専門的な企業法務サービスが、この価格。月額3980円(税込)から顧問弁護士。

お問い合わせ

【公式】リーガルモールビズ|ベリーベスト法律事務所がお届けする企業法務メディア企業法務知的財産正規代理店が存在する商品を輸入・販売できますか?商標権の問題は?
専門的な企業法務サービスが、この価格。月額3980円(税込)から顧問弁護士。
ベリーベスト法律事務所の弁護士・税理士等からのサポートが受けられます。
企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
電話受付時間:平日 9:30~18:00 土日祝除く

正規代理店が存在する商品を輸入・販売できますか?商標権の問題は?

2019年8月2日
正規代理店が存在する商品を輸入・販売できますか?商標権の問題は?

1 はじめに

必ずしも資金的余裕のない中小の小売業者にとって、売れ筋の商品を仕入れることはまさに生命線です。
そのような商品の中には、国外発祥で、日本に輸入されて人気を博している商品も当然ながら含まれるわけですが、日本の中小の小売業者が国外の製造者から日本における独占的な輸入販売権を獲得することは困難であり、このような権利は大企業が独占しているのが実情です。
そこで、中小の小売業者は、並行輸入を検討しなければならないわけですが、本稿では並行輸入品を取扱う際に法的に留意すべき事項を説明したいと思います。

2 並行輸入とは

並行輸入とは、端的にいえば、正規代理店ルートとは別のルートで真正品を輸入することです。
国外で生まれ、国境を越えて日本でも人気となった有名ブランド品などは、上記のとおり、日本の大企業が国外の当該ブランド品生産者と総代理店契約を締結し、日本における正規代理店として独占的に当該ブランド品を輸入して販売する権限を付与されているケースが多いです。
このような正規代理店以外の第三者が、国外で合法的に製造・販売された当該ブランド品を国外で購入し、正規代理店の許諾を得ずに、正規代理店ルート以外のルートで輸入する行為を並行輸入というわけです。
正規代理店により輸入された商品を「正規品」、並行輸入された商品を「非正規品」と称して区別することがあり、この際に「非正規品」を偽物と考える誤解が散見されますが、「正規品」と「非正規品」はともに真正品であり、本物偽物の違いはありません。

3 設例

以下の仮想事例を基に検討してみましょう。

某国所在のX社は、「Legal Gum」という名称のチューインガム(以下「本商品」といいます)を現地で製造・販売しているところ、その人気に目を付けた日本の大手食品会社からの勧誘を受け、日本において同社との合弁会社X-JP社を設立しました。
X社は、X-JP社との間で本商品の一手販売権をX-JP社に付与する契約を締結し、それ以降X-JP社が独占的に本商品を日本に輸入して販売しています。
なお、X社は、日本を含む主要各国に「Legal Gum」の商標登録を有しており、本商品には「Legal Gum」の商標が付されています。

Legal Gum

日本の食品小売り業者であるY社は、大手ネットショッピングモールに出店しており、そこで主に菓子類の通信販売をしています。
Y社は、日本でも人気の本商品を自社でも取り扱いたいと考えましたが、X-JP社から仕入れるとなると割高で利益が出ないので、X社の地元でX社から本商品を割安で仕入れて地元の小売店に卸している問屋から買い付けようと思い立ち、現地に赴き大量の本商品を買い付けて日本に輸入することに成功しました。
Y社は、本商品を単品販売していては埒が明かないと考え、20本パックにすることにし、20本入りの包装箱を製作したうえで当該包装箱に「Legal Gum 20本入り」と表記した他、自社のショッピングサイトに「Legal Gumまとめ売り」と表示して本商品の販売を開始しました。

そうしたところ、X社とX-JP社から連名で内容証明郵便がY社に届きました。
内容は、①Y社による本商品の輸入販売は、X-JP社の独占販売権を侵害する、②Y社による本商品の輸入販売は、X社の商標権を侵害する、というものでした。
Y社による本商品の輸入販売は、X社及びX-JP社が指摘するような法的問題があるのでしょうか。

4 解説

解説

(1) 並行輸入の可否

まず、一手販売権者が存在する場合において、並行輸入に問題はないのかを検討してみましょう。

① 一手販売権の性質

確かに、並行輸入は、国内の一手販売権者の利益を損なうものですから、一手販売権者が権利侵害を主張したいのは理解できます。
しかし、一手販売権は、X社とX-JP社との合意に基づき発生する権利であって、X-JP社が、X社に対し、日本ではX-JP社のみに本商品を販売せよと要求できる権利に止まり、第三者に対して権利主張できない相対的な請求権(債権的請求権)に過ぎず、あらゆる者に対して権利を主張できる絶対的(対世的)な財産支配権である物権的請求権とは異なります。
物権は、法に基づいてのみ発生する権利で(これを物権法定主義といいます)、当事者間の合意だけではそのような強力な権利を発生させることはできません。
従いまして、X-JP社は、その有する一手販売権に基づいてY社の輸入・販売行為を差し止めることはできないのです。

② 公正取引員会の考え方

しかも、公正取引委員会が公表している「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の「第3部 総代理店」-「第2 並行輸入の不当阻害」-「1 考え方」においては、「並行輸入は一般に価格競争を推進する効果を有するものであり、したがって、価格を維持するためにこれを阻害する場合には独占禁止法上問題となる」との基本的な考え方が明記されております。
また、続く「2 独占禁止法上問題なる場合」として、以下が挙げられています。

 

(ⅰ) 海外の流通ルートからの真正商品の入手の妨害
(ⅱ) 販売業者に対する並行輸入品の取扱制限
(ⅲ) 並行輸入品を取り扱う小売業者に対する契約対象商品の販売制限
(ⅳ) 並行輸入品を偽物扱いすることによる販売妨害
(ⅴ) 並行輸入品の買占め
(ⅵ) 並行輸入品の修理等の拒否
(ⅶ) 並行輸入品の広告宣伝活動の妨害

 

このように、公正取引委員会は並行輸入に関しては肯定的な立場であり、本設例のように、国内の一手販売権者が並行輸入業者に対し一手販売権の侵害であるとして並行輸入を止めるように通告した場合においては、通告に止まる場合は妨害と評し得るか疑問であるとしても、それを超えた実力行使は、上記(ⅰ)の海外の流通ルートからの真正商品の入手の妨害に該当するとして独占禁止法上問題となるリスクを孕んでいるといえます。

③ 結論

以上のとおり、一手販売権者の存在にもかかわらず、並行輸入自体は法的には問題とはなりません。

(2) 並行輸入と商標

さて、並行輸入自体は法的には問題ないとしても、並行輸入は著名ブランド品を対象とすることが多いため、ほぼ必然的に商標権侵害の問題を伴います。
Y社による本商品の輸入販売は、X社の商標権を侵害することはないのでしょうか。以下、この問題を解説します。

① 前提

日本において登録された商標が付された商品を並行輸入業者が「輸入」する行為は、商標の使用に該当するため(商標法2条3項2号)、当該登録商標の商標権者の許諾を得ていない以上、形式的には商標権を侵害する行為ということになります。

② フレッドぺリー事件(最高裁平成15年2月27日判決)

事案の概要は複雑ですので省略しますが、最高裁は、フレッドぺリー事件において、「商標権者以外の者が、我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為は」、以下の三要件を満たす場合には、「いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠く」旨判示しました。

(ⅰ) 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであること。
(ⅱ) 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであること。
(ⅲ) 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価されること。

 

上記(ⅱ)は商標の出所表示機能に、(ⅲ)は商標の品質保証機能に、それぞれ言及したものです。

③ 当てはめ

Y社が日本に輸入した本商品は、X社により「Legal Gum」の商標が付されたものですから、(ⅰ)の要件を満たします。
また、X社は、日本における商標権者ですから、(ⅱ)の要件を満たします。
更に、X社は、本商品の製造者として直接的に本商品の品質管理を行える立場にありますから、(ⅲ)の要件を満たします。
そうすると、Y社による本商品の並行輸入及び販売行為には問題はないように見受けられます。

(3) 再包装行為と商標権侵害

① 問題点

しかし、Y社は、新たに包装箱を用意し、そこに「Legal Gum 20本入り」と表記しています。
この点、STP事件(大阪地方裁判所昭和51年8月4日仮処分決定)は、以下のような事案の下で判旨のとおり商標権侵害を認めました。

事案:(ⅰ)日本のSTP商標権者(債権者)は、その指定商品に属するオイルトリートメントをSTP商標を付したドラム缶に詰めてアメリカで販売していた。
(ⅱ)債務者1は、債権者に無断で、債務者2に対し、債権者製造にかかるものと全く同一の外観を有するSTP商標を付した10オンス缶の製造を依頼し、債務者2はこれを製造して債務者1に引き渡した。
(ⅲ)債務者1は、第三者がアメリカから輸入した(ⅰ)のドラム缶入りのオイルトリートメントを買受け、それを(ⅱ)の10オンス缶に小分けして販売した。

判旨:真正商品であっても、何人でも自由に登録商標を付し得るとするならば、登録商標に対する信頼の甚礎が失われ、登録商標の機能を発揮し得ないこと、商標権者は、オイルトリートメントの購入者がこれを小分けして売却することは予想し得るとしても、小分けされたオイルトリートメントの容器に当該登録商標を使用することまで容認しているとはいえない。

また、ハイ・ミー事件(最高裁判所昭和46年7月20日決定)では、パチンコ遊技者から買い集めた調味料「ハイ・ミー」につき、古物としてさばくよりも有利に処分しようとして、「ハイ・ミー」商標を印刷した新しい段ボール包装箱に詰めたという行為について、「その中身が商標権者自身の製品でしかも新品であることは商標法37条2号、78条の成立に何ら影響を及ぼさない」として商標権侵害が認められています。

② 結論

これらの判例に照らすと、本設例におけるY社の再包装行為は商標権侵害行為であるといわざるを得ません。
また、Y社が自社のショッピングサイトを通じて本商品を販売するに当たり、単に本商品の画像を使用した結果として本商品に元々付されている「Legal Gum」の商標がサイト上に表示される場合はともかく、それを超えて、「Legal Gumまとめ売り」と表示して「Legal Gum」の商標を別途宣伝広告に使用した行為についても商標権侵害を問われることになるでしょう。

5 まとめ

以上のとおり、ブランド品の並行輸入及び販売行為は、単なる物品の輸入及び販売行為に止まる場合は適法ですが、並行輸入販売業者において独自に商標を使用したと評価される行為は、商標権侵害行為となり、ハイ・ミー事件のように刑事罰を科されることさえ有り得ますので、くれぐれもそのような行為をしないように留意する必要があります。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

弁護士折田 忠仁
ベリーベスト法律事務所パートナー。1986年に早稲田大学法学部を卒業し、同年司法試験合格。1989年に最高裁判所司法研修所修了後、主に知財案件を扱う特許法律事務所に入所。1994年に米国ロースクールに留学し、LL.M.修了。1995年にNY州司法試験に合格し、同年NY州弁護士登録。帰国後、米国法律事務所との外国法共同事業事務所、大手渉外事務所を経て、2018年9月にベリーベスト法律事務所に参画。帰国以来、外国企業との商取引、内国企業による外国企業及び外国企業による内国企業の買収、外国企業と内国企業との合弁事業の組成・解消等に係る契約審査を中心に、国内一般民商事案件や内外紛争案件も加え、幅広い経験を積んでおります。
↑ページの先頭へ
0120-538-016
0120-538-016