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下町ロケットに学べ-中小企業のアイデアを活かす

1.はじめに

多くの中小企業は、大変厳しい環境の中で生き残りを模索しています。大企業の下請けという立場が多い中、大企業からのコストカット要求に応じざるを得ない等の理由でなかなか利益を上げることができません。

しかしながら、中小企業の中には素晴らしいアイデアを生み出す能力を持った会社も多くあります。皆様は「下町ロケット」というテレビドラマをご覧になったことがありますか。

このドラマの主人公は佃製作所という中小企業の社長ですが、その中で佃製作所が無人の農業用トラクターのトランスミッションについて特許権を取得したため、ライバル会社が頭を下げてライセンスを請いに来るというシーンがあります。

このライバル会社は、佃製作所が持っている特許権のライセンスを受けられないと、自社のトラクターの製造販売を続けることができない事態に陥っていました。特許権とは、それほど強力であり、中小企業に多大な優位性をもたらす武器になるのです。

この記事では、特許権を始めとし、中小企業が注目すべき様々な権利について解説します。この記事を読めば、苦しい中小企業のままで終らないためには何をしたらよいのか見えてきます。

2.アイデアそのものは利益を生まない

例えば、私達弁護士もそうですが、皆様の中には、集客を図る或いは売上を上げるため様々なアイデアをお考えのことと思います。

【集客を図る、売上を上げるためのアイデア例】

  • 自前のウェブサイトを立ち上げる
  • ネット、テレビ、ラジオ、新聞広告を活用する
  • ビラやポケットティッシュを配ったりする

しかしながら、これらの純粋にビジネス的なアイデアそれ自体は自社の権利にはなりません。権利にならないということは、自社で独占できないということであり、例えどれほど斬新な売上向上のアイデアを思い付いたとしても、他社にすぐ真似をされてしまいます。
自社の権利として独占するには、以下に述べる類型に当てはまるアイデアで、かつアイデアに止まらない形にして権利化を図らなければならないのです。

3.知的財産権

(1)特許権

製造業を営む中小企業にとって強力な武器になるのが特許権です。特許権は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条第1項)を対象としており、「技術的思想の創作のうち高度のもの」即ち発明を保護する制度です。

①特許権の対象にならないもの

「自然法則を利用した」ものでなければならないため、マーケティングのアイデア、ゲームのルール、金融や保険の仕組み、料理のレシピ等は特許権の対象にはなりません。細かな部分を割愛して説明させて頂くのであれば、技術的な問題とそれを解決するための手段が特許権になります。

②技術的アイデアに該当する例

特許権は、既存の技術では解決できなかったことを解決するための、初めは抽象的であったであろう技術的アイデアを、文章で具体化することで取得可能です。
この点、独立行政法人工業所有権・研修館が発行している「特許出願書類の書き方ガイドを参照してみますと、「本発明は、ねじ軸がさび付き、あるいはビス頭に設けた操作溝が変形して潰れた状態の小ねじ(以下、単にビスという。)を締結対象から取り外すのに好適なプライヤーに関する。」との記載があります。

皆様は、ねじ穴が潰れてしまって、ドライバーではビスを取り外せなかった経験をされたことはありませんか?この場合、「取り外し困難なビスを取り外す」という部分が抽象的な技術的アイデアに該当するといえます。

そして、そのための具体的な構成を記載したのが「特許請求の範囲」で、「前端にあご部(4)を有し後端側に握り柄(5)を有する、第1アーム(1)と第2アーム(2)とが連結軸(3)でX字状に連結されており、・・・前記逃げ面(16・16)の前端が条歯(13a)の前端(17)より後方に位置させてあることを特徴とするプライヤー。」と記載されています。

この文例は途中が省略されていますし、「特許請求の範囲」は独特の記載様式があって、しばしば一読しただけでは理解が難しいのですが、一言でいうと、プライヤーの先端がビス頭部の外縁を挟持することにより、プライヤーを回転させればビスも回転するという技術思想の下に、それを可能とするためのプライヤーの構成要件が示されています。

③技術的アイデアが生まれたときは

皆様も日々の業務の過程で様々な問題を解決されるに当たり、初めは抽象的だった技術的アイデアを徐々に試行錯誤を重ねて具体化して解決できたということが多くある筈です。

そのような成果を得たときは、もしかしたら特許権になるのではないかということを考えてみて下さい。その際には、弁理士に相談すると良いでしょう。

特許権の成果を発揮できるか否かは、いかに特許請求の範囲を巧く記載できるかにかかっていますので、その道の専門家に相談するのが適当です。なぜ専門家に依頼する必要があるのかについては、本記事の最後でご説明します。

④特許権の取得に関する注意点

特許権の取得に当たって一つ注意をしなくてはならないことは、一定の例外はあるにしても、特許出願前に発表、公開してしまうと特許権の取得ができなくなることです。ここで失敗する例が多いので特に注意しましょう。特許出願前に対象商品の販売を開始してはいけないことはわかっていながら、うっかり見本市や展示会に出してしまうなどは典型的な失敗例です。

特許権は、物だけではなく、方法、物を生産する方法も対象とすることができます。特許出願後、特許庁の審査官や審判官がその新規性(既存の技術ではないものか)と進歩性(既存の技術から簡単に思いつかないか)等の審査を行い、これらの要件を満たしていると認められれば特許登録されます。こうして特許権を取得できれば、出願日から20年間独占的に対象技術を利用できます

(2)実用新案権

実用新案権は、「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」(実用新案法第1条)であって、「自然法則を利用した技術的思想の創作」(実用新案法第2条第1項)を保護の対象として定めています。保護の対象が物品の形状等に限られるため、特許と異なり、方法については保護の対象にはなりません。また、技術的思想の創作のうち高度なものでなければいけない特許権に対し、実用新案権については高度なものでなくても保護の対象となります。

現在の実用新案制度は無審査登録制度であり、特許と異なり何の審査もされないので、実用新案登録がされたからといって、それが有意なアイデアに基づくものかどうかは全く不明です。また、このような制度ですから、実用新案権に基づき権利を行使する際には特許庁から実用新案技術評価書を取得しなければなりませんが、評価1~6段階のうち評価6以外は有効とはいえません

このような理由により、総じて、使い勝手が良くなく、余り利用されていない制度です。

(3)意匠権

意匠権は、「物品(物品の部分を含む。…)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」(意匠法第2条第1項)を保護の対象として定めています。

物品(工業上利用できるもの)と認められるものであって、物品自体の形態のうち、視覚に訴え、視覚を通じて美観を起こさせる形態を保護する制度であり、技術的なアイデアを保護する特許権、実用新案権とは本来的に異なる保護制度です。

しかし、意匠権は、実用新案制度と同様に物品の形状につき登録できることから、実用新案権に代替し得ます。特許権との関係でいえば、例えば、先に述べたプライヤーについては、その全部のみならず、先端部分等の一部の形態を意匠登録することもでき(部分意匠といいます)、この場合、特許権と意匠権は併存し得ます。

要は、物の形状に関する技術的なアイデアを物の形状に関するデザインとして登録し得るということです。意匠権と実用新案権とを比較した場合に意匠権が実用新案権より勧められる理由として、意匠権は、実用新案権と異なり、審査官が内容を審査した上で権利が付与されること、権利期間が長いこと(実用新案権は出願日から10年、意匠権は登録日から20年)出願コストが安いこと等が挙げられます。

皆様方の中には工業製品のデザイン業務に携わっている方々も少なからずいると思いますので、従来にはなかったユニークな形状、綺麗な模様や色彩を備えた物品がデザインできたと思われるような場合には、是非とも意匠出願をご検討いただければと思います。

(4)商標権

知的財産権の中で最も容易かつ安価に取得できるのが商標権です。商標権は、「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」(商標法第2条第1項)を保護の対象として定めています。

これまで商標として保護されてきた文字、図形、記号、立体的形状等に加え、2014年の法改正以降、「動き」「ホログラム」「音」「位置」「色彩」なども商標の保護対象として認められるようになりました。

 

【商標の保護対象となるもの】

法改正前 法改正後
・文字

・図形

・記号

・立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合

・文字

・図形

・記号

・立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの

動き

ホログラム

位置

色彩

 

商標とは、分かり易くいえば、物品やサービス(役務)の一般名称とは離れた独自の名称と考えていただければ良いと思います。

例えば、頭痛薬である商品に「ズツウヤク」というのは商標にはなり得ませんが、「バファリン®」は商標になるわけです。特許権、実用新案権及び意匠権は、新規性と進歩性が必要ですが、商標権には必要ありません。誰かが使っていても、商標登録されていなければ商標権を取得できます。

気の利いた商標を付与された商品やサービスの訴求力は凄いものです。例えば、赤城乳業㈱のアイスキャンディー「ガリガリ君®」ですが、アイスキャンディーの味自体はどれも似たり寄ったりであることからすると、このネーミングが商品の訴求力を高めるのに絶大な威力を発揮していると思われ、これがなかったらこれほどの人気商品にはなっていなかったのではないでしょうか。

また、北海道の石屋製菓㈱の「白い恋人®」も有名ですが、これにあやかった吉本興業㈱の子会社である㈱よしもと倶楽部が販売する菓子である「面白い恋人」は、宣伝広告費をかけなくとも一躍有名な商品になりました。「面白い恋人」の使用の是非は裁判で争われましたが、和解により解決し、現在も使われています。

上記裁判は、「面白い恋人」が「白い恋人®」の商標権を侵害するということで提起されたものです。商標権者は、その有する商標権と同一又は類似の範囲にある標章の使用を差し止めることができます。「面白い恋人」と「白い恋人®」は同一ではありませんから、類似するか否かが争点になります。本訴訟ではこの点の結論は出ませんでしたが、和解によって、ある程度「面白い恋人」の使用範囲は限定されました。かように、商標権者は、自己の商標権に対するフリーライドを排除し、自己ブランドを確立することによって利益を生み出すことができるのです。

せっかく素晴らしい自社商品やサービスの名称を考えられたのであれば、一度商標登録を考えてみてはいかがでしょうか。

4.まとめ

保護対象 特許権 技術的思想の創作のうち高度のもの即ち発明を保護する制度
実用新案権 技術的思想の創作のうち物品の形状、構造又は組合せに係る考案を保護する制度
意匠権 物品(物品の部分を含む)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものを保護する制度
商標権 人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものを保護する制度

 

特許権 実用新案権 意匠権 商標権
審査の有無 新規性・進歩性等の審査有 無(但し、権利行使する前提として新規性・進歩性等の評価を受ける) 新規性・進歩性等の審査有 類似商標の存在等の審査有
審査期間(特許庁からの最初の応答に要する期間) 審査請求後約1年 出願後約半年 出願後約半年
権利期間 出願日から20年 出願日から10年 設定登録日から20年 設定登録日から5年又は10年(永久に更新可)
出願コスト 中~高


繰り返しますが、これらの権利取得を考えたなら、是非とも弁理士にご相談下さい。ご自身で行うことは可能ですが、相当な時間や労力を費やさなければなりませんし、権利を取ることは取れたものの、結果的には何ら役に立たない内容の権利になってしまい、費用と労力を無駄にしてしまったということになりかねません。特許の例でいえば、特許の権利範囲は特許庁に出す書類の記載で決まります。この記載の範囲が狭すぎると、せっかく権利が取れたのに、いざ侵害だと思って相手方を訴えようとしたらその権利の範囲外で使えなかったなどということがあります。

 

5 弁理士と弁護士

最後に弁理士と弁護士について若干の説明をします。弁理士は、権利を取得する際に起用すべき専門家であり、弁護士は取得した権利を行使する際に起用すべき専門家です。権利は取得するだけではなく、行使できて始めて意味がありますので、権利を取得する時点から権利を行使することも視野に入れ、弁理士と弁護士によるワンストップサービスを受けられる特許・法律事務所に依頼することを強くお勧めします。

 

折田忠仁
弁護士折田 忠仁
ベリーベスト法律事務所パートナー。1986年に早稲田大学法学部を卒業し、同年司法試験合格。1989年に最高裁判所司法研修所修了後、主に知財案件を扱う特許法律事務所に入所。1994年に米国ロースクールに留学し、LL.M.修了。1995年にNY州司法試験に合格し、同年NY州弁護士登録。帰国後、米国法律事務所との外国法共同事業事務所、大手渉外事務所を経て、2018年9月にベリーベスト法律事務所に参画。帰国以来、外国企業との商取引、内国企業による外国企業及び外国企業による内国企業の買収、外国企業と内国企業との合弁事業の組成・解消等に係る契約審査を中心に、国内一般民商事案件や内外紛争案件も加え、幅広い経験を積んでおります。
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