によって異なりますが50万円~150万円程度は必要になることが多く、毎月の報酬も必要になることがあります。
報酬金は取引金額に一定の割合をかけて算出されることが多いようです。
また、DD費用は何をどこまで調査するかによって異なりますが、50万円から300万円程度は必要といわれており、当事者のニーズなどにより、その範囲を限定することもあります。
(2)M&Aにかかる期間
M&Aは多くの手順が必要となるため、クロージングまでにはかなりの期間が必要となり、株式譲渡と事業譲渡では作業量やクロージング条件の数も大きく異なります。
対象企業の選定からクロージングまでに1~2年かかることも珍しくなく、最低でも6か月、通常では1年程度は必要とされています。
6.まとめ
以上のように、M&Aには多くの手続きを経ていくこととなります。
場合によっては異なる手続きを行うことや順序が前後することもありますが、当事者のニーズに即したDD、契約、PMIなどの手続きを行わなければM&Aの失敗につながります。
M&Aは失敗すると利益を得るどころか、損失を被ることになるため、高度の専門性が要求されます。
ベリーベスト法律事務所では、これまで様々な形態の国内及び国際M&A案件を多数取り扱っており、どのような案件でも対応できます。
弁護士や税理士といった士業が一丸となって最大限の力を尽くしておりますので、M&Aをご検討される際にはぜひご相談ください。
(※1)このような文書を基本合意書、MOU(Memorandum of Understanding)、LOI(Letter of Intent (意向表明書)、買い手から一方的に送るもの、相手に承認署名を求めるもの、両者署名するもの等)、覚書などといい、その名称は会社や案件ごとに異なります。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています