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アーンアウト条項 (Earn out Clause)-M&Aや投資案件で価格交渉に行き詰まったら

2019年7月29日
アーンアウト条項 (Earn out Clause)-M&Aや投資案件で価格交渉に行き詰まったら

皆さん経験されているように、M&Aや投資案件の交渉で最ももめるのが買収価格であり、また、当事者にとって最も重要な決定事項であり、最大の取引決裂要因(deal killer)でもあります。
今回は、高い買い物をしてしまうというリスクを回避しながら、売主側と買主側との企業評価、つまり買収価格に大きな開きがある場合でも取引を成立させることができる条項を紹介したいと思います。

1.企業価値の算定

企業価値の算定

(1)企業価値評価方法 ~ 通常の価格交渉

大手企業による買収であれば、以下の事項などを検討して評価します。

a) グローバル・国内の景気動向、為替、金利などのマクロの情報。

b) 業界および各製品・サービスの動向(マーケットのシュリンクまたは拡大)・原因分析、過去数年の事業毎の数字と株価の値動き・平均値、信用調査、中期・短期の事業計画と実績、新製品・サービスの開発進捗状況、知財・ノウハウ、優秀なエンジニアなどのターゲット企業に関する情報の分析。

c) 自社のリソースとの組み合わせによる事業再編によるクロージング(取引実行)後のシナジー効果を測るため、ターゲット企業の顧客層、販売・営業地域、川上川下の仕入れ先・顧客等の取引先分布・ボリュームディスカウントの可能性、知財・ノウハウの分布と残存期間などの分析。

 

これらにはデジタルに見える化できないものも多く含まれます。
そこが、目利きが重宝される所以です。
これらのうちa)とb)は、投資ファンドのファンドマネージャや投資運用会社の仕事も同じです。
一方、M&Aでは、c)の外、買収する側の会社の財務状況からいくらまで出せるかということも重要です。
いわゆる懐具合です。それとどのように役員を説得するかも同様に重要です。

以上の実質的評価に基づく価格について取締役会や株主総会決議などで説得し社内意思決定を得るため、および、相手方との交渉において客観的な基準を提供し助ける手段として、様々な企業価値評価の算定方法があります。
価格決定は交渉事であり、阿吽の呼吸とはいえ、判断基準がなければ交渉において議論を戦わせる基礎がありません。

上場会社の価値(株の購入価格)と言っても、単純に株式の時価総額で現実の企業価値・価格交渉が決まってまとまるということはありません。
基準日をいつにするのかは明確に双方の利害が対立し中々決まりませんし、過去数年間の値動きから見て最近の市場価格は高いと見るかまたは低いと見るのか、など交渉材料には事欠きません。
一方、非上場会社の価値(株の価値)の評価については、市場価格がないのですから直接的な基準がなく、その他の事実や数字から導き出すことになります。
大きく分類すると以下の3つのタイプに分けられます。(ここでは詳細な説明はしません)

a) 将来期待される収益やキャッシュフローを、その現実に見込まれるリスク等を考慮した割引率で割り引いて評価するインカム・アプローチ。

b) 幾つかの上場している類似会社の市場価格を参考にするマーケット・アプローチ。

c) 会計上の純資産額の簿価または資産や負債を時価に引き直した純資産を発行済み株式数で除して一株当たりの株価を求めるコスト・アプローチ。

 

それぞれ自社の思惑に合うアプローチを選択して交渉します。

(2)価格交渉決裂=取引不成立の原因

以上の企業価値評価の方法は、いずれも、現在および過去の自社や他社のデータを基礎にしてクロージング時点の価値を算定したり、クロージング後の収益予測に基づき計算したりするものです。
現実問題として、同じ資産、事業や会社であっても、その持ち主や経営者の技量、取引先、知財やブランド力などリソースの組み合わせによって価値が異なってきます。
想定した景気変動が外れることもあります。
よって、以上の評価方法はあくまでも収集した情報を基礎とした将来の業績の見込みについての理論的予測であり、買主にとって実際にどのような価値のある買い物であったかとは必ずしも一致しません。
買主がいくら徹底的に調査しても売主の事業実態を隈なく把握できる訳ではありません。
このように知らない事実もあり、また、状況は常に変動し予測が外れることもあります。

事業の適切な売買代金額とは会社や事業を買って実際に何年か経営して見ないと分からない不確定な概念なのです。
そこに、価格交渉の曖昧さ(決め手のなさ)と合意の難しさがあります。
買収価格が合意できずに交渉決裂というケースも偶に見かけます。
大きく新聞報道されながら、1年半後に小さな記事で合併交渉決裂の記事が載ることもあります。

そこで、買主が買収した会社や事業から将来、一定の期間内に予定した売上等を上げればその実際の売上等を基に算定した金額をクロージング時等に支払う買収価格に加算して支払うことにして、価格交渉を合意に導きM&A取引を成立させる手段としてアーンアウト条項が考え出されました。

2.アーンアウト条項とは

アーンアウト条項とは、買主が、クロージング日に支払う買収代金とは別に、買収した会社または事業によって、クロージング後の一定期間(通常、1年から3年ですが、より長い期間を合意することもあります)に、一定の業績を達成した場合に、売主に対して、一定の計算方法によって算出した金額を買収価格の一部として追加で支払う条項です。

アーンアウト(追加代金支払い債務)発生の条件となる業績基準は、売上高やEBITDA(earnings before interest, tax, depreciation, and amortization)がよく使われますが、その他、純利益、営業利益、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローなどが使われることもあります。
売主には、買主が数値を調整できない売上高が好まれます。

3. アーンアウト条項の具体例

具体的な例を挙げてみましょう。
例えば、買収ターゲットのA社の売上が8億円、収益が8千万円だとして、買主側(B社)は収益額等から考えて4億円の買収額が上限と考えて提示し、これに対してA社側はB社側の買収代金の提示額はA社の潜在的な成長可能性を低く評価していると考え、8億円の売却額を提示した、という場合で、その後、両者の金額の歩み寄りが困難でデッドロックとなり交渉決裂となりそうな状況となったとします。
このような提示額の差額を埋めるものとして、交渉当事者はアーンアウト条項を使うことができます。
つまり、両当事者の交渉をまとめる方法として、まずは、B社の提示額を認め、B社が4億円をクロージング日に一括またはその後の分割払いで払うことにするが、その他にA社の主張に基づきアーンアウト条項を設け、アーンアウトとして、3年以内に単年度の売上と収益の合計額が13億円に達したら4億円、または、単年度売上が10億円に達したら2億円を追加で払うことにします。

この場合、B社は、A社の主張の確実性を認めて一度に合計8億円または6億円を払うのではなく、A社の主張が実際に事実として正しければ、という停止条件付きで支払義務を負うのですから、納得し易い、つまり、A社としてはB社を説得し易い、という側面があります。
別の表現で言うと、B社としては、クロージング時には低い金額を払い、A社が成長しなければアーンアウトは払わなくてもよいので、成長可能性の確率が不明確な場合のリスクヘッジとしてアーンアウト条項を使用できるというメリットがあります。
これは次の4.で触れますが、鋭い方は、これはベンチャー企業への投資に使えるな、と気付かれたはずです。

4.アーンアウト条項の機能

以上をまとめると、アーンアウト条項とは、買収対価の一部について、買収後における一定の目標達成と連動させることにより、契約当事者間のリスクの適切な分配を行い、買収対価に関する相互の見解の溝を埋め、買収交渉をまとめる機能があると言えます。

成長途上の、つまり、成長性の不確実な非公開会社(プライベート・エクイティ)であるベンチャー企業やスタート・アップ期(立ち上げ期)のライフサイエンスやバイオ製薬会社などを買収するケースでは、買主企業が買収リスクを軽減させるため比較的良く使われます。

5.アーンアウト条項のメリット

買主としては、将来の業績に不確実性のある企業や事業に過大な投資をしてしまうリスクを回避できることが大きなメリットです。

ファンドの投資のケースのように売主側である経営者株主が株式を売却した後も経営に関与し続ける場合、結果を出せばさらにキャッシュを手にすることができるため、経営者にインセンティブ効果がある、つまり、業績拡大のモチベーションを与える点にメリットがあります。
一種の業績連動ボーナスのようなものです。
この場合、買主側も、経営にタッチ(hand on)することにより、買収した企業の企業価値を上げて上場させ売り抜ければ、アーンアウトによる追加支払を上回る利益を得ることができます。

一方、M&Aのケースのように買主側が経営を行う場合、有効なリスク回避の方法であり、始めは、ある程度堅実な額で資金を出しておき、結果が出た場合に限り、売主に追加の代金を支払うことができる点で、安心です。
また、買主側としては、一度に多額の資金が社外流出(cash out)することを避けられるメリットもあります。
リスクと共に、資金流出も分散できるというメリットです。

6.アーンアウト条項のデメリット

新規事業立ち上げのための不動産購入額、工場建設費用、設備投資額、その他の費用の合計額を計算して、これらの資金の一定割合に充てるため不採算事業を切り出し有効活用できる企業に売却する計画である場合など、売主側が至急まとまった資金調達をする必要がある場合は、クロージング日に一括で対価を受け取れない点がデメリットと言えます。
事業計画のスケジュールを変更しては市場の需要に対応するには間に合わず他社に先行者利益を取られる可能性がある場合には致命的です。

7.アーンアウト条項の留意点

以上のように、大きなメリットのあるアーンアウト条項ですが、条項をドラフトする際に注意すべき点として、以下のような事項があります。

a) 評価指標

ファンドの投資案件(hand offのケース)と異なり、M&Aの場合には売主は経営権を失いますから、買主は経営支配権を取得した後、できるだけアーンアウト条項に基づく支払いをなくしたり、支払額を低下させたりするインセンティブが働きます。そのため、売主は、一定期間は財務諸表や経理書類の閲覧・監査権を持つ、または、一定期間は経営陣を送り込めるキーマン条項(ロック・アップ)(※1)などの条項を入れ、財務目標の達成の可否が買主により操作されることを防ぐドラフトの工夫が必要です。

逆に、既にキーマン条項がある場合には、アーンアウト条項を入れることによって、売主側経営者のモチベーション維持の効果があります。

b) 評価期間

アーンアウトの評価期間が長くなると、グローバルや国内景気の変動、市場や製品の需給変動、技術革新、新製品の出現、原材料の供給不足など、交渉時点では予期できないプラスやマイナスの事情が発生する可能性が高くなります。従って、案件ごと、当事者ごとの想定・思惑もあるでしょうが、あまり長期にならないようにするのが良いでしょう。一般的には、評価期間を3年以内としている例が過半数とされています。

c) 再売却

買主が対象事業を売却してしまうと、売主はアーンアウトの支払い条件が満たされたかどうかを評価できなくなります。このような行為は、売主の支払いを受ける権利を侵害する行為であり、紛争となり得ます。

しかし、買主は状況の変化により対象事業を売却せざるを得ないとのビジネス判断となる場合もあります。このような事態が予想されるのであれば、買主が売主に一定額の対価を支払うことにより売主はアーンアウトに関する権利を失う旨の条項を入れるべきです。

8.まとめ

アーンアウト条項はアメリカではポピュラーです。ABA(アメリカ法曹協会)の資料によると、非公開会社(Private Equity Co.)の買収案件では約10年前(2008年)でも3割がアーンアウト条項を使っていました。
日本では統計資料はありませんが、徐々に普及しつつあるとは言え、あまり利用されていないようです。
このように使い勝手のよい便利なツールであるアーンアウト条項ですので、日本でも有効に利用して欲しいものです。
ただ、上記注意点をはじめとしてテクニカルな性質があり、弁護士のレヴューを経ながらドラフトして完成させることによって案件に即した内容のアーンアウト条項とすることができます。

 

(※1)買主側がこの条項を入れる場合、事業継続上重要な役員や従業員が退職等により居なくならないよう、売主側の経営者を複数年拘束する趣旨で使う。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

弁護士斜木 裕二
国際法律事務所、大手メーカー等の法務責任者を経て、2018年ベリーベスト法律事務所に入所。国際カルテルなどの競争法、国際・国内商取引一般、国家プロジェクト、M&A, JV会社設立等の国際投資案件、グローバルでのグループ子会社の法務体制やコンプライアンス体制、危機管理体制の構築などを手掛る。
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